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世迷いペンギンは荒野を歩く 作者:芳川見浪
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歴史の断片は思わぬところからやってくる


 遺跡で撃たれてできた怪我が元で入院していたヨハン。一ヶ月後にはすっかり良くなり退院する事になった。

「もうすっかり良くなりましたね、お金は騎兵隊の方から頂いていますのでこのまま退院してもらって構いません」

「お世話になりました」

 ペコリとお辞儀をしてから病院を後にした。
 木製の建物が並ぶ街並みを歩く。この地域は植物がそれなりに多く、十キロ離れた場所には森があるらしい。また年に数回雨が降るため水には困ってないとのこと。
 残念ながら今は雨が降る時期でない。

 ヨハンは一ヶ月間体をロクに動かしていなかったツケを全身で感じながら、街の中心にある郵便局にやってきた。

 中に入り受付番号の書かれた札をとって近くの長椅子に座る。来る時間帯が良かったのか、さほど待たずに順番がまわってきた。

「どのようなご要件ですか?」

「ヨハン宛の荷物や手紙は届いてるかな」

 砂星では郵便物を各街の郵便局で預かり、それを個人で受け取りに行くのが主流となっている。
 砂星の住人は一つ所に留まるというのがあまり無いためであり、また家を持たない者が多いゆえこのような形態となっている。
 それゆえに郵便局へ定期的に足を運ぶことは、砂星の住人にとっては食事と同じくらい大事な習慣の一つである。
 しかし都市部ではそうではないらしく、郵便局の職員が各家に郵便物を届けているそうだ。

「ここで預かっているのは十一件です。他の街には計八十件ございます」

「その中に名字が無いのは幾つある?」

 受付の人は一旦後ろに下がる。少し時間をおいてまた帰ってきた。
 郵便局は独自の情報共有ネットワークシステムを持っているので検索などはすぐに済ませる。

「一件です。他は二十三件」

「その一つを貰いたい」

 ヨハンは印章を受付に渡す。あとはこの印章に書かれた数字と郵便物に書かれた数字が一致すれば受け取り手続き完了である。

「印章の一致が確認されましたので、これをお受け取りください。また他の二十三件とこの印章は一致しませんでした」

「ありがとう」

 郵便局を出て適当に人が少ない所を選んで郵便物の封を開ける。それは一枚の紙切れであった。
 中身は。

「げっ、解雇通知」

 ヨハンは助手の仕事をクビになってしまった。
 文面には「貴重な財宝類を奪われた全責任をとって以下略」と書かれている。
 その時風に流されて号外が飛んできた。
 とある砂獣サブルビーストの体毛を素材にして作られる紙を用いた新聞である。そこの一面には、教授の写真フォトグラフと『新たな遺跡の謎を解き明かす偉大な発見』と書かれた見出しがデカデカと載っていた。

 要は手柄を取られたうえでスケープ・ゴートにされたわけだ。

「悔しさ通り越して虚無感が……やっぱ誰かの助手は向いてないなあ」

 しかし助手業が駄目なら今後どうやって生計を立てるべきなのか。残念ながらヨハンはこれ以外の生き方が思い浮かばない。
 とりあえず銀行に行こう。残高を確認してこれからの事を考えよう、そう決意した時、ある店が目に付いた。

 ガンショップである。

「銃……か、あんな事にならないためにも覚えとくべきだろうか」

 ふらふらっと、吸い込まれるようにヨハンはガンショップに入っていく。
 カランカランとドアに備え付けられたベルが鳴る。中に入ると同時、鼻に鉛を詰め込むような火薬の匂いがした。

 店内は六メートル四方の正方形、壁や天井に所狭しと銃が並べられている。
 ヨハンにそれの善し悪しはわからないが、値段を見て懐への善し悪しはよくわかった。

 カウンターの奥に店主らしき強面の男性、棚の前に客らしき男性。どちらも筋骨隆々で、ヨハンみたいな小柄な人間は拳一つで粉砕されそうだ。
 実際その通りなのだろう、客の男性はよく見ると猿の獣人だ。猿獣人は腕力が特に強いと聞く。

 微妙に場違いを感じながらヨハンは店内を見渡していく。

(どれがいいだろう、やっぱライフルかな)

