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世迷いペンギンは荒野を歩く 作者:芳川見浪
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夢追い少年は砂の星を考える


挿絵(By みてみん)
イラスト:ニセオジロ
タイトルロゴ:村雲唯円
背景:著作権フリーから

――――――――――――――――――――

「ノオオオオオオオ!! これやっばあああああイ!」

 背中から灰色の翼を生やした有翼人のショーンは、緊張感に欠ける絶叫を遺跡内に反響させがらヨハンの隣を全力で走る。
 因みにこの男、全裸である。

「私この状況知ってます! 昔の言葉で『絶体絶命』て言うんですよね!?」

 とヨハンの腕の中で横抱きにされている少女メルが、目をキラキラと輝かせながら問い尋ねた。

 最悪の状況下でそのような呑気な事を言われれば苛立ちも募るもので、ヨハンは残り少ない体力で無駄に怒り叫ぶ。

「言ってる場合じゃねえ!! とにかく逃げろおおおお」

 ヨハン達は必死に円筒形の未踏遺跡アウターレリック内の階段を駆け上がる。
 何故そこまで必死に駆け上がるのか、それは背後、つまり階下から地響きを立てながら砂蛇が迫ってくるからだ。
 体高が二m以上ある巨大な蛇が大口を開けて舌をチロチロと揺らしながら三人を飲み込まんとすがる。

「大変! もうそこまで来てますわよ! 私達ここで蛇の餌になっちゃうのでしょうか!」

「何で微妙に楽しそうなの!?」

「ヨハン君ヨハン君! この蛇絶対面食いだヨ! だってボクみたいな美しい有翼人を食べようとしてるんだかラ!」

「お前結構余裕だろ!!」

 叫ぶ事で余計に体力が奪われてしまった。そろそろ体力の限界が近い、というか限界である。

「早く来てくれスコッチ」

 掠れそうなか細い声で僅かな希望を呟く、直後、神の気まぐれか否かヨハンの耳に聞きたかった言葉が入ってくる。

「待たせたな」

 ドオオンと遺跡全体が強く揺れた。揺れに耐え切れずヨハンは足をつんのめかして倒れてしまう、その際メルを落としてしまった。

「あびゃっ」

 直ぐに体勢を立て直したヨハンの横で、メルは「いたた」と言いながら、キュッと可愛いらしく引き締まったお尻を撫でながら立ち上がった。

「ああ! ヨハンさん見て下さい!」

「え?」

 ヨハンが階上から振り返ると、そこには下の階層を突き破って巨大な鳥類が立っていた。見えているのは上の約半分、砂蛇の体高(二メートル)と比較して大きさは推定六メートル。
 遠目からは生物的デザインで生きているように見えるが、その実鋼鉄に覆われた機械仕掛けの鳥である。
 しかし鳥に見えるのは頭部だけであり、事実砂蛇の頭を壁に押さえつけている右翼は羽ではなくフリッパーと化している。
 更に胴体は丸々と太っており、鳥らしい軽快な動きは出来そうにない。

 その姿は空を飛ぶ事を前提としておらず、砂海を泳ぐ事に特化した『ペンギン』の姿そのものであった。

 砂蛇は自由な胴体を回して、ペンギンの体にとぐろ状に巻き付けて締め殺そうとする。

「この程度でペンギンダーはどうともならん」

 巨大ペンギンから渋い中年男性の声が聞こえた。

「スコッチ!」

「よお小僧共、生きてたようで何よりだ」

 ペンギンは左鰭の先から刃物を伸ばしてそれを砂蛇に突き刺して切り裂いた。
 たったそれだけで、ヨハン達を絶望させた砂蛇は胴体から赤い血を垂れ流して呆気なく絶命した。

「ギリギリだったよスコッチ」

 ホッとして腰の力を無くしたヨハンがその場に尻餅を着く。

「ナイスタイミングですわスコッチさん! まるで物語に出てくるヒーローみたいでした!」

 メルは目を輝かせてハイテンションにはしゃぎ回る。
 この娘に至っては命の危機すら楽しんでそうで怖い。

「ヘイヘイヘーイ、ボクにかかればこの程度の危機何て事ないサ!」

 ショーンは壁にもたれていかにも余裕ですっていうアピールをしているが、その足と股間からぶら下がっている竿がプルプル震えており、ただの痩せ我慢でしかない事が察せられた。

 しかしメルはそれに気付かないのか、変わらず感動の眼差しを向けて「おおおお流石ショーンさん!」と叫んでいた。

 そんな二人のやり取りを尻目に、ヨハンは足に力を入れて立ち上がり、機械仕掛けのペンギンへ向かう。

「もう間に合わないかと思ったぞ」

 ヨハンが言い切るのと同時に、ペンギンの胸元がシューと空気が抜ける音と共に開いた。

 そこから巨大ペンギンを操縦していた『ペンギン』が、ダスターコートを翻して降り立った。
 名前はスコッチ、テンガロンハットを被り、ガンベルトを巻き付けたウェスタンシャツの上から、ダスターコートを羽織ったペンギンである。

