表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇鍋・短編集  作者: ケイオス
2/20

2018 冬の童話 リンゴ嫌いの、天下無双・白雪姫

 ツヤツヤ赤く、緑と赤のグラデーションの食味をそそる美味しそうな、りんご。

 パリッと歯応えが気持ち良く、シャクッと溢れる果汁で香り起つ、りんご。

 甘味と酸味、果汁と歯応え、香りと風味、りんご。

 果物の代表のひとつで、他の果物と比しても一も引かない存在、りんご。


 そのリンゴを目の前に、眉間に縦皺を作っている美女が居た。

 白雪姫だった。

 りんごが大嫌な白雪姫。

 コレを食べるくらいなら死んだ方がイイと、そう宣言した事もある美女だった。



 魔法使いに変装している王妃は困惑していた。

 暗殺計画が頓挫するっ。

 王の寵愛を一身に受け、尚且つ、世界一の美女と呼ばれる。

 権力と名誉、名声までも我が物に――

 白雪姫がとにかく邪魔だった。


 世界の始まりの最初の果物、それは、りんご。

 何故食べない。

 アレルギー持ちなのかとも思ったが、健康優良児で(ねた)ましいほどのエロボディの白雪に、そんな話しは聞いた事が無い。

 しまったっ、覚られたかっ、見抜かれたかっ。

 魔法変装は完璧なはずっっっ。

 王妃は焦った。

 正面切っての戦いになれば、まったくの勝ち目が無いっ。

 だからこその、毒リンゴのミッションだったのだ。

 王妃は風前の灯、命の危機に、悪あがきの一発大逆転、ダメ元で相手のデーターを総ざらえをした。

 脂汗を流す魔法使いに扮した王妃の脳裏に、白雪姫の数々の武功が通り過ぎていた。



 正拳突き一発、一直線に果て無く大地を(えぐ)る。

『白雪・大地割絶拳』

 覇王の、地を埋め尽くしていた常勝軍団が地に飲まれ、跡形も無く消滅した。

 唖然とする覇王が、疾駆する白雪姫に、デコピン一発で星になっていた。


 手刀一振り、大海を割り、轟きに道までも作る。

『白雪・海原深海・割絶拳』

 海神さえ触れぬ、大海の底にてまどろむ異形が眠りを破られる。

 その覚醒に、輝きそのものの一撃が異形を落とし、永眠のごとく落とす。


 掌底(ていしょう)、天を穿(うが)ち落とし、万番の(いかずち)、響く。

『白雪・蒼天破雷・昇登拳』

 空を黒く埋め尽くしたドラゴンの群れが焼き尽くされた。

 同時に、天へと駆け昇った白雪姫に、邪神竜が一発で砕け散った。



 清純な純白のドレスを羽ばたかせて、チラリンと白い太ももの両足を魅せる。

 魅惑の巨乳を揺らしつつ、優雅で素早い体捌き。

 キリリとした顔の赤い唇は微笑み、豪奢な金髪が風に舞う。

 白雪姫。

 それこそが白雪姫。

 世界中の男を魅了して、老若男女のアイドル。

 古今東西にして、並ぶ者なき唯一のプリンセス。

 一騎当千、白雪姫だった。

 りんごが死ぬほど大嫌いな、お姫様だった。




「見るのも触るの考えるのもイヤっ、捨ててきて」

 その白雪姫の言葉に、王妃は焦り120%だった。

 こんなはずではにゃかったーーーーーーっっっ。

 事前調査不足っ、それしか無かった。

 王宮でたった一人、孤立無援の王妃の悲しさが露呈した現実が有った。

「ですが、コノりんご――」

「ソノ言葉っ、言わないでっ、言ったらコロスわよっ」

 白雪姫が自分の両耳を、自分の両手で塞いで叫んでいた。


 ヤバイっ、時間が――

 七人の小人、白雪の兄弟・弟子達が帰って来るっ――

 王妃の、白雪暗殺計画が破綻を曝け出していた。

 イヤっ、それどころでは無く――

 自身の命がヤバイっ。

 天下無双の白雪、その兄弟弟子の七人の修羅。

 懐叩き、袋叩き、乾袋に王妃を詰め込んでぇ、元の形も無いほどにあの世行きいぃぃぃ。

 王妃はオシッコ漏らしそうだった。




 王妃は開き直った。

 元々、無理に近い下克上だった。

 魔法の鏡と言う、当てにならない代物を頼みに、王宮でトップを取るっ。

 王へのハニートラップでの国取り。

 恩讐がらみの復讐劇だったが、やはり限界が有った。

 この綱渡りのプロジェクトで、バックアップ無しがシビア過ぎたのだった。


「りんご」

 開き直った王妃の口から、たったひとつの単語が出た。

 手にはひとつの林檎。

「ひっ」

 あの白雪ファイターが(おのの)きの声を漏らした。


「りんご、りんご」

 感情も無く、ただ発せられる声だった。

 両手に林檎。

「ひっ、ひいぃぃぃ」

 あの白雪阿修羅が怯えの色を見せていた。


「りんご、りんご、りんご、りんご、りんご、りんごおおおぉぉぉっっっ」

 ヤケッパチで開き直った王妃が、ただひたすら繰り返していた。

 どこから取り出したか、カゴいっぱい山盛りの林檎。

「きゃあああーーーーーーーーーっ」

 あの白雪が、とっても可愛い声を上げていた。



 それは信じられない光景だった。

 魔法使いに扮して、山盛り林檎のカゴを持つ王妃が、壁際に白雪姫を追い詰めていたのだった。

(かっ、勝てるっ、あの情け容赦の無い白雪にぃ、勝てるっ!)

