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ARMOR BREAKER  作者: 勾田翔
ARMOR BREAKER
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常識を覆す者

序章


 戦争というものは無くなることなどない。

 それどころかほんの些細なきっかけで非軍事国さえもあっさりと戦争に荷担する。

 ある時、たった一つの兵器が生み出された事で世界中で戦争の引き金が引かれた。

 その兵器の名は『自動鎧オートアーマー』といった。




第一章 元敗戦国の現軍事国家


  ◆◆ ◆◆


 ――絶えず銃弾の音が響いている。

 真っ白な雪原が次々に赤黒い血の色で染められていく。

「ちきしょうッ!! こっちの『自動鎧』はまだかッ!? このままじゃすぐに全滅するぞッ!!」

 アサルトライフルを連射している少年は自分の隣で同じく銃を撃っているもう一人の少年に話しかける。

「西の防衛に手間取ってたらしい!! 到着は五分遅れる!!」声をかけられた少年が携帯端末の画面を覗き込みながら答える。

「ふざけんなッ!! こっちは開戦十分で部隊の半分やられてんだぞ!! 到着する頃には俺達全員やられてるッ!!」その言葉を聞いた少年が激昂する。

「それでもやんなきゃいけないんだよ!! 生き残るためには!!」

 残っている部隊約半数の三百人は今、たった一台の『兵器』相手に全員で戦っていた。

 それは全長二・五メートル程の、人間の頭以外をすっぽりと覆う鎧だ。

 最新鋭の素材と手法によって造られた強化装甲はあらゆる攻撃から装備者を守り、従来の宇宙航空機エンジンを改造、改良した推進機関で陸海空全ての地形で音速以上の速度を叩き出し、音速飛行中での急旋回すら可能にさせる。

 さらに、装備者の脳と鎧を特殊なコードで繋ぎリンクさせ、装備者の脳波を読み取ることで人工筋繊維が組み込まれた強力な破壊力を持つ四肢が半自動的に動き、生身の兵士を蹂躙する。

 ――これが『自動鎧』。

 一台で最新のイージス艦十隻を瞬殺可能な史上最悪の殺戮兵器パワードスーツ。

 通常、生身の兵士が何万人束になっても万に一つも勝てる確率など無い。


  ◆◆ ◆◆


 先程の少年二人は相変わらず銃を撃ち続けていた。

 最初に文句を言っていた少年――進藤(しんどう)が口を開く。

「オイ狭山(さやま)!! こっちの『自動鎧』到着まで後何分だ!?」

「後三分だ!! 進藤!! もうすぐだ!!」

「くそッたれ、この三分が永遠みたいに長いんだよッ!!」

 進藤、狭山のすぐ隣では今尚、仲間の兵士が次々に肉片になり飛び散っている。

 敵軍の『自動鎧』の右手には二メートル以上はある巨大な大剣、左手には大口径のショットガンが握られていて、鎧の頭の部分には装備者の男の顔だけが見える。

 いかにも軍人らしい、いかつい男――では無く、まだ十代前半だろう美少年ともいえるような顔立ちだ。

 しかし、今の少年はその整った顔を悪意満点に歪ませ、相手の神経を逆撫でするような笑い声を上げて、その圧倒的な力を振り撒いている。

「……ッ! いい気になってんじゃねぇぞ!! この鉄クズがあぁッ!!」

 進藤は近くに落ちていたミサイルランチャーを拾い上げ、敵に向けて発射。

 一直線に進んだ弾は敵鎧に直撃し、派手な音を響かせ爆発した。

 そして、



 ――その一瞬後に敵の『自動鎧』が進藤の目の前にいた。



「ッッッッッ!?」

 絶句した進藤に向けて一切の容赦なく、全長二メートルの大剣が振り下ろされる。

(死んッ……!!)

