2018 冬の童話 リンゴ嫌いの、天下無双・白雪姫
ツヤツヤ赤く、緑と赤のグラデーションの食味をそそる美味しそうな、りんご。
パリッと歯応えが気持ち良く、シャクッと溢れる果汁で香り起つ、りんご。
甘味と酸味、果汁と歯応え、香りと風味、りんご。
果物の代表のひとつで、他の果物と比しても一も引かない存在、りんご。
そのリンゴを目の前に、眉間に縦皺を作っている美女が居た。
白雪姫だった。
りんごが大嫌な白雪姫。
コレを食べるくらいなら死んだ方がイイと、そう宣言した事もある美女だった。
魔法使いに変装している王妃は困惑していた。
暗殺計画が頓挫するっ。
王の寵愛を一身に受け、尚且つ、世界一の美女と呼ばれる。
権力と名誉、名声までも我が物に――
白雪姫がとにかく邪魔だった。
世界の始まりの最初の果物、それは、りんご。
何故食べない。
アレルギー持ちなのかとも思ったが、健康優良児で妬ましいほどのエロボディの白雪に、そんな話しは聞いた事が無い。
しまったっ、覚られたかっ、見抜かれたかっ。
魔法変装は完璧なはずっっっ。
王妃は焦った。
正面切っての戦いになれば、まったくの勝ち目が無いっ。
だからこその、毒リンゴのミッションだったのだ。
王妃は風前の灯、命の危機に、悪あがきの一発大逆転、ダメ元で相手のデーターを総ざらえをした。
脂汗を流す魔法使いに扮した王妃の脳裏に、白雪姫の数々の武功が通り過ぎていた。
正拳突き一発、一直線に果て無く大地を抉る。
『白雪・大地割絶拳』
覇王の、地を埋め尽くしていた常勝軍団が地に飲まれ、跡形も無く消滅した。
唖然とする覇王が、疾駆する白雪姫に、デコピン一発で星になっていた。
手刀一振り、大海を割り、轟きに道までも作る。
『白雪・海原深海・割絶拳』
海神さえ触れぬ、大海の底にてまどろむ異形が眠りを破られる。
その覚醒に、輝きそのものの一撃が異形を落とし、永眠のごとく落とす。
掌底、天を穿ち落とし、万番の雷、響く。
『白雪・蒼天破雷・昇登拳』
空を黒く埋め尽くしたドラゴンの群れが焼き尽くされた。
同時に、天へと駆け昇った白雪姫に、邪神竜が一発で砕け散った。
清純な純白のドレスを羽ばたかせて、チラリンと白い太ももの両足を魅せる。
魅惑の巨乳を揺らしつつ、優雅で素早い体捌き。
キリリとした顔の赤い唇は微笑み、豪奢な金髪が風に舞う。
白雪姫。
それこそが白雪姫。
世界中の男を魅了して、老若男女のアイドル。
古今東西にして、並ぶ者なき唯一のプリンセス。
一騎当千、白雪姫だった。
りんごが死ぬほど大嫌いな、お姫様だった。
「見るのも触るの考えるのもイヤっ、捨ててきて」
その白雪姫の言葉に、王妃は焦り120%だった。
こんなはずではにゃかったーーーーーーっっっ。
事前調査不足っ、それしか無かった。
王宮でたった一人、孤立無援の王妃の悲しさが露呈した現実が有った。
「ですが、コノりんご――」
「ソノ言葉っ、言わないでっ、言ったらコロスわよっ」
白雪姫が自分の両耳を、自分の両手で塞いで叫んでいた。
ヤバイっ、時間が――
七人の小人、白雪の兄弟・弟子達が帰って来るっ――
王妃の、白雪暗殺計画が破綻を曝け出していた。
イヤっ、それどころでは無く――
自身の命がヤバイっ。
天下無双の白雪、その兄弟弟子の七人の修羅。
懐叩き、袋叩き、乾袋に王妃を詰め込んでぇ、元の形も無いほどにあの世行きいぃぃぃ。
王妃はオシッコ漏らしそうだった。
王妃は開き直った。
元々、無理に近い下克上だった。
魔法の鏡と言う、当てにならない代物を頼みに、王宮でトップを取るっ。
王へのハニートラップでの国取り。
恩讐がらみの復讐劇だったが、やはり限界が有った。
この綱渡りのプロジェクトで、バックアップ無しがシビア過ぎたのだった。
「りんご」
開き直った王妃の口から、たったひとつの単語が出た。
手にはひとつの林檎。
「ひっ」
あの白雪ファイターが慄きの声を漏らした。
「りんご、りんご」
感情も無く、ただ発せられる声だった。
両手に林檎。
「ひっ、ひいぃぃぃ」
あの白雪阿修羅が怯えの色を見せていた。
「りんご、りんご、りんご、りんご、りんご、りんごおおおぉぉぉっっっ」
ヤケッパチで開き直った王妃が、ただひたすら繰り返していた。
どこから取り出したか、カゴいっぱい山盛りの林檎。
「きゃあああーーーーーーーーーっ」
あの白雪が、とっても可愛い声を上げていた。
それは信じられない光景だった。
魔法使いに扮して、山盛り林檎のカゴを持つ王妃が、壁際に白雪姫を追い詰めていたのだった。
(かっ、勝てるっ、あの情け容赦の無い白雪にぃ、勝てるっ!)
