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蒼星の旅団  作者: 暁月夜 詩音
第一章 双子との出会い
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サイカの初依頼(前編)

 サイカの選んだ二つの依頼は、草刈りと孤児院の手伝いだった。

「まず、草刈りからしようかな」

 そう言ってサイカは一人で目的の場所まで走っていく。勿論、ミカやヤヅキの手助けは借りないつもりなので酒場に残してきた。


「おや、まぁ。お嬢ちゃんが草刈りしてくれるのかい?有り難いねぇ。私はクーラだよ」

 ニコニコしたおばあちゃんが依頼のあった家にいた。

「私はサイカです。草刈り頑張りますっ。クーラさん」

「元気だねぇ。でも少し、場所が広いから頑張ってね」

 クーラおばあちゃんはそう言って庭に案内してくれた。

「うわっ」

 有り得ないほどに庭が広いのだ。ただ広いのであればまだ良い。しかし、そこには大量の草が生えていた。

「もう、更地にしてもらえるかい?」

「わかりました。我が魔力を糧にして意のままに風よ動け。風の刃(ウィンドブレード)

 魔法の詠唱は決まったものがなく自分が思いついたものを言葉にして言えば発動する。しかし、例外もある。それは、ミカとヤヅキである。いや、正確にはヤヅキである。

 精霊も普通は詠唱をしないと魔法は使えない。しかし、ヤヅキの能力の一つである詠唱破棄は、思っただけで魔法を構築できる。

 しかし、特異魔法だけはヤヅキが苦手としている為詠唱が必用である。

 余談だが、属性は火、水、風、土、光、闇と特異魔法である。

 全ての草が刈り尽くされ更地になった。しかし、刈った植物が大量に地面に落ちているため一ヶ所に集めてクーラおばあちゃんが魔法で火をつけた。刈ったばかりでまだみずみずしい植物を燃やせるほどの火をつけるおばあちゃんにちょっと恐れたのは内緒である。

「若いのに同時に魔法が使えて優秀だねぇ。ちょっと、お茶をご馳走になってくれないかね」

 おばあちゃんはサイカをかなり気に入った様でお茶に誘う。

「一杯だけ貰いますね」

 そう言っておばあちゃんの後に続いて部屋に入る。

 部屋はかなり質素ではあったが使い込まれていて存在感を醸し出していた。

「どうぞ、ムアナのお茶だよ」

 ムアナとはかなり高い茶葉であり、庶民には手が出せないほどの代物である。飲むとサッパリとしていてどこか懐かしい味であり人気である。

「これが、ムアナのお茶ですか。一回飲んでみたかったんです」

 サイカは村で旅をしていた叔父の話を思い出していた。

 ──ムアナといってな、かなり上手い茶葉があるんだよ。そいつが、格別でなぁ。いつか飲みにいこうな──

 そんな声が思い出して少し寂しい気もしたが自分が助けに行くんだと思い直しもしていた。

「それは良かった。これもお食べ。ルアザのパイだよ」

 ルアザのパイもかなり甘味の強いルアザであった為かとても甘く美味しかった。

「孫が出来たみたいで楽しかったよ。これは冒険者組合(ギルド)とは違うお小遣いとして何かサイカちゃんの好きなものを買いなさい。あとこれ、完了のサインだよ」

 そう言って、五枚の銅貨とサインをサイカに握らせる。そして、サイカが何か言おうとする前に扉は閉まってしまった。


 五枚の銅貨を握ったまま冒険者組合(ギルド)に走っていくサイカ。勿論、依頼の完了を知らせる為ともう一つミカに自慢するためだった。

 自慢の狼人族の特徴である筋力を活かしてかなりのスピードで走り扉を開けて中に入り、カウンターに行く。

「依頼が完了しました」

 あれだけ走ったというのに息は上がっていなかった。

「完了しました。完了のサインです」

 受け付け嬢にサインの書かれた紙を見せる。そうすると受け付け嬢の顔が驚いていた。

「クーラおばあちゃんの依頼を一発で合格したんですか?」

「えっ、しましたよ。あと、お茶とお菓子も貰いました」

 実はあのおばあちゃん、初依頼の際に自分の培った目で冒険者にふさわしいかどうかを試すための依頼であり、一番多いのが依頼が完了しない。次が依頼を完了さるだけ。そして、気に入られたものだけがお菓子やお茶等を依頼の後に誘ってくれるというような感じであった。

