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超電脳のユニバック  作者: @IngaSakimori
第三章『世界で最初、と呼ばれなかった者たち』
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第四話『かくて舞台は整いたり』(3/5)

 それから数時間後。


「というわけで、あなた達の意見を聞きたい」

「ふざけるな」


 現人とユニの2人は『東京サンランド』にいた。

 しかし、今日は泳ぎに来たわけではない。私服のままである。加えていうなら、ユニの提案で2人とも両腕と両足を覆う、夏らしからぬ服装だった。


「貴様らと我々は敵同士。なれ合うつもりなど一切ない」


 ユニの前で、自らの水着を抱きしめるようにして、顔をしかめているのは弥勒零みろくれいことIβM System/360だった。

 うっすらと頬が赤らんでいるのは、何か羞恥のようなものでも感じているのだろうか。ユニに対してもそうだが、現人には特別、厳しい視線を向けているような気がする。


「少年、こちらを見るな」

「見るなと言われても、話し合いに来たんだから」

「話し合うことなどない……まったく、不愉快だ。そもそもどうして、我々がここにいることが分かった?」

「あなたはともかく、704はこの前会ったから」


 そして、ユニは360と同種のしかめっ面でサングラスの中に表情を隠しているIβM 704を見た。

 こちらは特に水着姿を恥ずかしがっている様子もない。もっとも、監視員のアルバイトが水着を恥ずかしがるはずもないのだが。


「ご挨拶だな、ユニバック・ワン」

「………………」


 背丈と立つ位置の関係か、現人には一瞬だけ古毛仁直こもになおしの目元が見えた。ひどくショックを受けたような弱気な瞳だったのは、見間違いだろうか、と思う。


「我々はお前━━いや、お前達を襲撃から守ってやったというのに」

「襲撃……?」

「なんだって?」

「以前ここに来た時のことを覚えているか」


 あ、と現人は口からこぼしそうになった。

 それだけで、以前屋内プールで経験した不思議な出来事が、自分たちに対する襲撃だったのだと気づいた。


「お、お前……あの時、双眼鏡でユニをじろじろセクハラしていた監視員か!?」

「人聞きの悪いことを言うな!