一度は諦めた己の命が、生き延びる光明、希望が見えた王妃だった。
が――
壁際で、純情可憐にプルプルと震えていた白雪姫のはずだった。
その白雪姫の眼がギラッと光った瞬間。
『白雪・地・海・天、破邪・破壊・衝天拳』
コブシが唸って吠えた。
地が裂けた。
海が割れた。
天が落ちた。
王妃が真っ白に塗り潰された。
白雪姫がコブシを放ったままの姿で、白い太ももの付け根もあらわに動きを止めていた。
白いドレスの胸の膨らみがタユンと揺れて、白いドレスが棚引き舞った。
風が、風か吹きぬけていた。
荒野に影がひとつだけ長く伸びていた。
七人の小人こと、七人の修羅、白雪の兄弟弟子達が、露天掘りの採掘修行、つるはし無双から帰って来た。
「「「「「「「 ん? 」」」」」」」
白雪姫がキッチンで料理をしていた。
「「「「「「「 え゛っ 」」」」」」」
七人の御意見無用が青褪めた。
「「「「「「「 ………… 」」」」」」」
我が身大事、七人が全員青くなり、逃げ腰になっていた。
キッチンの巨大なズン銅鍋に、ポコリ、ポコリ、ポコリと極彩色の気泡が立っていた。
現れては弾け、弾けては現れる。
七人の小人が青褪めてソレを見詰めていた。
白雪姫がその鍋の水面を見詰め、ゆるり、ゆるり、とお玉で混ぜ動かし静かに微笑んでいた。
「ちゃんと始末して上げるわあぁ」
く、く、く、く、白雪姫が笑っていた。
そして――
巨大なズン銅鍋の中身から、ドロリと溢れ出てくるモノが有った。
寸胴鍋の側面を伝い、レンジ台から下へと流れ落ち、床へと垂れ溜まった脈打つ粘液。
ソレが、ドクン、ドクン、ドクン、と脈打ち徐々に大きく成り、さらにドロドロの塊と育って行った。
七人の小人の一人がつぶやいた。
「調理召喚……」
脳筋の白雪姫が唯一為せる魔術。
白雪姫が料理をする事で出来上がる、食べ物ならぬ生成物を通しての召喚儀式。
呪われているが如くの白雪姫の調理、結果、出来上がる料理と言う食べ物ならざるモノ。
この世の物とは言いがたい、恐ろしい異物。
世界を歪めるほどの生成物から、さらに生まれ出るモノ。
「く、く、く、く、く」
白雪姫が静かに笑っていた。
白雪姫が巨大な寸胴鍋を両手で軽々と持ち上げた。
そして、キッチンの片隅でグルグル巻きにされている魔法使い事、王妃へと歩み寄った。
気絶している王妃、口を僅か開けている王妃。
白雪姫がその王妃へと覆い被さり、寸胴鍋を傾けて行った。
「うご、うぐ、うが、うををををををを」
白雪姫の身体の影になっている王妃、その王妃がグゴグゴと音を立てながら、食べ物ならざる代物を飲まされて行く音が聞こえ続ける。
「「「「「「「 ひぃ 」」」」」」」
七人の小人、七人の修羅と呼ばれた男達が青褪めていた。
「く、く、く、く、貴方が王妃だって最初から分かっていたのよ」
白雪姫は続け言う。
やっと王宮から自由になり、羽を伸ばし暮らせる世界を手に入れた。
煩わしいものの無い生活、自分自身でいられる贅沢。
「無駄な殺生はしない主義なの、だから見逃して上げ様と思ってたのに――」
わざわざ、こんな森深い所まで追いかけて来た御褒美に見逃そうと。
しかし王妃は最低最悪のモノを持って来た。
「アレ、を出されてしまったら、見過ごす訳にはいかなじゃない」
白雪姫は笑う。
言っても分からない人間には、自分がどれだけ嫌悪しているか疑似体験をさせるしかない。
それゆえの白雪姫の手料理、食べ物ならざる代物だった。
「私、悲しいわ。私が料理しなくちゃならないなんて……」
せっかくの食材が無駄になると白雪姫は涙していた。
「ぐぅ、ぐげげげご、ごごご、ををををを、ぐもょびけ」
寸胴鍋一個分のポッコリと膨れたお腹で、王妃が身体をガクガクと震わせながら、人ならざる声を出し続けていた。
白眼から、点の様な瞳が戻り、その眼が左右バラバラにあちこちと動き続ける。