 一度は諦めた己の命が、生き延びる光明、希望が見えた王妃だった。

 が――

 壁際で、純情可憐にプルプルと震えていた白雪姫のはずだった。

 その白雪姫の眼がギラッと光った瞬間。

『白雪・地・海・天、破邪・破壊・衝天拳』

 コブシが唸って吠えた。


 地が裂けた。

 海が割れた。

 天が落ちた。

 王妃が真っ白に塗り潰された。

 白雪姫がコブシを放ったままの姿で、白い太ももの付け根もあらわに動きを止めていた。

 白いドレスの胸の膨らみがタユンと揺れて、白いドレスが棚引き舞った。

 風が、風か吹きぬけていた。

 荒野に影がひとつだけ長く伸びていた。




 七人の小人こと、七人の修羅、白雪の兄弟弟子達が、露天掘りの採掘修行、つるはし無双から帰って来た。

「「「「「「「 ん? 」」」」」」」

 白雪姫がキッチンで料理をしていた。

「「「「「「「 え゛っ 」」」」」」」

 七人の御意見無用が青褪めた。

「「「「「「「 ………… 」」」」」」」

 我が身大事、七人が全員青くなり、逃げ腰になっていた。


 キッチンの巨大なズン銅鍋に、ポコリ、ポコリ、ポコリと極彩色の気泡が立っていた。

 現れては弾け、弾けては現れる。

 七人の小人が青褪めてソレを見詰めていた。


 白雪姫がその鍋の水面を見詰め、ゆるり、ゆるり、とお玉で混ぜ動かし静かに微笑んでいた。

「ちゃんと始末して上げるわあぁ」

 く、く、く、く、白雪姫が笑っていた。



 そして――

 巨大なズン銅鍋の中身から、ドロリと溢れ出てくるモノが有った。

 寸胴鍋の側面を伝い、レンジ台から下へと流れ落ち、床へと垂れ溜まった脈打つ粘液。

 ソレが、ドクン、ドクン、ドクン、と脈打ち徐々に大きく成り、さらにドロドロの塊と育って行った。

 七人の小人の一人がつぶやいた。

「調理召喚……」

 脳筋の白雪姫が唯一為せる魔術。

 白雪姫が料理をする事で出来上がる、食べ物ならぬ生成物を通しての召喚儀式。

 呪われているが如くの白雪姫の調理、結果、出来上がる料理と言う食べ物ならざるモノ。

 この世の物とは言いがたい、恐ろしい異物。

 世界を歪めるほどの生成物から、さらに生まれ出るモノ。

「く、く、く、く、く」

 白雪姫が静かに笑っていた。



 白雪姫が巨大な寸胴鍋を両手で軽々と持ち上げた。

 そして、キッチンの片隅でグルグル巻きにされている魔法使い事、王妃へと歩み寄った。

 気絶している王妃、口を僅か開けている王妃。

 白雪姫がその王妃へと覆い被さり、寸胴鍋を傾けて行った。

「うご、うぐ、うが、うををををををを」

 白雪姫の身体の影になっている王妃、その王妃がグゴグゴと音を立てながら、食べ物ならざる代物を飲まされて行く音が聞こえ続ける。

「「「「「「「 ひぃ 」」」」」」」

 七人の小人、七人の修羅と呼ばれた男達が青褪めていた。


「く、く、く、く、貴方が王妃だって最初から分かっていたのよ」

 白雪姫は続け言う。

 やっと王宮から自由になり、羽を伸ばし暮らせる世界を手に入れた。

 煩わしいものの無い生活、自分自身でいられる贅沢。

「無駄な殺生はしない主義なの、だから見逃して上げ様と思ってたのに――」

 わざわざ、こんな森深い所まで追いかけて来た御褒美に見逃そうと。

