戦闘と再会
障壁が砕けて中に入ってくるトーカ。
「トーカっ。やめてっ」
サイカがミカの後ろから大声で叫ぶ。
「はてはて、トーカとは?私の名はハクツであり、トーカではありませんよ」
その言葉にショックで顔が歪む。
「良いですねぇ。その悲しみに歪んだ魂も心も」
ニヤニヤと嗤いながら腰にある長剣を抜く。
「さっさと消えて貰えるかい?」
「私も、契約者がいるんでねぇ。あなた方を殺さないといけないのですよっ」
いきなりミカに向かって走りだすハクツ。かなり距離があるためもう少ししたらミカとぶつかるだろう。
「めんどい、ヤヅキっ」
「うんっ」
「我は望む。精霊との一体化を」
「我も望む。契約者との一体化を」
二人の声が重なる。そして、魔力が混じりあう。二つが一つになるように。
そこにいたのはミカでは無かった。また、ヤヅキでも無い。
見た目は、ミカがあと五年分ほど成長したような背丈に顔付き。
しかし、その目の下には見たことも無いような紋様が浮かび上がっていた。
両腕の手首辺りからミカの適性属性の火炎属性の魔力が漏れでているのか、炎が巻き付いている。
ハクツは、ハクツでもうミカの目の前にまで迫ってきていた。
「無駄だっ」
目の前に張られた障壁を魔魂喰いで喰い尽くそうと手を伸ばした。
その時だった。ミカの手がほんの少しだけ動いた。それだけでハクツの右腕が無くなる。
その断面からは魔力が気化し天へと登っていっている。
「よくも私の体をっ」
顔を憤怒で歪め、トーカの体から出てきたのは、一柱の悪魔であった。
「サイカっ、今の内に障壁の中にトーカを入れろ。そして、魔魂治しでの治せっ」
「はいっ」
トーカの体に触れた瞬間だった。
薄い赤色の円と薄い水色の円が重なりあった。
『再会を果たせたな』
『そうだな』
二匹の狐精霊が円の中心に立つ。
『しかし、妾はもう契約精霊だ。名をホムラ』
『奇遇だ。私も契約精霊ぞ。その名をヒョウ』
二匹の狐が笑う。
『『我らの悲願は達成された』』
それは高らかに平原に響く。
『感謝するぞ。竜の巫女よ』
『私からも感謝する』
ミカにもヤヅキにも、竜の巫女が何であるかは分からなかった。
「何ですか?私はおいてけぼりですか?」
おいてけぼりの悪魔が光景を見ながら忌々しく呟く。
「何時も何時も、私は無視するんですかっ。消えろっ。死之即行曲」
魔法詠唱を終えて放ったのは、負のエネルギーの凝縮体。全ての魔力を打ち消す最悪で最強の業。
「喰らい尽くせ。魔魂制御」
トーカが目を覚ます。未だ右腕が無い状態で有ったが、それでも死之即行曲の前に左腕をしっかりと伸ばしていた。
『補助しよう』
ヒョウがそんなトーカの隣に立つ。
そして、死之即行曲はあたも元から何も無かったかの様に消えていた。
「再生させよ。魔魂制御」
サイカの能力なのだが、切断面はみるみる再生していく。
「何故だ、何故死なない」
「いい加減、現実を見ろよ。喰らい尽くせ、魔魂制御」
ゆっくり歩きながら悪魔の前に立つ。
「嫌だ、嫌だ、イヤダァァァァ」
矢次に、様々な魔法を放つが、全て喰われ消えていく。
「その罪を償い、浄化しろ」
その言葉と共に悪魔が消えていく。
「それで、お前らは何なんだよ」
ミカの呟きに二体の精霊が話し始める。
『妾は、サイカの契約精霊、ホムラだ』
『私は、トーカの契約精霊、ヒョウだ』
赤い狐と青い狐がミカの前に立つ。
『まずは我らの伝承を聞いて頂きたい』
その伝承は、ミカのよく知っているお釈迦話の一つと同じであった。
昔、二つの狐精霊がいた。
一つは赤。破壊を司る精霊。一つは青。再生を司る上位の精霊。
相反するものを司る精霊。
しかし、破壊と再生の精霊は互いに惹かれてしまう。しかし、それを恐れた精霊がいた。
何故なら、この二つの対となる精霊が混ざり、新しい精霊を造れば、自らの地位より高い、精霊神の領域に足を入れることになるためだ。
そのことを恐れた精霊。それれこそが、精霊界に君臨する精霊王であった。
精霊王は精霊界で最上位の精霊であった。その次に、上位精霊、中位精霊、下位精霊と言うようにピラミッドが形成されていた。
自分より上位に位置する精霊が誕生するのを恐れた精霊王はその二つの精霊に呪いをかけた。
この二つの精霊はどちらも認識することが出来ない。これが、精霊王のかけた呪いだった。この効力は精霊が世代交代したとしても作用する為、ずっと呪いに縛られてしまった。短い内容ながら恐ろしい呪いだった。
これを解呪する方法は一つ。
その二つの精霊が出会うには、離れた距離でまず、破壊の精霊と最上位契約である『名前の交換』をする。その後に、一体以上の生物の魔力を全て魔魂喰いで喰らう。
その後、同様に、魔魂治しで一体以上の生物を癒す。
また、この時に喰らった種族と治した種族は同じでならなければならず、契約者の血の繋がりもなければいけない。
これだけなら簡単だと思う者もいるだろう。しかし、この二体の精霊はお互いに認識することができないので今までずっと解呪されていなかったのだ。
しかし、その呪いを知った他の精霊が反乱を起こし、精霊王は崩座し消滅してしまう。今の新しい精霊王は元精霊王を消滅させることに成功し、人望(精霊望とでもいうべきか)のあつかった竜精霊が現精霊王だという。
『これが、妾達の先祖から続く呪い。しかし、その解呪はたった今成功した』
『それを成し遂げたのはそこのサイカとサイカを救った、竜の巫女である、ソナタだ』
「ちょとまて、竜の巫女とは何だ?」
ミカが気になったのは先程から出てくる竜の巫女という名称だった。
『それは、───────────────』
なにか言ったのだろうが邪魔されたかのように全てノイズとしてしか聞こえなかった。
『やはりか、精霊王から干渉を受けてしまったか』
『あとは、竜の巫女、ソナタが自ら真実を探せ』
「でも今は少なくとも、私は竜の巫女では無い。蒼星の旅団、団長のミカだ」
『そうだったな、団長』
『わかった。ミカ殿』
頷き契約者の隣に立つ。
『そうそう、サイカ、妾との契約し得た能力が呪いの解呪と共に進化したぞ。その名を魔魂制御だ。魔魂治しにヒョウの能力を統合した能力だ。しかし、奪うより、与える方が得意だがな』
「じゃぁ、トーカの能力も進化したの?」
『そうだな、先程無意識に使っていたみたいだな。しかし、此方は奪う方が得意だな』
「そうなんだ。後、ちゃんと戻って来たぞ。サイカ」
「おかえり、トーカ」
サイカはトーカに抱きつきながら泣き出した。
「ここで出るのは野暮ってもんだろ。ヤヅキ」
「そうだね、ミカ」
その呟きはサイカの泣き声に消えて、二人以外には聞こえなかった。