口から妙な色の泡を吹き出し続け、ロープに縛られたままの身体と手足がバタバタと動き回った。
「来るわよっ」
白雪姫が一声言った。
そして、バタバタと暴れ続けていた王妃を引っつかんでブン投げた。
キッチンの窓がブン投げられた王妃に破壊され、中から外へと飛び散った。
土煙を上げ地面にバウンドして、ゴロゴロと転がる王妃の姿が有った。
土煙にの中、王妃の身体が膨れ上がる。
ブチブチと頑丈なロープを引き千切り、瘴気を撒き散らしながら、見る間に膨れ上がって行った。
そして――
『ん゛ごをををを、お゛んごををををを、ぬ゛ごをををををを』
人の可聴域を超えて、人の意識、心と魂を蝕む様な、欲望を形に空間を震わせる存在が顕現した。
それは真っ黒な人型の人ならざるモノ。
直視するだけで意識を狂わせるほどの異形だった。
その異形へ向かい、森の小屋の中から、白いドレスの人影が一人、頭に纏めている金髪を揺らし歩み出て来た。
白雪ファイターだった。
「私が料理を作るとね、食べた人は心の闇の分だけの代物を、自分の身に召喚するの」
人は、どんな人も、心に闇を持っている。
どんなに静謐な生活の元でも、どんなに聖人と呼ばれる人でも、人ならば闇を持っている。
光りと闇、闇を持つからこそ人とも言える。
白雪姫が金髪を纏めている頭へと、片手を伸ばし棒櫛を抜き取った。
「闇を心に持たない人は居ないわ、でもね、大きすぎる闇は自分をも滅ぼすの」
身食いの如く、自分自身の闇に心を食べられて、いつしか人で無くなる。
そう白雪ファイターは言った。
彼女の頭の上で纏め上げられていた金髪が、金色の滝になって背中へと流れ落ちる。
「もぅ、そうなってしまっては滅ぼすしかないのっ。可愛そうだけれど、自らが招いた結果よっ、諦めて成敗されなさいっ」
王妃に無理矢理、寸胴鍋いっぱいの得体の知れない代物を飲み込ませた白雪が、豪奢な長い金髪を風に棚引かせて、元王妃を片手で指差し、言った。
「「「「「「「 ………… 」」」」」」」
七人の小人は、あえて何も言わなかった。
そして戦いが始まった。
真黒な人型異形からムチの如く触肢が高速で放たれる。
白雪が闘気を纏った片腕を素早く動かし、裏拳で弾き飛ばした。
弾き飛ばされた触肢が千切れ飛び、地面へとバウンドして落ちた。
「こんなものなの、この程度なら眠っていても勝てるわ。本気を出さないと、瞬殺するわよ」
白雪のその言葉に、真黒な異形の動きがピタリと止まった。
次の瞬間――
真黒な異形が無数の触肢が伸びた。
在るモノは、突き刺し動き。
在るモノは、薙ぎ切り動く。
在るモノは、しなり叩き。
在るモノは、地を這い延びる。
頭上から、背後から、前後から、左右から、全方向から白雪に一斉に襲い掛かった。
白雪の姿が、それらに囲まれ黒く見えなくなった。
四方八方、全周からの黒い触肢。
たったひとつの空間を目指し、埋め尽くし、取り巻き、塊と為していた。
その塊が小さく、小さく、縮んで行く。
と、縮んで行く動きが、膨らみ始めた。
内側からの力、ギシギシと音も聞こえそうな力と力の拮抗から、膨らみ始めた。
「アタッ、アタタタタタタタタタタ、アターーーーーーッ」
真黒な丸い塊、その塊のあちこちから眩しい光が突き刺し出る。
「アターーーッ」
押さえ込む力は限界まで膨れ上がって、輝かしい白い光りが爆発した。
「ハアァーーーーーーァァァ」
細く長い抜呼。
白雪ファイターが中段突きの戦闘ポーズ、無傷でそこに居た。
豪奢な長い金髪が風になびき。
白いドレスがフワリと棚引く。
豊かな胸の盛り上がりが、胸の谷間を見せてタユンと揺れ。
細いウェストからの腰周りと可愛いお尻が在り。
ドレスの前合わせから、片足の白い太ももが伸び出て、地を踏みしめていた。
乙女なる天使が地に降り立ち、闘いの鬼神になったとすれば、その姿が今ここに在った。
そんな白雪の姿、全身から闘気を立ち上らせて、その闘気に包まれていた。