 ヨハンはロングバレルのライフルを手に取ってみた。

「結構重い」

 括りつけられたタグには七キログラムと書かれていた。
 これを持ち運ぶのは酷だなと思った。

「坊主、銃は初めてか?」

 不意に声を掛けられた。猿獣人の客だった。

「あ、はい。どれがいいかわからなくて、流石にライフルはやめときますけど」

「賢明だな、初心者ならとりあえずこれでいいだろ」

 猿獣人はそう言って、拳銃棚から銀色の拳銃を持ってきた。グリップが丸っこく、重さは一キログラム程、短銃身で取り回しやすい、これならヨハンでも扱えそうだ。

「騎兵隊や保安官が好んで使うピースメーカーを短銃身にした、シェリフズて名前の銃だ。威力も携帯性も申し分ないだろう」

「あ、ありがとう」

「シリンダーと弾は多めに買っておけ。練習した方がいいだろう」

 ヨハンは会計を済ませて猿獣人の元へと駆け寄った。猿獣人は気に入った物が無かったらしく店の外に出ていた。

「色々ありがとう、あなたは賞金稼ぎなんですか?」

「まあな、今はもうほとんど引退したようなもんだが」

「そっか、ついでに銃の撃ち方も教えてくれちゃったり……しませんか?」

 猿獣人はハアと大きく溜息を吐いた。

「まあそれぐらいなら」

 いいだろう。と言おとしたのだろう、だがそこまでいう前に猿獣人はヨハンを押し倒して地面に伏せた。
 その直後にヨハンの頭があった場所の柱に銃弾がめり込んだ。

「うぇっ!?」

「見つけたぜスクアート!!」

 やたらと野太い男の声がした。それに続くように複数の足音が聞こえてきた。

「ああくっそ今日は厄日だぜ!」

 猿獣人はすぐ様起き上がって、やや放心しているヨハンの首根っこを引っ掴んで駆け出した。片手で人一人運ぶあたり流石は猿だと思うが、ヨハンは服の襟が首にくい込んで窒息しかけていた。

 近くにあった車に身を隠してようやくヨハンは解放された。

「ぐえっゲホゲホ」

 ヨハン達がいる方とは反対側の車体に銃弾が次々と命中する。
 何処かで「俺の車があああ」という叫びが聞こえた。

「な、なにあれ?」

「賞金首だ、昔俺が捕まえたな」

「じゃあ意趣返しってこと?」

「そういうこった、巻き込んでわりぃな」

「そんな事より何とか逃げないと……あっ、この車動かせそう」

 ふと車内を覗き込むと、ハンドル横にキーが差し込んだままである事に気づいた。

「お前車動かせるか?」

「え? うん」

 返事を聞いてすぐ猿獣人は銃でドアの鍵を撃ち抜いて破壊した。再び「俺の車が!」という叫びが聞こえた。
 意図を察したヨハンは車に乗り込んでエンジンをかける。猿獣人は威嚇射撃で一度賞金首を抑えてから車に乗り込んだ。
 そして懐から財布を取り出して、それを車の持ち主らしき男性へと投げた。

「こいつで車を売ってくれ」

 ヨハンはアクセルを踏み込んで走り出す。財布の中身を確認した男性の「足りねえええ」という雄叫びを背にして街を疾駆していく。
 賞金首が慌てて車の尻に銃弾を叩き込むも、直ぐに振り切って銃弾すら届かなくなった。

 
 ――――――――――――――――――――


 数時間後、無我夢中で走り続けたヨハンは、いつの間にか自分達が街の外の荒野を走っている事に気付いた。

 薄ら生い茂った草むらに隠れるようにして車を停めて、外に出る。
 空は赤らんでおり、東の方は星が見え始めていた。

「ハーハッハッハ、中々度胸あるじゃねえか」

 猿獣人は何が楽しいのか派手に笑い散らかした。
 ヨハンとしては心臓が凍りつく程に怖かったのだが。

「笑い事じゃないですよ!! ああもう絶対顔を覚えられた! しばらくあの街に入れませんって!」

「悪かった悪かった、お詫びにタダで銃の撃ち方とか色々教えてやっから」

「むしろこっちがお金取りたいんですけど!」

「残念ながら俺はスカンピんだ。さっき有り金全部この車を買うのに使ったからな」

「足りないって聞こえたんですけど」

「気のせいだ。まあとにかく、ガソリンがもつまで走って次の街まで行こうや」

 こうしてヨハンと猿獣人の奇妙な旅が始まった。
 猿獣人は名をスクアート・ランダルという。伝説の賞金稼ぎという事を聞いたのは次の街に着いてからだった。
 ヨハンはスクアートから色々な事を学んだ。拳銃の撃ち方、ライフルの撃ち方、人間や獣人や亜人の急所、砂獣サブルビーストの倒し方。砂獣の美味しい食べ方。麻薬の使い道、法の抜け穴。
 賞金首の捕まえ方等など、二年も経つ頃にはすっかり逞しくなった。