 しかし王妃は最低最悪のモノを持って来た。

「アレ、を出されてしまったら、見過ごす訳にはいかなじゃない」

 白雪姫は笑う。

 言っても分からない人間には、自分がどれだけ嫌悪しているか疑似体験をさせるしかない。

 それゆえの白雪姫の手料理、食べ物ならざる代物だった。

「私、悲しいわ。私が料理しなくちゃならないなんて……」

 せっかくの食材が無駄になると白雪姫は涙していた。



「ぐぅ、ぐげげげご、ごごご、ををををを、ぐもょびけ」

 寸胴鍋一個分のポッコリと膨れたお腹で、王妃が身体をガクガクと震わせながら、人ならざる声を出し続けていた。

 白眼から、点の様な瞳が戻り、その眼が左右バラバラにあちこちと動き続ける。

 口から妙な色の泡を吹き出し続け、ロープに縛られたままの身体と手足がバタバタと動き回った。


「来るわよっ」

 白雪姫が一声言った。

 そして、バタバタと暴れ続けていた王妃を引っつかんでブン投げた。

 キッチンの窓がブン投げられた王妃に破壊され、中から外へと飛び散った。

 土煙を上げ地面にバウンドして、ゴロゴロと転がる王妃の姿が有った。


 土煙にの中、王妃の身体が膨れ上がる。

 ブチブチと頑丈なロープを引き千切り、瘴気を撒き散らしながら、見る間に膨れ上がって行った。

 そして――

『ん゛ごをををを、お゛んごををををを、ぬ゛ごをををををを』

 人の可聴域を超えて、人の意識、心と魂を蝕む様な、欲望を形に空間を震わせる存在が顕現した。

 それは真っ黒な人型の人ならざるモノ。

 直視するだけで意識を狂わせるほどの異形だった。

 その異形へ向かい、森の小屋の中から、白いドレスの人影が一人、頭に纏めている金髪を揺らし歩み出て来た。

 白雪ファイターだった。



「私が料理を作るとね、食べた人は心の闇の分だけの代物を、自分の身に召喚するの」

 人は、どんな人も、心に闇を持っている。

 どんなに静謐な生活の元でも、どんなに聖人と呼ばれる人でも、人ならば闇を持っている。

 光りと闇、闇を持つからこそ人とも言える。

 白雪姫が金髪を纏めている頭へと、片手を伸ばし棒櫛を抜き取った。

「闇を心に持たない人は居ないわ、でもね、大きすぎる闇は自分をも滅ぼすの」

 身食いの如く、自分自身の闇に心を食べられて、いつしか人で無くなる。

 そう白雪ファイターは言った。

 彼女の頭の上で纏め上げられていた金髪が、金色の滝になって背中へと流れ落ちる。

「もぅ、そうなってしまっては滅ぼすしかないのっ。可愛そうだけれど、自らが招いた結果よっ、諦めて成敗されなさいっ」

 王妃に無理矢理、寸胴鍋いっぱいの得体の知れない代物を飲み込ませた白雪が、豪奢な長い金髪を風に棚引かせて、元王妃を片手で指差し、言った。

「「「「「「「 ………… 」」」」」」」

 七人の小人は、あえて何も言わなかった。


 そして戦いが始まった。


 真黒な人型異形からムチの如く触肢が高速で放たれる。

 白雪が闘気を纏った片腕を素早く動かし、裏拳で弾き飛ばした。

 弾き飛ばされた触肢が千切れ飛び、地面へとバウンドして落ちた。


「こんなものなの、この程度なら眠っていても勝てるわ。本気を出さないと、瞬殺するわよ」