真黒な異形から次々と触肢が襲い掛かる。
しかし白雪が纏う闘気に触れ、次々と溶け消えた。
鋭い眼差しで白雪は一点を見詰め続けていた。
そして白雪は歩き始める。
真黒な人型異形へ向かい、ゆっくりと歩き近寄って行った。
真黒な異形が全身からの触肢を前方へと集めて、一個の鋭い一本へとよじり合せていた。
数から質へ、物量を収束して圧倒的な突破破壊力へと、己の全てを固めた。
己の全てを賭けたランスチャージ。
超高速回転も加えられたランスチャージが炸裂した。
白雪の顔面へと――
その大質量の渾身の一撃がビタリと止まっていた。
指先一本。
大質量の超高速回転のランスの鋭い先端が、闘気の纏う指先ひとつで止められていた。
「これで終りなの」
白雪が静かに言った。
「なら、今度はこちらからね」
白雪の空いている方の片腕、コブシがギシリと固められた。
「アタッ、アタッ」
ランスの先端部分がゴッソリと砕け散る。
さらに深々と大量に弾け飛んだ。
その弾け飛んだ向こうに、白雪の美麗な顔が紅い唇を引き結び在った。
「ハアアアアァァァァァ」
紅い唇が闘気を溢れさせた。
「アタタタタタタタタタタタタタタタタタ」
白雪の両手が残像も残さずに、無数の拳を繰り出す。
そして、そのまま白雪は歩みを進めた。
『白雪・御万烈拳』
ひとつのコブシが二つに為り。
二つのコブシが四つ、四つが十六、十六が二百五十六。
二乗に増えてゆき、最後には万のオーダーにも達する。
さらには、万のオーダーのひとつひとつが一撃爆砕の威力を持つ。
恐るべき拳だった。
「アタタタタタタタタタタタ、アタアッ、アタアッ、アタアッ」
無数の拳の中へ、時折入る虎の咆哮。
虎の咆哮のひとつひとつで、ゴソッと弾け散り砕け消える。
そして――
白雪と異形が手を伸ばせば届くほどの近さとなった。
その時、白雪の双眼が光った。
『白雪・慈悲聖天・浄化破邪拳』
コブシの拳が一発、世界が輝きに満ちて白くなった。
真っ白に塗り潰れ去る世界に、真黒な異形が飛沫散って消えて往った。
森の中の地面に、王妃が魔法使いの変装も失せて、地味なローブ姿で横たわっていた。
その王妃の顔は、どこか安らぎと平穏が有り、意外な若さとそれなりの美しさも有った。
微かだが小さな息が繰り返されていた。
「普通にしていれば、ちゃんと美人なのにね」
王妃の近くに佇む白雪姫が、ふぅと溜め息を付き、あそこまでの略某を巡らして世界一を欲するのかと言った。
「まぁ、男も女も、人ってモノはそうじゃろう」
「女ってのは、特にそうじゃ」
「どっかでトラウマでも、こさえたのじゃろう」
「意外とオッパイでかいのぅ」
「尻もシッカリでかいぞ」
「ウェストは絞まってて細いのぅ」
「小顔で、スタイルいいのうぅ」
七人の小人達が好き勝手に言っていた。
そして――
「「「「「「「こりゃイイ女だあぁ」」」」」」」
七人の小人がハモり言った。
白雪姫が口元を歪め、イラッとした表情を浮かべていた。
「王宮へ送還出来る?」
白雪姫がサポート魔法担当の小人へと聞いた。
「ふむ、大陸のあちこちのポイントは登録済みじゃ、この国の王宮も大丈夫じゃぞ」
長い顎鬚をしごきながら、小人がどこからか杖を取り出し答えた。
「じゃあ、お願い。記憶は―― 別にいいわね」
「うむ、心の闇も失せたろう、記憶は消さぬ方が良いな。だが、それでも再び闇を溜め込み繰り返したのならば、次は人に戻れぬだろうな」
どこか哀れみを含んだ物言いで小人が言い。
地面に横たわる王妃へと魔法陣が光り輝き、光りが薄れ消えた時、王妃の姿も消えていた。
森の中で白雪姫の日常が戻り、かの王妃が再び現れる事は無かった。
しかし――
「えっと、その、結婚して下さい。白雪さん」
どっかの国の、どこからか湧いて出た、幼さを残す王子が白雪姫へプロポーズしていた。
白雪姫が目の前で跪く、少年王子に真っ赤になって居た。