 
 ――――――――――――――――――――

 
 ある時、酒場にて。
 ヨハンは荒くれ者相手にカードをしていた。
 古くからある『ポーカー』というゲーム。

「コール、ストレートフラッシュ」

 ヨハンがテーブルにカードを広げると、荒くれ者達から溜息が零れる。ヨハンの勝ちである。
 ヨハンはありったけの賞金を手にして立ち上がった。

「じゃ、俺は勝ち逃げさせてもらうよ」

「くっそ! あんなガキに負けるなんて」

 ヨハンは口笛を吹くぐらい上機嫌で悠悠と酒場を後にする。スイングドアに手を掛けて外へ出ようとしたその時、後ろから荒くれ者が声を掛けてきた。

「おい、袖からカード落ちたぞ」

 ………………………………
 ……………………
 …………

 しばしの沈黙、そして。

「おさらば!!」

 ヨハンは脱兎のごとく駆け出した。

「待てゴルァ!!」「インチキしやがってただで済むと思ってんじゃねえぞ!!」「ぶっ殺せ!!」

 後ろから殺意全開の叫び声が聞こえる。捕まったら命も貞操も危ないかもしれない。

「うっひい」

 ここ二年で大幅に鍛えられた筋力とスタミナを駆使してスクアートが待つ宿舎へと走り抜く。階段を上がり部屋へと駆け込んだ。

「やったぜ師匠! これでしばらくは楽できる!」

「よくやった我が弟子! じゃあこれを元手に俺が倍にして」

「させるわけないでしょう! あんたギャンブル弱いんだから!」

「ヨハン、お前最近俺に厳しくないか?」

「そりゃ街に入ればほぼ毎日銃撃戦に巻き込まれたり、外は外で修行と称して砂獣の群れに放り込まれたりすればこんな風になるわ」

「強くなったなあ」

「おかげさまでな!!」

 このようなやり取りも最早見慣れたもの。ヨハンはお金をテーブルに置いて椅子に座る。外から荒くれ者の声が聞こえた。
 ヨハンは近くにあった瓶を手に取った。アルコールの匂いがしないことからお酒ではなさそうだ。

「なにこれ?」

「イチゴミルクらしい。その名の通りイチゴと牛乳を合わせたやつだな」

「俺牛乳嫌いなんだけどな」

 と言いつつ試しに飲んでみる。舌に牛乳とイチゴの甘みが広がり、飲み込むと喉にくどさが残る。ようは甘ったるい。

「イマイチ」

 一口飲んで瓶を元のテーブルに置いた。あまりお気に召さなかった。
 スクアートはケースから煙草を一本取り出して火をつけ、口に咥えて煙を吸い込む。

「ヨハン、突然だがお前との師弟関係は今日までだ」

「は?」

 突然訳の分からない事を言われてヨハンは戸惑った。

「少々厄介事を片付けねばならなくなった」

「なら俺も」

「駄目だ」

 ピシャリと言い放った。剛毛から覗く眼孔は歳など感じさせない程に力強く、また有無を言わせない迫力があった。

「こいつは俺の抱える負債なんでな、巻き込むわけにはいかねえ」

「今更何言ってんだよ、あんたの借金返したの俺だぞ」

「そいつを言われちゃぐうの音も出ないな」

 静寂が訪れる、しんと静まり返った部屋に届くのは外のざわめきと、取り締まりに動いている保安官の笛の音だけ。あとは空を飛ぶ鳥の鳴き声。

「俺がいるとまずいのか?」

「ああ」

「わかった」

「詫びに俺の銃を置いていく、機械人形用のスクアート・カスタムだ。使うも売るも好きにするがいい」

「ああ、好きにする」

 再び、部屋が静まり返る。なんとも言えない空気の中、スクアートはポツリと呟いた。

「港町ゴッソ、あそこの周辺に近々遺跡が現れる。水の星の歴史が知りたいのならそこに行くといい」

「なんでそんな事わかるんだよ」

「色々あんだよ、さて時間だ」

 その時、ズンと腹の底に染み渡るような振動と轟音が響き渡った。
 テーブルの上の瓶が倒れて中身が零れる、イチゴミルクの甘ったるい匂いが鼻についた。
 何かが落ちてきたような、そんな振動だった。