 直後、ドゴンッ!!!! という、硬質なものを叩く音がした。

 しかし、それは敵の大剣が進藤の身体ごと大地を叩き斬った音では無かった。



 敵の『自動鎧』の右側に巨大な銃弾が突き刺さった音だ。



 あれだけの銃弾を浴びて傷一つつかなかった敵の『自動鎧』の装甲が凄まじい音を立てて凹み、続いて十メートル以上吹き飛んだ。

「ハァ……ハァッ……来たか……」

 進藤が弾の飛んできた方向に振り向くと、そこには自分達、日本軍の『自動鎧』が立っていた。

 敵の物よりは小さい全長約二メートルの、全体的に細いシルエットの人型に忠実な形をした青いカラーリングを施された鎧だ。

 鎧の頭の部分にはこの『自動鎧』の装備者が見える。

 しかし、こちらは敵とは違い青い色のサングラスの様な物がついたヘルメットを被っていた。

 そして、右手には大口径のライフル型コイルガンが握られている。

 自軍の鎧は両手でライフルを構え、十メートル先で大ダメージを負い、動けなくなった敵の『自動鎧』に向け発砲した。

 最早あれだけの大口径だと、発砲というよりは発射に近いが。

 耳をつんざくような爆音と共に搭乗していた敵ごと『自動鎧』が破壊されていく。

 ――――あらかた破壊し終わった後、生き残っていた兵士達が歓声を上げた。

 進藤の近くにいた狭山も大声を上げながら飛び跳ねている。

 進藤も地面に尻餅をつき、大きなため息をついた。

 ひとまず北海道での今日の防衛戦は自分達日本軍の勝利に終わった。




第二章 今の世界の現実


  ◆◆ ◆◆


 ほぼ全世界で戦争が起きている今現在でも、一部の例外を除き、一般市民は平和な普通の生活を送っている。日本列島の五分の四は『不可侵領』と呼ばれる文字通り戦場になることのない絶対安全が約束された場所だ。