「これでも有言実行を信条にしているからな、それに小僧共が俺を信用してくれたんだ、期待に応えなかったら男が廃る」

 スコッチはウェスタンシャツのポケットから煙草とライターを取り出すと、嘴に咥えて火をつけた。

「何はともあれ助かったよスコッチ」

 ヨハンはふうと息を吐いて遺跡の窓から外を眺める。
 視界一杯に黄土色の景色が広がる。ふと上を見上げれば青い空を分割するかのように伸びる『リング』が見える。

 あのリングは砂星ディザスターを囲っているのかと思うと何とも言えない気持ちになる。

「ところでこれからどうする?」

 スコッチが嘴を開く。

 ヨハンは答える。

「当然この未踏遺跡アウターレリックの調査だ!」

「ハイハイハイ! 私この遺跡レリックのてっぺんに行きたいです!」

 メルが鼻息を荒くしながら元気よく手を振って階段の先を指差した。
 この円筒形の遺跡は階層毎に丸い広場があるだけのシンプルな構造だ、これまで登ってくる途中で軽く広場を見たが、ヨハンの目にはめぼしい物は見当たらなかった。
 いっそ何かありそうな最上階を先に調べた方がいいかもしれないと思いメルに同意する。

「じゃあそうすっか、下はペンギンダーに封鎖されてるし」

 ヨハンの見つめる先には一階層分破壊して下に降りれなくした機械仕掛けのペンギンこと『ペンギンダー』があった。

「すまん」

 スコッチはバツが悪そうにテンガロンハットを翼の先で目深に押さえた。

 ――――――――――――――――――

 未踏遺跡アウターレリックの頂上の部屋に辿り着いた三人と一羽は頭を抱えていた。

「これ、どうやって開けんだ?」

 ヨハンが目の前にあるノブの無い鋼鉄の扉を興味深げに観察する。
 大きさは二mちょっと、材質は鉄だろうが、おそらく合成なため配合された細かい材質までは分からない。触った感じ焼入れされているためそう簡単には壊せそうもない。

 叩いてみる。コンコンと軽い音がする、音の感じからかなりの厚さがある事がわかった。

 周りを調べてみる。壁も扉と同じく鋼鉄で、不思議な事に継ぎ目というものが見当たらなかった。
 扉の部分だけそれらしい継ぎ目があるだけだ。

「ペンギンダーで破壊するか?」

「何が起こるかわからないしやめよう」

「外から出入口探してみようカ?」

 全裸が言った。

「そうだな」

 ショーンが翼を広げて遺跡レリックの外へ飛び立った。
 こういう時有翼人というものは助かるなとヨハンは思った。

 因みに結果は予想通り出入口なんてものは見つからなかった。

「お手上げか」

 スコッチが呟く。

「そういやメルはどうした?」

 ふとメルが見当たらないと思って見回すと、メルは扉より五メートル右で壁にピタんと張り付いていた。
 ヨハンが「何してんだ」と聞くと「ひんやりして気持ちいい」と頬をスリスリしながら壁に擦れながらカニ歩きした。

 呆れて内心でバカだーと罵った矢先、メルが「きゃっ」と短い悲鳴を上げて消えた。

「メル!?」

 二人と一羽が慌ててメルが消えた所に集まる。

「メル! どこだ!?」

「嬢ちゃん返事をしてくれ」

「ヘイヘイヘーイ!」

 一通り呼びかけてから耳を澄ます。すると壁の向こうから「ここで~す」と細い声が聞こえてきた。
 声が聞こえた壁に近寄り、その壁を触診して調べる。
 撫でるように壁に触れていると不意に小指が何かに引っかかった。

「何だこれ?」

 よく目を凝らすとそこだけ僅かに浮き上がっている、試しに押してみると。

 ヒュンと隣の壁がスライドして中への扉が出来上がった。

「こんな所にあったのか」

「隠し扉とは昔の連中も粋な事するじゃねえか」

 中に入る。部屋の中は薄暗く、埃が大量に舞っているのか入った途端にむせる。
 ヨハンとスコッチはスカーフを口に巻いて中を慎重に探る。
 ショーンは自身の羽根を口元に当てて臨時のマスクにした。

 慎重に足を踏み入れて、ペンライトで部屋を照らす。
 危険な物や生物はないか? 壁や天井は脆くないか?
 慎重に、息を細く細く殺しながら安全を確認していく。
 緊張も高まりメルの行方を探り始めたその時。

