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蒼星の旅団  作者: 暁月夜 詩音
第一章 双子との出会い
3/13

とある双子の目線

ミカ達では無い視点です。

 森の中はその双子にとっては得意とする場所であった。道の無いような険しい道のりでも本能的に何処を歩けば良いかがわかる。しかし、それは万全の状態であったならという時のみである。

 双子のいた里は王都にいる兵士によって焼かれた。

 隣の帝国と戦争をする際の基地にするのに都合が良いらしくその土地を寄越せと言ってきた。しかし、里の者達は自分達にとって神聖な、何代も続き守ってきた土地をそう簡単に明け渡すことなどで出来なかった。

 その里の種族は純血の狼人族の住まう里であった。その戦闘能力はかなり高い。男であろうと女であろうと訓練された上級兵士程の能力があったが、何分数が少なかった。その為、幾ら強かろうと質をも上回る量の前には勝ち目は無く王都の兵士に捕まってしまった。

 双子の少女や他の子供は大人達が全力で逃した。他の町に行けば助かるかも知れないと、一縷の希望を乗せて逃した。

 しかし、それすらも王都の兵士にはわかっていたかの様に、子供達すらも追いかけ始めた。そして、里を焼いていった。跡形も無く全て、自分達の暮らしていた家も遊んでいた広場も全て燃えてしまった。


 そして、兵士に双子は見つかり、今に至る。


「風よ、魔力を糧に刃を造れ、風の刃(ウィンドカッター)

