スリッパと羊羹と偽物
俺は今、用を足している。否、足そうとしている。
昨夜、大学のサークル仲間と飲んでいた。皆それぞれ、お気に入りの焼酎やら日本酒やらチューハイやらを持ち寄り、朝までドンチャン騒ぎだ。結果、全員俺の家で雑魚寝。で、つい先程帰宅。しかも、全員トイレを借りていくという始末。まぁ、でも、それは良いとして…問題は、だ。
トイレのスリッパが片方しかない!!!!!
どういうことだよ!何でだよ!!スリッパは片方だけじゃ生きていけないんだよ?この子達は2つで1つなんだよ!?どーせ、あいつ等、酔ってスリッパ片方履いていきやがったな!ふざけんな!どうやってトイレすんだよ!!
しかも、俺今、メッチャ羊羹食べたいよ!早くトイレから出て羊羹食べたいよ!
どうしよう。どうすんだ、俺?
1、そのまま裸足で用を足す→汚いから却下
2、両壁を忍者みたいみたいによじ登って用を足す→無理そうだから却下
3、残った片方だけ履いて用を足す→転ぶと危険だから却下
いや、だが…もう案がない。となると、一番最後の案しかない…よし!片方だけスリッパ履いて用を足そう!
慎重に少しずつ前へ進めば安全だ。きっと転ばない……あぁ、駄目だ。羊羹のことで頭がいっぱいになってしまう…要らぬことを考えるな俺!バランスを崩して転んでしまうぞ!
―数分後―
フゥー…フゥー…や、やっと、便器まで着いt!!
俺はスリッパを片方だけ履き、便器まで片足でケンケンして進んでいった。便器に到着したとたん安堵し、閉じ込めていた余裕が出てきてしまったのだ。俺はもう倒れるしかない。
うわぁー!! ゴンッ !!!
そして、見事に後ろへ倒れ後頭部を激突。その衝撃で思い出した最期の俺の言葉。
「餓鬼の頃、親父が作ってくれた羊羹、あずきで出来た偽者だったな」