模擬戦
ようやく、サイカが泣き止んだ頃にはもう日が傾いていた。
「大丈夫かい?サイカ」
「う、うん」
トーカを上目に見上げる目は少しだけ腫れていた。
「まだ終わったわけでは無いだろう?」
ミカの一言にこちらを向く二人。
「わかっています」
サイカが立ち、ミカの方を向く。
「あ、あの」
「何だ?」
「トーカをサイカのいるパーティーに入れてください」
ぺこりと頭をさげた。
「わかった。王都のギルドにて登録しよう」
「それよりも、ご飯っ」
『そうですねぇ。妾も空腹じゃ』
『同感だ』
契約精霊がそれぞれの主をみながら言う。
「久し振りにサイカの料理が食べたいなぁ」
トーカの一言によってサイカが料理を作ることになった。
「うーん。残り物しかないなぁ」
ミカが異空間の腕輪から食材を出して、布の上に広げる。
「決まりましたっ」
食材と少しの間にらめっこした後、七つほどの食材を選び、他の食材はミカが再度収納する。
その後に、ミカが枯れ木を集め火を着けたりと、簡易版の料理場が完成する。
サイカが食材を効率良く切り、鍋で煮て味を整えて、とすると夕飯が完成した。
夕飯は、ヌヲナル──30センチ程の白い鳥の姿をした魔物。戦闘力は無く、色々な場所で育てられている。ちなみに、雌は卵を産む──の肉を使ったシチューと、色々な場所で食べられているパンであった。
「やっぱり、サイカの手料理は美味しい」
配膳が終わり──主にヤヅキが手伝ったのだが。ミカは手伝わず、トーカは完全に眠っていた。ホムラとヒョウが手伝おうとしたが、皿が持てずに断念した──トーカが一口食べた後に言う。
「たしかに。次からもよろしくな」
トーカに同意するミカ。
黙々と食べるサイカとトーカ。トーカも始めに喋った後は喋らずに黙々と食べ始める。
また、契約精霊は契約者の五感を共有することが出来る。その前に、精霊は上位精霊の中でもそこそこ実力をつけていないと精神体から、物質体になれない。
ヒョウとホムラは精神体だが、ヤヅキは物質体である。
「あれっ?誰も喋らないの?」
その空気に耐えきれずにヤヅキが喋りだす頃にはもうサイカ、トーカ、ミカは食べ終えていた。
「食べるの早くない?」
ヤヅキは半分残っているシチューを見ながら呟くのだった。
そして、ヤヅキも食べ終わり一息ついた頃。
「ねぇ、ホムラ、ヒョウ。物質体の成り方分かる?」
ヤヅキが唐突に聞く。
『何となく、掴めるような気がするのだが』
『妾も同じじゃ』
どちらもまだ成れないらしい。
「今、ふよふよした感じなのの周りを膜で覆う感じでやってみて?」
「お、こんな感じか」
「できたぞ」
ヤヅキのアドバイス通りに想像すると簡単に出来た様だ。
頭に直に響く様な声から音としての声が聞こえる様になっていた。
「これで、大丈夫だね」
笑顔で笑いかけるヤヅキ。
「感謝する。ヤヅキ殿」
「感謝するぞ。ヤヅキ殿」
「ヤヅキでいいよ」
ホムラとヒョウがヤヅキに向かって感謝を伝える。
「さて、王都に行くわけだがそこで戦闘があると思う。そこでだ、今から少し模擬戦をしようか」
少し、いやかなり暗くなってからいきなりミカが言い出す。
「あの、かなり暗くなってきてるけど……」
「でも、殆ど見えているだろ?」
「もちろん」
「ならいいだろ?」
サイカの意見は瞬時に切り捨てられ、模擬戦が決定した。
「模擬戦か、面白そうじゃん」
意外にもトーカはノリノリであった。
「ルールは簡単。自分の持っている武器で私に斬りかかれ。勿論、怪我はしないように全員を障壁で覆ってやる」
刃のついた武器での戦闘というかなり神経を使いそうな模擬戦になっていた。
「じゃっ、審判は僕がやるよ」
ヤヅキが審判で、ホムラとヒョウはサイカとトーカについた。実質は、四対一である。
「じゃあ、始めっ」
その言葉で、トーカが走りだす。
「甘い」
襲い掛かる長剣を完璧にいなしていく。