 双子の内の右に髪を編んでいる少女が魔法を放つ。

 通常、純血の狼人族には魔法に使える程の魔力は殆ど無かった。しかし、その双子は違った。片方が、剣でもう片方が魔法をという様に二人で一つの様な戦闘スタイルであった。

 魔力により形成された風の刃が追って着ている兵士へと飛んで行く。しかし、避けられてしまいただ魔力の無駄になってしまう。

「魔力は温存しといて、サイカ」

 魔法を放っていない方が走りながら言う。

「わかった。気をつける。トーカ」

 魔法を使う方の、トーカがサイカに言う。

「トーカ達を追って大人が来る。捕まったら、何されるか分からない」

 トーカ達は逃げる前に両親から聞いていた。追って来る人間に捕まれば何をされるか分からないと。

「わかってる。でももう疲れた。トーカ」

「頑張って、サイカ」

 トーカの耳がペタンとなり始めていた。

 純血種の狼人族は耳と尻尾が生えており、疲れたりするとペタン耳が倒れるのだ。

「もう少しだから頑張って」

 少しでも追ってから逃げようとずっと走って来たのだ。大人ならまだしも、子供ならもう倒れても良いぐらいの疲労が募っていた。

 途中、多くの魔物に出会い、それからも逃げたりした。

「あっ」

 木の根に躓き転んでしまう。

 何時もならそのようなヘマはしないのだが、今は疲労が二人を蝕んでいた。

「やっと追い付いたぜ。狼人族の餓鬼どもが。手間とらせやがって」

 ニヤニヤとしながら追い付いてきた兵士達は二人を追い詰める。

「近づくなっ」

 トーカが腰に付けていた短剣の切っ先を兵士に向けて威嚇する。

「そんな、貧弱な剣で何ができるって言うんだ」

 剣を向けられ苛立った様に睨む兵士。

「うわぁぁぁぁぁ」

 短剣を向けて兵士に向かって走り出すトーカ。

「うぜぇんだよっ」

 その一言と共に蹴られて飛ばされ、無惨にも地面を転がる。

「サイカ、ここは良いから逃げてっ」

 それでも起き上がり兵士に短剣を向ける。

「でもっ」

 兄を置いて逃げるわけには行かないと抗議の声をあげる。

「何時も言ってるでしょ。トーカは最強なんだって。必ず迎えにいくから」

「わかった。また、何処かで」

 サイカは後ろを見ずに走り出した。その顔には涙が浮かんでいた。

「逃げたぞ。追いかけるぞっ」

「お前らの相手はボクだっ」

 また、走り出すトーカ。しかし、何度やっても結果は同じだった。いかに力が強いからといって、実際に戦闘を経験したことの無い子供では渡り合う事などできやしない。

 何度も蹴られ立てなくなり意識も朧気になっていたがそんな時だった。


『t..a...g...k.』

 ふと、ノイズの様な声がトーカの頭に響いた。

『力が欲しいか?』

 次は鮮明に聴こえた。

「あ、あ。ここを越える力が欲しい」

 無意識にそう呟いた。

『そうか。その力どの様に使う?』

 声が問いかけてくる。

「サイカを守る為に、自分の仲間を守る為にっ」

『面白い』

 トーカの目の前の景色が止まった。蹴ろうとしていた兵士も止まっていた。

 そして、目を凝らすと自分の目の前に薄い青色の狐がいた。

『安心しろ。ここでは、私とお前以外は時が止まっている』

「あんたは誰だ?」

 頭に響く声に無意識に声を出して答える。

『私か、まだ名の無い通りの精霊だ』

「助けてくれるのか?」

 その狐は答える

『お前に力を貸そう。その力を使いこなしてみろ。私はお前の行く末を見てみたい』

「名前が無いのは不便だ。僕はトーカ。君はヒョウ」

 名前の交換。それは精霊契約の中でかなりレベルの高い魂の回廊を造ることを意味する。

 この名前の交換は片方が死ぬともう片方も瀕死の状態までいくのでかなりのリスクが伴うものである。それを知っていたのかは分からないがそれでも今の状態だけを見たら、それが最善だったのだろう。

『ふふっ、面白い。良かろう。私はヒョウだ。私の魔魂喰い(マヲクラウモノ)を使いこなせ』


 そこからまた時間が動き始めた。

「最強なんだろっ」

 そう言って腹を思い切り蹴飛ばされる。

「力を貸せっヒョウ、魔魂喰い(マヲクラウモノ)っ」


 ムクリとトーカが起き上がる。その右目は赤い顔料を落としたかのように真っ赤だった。


「なんだよ、こいつ」

 トーカに兵士が触れた瞬間だった。その触れた兵士の手から水を失ったかの様に干からび兵士自体もその場に倒れた。

 その体は、干からびて一つの大きな枯れ木の様になっていた。

「次は誰だ?」

 持っていた短剣を鞘に戻して兵士達に呟く。

「どうせ、一度しか使えないはずだ」

 また、一人がトーカに触れた。触れたしまった。その男も前と同様に干からびてしまった。

 トーカの紫紺の狼人族の耳と尻尾は色が抜けていき真っ白になった。

 しかし、その身には耐えきらない量の魔力が流れた為でありそのまま意識を失ってしまった。

 目の前には残っている兵士がいるのにも関わらず。


 ────────────────────────


 サイカはそんな兄を遠くから見ていた。

 そして、事の顛末を知った。兄の耳と尻尾が真っ白になってから倒れた後、兵士はトーカを引きずり元来た道を戻っていった。

 しかし、サイカにはトーカを取り返す力など無い。

 だから、トーカの言い付けを守り、只、ひたすら走った。

 しかし、疲労はずっと溜まりっぱなしである。ろくに、昼食も夕食も摂ってはいなかった為か森から離れた所で倒れて意識を意識を失った。




 目を覚ますと目の前には一人の女の人と小さなドラゴンがいた。

 女の人はローブに腰の周りには二つの剣がぶら下がっており、ドラゴンの方は真っ黒な体に金の瞳だった。

「目を覚ましたかい?」

 テントの中で寝かされていたらしい。

「ここは?」

 自分が助かったのが分かったのか、それとも助かったのかは分からないかった。

「私達のテントだ。私はミカ。そして、あっちに入るのがヤヅキだ。お前が目の前で倒れたからこうやって目が覚めるのを待っていた訳だ」

 自分が倒れたのを見て助けてくれたらしい。たしかに、魔物の闊歩する場所で倒れていたら今頃骨になっていただろう。

 サイカは自分の運の良さに感謝した。

「サイカです。助けてもらいありがとうございます」

 軽く自己紹介する。その後に、柔らかいパンと暖かいスープを貰ってそれで食事をした。

 こんな場所で暖かい食事が摂れることに疑問を持ったがそんな事よりも、今は食事にありつけた事の方が遥かに重要であった。


 一段落して、サイカは一つのお願いをこの旅人に自分の願いを聞くだけでもと思い、話を始めることにする。

「助けて貰っていて申し訳無いのですが。力を貸して貰えますか?」

「事と場合によるが聞くだけ聞こう」

 その一言で少しだけサイカは楽になった気がした。

「実は兄のトーカと家族達が、王都の兵士に連れて行かれました。私を王都に連れて行って下さい。後は何とかします」

 こうなってしまうともはやお願い、ではなく依頼になってしまう。

「分かった。同胞を助けに行こう」

 同胞、と言った。それは自分の種族を現す時に言うことである。

「しかし、ミカさんは竜人族では...」

「確かに竜人族の見た目だが、狼人族も竜人族の混血種だ」

 確かにミカの見た目は竜人族であるが、実際は竜人族と狼人族のハーフである。あまり、混血種と言うのは出来ない。親が別種族の場合はどちらかの種族が生まれる事が多い為だ。

「そうですか。では、お願いします」

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