サイカの初依頼(中編)
終わりませんでした。
次回、サイカの初依頼は完結するはずです。
朝日が簾をかけた窓から薄く差し込んでくる。
その光を見てかどうかは分からないが、サイカは目を覚ました。意外と早起きである。
その隣には丸まって寝ているヤヅキとそれに抱きついているミカの姿があった。
「おはようございます」
小さくミカ達に告げて部屋から出ていく。
「おはようございます。ストローマさん」
「あらあら、早いのね。サイカちゃん」
ストローマが孤児院の子供達の朝食を作っていた。
「手伝いますよ」
サイカは料理が得意である。昔からそのセンスが良かった。
「助かるわ。じゃぁ、配膳してくれるかな?」
出来上がっている料理を指差しながら言う。
「わかりました」
テキパキと配膳していく。
そんなこんなで配膳が終わってから続々と子供達が孤児院の食堂に集まってきた。
「おはよー。サイカちゃん」
昨日一通り遊んだ、クリスもでてきた。
「おはよう、クリスくん」
なんだなんだと周りが囃すが、クリスの顔が赤くなって来たところでストローマが助け船を出して事なきを得た。
因みにまだミカとヤヅキは起きてこない。
「二人とも遅いですね」
ストローマが心配そうに呟く。
「食べていいですよ。あの二人の分も。多分起きてこないですし」
サイカはミカの朝に弱いことを知っていた。
町に戻る前もとても釘を刺されたためだ。
「じゃぁ、頂きましょうか」
ストローマも席につき朝食が始まる。
朝食はパンと少し肉の入った野菜スープだった。
「美味しいね」
サイカに話し掛けたのはクリスだった。
しかし、返ってきた返事はそうだね、と素っ気ないものであった。
実はサイカの育った環境では食事は睡眠と同様に時間を削られるものであった。その為、睡眠と食事はさっさと済ませて他の事をするのが周りの普通であった為、生返事のようになったのだ。
何かクリスが話そうとした時にはもうサイカは食べ終わり片付けていた。そして、ストローマに一言告げると部屋に戻っていった。
周りは気を使ったのかは分からないがクリスの座っている席より少し遠くに座っており、一人になったクリスがより惨めに見えた。
「起きましたか?」
そう言いながらミカ達の眠っている部屋に入った。
するとそこには、まだ、ヤヅキに抱きついて眠っているミカがいた。まだ、時間の余裕はあるのでそのまま寝かせておこうと思ったら、下で何やら大きな音がした。
その為、ミカを起こさずにまた食堂に戻ってくるとそこには二人の男がいた。
「だぁかぁら、俺たちがこの街を守っている軍の『守護の軍』なんだよ。この町に住んでいるってことは俺達に守られているって事なんだよ。でもな、俺達も金が無ければこの町を守れないだろ?だから、税を集めてるんだよ。ここは殆ど税を払ってないそうじゃないか?」
要するに、守ってやってるから金を払え。と言っているのだ。
「お断りします」
きっぱりとストローマに断られ逆上したように腰に帯刀していた剣を抜く。
「たかが、一施設の院長が調子に乗りやがって。誰に牙を剥いたのか思い知らせてやるっ」
子供達は怯え、ストローマの後ろに固まっていた。
それなのに、剣をストローマに突きを繰り出した。子供達の悲鳴が上が。サイカもストローマの胸から剣の生える光景が目に浮かんだ。
しかし、現実は違った。サイカの目の前でストローマが倒れる事もなかった。剣はストローマの目の前で見えない壁に刺さったかのように止まっていた。
「ここは、何故こんなにも町の守護者がバカなんだ?」
階段から姿を現したのはミカだった。隣にはヤヅキもいる。
「お前の突き程度じゃ、その壁は砕けないぞ」
