王都に向けて
遅くなりました
少しずつ月が沈む。そして夜が明けていく。
そんな中、テントで双子が目覚めた。まだ、薄暗く星の見えるような時間帯にだ。しかし、ドラゴンとそれを抱き枕にして眠る少女はまだ目を覚ましてはいない。
「やあ、おはよう」
テントから出ると目の前の木の上から声がした。
「おはようございます。ミサキさん」
朝に弱い兄のトーカは未だ意識がはっきりしないようでぼんやりしていた。もっとも、敵意や小さな足音が聞こえたりすればまた別であるのだが。
「敬語はなくていいや。そっちの方が楽でしょ?」
「わかった。あの、後どれくらいで王都につくの?」
トーカは岩にもたれかかっていた。高さがかなりある木の上から一息に飛び降りサイカの前に着地する。
「どうして、そこまで王都に拘るのかい?」
その目は意識が吸い込まれそうな程、澄んでいた。サイカが答えないからかまたミサキが喋りだす。
「買い物や観光が目的なら犯罪の多い王都では無く、隣の帝国の帝都の方が品揃えも質もいい。そして、犯罪も少ないだろう。まあ、帝都はここから遠いから王都にしたのかもしれないけどね」
確かにそうだ。帝都は王都の何倍もの品々が置いてあるだろう。また、犯罪が起きても直ぐに捕まってしまう。なぜなら、一般民ですら有事に備えてどこかの武術を習うのが習慣となっているので、起こっても一般民が事態に対処するのだ。その事もあってか犯罪率が圧倒的に低いのであった。
「会いたい人がいるんです」
ポツリと呟く、しかしそれだけしかできなかった。
「会いたい人、か。なら、気を付けて下さいね。王都で不穏な空気が流れています」
「どうして、そういえるの?」
「情報は命と同じくらい大事ですよ」
間髪をいれずに答える。
「話はすんだかい?」
二人の後ろにミカがいた。
「昨日、気が付けなかったからって、わざわざ気配を隠してた癖に」
ヤヅキを思いっきり睨みつける。ヤヅキはそそくさとトーカの後ろに隠れる。さすがに、この時には目が覚めていた。
「ミカさん。いやぁ、気付きませんでしたよ」
「そうか、話を変えるが朝食にしようか」
手頃な岩に座る。右手から微かな青い光が放たれ、手には七つのクェイが出て来た。
このクェイはデザートとして作られた物ではなく、軽食として作られた物である。中には、果実では無く煮込んだ肉が挟まっていた。
「アイテムボックス持ちですか。羨ましいです」
確かに商人にとって、時間固定や重量無視といった効果のある魔道具は喉から手が出るほど欲しいだろう。
余談だが、冒険者の中には一つだけ物の質量を限り無くゼロに近くする魔道具を持っている物もいたりはする。しかし、沢山の物を入れられるアイテムボックスの劣化品だと言えるだろう。
「まぁな。これは昔、誰かに貰ったかは覚えていないが大切な物だ」
クェイをミサキに投げる。飛んで来たクェイをそのまま掴み食べ始める。勿論、サイカとトーカ、ヤヅキ、ホムラ、ヒョウにも渡すし、自らもクェイを食べ始める。
「では、もう少しで王都ですので気を着けていきましょう」
ミサキ主導の元に王都に向かって歩きだす一行。さすがに、無理矢理ヤヅキが道を調べていたときよりもかなり早く、そして、最短距離で王都に進んでいる気がした。
「もう少し先に、豚頭族がいるようです」
「そうみたいだね」
ヤヅキレーダーにも魔獣の存在は気付いていたようだ。
「めんどい。ヤヅキ、殺っちゃって」
「はーい。〈暴風の剣〉」
ヤヅキの無詠唱で放った魔法は周りの木を撫で切りにしながらオークへと一直線に飛んでいく。
首と体がさようならして命を散らす。
「我は望む。我の指定した物が再生することを〈時の歯車〉」
斬られた木が逆再生していくように戻っていく。オークの首も体とくっついている。
しかし、また立ち上がってみたいなことはなかった。
この魔法は物体を逆再生させる魔法であり生き物は死んでいると外傷だけは戻るが生き返ることは無いのだ。
「このまま進もうか」
オークの死体を異世界の腕輪にささっといれてまた歩きだす。
「やはりいいですねぇ。アイテムボックス」
「やらんぞ」
「そーだよ」
即答する。わかっていたのかヒラヒラと手を振ってわかってますよ、とだけ言った先頭を歩きだす。
森を抜けて草原に出た。
とても小さく王都の城壁が見えてくる。そんな中、エミと呼ばれる騎乗用の魔物を並べた異様な集団がいた。
「ここを通りたければ、まず身分証又はギルドカードの提示と不審物が無いかの調べを受けなければ成らないっ」
真ん中にいた男がミカ達に向かって叫ぶ。
「なんかいってるー」
全て聞こえているがあえてミカに問う様に話す。
「どうする?ミサキ」
「こうしますよ」
そう言って少し先に走り出す。
「我々は商人である。行商として王都に入りたいっ」
「そうか、なら我、ルースタクがそこに行く」
