1-032 御大・尼子 、 闘将・鷹村。
昭和54年12月
広島西北は決勝で敗れました。
「やった!!勝ったぁ!!」
「…くそ…あと一歩だったのに…」
全身で喜びを表現する厳島学院。
肩を落とす広島西北。
大歓声の中、両校の明暗は明らかだった。
悔し涙を流す三年生を…俺は直視できなかった。
これで引退…最後の試合を自分に賭けてくれたのに…
ずっと頭を抱えて小さくなるしかなかった。
…俺を責める者はいない。
それどころか先輩たちは口々に気遣ってくれた。
<お前のおかげでここまでやれた>という言葉が…
余計に心の傷口に沁みる…。
「…やっぱり…悪いのは俺です。。
最後の試合を…本当にすいません!!」
思わず漏れた俺の本音に、三年生たちは答に窮する。
「…お前のせいではない。。」
…普段ならば皆そう言うだろう。それが普通の対応だ。
でも俺の今の気持ち…全力で戦った仲間にはわかる。
そんな後輩に軽々な慰めなんて…
だが俺はそんな先輩に…気遣う余裕はなかったんだ…
でも主将の大江さんだけは…
肩に手をかけて言ってくれた。
「いや…悪いのは俺だ。
主将でありながら、お前を平静にしてやれなくて…
お前のくれたリードを守れなくて…本当にすまなかった。」
「…そんな…悪いのは俺です。俺がすべて…」
「前に言ったはずだぞ。責任はすべて俺が取る…と」
「しかし…」
「バカ野郎…。まだお前は責任を口にするな。
後輩なら…最後くらいは先輩にカッコを…つけさせろ…。」
…そこまで言うと…大江さんも堪えきれずに涙を流した。
…俺はただ…自分が情けなかった。
試合に負けたからではない。
小さなことで心を乱し…
婆ちゃんとの約束を守れず…
先輩の最後も飾れず…
その責任さえとれない小さすぎる自分に…
…涙さえ出ない。
情けなさとやるせなさが一杯だ。
…一時間後、
ようやく落ち着いたところで大内先生の挨拶が始まる。
今日限りで引退する三年生を精一杯の言葉で労った。
大学へのバレー推薦を決めているのは大江主将ただ一人。
他の先輩方の多くは…今日でバレー人生を終える。
そして主将・大江の最後の挨拶。
そして次期主将が発表される。
「主将、尼子経晴!!」
<おぉぉ>と一二年生から歓声が上がる。
だがこれは予想通り。
尼子本人も事前に知らされている。
そして大江はさらに続けた。
「副主将、鷹村広海!」
<なぁぁぁ!!>と一二年生がざわつく
一年生が副主将??
俺自身も…聞いてないぞ!!
壇上に上げられて就任の挨拶をすることになったが…
「鷹村…これもお前の手回しか??」
「そんなわけないでしょ尼子先輩…俺も寝耳に水っス。」
…事前に準備していた尼子新主将は無難に挨拶をこなしたが…
…鷹村新副主将の挨拶はグダグダになってしまった。。
「…すいません…まだよくわからなくて…とにかく副主将として…
尼子主将を盛り立てて…主将のもと…だからその…」
すると大江さん…挨拶を中断させてしまった。
「鷹村…いきなり指名して悪かったとは思う。だが仕方ないんだ。
何しろついさっき、三年の合意で決めたんだから。」
「えっ…」
さらに全員がざわつく。
「…今年の結果は俺の責任だ。主将は…そういう苦しいものなんだ。
だが責任感の強いお前は…軽輩の立場にこそ苦しみを感じた。
ならばいっそ…お前に責任を与えることにしたんだ。」
「…そこまで…考えて頂いて…すいません…」
「だから今はまだ謝るな。」
「でも…」
「謝るのは…立場を自覚してからだ。
それともまた責任を取れない立場に苦しみたいか??」
…俺は…下を向きしばらく黙っていた。
---頼りないな。所詮は一年に副主将はムリなんだな---
全員がざわつく中、俺は咳払いをして…
いつもの細い声ではなく…低く抑えた声で言い放った。
「…長話はしません。
俺は…必ず厳島を倒す覚悟です。
手段は選びません。先輩だろうが容赦はしません。
責任はすべて俺と尼子主将にあります。
よって…打倒厳島の覚悟なき者は去るよう!!
以上!!」
…ざわついていた部員たちは言葉を失う。
これまで誰より去っていく仲間を気遣っていた鷹村が…
…急速に規律が戻るのが自分でもわかる。
三年生たちが万雷の拍手で新副主将を迎えてくれた。
俺は本当に…チームを背負う立場になったんだ。。
これが後に≪鷹目の闘将≫と呼ばれる…
俺の本当のバレー人生の始まりだったと思う。
なお…そんな中で一人だけ狼狽している男がいた。
「えっと…俺も責任…取るんだよな…!?」
「当然ッス。先輩も容赦しないと言いましたよね。」
「それ…俺も含むのね…。」
「何言ってんスか!尼子先輩は、俺達の御大でしょ!?」
「御大って…俺…大丈夫かな???」
…ちなみにこれが後に…
≪西北の御大≫と呼ばれた男の始まりでもあった。
これでいて尼子先輩…けっこう頼りになるんだから。。
次回から新展開です。
チームは新チームになります。