 白雪のその言葉に、真黒な異形の動きがピタリと止まった。

 次の瞬間――

 真黒な異形が無数の触肢が伸びた。

 在るモノは、突き刺し動き。

 在るモノは、薙ぎ切り動く。

 在るモノは、しなり叩き。

 在るモノは、地を這い延びる。

 頭上から、背後から、前後から、左右から、全方向から白雪に一斉に襲い掛かった。

 白雪の姿が、それらに囲まれ黒く見えなくなった。


 四方八方、全周からの黒い触肢。

 たったひとつの空間を目指し、埋め尽くし、取り巻き、塊と為していた。

 その塊が小さく、小さく、縮んで行く。

 と、縮んで行く動きが、膨らみ始めた。

 内側からの力、ギシギシと音も聞こえそうな力と力の拮抗から、膨らみ始めた。


「アタッ、アタタタタタタタタタタ、アターーーーーーッ」

 真黒な丸い塊、その塊のあちこちから眩しい光が突き刺し出る。

「アターーーッ」

 押さえ込む力は限界まで膨れ上がって、輝かしい白い光りが爆発した。


「ハアァーーーーーーァァァ」

 細く長い抜呼。

 白雪ファイターが中段突きの戦闘ポーズ、無傷でそこに居た。

 豪奢な長い金髪が風になびき。

 白いドレスがフワリと棚引く。

 豊かな胸の盛り上がりが、胸の谷間を見せてタユンと揺れ。

 細いウェストからの腰周りと可愛いお尻が在り。

 ドレスの前合わせから、片足の白い太ももが伸び出て、地を踏みしめていた。

 乙女なる天使が地に降り立ち、闘いの鬼神になったとすれば、その姿が今ここに在った。

 そんな白雪の姿、全身から闘気を立ち上らせて、その闘気に包まれていた。


 真黒な異形から次々と触肢が襲い掛かる。

 しかし白雪が纏う闘気に触れ、次々と溶け消えた。

 鋭い眼差しで白雪は一点を見詰め続けていた。


 そして白雪は歩き始める。

 真黒な人型異形へ向かい、ゆっくりと歩き近寄って行った。


 真黒な異形が全身からの触肢を前方へと集めて、一個の鋭い一本へとよじり合せていた。

 数から質へ、物量を収束して圧倒的な突破破壊力へと、己の全てを固めた。

 己の全てを賭けたランスチャージ。

 超高速回転も加えられたランスチャージが炸裂した。

 白雪の顔面へと――


 その大質量の渾身の一撃がビタリと止まっていた。

 指先一本。

 大質量の超高速回転のランスの鋭い先端が、闘気の纏う指先ひとつで止められていた。


「これで終りなの」

 白雪が静かに言った。

「なら、今度はこちらからね」

 白雪の空いている方の片腕、コブシがギシリと固められた。


「アタッ、アタッ」

 ランスの先端部分がゴッソリと砕け散る。

 さらに深々と大量に弾け飛んだ。

 その弾け飛んだ向こうに、白雪の美麗な顔が紅い唇を引き結び在った。


「ハアアアアァァァァァ」

 紅い唇が闘気を溢れさせた。


「アタタタタタタタタタタタタタタタタタ」

 白雪の両手が残像も残さずに、無数の拳を繰り出す。

 そして、そのまま白雪は歩みを進めた。


『白雪・御万烈拳』

 ひとつのコブシが二つに為り。

 二つのコブシが四つ、四つが十六、十六が二百五十六。

 二乗に増えてゆき、最後には万のオーダーにも達する。

 さらには、万のオーダーのひとつひとつが一撃爆砕の威力を持つ。

 恐るべき拳だった。

 