ミカの契約精霊のヤヅキと契約して得た力。名前は特に無いがミカは障壁と呼んでいる。この障壁は魔力を半物質化させた壁であり、ほぼ全ての攻撃を防ぐ。壁を創るだけの能力だけではなく他にも、障壁の縁を剣の様にして相手を切り刻んだり、魔法を付与して──等と汎用的な能力である。
シン、と静かな場所になった食堂でミカの呟きが明瞭に聞こえる。
「なんだてめぇ」
「蒼星の旅団、団長。ミカだ」
その宣言に男二人は顔を見合わせる。
「じゃ、じゃぁ。あいつが『悠久の守護』を一人で倒したヤツなのか?」
男の声が上擦っている。
それもそのはずである。『悠久の守護』は『守護の軍』の傘下の中でも上位の実力を持つパーティーだったからだ。
「なんで、ここにいるんだよ。この前、町を出ていったばっかりだろ」
「戻って来ようがこまいが私の勝手だろ?」
その一言で疑問は解決された。また、何か用事があって戻って来たのだろう、と。
「どうするか?この町の軍を全て破壊するか、ここで引き下がりこの孤児院に手出ししないかのどちらがいいか?」
それは、二択では無く、一択の質問。
「わかった。俺達の軍はこの孤児院に手出しはしない」
「その言葉、違えるなよ。では、行けっ」
静かにしかし、迫力のある声で怒鳴り男達は逃げていく。
「ありがとうございます」
ミカに向かってストローマがまず、礼を言う。
「泊めて貰っているからな。朝は起きれなかったし、これくらいどうってことないぞ?」
しかし、子供達にはかなりの恐怖を刻み込んだらしく目も合わせてくれなくなっていた。
「サイカ、依頼に行こうか。では、助かった」
サイカを連れて孤児院を後にする。
「いつから起きてたんですか?」
少し孤児院から離れた場所で気になっていたことを聞く。
「サイカが降りていった後ぐらいかな?」
疑問系であったが多分合っているのだろうと、サイカは検討をつける。
「ほら、冒険者組合に着いた。また、酒場に入るから依頼頑張れよ」
サイカに手を振り酒場へと歩き出したミカを数秒見つめ、カウンターにむかった。
「昨日の依頼を受けます」
もうかなり日が上っており、人は少なかった為、直ぐに依頼を受けることが出来た。
場所を聞いて驚いた。さっきまで泊まっていた孤児院が依頼の場所であった為だ。
そして、元来た道を戻り始めた。
「冒険者組合の依頼で来ました。冒険者のサイカです」
一応、形式に乗っ取って扉を開けてから名を名乗る。
「はいはい、サイカちゃんお帰り。依頼受けてくれてありがとね。ちょうど良かった、買い物に行ってくるから子供達を見ていてくれる?」
ストローマは買い物用の麻袋を持ってサイカに子供達を見ておく事を頼む。
「わかりました」
サイカが承諾して、子供達の所に行く。
ストローマが買い物に行ってから少し経ってからのことだった。孤児院には少し広い庭がある。しかし、隣は新しく家を建てて入るためか少し危険だとサイカは判断し、そこに近づかないように注意して、子供達を遊ばせていた。
まさに、その時だった。
まだ、小さい子が家を建てている場所に近付いてしまった。そこまでは良いのだが、その子供を目掛けてかなり大きく重そうなレンガが落ちてきたのだ。
「危ないっ」
クリスがその子供を突き飛ばして、レンガにぶつかったのはクリスだった。
クリスの肩から胸元にかけて亀裂が入り気化した魔力が天に上っていた。このまま、なにもしなければもうすぐ死んでしまうだろう。
「クリスくんっ。クリスくんっ」
サイカは一つの強い願いが生まれた。
クリスを助けたい、と。
その気持ちからかどうかは分からないが、ふと時間が止まった。
クリスから溢れ出ていた魔力も、クリスに近寄ろうとしていた子供達も止まっていた。
また、感想を頂きました。
ブックマーク登録も五人となりました。
これを励みにより頑張っていきます!