そんな二人の姿を見て、横っちょで七人の小人達がひそひそと言っていた。
「ショタぢゃ」
「うむ、好みストライクと見た」
「ここに一人で辿り着いたのだから、見た目に似合わず戦えるらしいの」
「しかし、初対面で行き成りプロポーズなのかの?」
「お前、知らなかったのか、ホレ、白雪が留守にしていた事が有ったろうぅ」
「ああ、暗黒邪神教とか言っておったのおぅ、ほほう、アレかっ」
「片付いたとか言ってから、何だか溜め息ばかりついていた、アレかあぁ」
七人の小人達がニマニマとしながら声を揃えて、
「「「「「「「春が来たかあぁぁぁ」」」」」」」
ハモりながら、アノ白雪にと、七人全員が腕組みをして感慨深く、うんうんと頷いていた。
「あっ、忘れてました、コレお土産です」
少年王子が魔法の収納から、とあるモノを取り出した。
「…………」
ソレを見て、白雪姫が青褪めた。
「「「「「「「…………」」」」」」」
ソレを見て、七人の小人達も青褪めた。
ソレは――
何重ものビニール袋に厳重に包まれた、リンゴ、ひと袋だった。
何とも言えない沈黙の雰囲気の中、健気な少年王子が頬を赤らめて言う。
「白雪さんの大好きなモノって教えて貰って――」
「教えた人って?」
少年王子が全てを言い終わらない内に、白雪姫が問いただし、
「白雪さんの継母の人に」
つまり、あの王妃だった。
「あ、あいつうぅぅぅーーーーーーぅぅぅぅ」
絶対っ、コレって、嫌がらせ。
白雪姫はコブシを固めて思った。
その白雪姫へ、少年王子が告白する様に言葉を何とか出した。
「じ、実は、僕。リンゴ・アレルギーなのです。そ、そんな僕でも良かったら、あの」
リンゴが、物凄く厳重にビニールパックされている理由が明かされていた。
次の瞬間、少年王子は気が付けば、白雪姫の豊かな胸へと自分の顔が埋まって、抱き締められている事に気が付いたのだった。
そして――
天下無双の白雪ファイターの、その後は、子沢山で末永く幸せに暮らしましたとさ。
その後。
七人の修羅・小人達は、七人の孫バカ爺になり。
かの王妃は、魔法の鏡を真黒に塗り潰してから、鉛の箱に詰めて海へと沈め。
王へと全てを告白懺悔した後、妊娠発覚。
王位を即決、退いた元王と、ラブラブ慎ましやかな地方領主生活になった。
世は全て事は無く――
目出度し、目出度し、終り良く。
物語は終わったのだった?
ちなみに――
白雪姫がアレほどのリンゴ嫌いになったのは。
修行後の、喉の乾きとすきっ腹。
幼い白雪姫が大好きなリンゴを丸齧りして、モギュモギュ、ゴックン。
そして、ふと気が付く。
片手の齧り取ったリンゴに、小さな穴と、その穴の中に、齧り千切られた虫の半身。
「…………」
飲み込んだモノは戻せにゃい。
「…………」
食い千切られた虫の半身が小さな穴から、クネクネと、まだ動いている。
「…………」
片手に食べ掛けのリンゴ。
立ったまま気絶している、幼い白雪姫が居たのだった。
合掌。
森の中、誰も居ない小屋。
そのキッチンの床で、ドロリドロリとした粘液がウゴめいていた。
ウゴめく粘液が不可思議にソノの体積を増し、形を為して行く。
やがて、可なりの大きさになったソレが、ゆっくりと移動を始めた。
室内のあちこちへとネットリと触れウゴメク様子は、本能的に外へと、出口を求めている様だった。
やがて細く開いた扉から、小屋からさ迷い出て、森の中へと消えて行くモノが有った。
コレは、また、別の物語。
白雪姫の手料理からの――
どこかで語られる、物語だった。
これにて童話、白雪姫は終幕そうろう。
リンゴに関しての記述は半分実話。
そぅ、実話にゃのでつ……
実話でも、執筆者はリンゴが大好きで食べております。
昔々のデリシャスが食べたい……
果物って、甘味と酸味&硬さが大切と思うのでした。
甘いだけの果物や野菜は、どっか間違ってるぅ。