 窓の外が騒がしい。元から騒がしいが、さっきまでとは違う騒がしさだ。「なんじゃありゃー」など聞こえてきた。
 窓際に寄り外に目を向けると、そこには全長七メートルに及ぶ猿のような姿をした機械人形があった。ちょうどヨハンのいる三階のところで目の高さが一致している。
 だが猿と呼ぶには腕が異様に長い。また機械人形にしては何処かデザインが生物的だ。

「なにこの猿」

「正確にはオランウータンだ。今はもう絶滅しているが、砂の星になる前はインドネシアやマレーシアに生息していた」

 スクアートは言いながら窓べりに足を掛けた。

「何だよそれ、インドネシアとかマレーシアとか、てかあんなの何処に隠れてたんだよ!?」

「隠してねえ呼んだだけだ。じゃあなヨハン、達者で生きろよ」

「おい!!」

 スクアートは窓から飛びずさり、オランウータンの胸元へと着地する。そして胸が開くとその中へと入っていった。
 やはりこれは機械人形のようだ。

 そしてオランウータンはスクアートを連れていずこへと消え去った。その後の足取りはわからない。
 ヨハンは胸にモヤモヤとしたモノを抱えながら港町ゴッソへと向かう。
 そこでヨハンは名無しの賞金稼ぎ、世間知らずのお嬢様、全裸の変態と出会う事になる。

 
 ――――――――――――――――――――

 
 現在、強襲艇の整備室にて。

「よし、終わり」

 奪い取った強襲艇の整備施設でペイルライダーを改修していたヨハン、生憎この船で整備ができるのはヨハンだけなので色々と苦労した。

 目の前には上半身を青く塗りつぶした極悪顔のペイルライダーが立っている。下半身は茶色のカラーリング、腿に青色の装甲、足にブーツのような灰色の装甲が着いている。
 上半身はコクピットのある胸部が突き出ており、腹は腹筋を思わせる多重装甲。肩と腕にそれぞれ青い肩当や黒い篭手を思わせる装甲。
 頭は丸く何もついていない。真ん中に四十丸の紋様、一番外側だけ下に尖っている。四十丸を囲うように黒いラインが三つ。

 夜に見ると全力で逃げ出したくなるほど禍々しいデザインの機械人形だ。

「よお、整備は終わったみたいだな」

 終わると同時にスコッチが整備室に入ってきた。

「ああ」

「さっきの話で一つ気になることがあるんだが、最後にでてきたその……オランウータンだったか? あれなんだが」

「ペンギンダーに似ている……か?」

「そうだ」

「実際似てる、と思う。どこからともなく現れたうえに既存の機械人形とは似ても似つかない。そう言えば、スコッチはペンギンダーを何処で手に入れたんだ?」

「とある遺跡だ、今思うと七つの海だったのかもしれねえ。詳しくは後日な」

「そうだな、そろそろアークティック遺跡に着く頃だ。全部終わったら話してもらうぞ」

 強襲艇の操舵室からはもう見えている頃だろう。砂星最北端の遺跡が。
 ヨハンは固く拳を握った。

(師匠、あんたは今何処にいるんだ?)

 ヨハンはふと部屋に置いてある水の星の地図を思い出した。
 少し前にあの地図を解読したところだ。そして地図には興味深い地名が書いてあった。

 一番大きな大陸の下の方、そこに諸島国家がいくつもあった。
 そのうちの二つが「インドネシア」と「マレーシア」という名前だった。

『正確にはオランウータンだ。今はもう絶滅しているが、砂の星になる前はインドネシアやマレーシアに生息していた』

 あの時スクアートが言った言葉には、確かにその二つの名前があった。

(師匠が水の星の何かを知っているのは間違いない、そして突然消息を絶ったのも水の星にまつわる何かだろう。
 必ず見つけてみせる。見つけて、水の星について聞き出してやる)

 
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