「我が魔力を持って、風を刃に。風刃」
サイカの魔法はトーカが横目で見ていても以前より比べ物のにならない程の威力を持っていた。
しかし、その風刃をもミカは剣で刻む。
「魔法も物理も駄目。じゃぁ、何で戦うか?」
ヒョウがトーカに問い掛ける。
「どーだろうね」
「サイカよ、蓄積魔法を使うのはどうだ?」
その名前はミカも聞いたことの無い魔法名だった。
「〈火炎〉〈暴風〉〈球〉《アオイホノオ》」
サイカの放った魔法はミカへとジグザグに動きながら進んで行く。しかし、ぶつかる寸前に障壁にぶつかって消える。
「よそ見はだめだろ?」
サイカの魔法に気を取られていたトーカの首筋に剣をあて、そのままサイカに向かって走る。
「〈土〉〈壁〉〈硬化〉《ツチノカベ》」
突如、大きな土の壁が地面から生えてきて、ミカの動きが止まる。
「かなりいい筋いってるな。でも」
サイカに聞こえたのはそこまでだった。
「壁ってのは、相手が見えなくなる分、次の行動が遅れてしまうぞ?」
サイカの後ろにミカが立っており、トーカと同じ様に首筋に軽く剣が当てられていた。
「まぁ、大丈夫だろう。戦闘のセンスはかなり良い所まであるからな」
模擬戦が終わってから二人を褒める。
「あ、後。サイカ、蓄積魔法は何処で覚えた?」
声が真剣なトーンになってサイカに聞く。
「この魔法は、里でオババ様が教えてくれたんです」
「そうか」
サイカも真剣に答えていた。
「その魔法。一つ一つが上位の魔法なんだよ。それも、組合せによってはこんな風に」
そこで一呼吸置き、サイカを見つめる。
「〈獄炎〉〈結界〉《ホノオノリョウイキ》」
ミカの真横の空間が真っ赤に燃え盛る。
しかし、その熱はサイカ達には感じなかった。しかし、無理矢理発動させたからか魔力が周りに駄々漏れであり数十秒としない内に《ホノオノリョウイキ》は消えた。しかし、その魔法の効力化にあった地面は硝子状になっており、生い茂っていたはずの水々しそうな草はそこに見る影も無くなっていた。
「凄い...」
ポツリと漏れる感嘆の声。それは、ここにいる全ての者が思った事の代弁でもあった。
「いやいや。凄いですね。自分もこんなの初めて見ましたよ」
いきなり聞こえてきた聞いたことの無い人の声。共通語を話す魔物などミカは聞いたことの無かったのっで人だと判断した。しかし、ここには人が近くにいない事を見越して来ていたので人の声がしたことに驚いていた。
「だれだっ」
ミカの声が木霊する。
「安心して下さい。後、目の前にいます」
ミカの目の前には岩に腰掛けている兎人続の少年がいた。岩の下にはかなり大きな鞄が置いてあったのでかなり前からいたのだろう。しかし誰一人、気がついていなっかった。
「自分は、王都にも何度か足を運ぶ旅商人のミサキというものです。色々な場所に行っては物を売っています」
岩から降りミカの方へと歩きだすミサキ。
「そうか、それで何時からいた?」
「その前に名前を伺っても?」
ミカの魔力を使った威圧を飄々と受け流し前に立つ。
「旅をしている。ミカだ。そして、そこの双子がサイカとトーカ」
サイカとトーカが軽く礼をする。しかし、真っ暗なので見えているかは分からないが。
「そうですか。では、質問にお答えしましょう。ミカさん達が訓練する前からずっといましたよ?」
どうやら誰も気が付かなかったらしい。
「王都まで護衛してもらえませんか?報酬は王都の案内でどうですか?勿論、ここから王都まで道案内を含めてです」
ミカ達とって願ったり叶ったりである。
「わかった。ではよろしく頼む」
「交渉成立ですね。ではまた明日。自分は木の上で眠りますので明日の朝またここに来てください」
ミサキは木の上で寝るらしい。そう言ってミサキの姿は闇に消えた。姿が見えなくなった後、ミカ達もテントへと戻った。
空には動かない星の近くを一筋の流星が落ちていた。