「アタタタタタタタタタタタ、アタアッ、アタアッ、アタアッ」

 無数の拳の中へ、時折入る虎の咆哮。

 虎の咆哮のひとつひとつで、ゴソッと弾け散り砕け消える。


 そして――

 白雪と異形が手を伸ばせば届くほどの近さとなった。

 その時、白雪の双眼が光った。

『白雪・慈悲聖天・浄化破邪拳』

 コブシの拳が一発、世界が輝きに満ちて白くなった。

 真っ白に塗り潰れ去る世界に、真黒な異形が飛沫散って消えて往った。




 森の中の地面に、王妃が魔法使いの変装も失せて、地味なローブ姿で横たわっていた。

 その王妃の顔は、どこか安らぎと平穏が有り、意外な若さとそれなりの美しさも有った。

 微かだが小さな息が繰り返されていた。


「普通にしていれば、ちゃんと美人なのにね」

 王妃の近くに佇む白雪姫が、ふぅと溜め息を付き、あそこまでの略某を巡らして世界一を欲するのかと言った。

「まぁ、男も女も、人ってモノはそうじゃろう」

「女ってのは、特にそうじゃ」

「どっかでトラウマでも、こさえたのじゃろう」

「意外とオッパイでかいのぅ」

「尻もシッカリでかいぞ」

「ウェストは絞まってて細いのぅ」

「小顔で、スタイルいいのうぅ」

 七人の小人達が好き勝手に言っていた。

 そして――

「「「「「「「こりゃイイ女だあぁ」」」」」」」

 七人の小人がハモり言った。

 白雪姫が口元を歪め、イラッとした表情を浮かべていた。


「王宮へ送還出来る?」

 白雪姫がサポート魔法担当の小人へと聞いた。

「ふむ、大陸のあちこちのポイントは登録済みじゃ、この国の王宮も大丈夫じゃぞ」

 長い顎鬚をしごきながら、小人がどこからか杖を取り出し答えた。

「じゃあ、お願い。記憶は―― 別にいいわね」

「うむ、心の闇も失せたろう、記憶は消さぬ方が良いな。だが、それでも再び闇を溜め込み繰り返したのならば、次は人に戻れぬだろうな」

 どこか哀れみを含んだ物言いで小人が言い。

 地面に横たわる王妃へと魔法陣が光り輝き、光りが薄れ消えた時、王妃の姿も消えていた。




 森の中で白雪姫の日常が戻り、かの王妃が再び現れる事は無かった。

 しかし――


「えっと、その、結婚して下さい。白雪さん」

 どっかの国の、どこからか湧いて出た、幼さを残す王子が白雪姫へプロポーズしていた。

 白雪姫が目の前で跪く、少年王子に真っ赤になって居た。


 そんな二人の姿を見て、横っちょで七人の小人達がひそひそと言っていた。

「ショタぢゃ」

「うむ、好みストライクと見た」

「ここに一人で辿り着いたのだから、見た目に似合わず戦えるらしいの」

「しかし、初対面で行き成りプロポーズなのかの?」

「お前、知らなかったのか、ホレ、白雪が留守にしていた事が有ったろうぅ」

「ああ、暗黒邪神教とか言っておったのおぅ、ほほう、アレかっ」

「片付いたとか言ってから、何だか溜め息ばかりついていた、アレかあぁ」

 七人の小人達がニマニマとしながら声を揃えて、

「「「「「「「春が来たかあぁぁぁ」」」」」」」

 ハモりながら、アノ白雪にと、七人全員が腕組みをして感慨深く、うんうんと頷いていた。



「あっ、忘れてました、コレお土産です」

 少年王子が魔法の収納から、とあるモノを取り出した。

「…………」