「わっ!」

「「「うわあああっ!!」」」

「えへへ」

 後ろから突然メルが脅かしてきて不覚にも大声をあげてしまった男連中、恥ずかしさで視線が宙を泳いだ。

「脅かすなよ」

「ごめんごめん、でここ何です?」

 スカーフを巻いたメルがヨハンに尋ねる。何? とはこの部屋の事だ。

「調べて見ないとわからないな」

 部屋の間取りは二十メートル四方でやや大きく、真ん中には脚の折れたテーブル、壁際にベッドがある事からここは誰かのプライベートルームだったのだろう。

「既に引き払った後なんだろうな、棚の中身もスッカラカンだ」

 スコッチが戸棚を開けながら言った。

「ねえねえヨハン君、これなにかワカルー?」

 ショーンに呼ばれて部屋の真ん中にある脚の折れたテーブルに近付く、ショーンが示唆したところには大きなヒュミドールの箱があった。

「どれどれ」

 慎重に箱の蓋を開けると、中にはまた一回り小さなヒュミドールの箱が、それを開けるとまたヒュミドール、四回目のヒュミドールを開けた時、中から密封容器に入った一冊の手帳(正確には手帳のような外観の板である)と、二枚の大きな鉄板が出てきた。

 ひとまず手帳は鞄に入れて先に二枚の鉄板を調べる。片方の板には地図のようなものが描かれていた。

「これ地図? ボクこんな変な地図見たことないヨ、だって青とか緑とか一杯ダシ」

 それもそうだ、ヨハン達が住む星には緑はほとんど無く、砂と岩ばかりだ。
 五つの大陸と流砂の海『砂海デューン』で出来たその星は『砂星ディザスター』と呼ばれている。

「いやこれ大昔の砂星ディザスターの地図だよ。昔は水の星と呼ばれていたらしいし、それに上に書いてある『W・O・R・L・D』の五文字は古代語で世界を意味してるんだ」

「なに? まさかこれは世界地図で、この青い部分は水とでも言うのか?」

「そのまさかだよスコッチ! すごい! やっぱり婆ちゃんの言った通りこの星にはたくさんの水があったんだ!」

「じゃあヨハンさん、こっちの板に書いてあるのは何でしょう?」

 メルに言われてもう一つの板を調べる。板は黒の背景に九つの大小様々な球体が描かれていた。

「何かの魔法陣かナ?」

 ショーンが言う、確かに見ようによってはそう見えなくも無い。

 ヨハンは慎重に板に書かれた文字を解読しながら、自身の脳内にある知識をフル動員させた。

「上に書いてあるのは『S・o・l・a・r……s・y・s・t・e・m』……ええっと翻訳すると」

 ヨハンは自分の手帳を取り出して必死に解読作業に入る。
 ショーンとスコッチとメルはその様子を固唾を飲んで見守っていた。

「そうか! 太陽系だ! この赤い丸が太陽、これを中心にした九つの星の位置関係を記した地図だよ」

「ほう、なら砂星ディザスターもここにあるのか」

「きっとそうだよ!」

「うーんこれかナ?」

 ショーンが太陽系地図に描かれた二つ目に大きな球体を指差す。それは黄土色でリングに囲われていた。

「確かにリングあるし砂星ディザスターかも、ちょっと待って、下の解説っぽいの翻訳するから」

 十分後

「わけがわからん」

 お手上げだった。

「何かサートゥなんとかとか金属水素だとか訳の分からない単語ばかりで難しい」

「何か他の分野が関わってくるのかもな、案外科学者に見せたら何かわかるかもしれんぞ」

「かもな、でも人が住んでたわけではないみたいだから砂星ディザスターじゃないと思う」

 と言ったらショーンが「ええ~」と不満気な顔をして背中の翼をバサバサと羽ばたかした。

「埃舞うからやめろ!」

 ショーンは不満な顔のまま翼を折りたたむ。余程自信があったらしい。

「ヨハンさんはどれが砂星ディザスターだと思いますか?」

 メルに言われ、板を凝視する。
 実は既にあたりをつけており、そこの解説も大雑把にだが翻訳している。

「俺はこれだと思う」

 ヨハンが指差したのは太陽から三番目に近い青い球体だった。

「その根拠はなんだ? 小僧、この星にはリングは無いぞ。砂星ディザスターの最大の特徴は空の向こうにあるあのリングだ。俺は坊主の言う輪っか付きだと思うがな」

「スコッチの言う事はわかる。俺も最初はそう思ったからさ、でもこの太陽系は水が無くなる前の大昔の地図だ、だから砂星ディザスターは青い星である筈だし、リングは人工物という説もあるからあえてそこは考えない事にしたんだ。
 そして何よりここ!」

 ヨハンはその青い球体の下に書いてある文字を指差した。

「ここに古代語で『人類の故郷』と書いてある」

「なるほど、確かにここが砂星ディザスターの可能性が高いかもしれないな」

「ヨハンさんすごいです! よくわからないけどすごいです」

「まあ、ボクもその可能性を考えてたけどネ」

 絶対嘘だ。

「これが解説だとすると上のちょっと大きい文字はこの星の昔の呼び名カナ?」

「そうだと、思う……えっとこの星の名は」

「わくわく」

 メルが目を輝かせてこちらを見ているため妙な緊張感が沸き上がってくる。

「E・A・R・T・H……古代語で、え~翻訳すると……」

 一拍置いて。

地球アースだ」
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