 ユニバック・ワンの美体……ではない。お前達の近くを通る一般客に危険が及んでいないか、職務上、確認していただけだ!」

「……待って、704。あの時、ボールをわざと当てたのは」

「そういうことだ、ユニバック・ワン。

 屋上から鈍器が落下してきた……お前達を狙ってな。しかしビーチボールひとつに当てるだけで、威力も狙いも外せるというわけだ。

 そんなことにも気づいていなかったとは、まだまだ甘いな」

「……でも、それとユニをじろじろ見てたことは関係ないんじゃないか?」

「一般客の安全のためだ」


 今度は目元がはっきりと見えた。

 きりりと引き締まって。しかしユニだけをガン見して。古毛仁直はそう言い切った。


「……ま、イトコ殿も多少の下心はあったかもしれないが、感謝されこそすれ、非難されるほどではあるまい」


 諦め半分、そして呆れ半分で360が助け船を出すと、ユニもようやく表情を緩める。


「そういう事情とは知らなかった。ありがとう、IβM 704」

「………………」

「704?」

「い、いや、なんでもない。

 ふん、あまり暢気にはしゃいでいた姿が無様だっただけだ。これからは用心深く行動するのだな」


 憎まれ口を装っているが、現人にはまたしてもサングラスの向こう側が見えた。

 なにやら涙ぐんでいる。どうにも古毛仁直の感情の動きがわかりかねた。


「で、僕たちを狙った奴の正体だけど」

「少年、お前に話すことなどない」

「704。バイナックについて知っていることがあったら教えてほしい」

「……ユニバック・ワンともあろうものが、頭まで下げてこの私に頼み込むとはな。まあ、考えてやらんでもない」


 現人にはとりつく島もない拒絶を。そして、ぺこりと頭を下げるユニにはまんざらでもない言葉を返す704。

 傍らではSystem/360が頭痛をおさえるように、コメカミへ手を当てていた。


「奴はお前の命を狙っている」

「それは分かっている」

「そして、恐らくこれまでの行動から手段を選ぶ様子はない……平然と周囲を巻き込むような、たとえばテロじみた行動もとるはずだ」

「……それも心当たりがある」


 一瞬、険しくなるユニの表情に、古毛仁直こもになおしは驚いたようだった。

 弥勒零みろくれいはというと、ばつが悪そうに視線を逸らしている。


「360。別にあなたを責めているわけじゃない」

「そう言ってくれると、いささか気が楽になるが」


 360はやれやれと両腕を開いて肩をすくめてみせたが、現人の視線を感じると、傍らにあったタオルで体を覆ってしまった。


「少年、こちらを見るな」

「……なんでそこまで言われなきゃならないんだ」

「ウツヒト。今は言う通りにしてあげてほしい。

 360。バイナックは無関係の人間を━━それも私とウツヒトの友人を狙って巻き込むような行動をとっている。

 これはあなた達の意志?」

「バカを言え、偉大なる青はそんな手段はとらない」


 System/360は誇りを示すように胸へ手を当てて言う。

 もっとも、胸といっても、タオルの上からであり、ちらちらと津瀬現人の視線を確認しつつだが。


「目的達成のためにやむを得ず巻き込まれる者がいるとしても、それは最小限であるべきだ。

 ましてや、攻撃対象の友人を狙って巻き込むだと? もっとも邪悪なテロリストの手口だな」

「私もそういうところに怒りを覚えている」

「だからといって……お前達に協力するつもりもない、が」


 弥勒零みろくれいは目配せするように、古毛仁直こもになおしを見た。

 704がうなずくと、彼女は一つ一つ言葉を選ぶように唇を動かす。


「我々がバイナックとやらを気に入らないのも厳然たる事実だ」

「だったら━━」

「繰り返すが、協力するつもりはない。だが、決闘の舞台を用意するくらいのことは出来るだろう」

「どういうことだ?」

「バイナックを適切な日時にどこかへ呼び出すということだ」


 現人に答えたのは704だった。


「バイナックもユニバック・ワンも同じエッカートとモークリーによって造り出されたコンピューター。

 いわば、これはユニバックの内戦だ。内戦が周囲にとって迷惑なのは古今東西変わらないこと」

「それは……確かに」


 現人は歴史の授業で習ったお家騒動のようなものかと考えた。

 確かに他家からすれば、何の利益もない迷惑千万な話である。


「むろん、我々偉大なる青にとってもくだらない話だ。

 さっさとユニバック同士で決着をつけてもらった方が、スマートというものだろう」

「なるほど」

「どうだ、ユニバック・ワン。それで良ければ、このIβM 704が今回に限り、お前のために請け負ってやろう」


 サングラスを外すと、704はじっとユニバック・ワンを見た。

 真剣な瞳である。ユニもまた、同種の視線を返している。だが、System/360は呆れるように半眼で自らのイトコを見ていた。


「……それでいい」


 ユニは何かを思うように目を閉じてそう言った。

 そして、704はユニに見えていないのをいいことに、一瞬のガッツポーズを見せた。

 津瀬現人はその意味が分からず呆然とした。System/360は巨大な溜息をついていた。


「ようし! そ、そうか! そうかそうか!

 仕方ない、今回に限り頼られてやるとするか!

 ふ、ふは。ふはははははは! さあ、やるぞ出世頭の360!」

「イトコ殿……お前というやつは……」


 顔を覆ってあきらめの嘆きをこぼす360に、高揚する精神を押さえきれない704。


「……ウツヒト。うまくいったけど、少し残念。704達に大きな借りを作ってしまった」

(……いや、借りっていうより)


 帰りのバスの中で、不満そうに外を眺めながら言ったユニに、現人はなんと声を掛けていいか分からなかった。


~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~


 それから数時間後のこと。


「はい、残念」


 古毛仁直から時間と場所を指定した呼び出しの連絡が届いた頃。

 バイナックの耳では、ある男女4人の会話内容が再生されていた。


「アタシの知らないところで談合とはひどい話じゃないか。

 そんな手に乗ってやるもんかよ」


 一言でいえば、バイナックが行ったのは盗聴である。


 もっとも、それは指向性マイクを使った録音や、高画質カメラからの読唇分析の複合であり、今、バイナックが聞いている会話内容にしても、ユニたちの声がそのまま再生されているわけではない。


 あくまでも『このような言葉が交わされていたらしい』というテキストを、合成音声が再現しているに過ぎない。


「仲のいい友人……ユニバック・ワンにとっても。その管理者であるツゼとか言う男にとっても。

 そんな友人に何かがあったら、さぞかしショックだろうなあ?」


 バイナックは舌なめずりする。

 彼女の手元にあるペーパーデバイスには、ユニバック・ワン━━すなわち、1人の女子高生であるエッカート・モークリー・ユニと関係が深い人間の情報がまとめて表示されていた。


「男はどうでもいい……ユニバック・(ツー)、こいつも論外だ。

 やっぱり狙うなら、かよわい女。だよな」


 そして彼女が狙い定めた写真にうつっているのは、活発そうな少女であり、住所もユニが居候する津瀬宅のすぐ隣で━━


「けっ。それにしても、ユニバックの内戦とは言ってくれるじゃないか……」


 どこから調べたのか、バイナックは既にその少女の連絡先まで入手していた。

 これから送るメッセージの下書きをつくり始める。どんな反応を示すことか。考えるだけで、口元がにやけそうになる。


「ところで奴らは考えたのかな?

 内戦はただ周りにとって迷惑なだけじゃない……ただの戦争より、残酷になるってことを、さ」


 バイナックの瞳。それは互い違いのオッドアイ。

 しかし、今はどちらも狂気の色に染まっている。


 そして、一通のメッセージが送信された。

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