 ソレを見て、白雪姫が青褪めた。

「「「「「「「…………」」」」」」」

 ソレを見て、七人の小人達も青褪めた。

 ソレは――

 何重ものビニール袋に厳重に包まれた、リンゴ、ひと袋だった。


 何とも言えない沈黙の雰囲気の中、健気な少年王子が頬を赤らめて言う。

「白雪さんの大好きなモノって教えて貰って――」

「教えた人って?」

 少年王子が全てを言い終わらない内に、白雪姫が問いただし、

「白雪さんの継母の人に」

 つまり、あの王妃だった。


「あ、あいつうぅぅぅーーーーーーぅぅぅぅ」

 絶対っ、コレって、嫌がらせ。

 白雪姫はコブシを固めて思った。

 その白雪姫へ、少年王子が告白する様に言葉を何とか出した。

「じ、実は、僕。リンゴ・アレルギーなのです。そ、そんな僕でも良かったら、あの」

 リンゴが、物凄く厳重にビニールパックされている理由が明かされていた。


 次の瞬間、少年王子は気が付けば、白雪姫の豊かな胸へと自分の顔が埋まって、抱き締められている事に気が付いたのだった。


 そして――

 天下無双の白雪ファイターの、その後は、子沢山で末永く幸せに暮らしましたとさ。


 その後。

 七人の修羅・小人達は、七人の孫バカ爺になり。

 かの王妃は、魔法の鏡を真黒に塗り潰してから、鉛の箱に詰めて海へと沈め。

 王へと全てを告白懺悔した後、妊娠発覚。

 王位を即決、退いた元王と、ラブラブ慎ましやかな地方領主生活になった。


 世は全て事は無く――

 目出度し、目出度し、終り良く。

 物語は終わったのだった?



 ちなみに――

 白雪姫がアレほどのリンゴ嫌いになったのは。

 修行後の、喉の乾きとすきっ腹。

 幼い白雪姫が大好きなリンゴを丸齧りして、モギュモギュ、ゴックン。

 そして、ふと気が付く。

 片手の齧り取ったリンゴに、小さな穴と、その穴の中に、齧り千切られた虫の半身。

「…………」

 飲み込んだモノは戻せにゃい。

「…………」

 食い千切られた虫の半身が小さな穴から、クネクネと、まだ動いている。

「…………」

 片手に食べ掛けのリンゴ。

 立ったまま気絶している、幼い白雪姫が居たのだった。

 合掌。




 森の中、誰も居ない小屋。

 そのキッチンの床で、ドロリドロリとした粘液がウゴめいていた。

 ウゴめく粘液が不可思議にソノの体積を増し、形を為して行く。

 やがて、可なりの大きさになったソレが、ゆっくりと移動を始めた。

 室内のあちこちへとネットリと触れウゴメク様子は、本能的に外へと、出口を求めている様だった。

 やがて細く開いた扉から、小屋からさ迷い出て、森の中へと消えて行くモノが有った。


 コレは、また、別の物語。

 白雪姫の手料理からの――

 どこかで語られる、物語だった。


 これにて童話、白雪姫は終幕そうろう。


 リンゴに関しての記述は半分実話。

 そぅ、実話にゃのでつ……


 実話でも、執筆者はリンゴが大好きで食べております。

 昔々のデリシャスが食べたい……

 果物って、甘味と酸味&硬さが大切と思うのでした。

 甘いだけの果物や野菜は、どっか間違ってるぅ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