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超電脳のユニバック  作者: @IngaSakimori
第二章『コンピューター・アーキテクチャを造りし者』
12/62

エピローグ『新たな敵意は来る』

 それから梅雨が来て、夏がその姿を現し始めた頃。


「はーい、はっじめましてー!

 ワタシが本日からこのクラスの副担任となりました、エッカート・モークリー・ニューニ先生でーす!

 よろしくよろしく~!!」

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 今日から担任が増える、と里沙先生が日常の口調で告げた次の瞬間。

 学生の目には毒としかいいようのない、異様に体へフィットしたスーツを着て、現人達のクラスに入ってきたのはニューニだった。


「ちょ……え……あ、あれっ、ニューニだよな?」

「うん、そう」

「そうじゃなくて……」


 問いかけてみても、ユニは事前に知っていたのか、当たり前の顔をしてうなずいている。


「うむ、どうやらこれはお姫様の親族といった手合いのようだな」

「あれっ、あの人って……ねえ、現人。ニューニさんって、ユニちゃんの妹さんだよね?」

「いや……そのはずなんだが」


 面識のない京は当たり障りのない理解をしていたが、一度会ったことがある志保が問題だった。


(あのあと、姿を見せなくなったと思ったら……)


 現人はニューニがアメリカへ戻ったのか、あるいは全く別の活動で忙しいのではないかと思っていたのだ。

 ユニも何も言わなかった。だから、詳しく訊ねることもしなかったのだが……。


「ま、まさか教師になってやってくるなんて……」

「ねーねー、現人。ニューニさん、どうしてなの?」

「シホ。私の妹はとても優秀。

 優秀だから、とっくに飛び級で学校は卒業して、もう働いてる」

「あ、そうなのね! アメリカだもんね! そういうこともあるよね!

 もう、現人もそうなら教えてくれればよかったのに~!!」

「ぼ、僕だって今の今まで知らなかったんだよ……」


 明らかに無茶のあるユニの説明に、あっさり納得している志保の笑顔。

 頭を抱えたい思いと戦いながらも、人を疑わない奴でよかったと現人は安堵していた。


「おやおや~」


 ふと、気づくと、ダークブルーのスーツに包まれた豊満な胸元が目の前にあった。


「えっと、あなたは津瀬君、でしたっけ?

 副担任が自己紹介してるというのに、ずいぶん私語が多いですよねえ~。生徒としては、そういうのいけませんよ~?」

「………………そう、ですね。

 生徒としては、ですね」

「ええはい、まあ。そういうことで今後ともヨロシク」


 してやったりと笑うニューニと、降伏宣言するように溜息をつく現人。


「うむ、どうやら我らが日常はますますもって楽しいことになりそうだな?」

「ケイ、私もそう思う」

「みんな仲良く楽しければそれでいいもんね! 現人もそう思うでしょ?」

「まあ……確かにそうだけどな」


 京の悪巧みするような微笑みを。志保の太陽のような笑顔を。

 ユニの優しげなまなざしを。そしてニューニのからかうような目線を。


「……これが楽しいって言えるなら、な」


 それでも不快にはほど遠い感情に心を委ねながら、津瀬現人は右眼の単眼鏡モノクルへ指を当てた。


~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~


 その日、その時の南多磨高校生徒会室。


「System/360にとっては不満な結果だろうけども、これはこれで良かったのかもしれないね」

「ええ、ハジメ様。原子力発電所のセキュリティを脅かすのは、私もやりすぎだと思います」

「彼女にとっては手痛い敗北……少しは頭を冷やしてくれるといいのだけれど」


 円卓を埋めるには、そこに在る影は少なすぎた。

 久礼一くれいはじめ古毛仁直こもに なおし。そして、つい先ほどまでそこにいたはずの弥勒零みろくれいは、何か思うところがあるのか、屋上に一人佇んでいる。


「さて、現状はこのような結果だ。

 その上で君に訊ねたいのだけど、自分がユニバックを……彼女たちを打倒できるという根拠は?」

「決まっているだろ」


 スピーカーから流れるのは、やや幼い感のある少女の声だった。

 もっとも、おとしやかさにはほど遠い。悪戯小僧をそのまま性転換させたような、無意味な自信に満ちあふれている。


「アタシこそが『世界で最初』だからだ」

「それは君の自称に過ぎないだろう」

「なんだと!? 訂正しろ! 自称じゃない! こ、ここっ、これは事実だだだだ」


 通信の輻輳と言えばいいのか、音声データによほどのエラーが含まれているのか、少女の声は時折、遠い昔に『音飛び』と呼ばれたような調子で、久礼一くれいはじめ古毛仁直こもに なおしの耳に届いた。


「……ハジメ様、こんな不安定な顕現存在セオファナイズドで大丈夫なのですか?」

「彼女の方からコンタクトしてきてくれたのだし、一度やらせてみるとしようよ」

「おい、き、きっ、聞いているのか!! アタシが!!

 最初だ! 世界で最初だ!!」


 久礼一くれいはじめはわかったわかった、とでも言うように片手を挙げ、

 古毛仁直こもに なおしは、不安を表すように溜息をついて、モニタに映るオッドアイの少女を見ていた。


「このアタシこそが! アタシこそが、ががかがっ!!

『世界で最初の商用コンピューター』なんだ!!」


 少女の瞳はいささかの狂気をはらんでいた。


(超電脳のユニバック 第二章・了)

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