エミを走らせ、ミサキに近づいていく。
ルースタクは髪を長く伸ばした貴族の様な格好の騎士であった。
「ほう、見たところ四人と獣魔が一匹か」
素早く人数を数える。因みにヒョウとホムラは精神体となり精霊核に宿っている。この精霊核と言うのは精霊と契約した際に魂の近くにある臓器の様な物である。この精霊核の無い者は精霊との契約が出来ないのだ。しかし、精霊核の無い者などかなり珍しいのだが。
「足の早い売り物も有りますので成るべく早く王都に付きたいのですが」
ミサキがルースタクに急かすように言う。
「分かっておる。お前の腕に嵌まっている腕輪、見たところ魔道具ではないか。それは王都が危険にさらされる。という訳でこちらに提示して貰いたい」
「断る」
ルースタクは自分の意見が通らないことは無かった。あったとしても、自らの家名で黙らせていた。
「下手に出ればこのガキャ」
「煩いだよ」
ミカから魔力が吹き荒れる。その魔力に当たりルースタクの乗っていたエミが泡を吹いて気絶した。
「ヒッ、ヒ」
無様にも尻餅をつくリーダーに他の並んでいた団員も集まってきた。
「おい、この道の封鎖は王の名か?下らない嘘はつくなよ?一発で分かるからな?」
「そうだ、王の名だっ」
ルースタクがミカに叫ぶ。
「嘘ですねぇ」
サイカの隣に表れたホムラが呟く。
「おい、嘘は駄目だと言ったろう」
手元がぶれる。次の瞬間ルースタクの髪が大変な事になる。根元から全てカットされていた。勿論、剣でやった訳ではない。ただ、剣を出して入れただけであり、実際やったのは障壁である。
障壁を剣の様な形にして、そのまま髪をスパッとやったのだ。
「かっ髪が。我の髪が」
「もう一度聞く。その行動は王の名か?」
「違うっ」
さすがに恐怖に意識が支配されたのだろう。無意識にそう叫んでいた。
「そうか、ミサキ。無力化出来るか?」
「勿論ですよ。後、初めて名前呼びましたね」
その言葉の後にパンっパンっと二度音が鳴ったかと思えば二人の騎士?が倒れていた。
ミサキの両手に収まっていたのは不思議な形をした剣の様な物であった。
説明するなら両刃の細い剣の片側が魔力を纏って薄く緑色に輝いていた。それが、魔力の纏っている方を互いに向け合わせて並んでいた。
「あと、何人でしょうか?」
そう言っている間にもパンっと乾いた音と共に倒れる騎士達。ミカ達が出なくても程無くして戦闘が終わった。
「ふぅ、些か魔力を使いすぎた見たいです」
「あの武器はなんなんですか?」
さすがにあの武器は異常である。常識では弓と魔法位しか飛び道具が無いと考えられている。しかし、ミサキの持っている武器はどちらにも属しそうにないものであった。
「あぁ、これ?魔導式銃〈ベルリ〉だよ。まぁ、言ってしまえば魔道具だよ。まぁ、この魔力を打ち出す方法と剣として扱うっていう方法もあるけどね」
気が済んだだろ?と言いたげな顔をした後に騎士達を素通りして王都に入っていく。
助けてくれ、と言う声が聞こえたような気がしたが、盗賊を助けるお人好しはここにはいなかった。
後に、的確に足の同じ部分が貫かれていた為、足刺しという名で恐れられると言うのはまた別の話。
「王都に入る理由を述べよ」
厳つい門兵がミサキ達に尋ねてくる。
「行商の為だ。ギルドカードはこれだ」
三つのギルドカードをみせる。トーカはまだギルドに入っていないので四つではないのだ。
「そうか。じゃあ、入ってよし。あと、ギルドカードを持ってない奴は金貨一枚で入れるぞ」
それは、余りにも高すぎる要求だった。しかし、渡さないことには王都に入ることが出来ない。渋々、ミカは金貨一枚を支払い王都の中に入っていく。
王都は殺伐としていた。重い税に実入りの少ない収入の仕事しかなく。しかし、歯向かう者には容赦はしない王都兵。その為、雰囲気は重苦しく犯罪がとてつもなく多いのだ。とミサキが言っていた。
「息苦しいです」
雰囲気が、と言うことだろう。サイカがミカを見ながら呟く。
「負の感情が集まりまくってますねぇ」
ヒョウがトーカに語りかける。
「取り合えず、宿を探さないとな」
そんな時だった。
くぐもった声と共に目の前にいた男の体が干からび始めた。どこからか、見えない糸で保有魔力を根こそぎかなりの勢いで吸われているようだった。
トーカとサイカだけは同じような現象を見たことがあった。
そう、魔魂喰いだ。その能力なら同じことが出来るだろう。そう言えば、王都に近付くにつれてヒョウとホムラは物質体では無く精神体でいることが多く、精霊核にずっといた。
「ヒョウいるんだろ。出てこい」
『無理だ。何者かによって圧力が掛かってる。消滅しそうなのを精霊核で凌いでいるかんじだ』
どうやら、ホムラの方も無理らしい。
「ミカさん。ここは異常です」
「だろうな」
男の周りにいた人間はみな散り散りに逃げていく。