「では、明日。孤児院の手伝いに行って下さい」

「わかりました。また明日」

 サイカは酒場に入るはずであるミカの所にいった。

「ミカさん」

「ん?」

 ミカは簡単に見つかった。クェイを食べていたからだ。その隣にもクェイを食べているドラゴンがいた。もちろんヤヅキである。

「宿はどうするんですか?」

「あっ」

 完全に忘れていたという顔をするミカ。

「どうするか、ヤヅキ?」

「うーん。宿をとろっか」

 正論である。しかし、簡単に宿が取れるものであろうか。この町は一番王都に近い町であり、そこそこの冒険者や旅人がいる。以外と宿は空いている所が少ないのだ。


 やはりダメだった。どこも空いていない。当たり前である。今の時間は夕方、それも夜に確実に近付いてきているような時間帯である。そんな時間に部屋が空いている場所がある訳がない。

「こういう時は、最終手段だね。ミカ」

「結局か……」

「忘れていたミカさんが悪いです」

 サイカの正論が続く。そして、二人と一匹はとある施設にむかった。その施設を見るとサイカが驚いた。何故なら、明日行くはずの孤児院に向かっているからだ。

「到着」

「これっていいんですか?」

 サイカ疑問ももっともである。しかし、よくよく考えてみると合点がいく。元々、サイカの歳は成人して間もないが、言わなければわからない。ミカも、背がかなり低く一見するとサイカと同じように少女の様に見える。他からみれば、友人と二人でパーティーを組んだ駆け出しの冒険者に見えるであろう。

「ばれなきゃ、罪にはならないの」

 澄まし顔でえげつないことをいうヤヅキ。


 ぎぃ、と扉を開く。

「すみませーん」

 そこそこ大きい声で中に聞こえるように叫ぶ。

「はいはい。何でしょう」

 そこから現れたのは一人の女性だった。種族は見た目が狐人族であろう。

「私はここの院長のストローマです」

「実は泊まる所が無くて……」

 かなりしおらしくミカが言う。駆け出しの冒険者にはよくあることであった。

「あら、そうですか。特別に一部屋貸しましょう」

「そうですか。ありがとうございます。私はミカ。そして、隣に入るのがサイカ。そして、そっちのドラゴンが契約精霊のヤヅキ」

 ミカが頭を下げたのでサイカもありがとうございます、と頭をさげる。

「あらあら、優秀で礼儀正しいこと。夕飯もまだ何でしょう。食べて行って下さい」

「ありがとうございます。お腹がペコペコで」

 ぐぅ、と腹の虫が泣いた。絶妙なタイミングであった。その後の顔の赤らめ方など、完全にサイカと同年代位の少女のやりそうな行動であった。


「はいはい、皆さん。今日一日泊まっていく、サイカちゃんとミカちゃんとヤヅキ君です」

 ストローマが孤児院の子供達に三人を紹介する。

 完全にストローマは騙されている。主にミカにだが。

 実際、ミカはサイカよりも年齢が高い。しかし、このようにしていると確かにサイカ達と同年代に見えるのが不思議であった。

 ガヤガヤと騒がしくなるがそのまま収まり、夕飯となった。

「サイカちゃん。ミカちゃん。ヤヅキくん。一緒に食べよっ」

 話し掛けてきたのは犬人族の少年だった。

「うんっ」

 サイカが頷き、ちらっとミカの方を見た。いいでしょ?と伝えたいのが伝わったのでそのまま頷く。

「ボクはクリス。見た目通りの犬人族だよ」

 さっきの少年はクリスと言うらしい。

「そうなんだ」

 こういう会話にはミカは慣れて無いらしく黙っていた。

 因みに、夕飯は丸パン二つにシチューだった。


「ふー」

 夕飯が終わりサイカは一通り孤児院の子供達と遊んでから部屋に入ってきた。

「ねぇねぇ、ミカさん。あのクリスくん。すごいんだよ。こう、ピョーンてっ」

 テンションがかなり上がって入るためか会話の内容がまったくわからないが、そうか、良かったな、と適当に相槌を打っておく。

「もう、聞いてないでしょー」

 見透かされていたような気がしたが、そんな事はないぞ、と答える。

「おやすみ、ミカさん。ヤッ君」

「あぁ、おやすみ。サイカ」

 二人と一匹は明日に備えて寝ることにした。

感想を頂きました。

これを励みに頑張ります。

なお、感想の返信は原則行いません。ご了承下さい。

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