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ARMOR BREAKER  作者: 勾田翔
第三章 空の覇者、地上の弱者
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 装備の入ったバックパックを背負い、その上からさらにリュックサックのような物を背負う。リュックサックについていたベルトを胸の前で締め、進藤達は扉の大きく開いた機内の一角へ向かう。

 轟音と共に吹き荒れる風が頬を叩く。すでに目の前では多国籍軍とアラビア軍事国の自動鎧が戦いを始めていた。剣戟音が響き渡り、レーザーと銃弾が縦横無尽に飛び交う。

 前にいた兵士が輸送機から飛び降りた所で、進藤も足を踏み出す。

「行くぞッ!」床を蹴り、外に飛び出す。奇妙な浮遊感と共に高度三千メートルの位置から急速に落下。進藤に続き、アスタ、陣野、山中も飛び降りてくる。

 ふと上空に視線を傾ける。数十台の自動鎧が激戦を繰り広げる中、凪紗の乗る蒼花とスカイキラーが相対するのが目に入った。

 ――流石に今回ばかりは助太刀はできない。戦力解析の結果、スカイキラーは拠点防衛を目的に造られた空戦特化型。空の上では生身の人間など何の役にも立てない。周囲には五十機は超えるであろう戦闘機が飛んでいたが、数百キロの速さで縦横無尽に戦闘を繰り広げる自動鎧の群れに割り込む事ができずにいる。

 凪紗に絶賛嫌われ中の進藤であるが、やはり彼女の事は心配だ。何もできない自分が歯がゆいことこの上無いが、今は彼女が勝つ事を信じるしかできない。

 そして進藤の身体が一定の高度に達した瞬間、ドバンッ! とリュックサックが爆発し、中から巨大なパラシュートが開く。

 徐々に落下速度が落ちていき、眼下に広大な森が広がる。




 樹の枝にパラシュートが引っかかり、停止すると、進藤はパラシュートの入っていたリュックサックを下ろす。バックパックからアサルトライフルの各種パーツを取り出すと、枝の上に屈み込んだ体勢のまま組み立てていく。

 最後にスコープを銃身の上部に、索敵マイクを銃口部分に取り付け、準備完了。

 索敵マイクに接続されたイヤホンを右耳にはめ、スコープを覗き込む。

「…………、」感覚を研ぎ澄まし、辺りの様子を探る。視界に入ってくるのは、太陽の光が届かない薄暗い森。耳に入ってくるのは小鳥や虫の鳴き声。

(……風で落下地点が少しズレたな……。近くに味方はいないかもな……)進藤はライフルを下げ、樹の下を見やる。枝から地面までは四メートル程、飛び降りても問題無いだろう。

「よっと!」小さな掛け声と共に樹から飛び降り、身体を丸めるようにして落下時の衝撃を殺す。着地すると、再び周囲を探る。

 敵兵の様子が無い事を確信すると、今度こそ歩き出す。

 生い茂る草むらに潜み、掻き分け、慎重に進む。

 ――本来なら進藤達は輸送機に乗って、直接メッカ基地まで飛ぶ予定だった。しかし、目的地に向かう途中にスカイキラー達、アラビア軍の迎撃隊と鉢合わせ、やむなく途中下車する事になってしまった。

(おそらく、ここからメッカ基地までの距離は三十キロくらい……うまく襲撃をやり過ごした他国の部隊を見つけて連れて行ってもらうしか無いか……)進藤は早速、懐から携帯端末を取り出し、この周辺の地図を映し出す。何をするにしても、まずこの森を抜けなければ話にならない。

 携行している食料や水は少ない。モタモタしていれば、あっという間に遭難してしまうだろう。

 慎重に――なおかつ迅速にこの状況から抜け出す。それが生き残る為の最短ルート。余計な事を考えれば命を落とす。

(地図によると……この先に洞窟があるみたいだな……。そこを抜ければフランス軍が一時的に駐留している地点まで一直線だ……)地図を頼りに、進むべき方向を見据え、歩く。

 その直後――、


 

 シュガッ!! と。

 背後から耳に刺さる、鋭い金属音が響いた。



「――――ッ!?」直感的に身を伏せる。直後、鋭利な切口を見せながら、ハラハラと切断された草が地面に落ちていく――そんな数瞬の出来事をのんきに眺める事も許されない。

 進藤はライフルを持ったまま、地面を転がり、突然現れた襲撃者から距離を取る。(どうなってる!? さっきまで気配を感じなかった! 今、いきなり――何も無い所からワープしてきたみたいにナイフが現れやがった!)瞬間的に吹き出した冷や汗を拭う事もせず、高速で思考を巡らせる。

 襲撃者の方は追撃の機会をうかがう為に一旦、茂みに身を隠したようで、進藤の視界には映っていない。

 襲撃者が隠れて移動しているであろう周囲の茂みからは、一切の音も聞こえない。そのせいで、潜伏場所が見当もつかない。ライフルを握る手に汗が滲む。相手はかなりの手練だ。

(くそッ! よりにもよって、厄介なヤツに狙われた……! 他にアイツの仲間は……!?)警戒するが、多方向から攻撃がくる様子は無い。随分と自分の技量に自身があるらしい、あくまでも敵は一人という事か。

 敵の居場所が分からないのならば、不用意に動くのは危険だ。進藤は小回りの効く拳銃を抜き、ライフルを置く。拳銃の安全装置を外し、襲撃に備える。

「さぁ……来いッ……!」前方位に感覚を張り巡らせ、敵が動くのを待つ。

 刹那、ナイフの刃が空気を裂く音が進藤の鼓膜を叩く。「ッ!」進藤は音のした方向――自分の左斜め後ろから、一瞬で距離を取る。草むらに紛れた襲撃者の姿がうっすらと眼前に現れる。

(しめたッ! くらえ!)一瞬の隙を逃さず、進藤が襲撃者に向けて拳銃を構える。

「死になッ!」

「へっ――!?」

「ん――?」進藤が発したトドメの一言に、襲撃者から間の抜けた疑問の声が飛び出した。そしてその声を受けた進藤も疑問の声を洩らす。

 なぜなら――襲撃者から発せられた、幼い少女の声には聞き覚えがあったからだ。

 進藤は一応、拳銃を構えたまま、目の前の人影に歩み寄った。

 そして、そこには。



「あっ……勝真……さん……」



 グレーのパーカーの上から日本軍の軍服を着た金髪の少女がいた。あどけない表情からは、完全に「やってしまった」という感情が見て取れた。

「……よぅ……アスタ……奇遇だな……」進藤が重い口を開く。目の前の親友に向けて。

「……そ、そうですね……あはは…………」

 お互いの姿を確認した二人は一瞬後、揃って『自分達は一体何をやっていたんだ』と尋常でない後悔の念に駆られる事になった。

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