 これは、一般国民を戦争に巻き込んではいけないという、過去の戦争の反省からである。

 そして国のために戦い、犠牲になる兵士。

 彼らは『不可侵領』から集められるが、志願制では無い。

 現在の日本ではこの様な憲法がある。

『「不可侵領」に住む者は三十歳になると同時に、一家の中から誰か一人を兵士として国に献上せよ』

 言ってしまえばこれは、三十歳になる前に結婚し、子供を産み、長男か長女を国に差し出せ、というものだ。 

 もし、それが出来なければ、差し出す家族がいない以上、自分を国に献上しなければいけない。

 もちろん誰だってそんなことは望まない。当然のように、この国ではほぼ全ての男女が早くに結婚し、子供をもうけ、そして差し出す。

 そうすればもう自分達は一生、安全に暮らせるのだから。

 よって、単純な徴兵制よりもこの非人道的な決まりがあまりにもあっさりと受け入れられた。

 善悪の判断もつかない内に殺しの技術を教え込まれ、戦場に駆り出される子供達の気持ちも考えないで。


  ◆◆ ◆◆


 進藤勝真しんどう・しょうま二等兵は、北海道の北東部にある『自動鎧』の整備基地の中を歩いていた。

 防衛戦の時の白い迷彩の軍服から普段基地の中にいる時に着る制服に着替えている。

 黒いスラックスに短めの同色のブーツ、ネクタイを絞めたシャツの上から黒いジャケットという格好だ。

 少し長めの黒い髪の下から覗く顔には疲労の色が浮かんでいる。

 時刻は午後七時、進藤は食料配給所に夕食の携帯食料を取りに行く。

 ――今日の戦いでこの基地も大分寂しくなった。

 進藤の戦っていた場所で生き残ったのが約二百人、西の防衛に当たっていた兵士達で生き残ったのが約三百人だ。

 元々この基地には千人程の兵士が詰めていたので、半数の兵士が今日一日で戦死したことになる。

 配給所の中の空気はかなりどんよりとして重かった。

 無理もない。この戦いで自分の友人が死んだ者も多いだろう。

 幸い、狭山を始め、進藤の友人は奇跡的に全員生きていた。

 しかし、逆にそれが友人が死んだ兵士達に対して申し訳なく、中に居づらくなってきて、基地の外で夕食を取ることにした。


  ◆◆ ◆◆


 基地の外でも最低限の明かりは点いているので特に不便になることもない。 進藤は基地の裏の方に歩いていき、そこで先客がいることに気付いた。

「……? 誰だ?」

 近くに寄ってみるとそこにいたのは、支給品の食料よりもよっぽど美味そうなパンを持って座っている少女だった。

 年は十七歳の進藤より一つか二つ下だろう。

 ふわふわした茶髪のショートヘアーに整った顔立ち、軍服としての装飾がついたダークブルーを基調にしたウエットスーツの様な服といった格好だ。

 やはりこんな所では寒いのかその上から防寒用に支給されている分厚いコートを着ている。


挿絵(By みてみん)


 この格好から分かる通り、進藤の様なただの兵士ではない。

 彼女は、この日本軍の『自動鎧』――コードネーム『蒼花(ソウカ)』を操るパイロット、通称『アーマード』と呼ばれる兵士だ。

 これは現場の人間なら基本的に誰でも知っているが、『自動鎧』はその辺にいる普通の人間が使えるモノではないのだ。

 軍のある条件によって検索され、求められている厳しい条件を全て完璧に満たし、一兵士の進藤では想像もつかないような特殊な方法で、人為的に脳や身体を『改造』して、人間という生命体を限界まで磨き上げることによって、初めて『自動鎧』を操るパイロットになれる。

 いくらでも替えのきくただの兵士でしかない進藤と違い、現在日本にたった五人しかいない特別な人間。基地の中に居るときも、たまに会ったときに事務的な会話を二、三言交わすだけで特にこれといった繋がりがある訳でもない。

 進藤が立ち尽くしていると、向こうも進藤のことに気付いたようで、少し気弱そうな声で、

「あ……、邪魔だった?」

 と聞いてきた。進藤は相手の機嫌を損ねないよう、とっさに首を振り、

「え……いや……別にそんなことないですよ! ただ、基地の外で雪しのげる場所ってココくらいしか無いんで隣いいですか?」

 彼女の階級は少尉、たかだか二等兵の進藤には、年下といえどもタメ口で話す権利はない。

 彼女は一瞬思案し、

「……いいけど」言って、座ったまま少し右に移動した。

「ありがとうございます」進藤は礼を言ってから少女の横に座る。

 進藤は少女の方を向いて言う。

「あの……さっきは危ない所を助けていただきありがとうございます」

「別に……あなたじゃ無くても助けていたし……、それにお礼を言うのは私の方」

「? どういう……」

「西で、もう一体の『自動鎧』と交戦しているときに私の『蒼花』が中破しちゃったの……。あの時、あなたが『自動鎧』を引き付けていてくれたお陰で私は奇襲が成功して、敵と真正面から戦わずに済んだ……。あのまま戦っていたら絶対に負けてただろうから……」

「……そうだったんですか…………」

 少女は手に持っていたパンを一口かじると、俯きながら呟いた。

「もう……これ以上私は戦えないかも……しれない……」

「戦えない? どうしてですか?」進藤は僅かに身を乗り出し、問い掛ける。

 少女は、うつむいたままの体勢で声のトーンを落としながら、言葉を紡ぐ。

「私の『自動鎧』はもう……時代遅れ……海外は次々に最新の技術を使った鎧を造って、新しく見つけたアーマードを乗せて戦力を増加させていってる。日本は私を最後にここ六年、鎧を操縦できるパイロットが見つかっていない。私達は自分専用に調整された鎧しか操縦できないから、いくら高性能な鎧が開発された所で、今日本にいるアーマードじゃ扱う事が出来ない……。時代遅れの旧兵器は、最新の兵器に壊されるしかないんだよ……かつての戦車や戦闘機が開発されたばかりの『自動鎧』に負けたように……私の鎧も、もうすぐ旧兵器になってしまう……」

「で、でも!!」進藤は少女と正反対に声を張り上げる。「実際、少尉は自分の『自動鎧』で他国の『自動鎧』と渡り合っています!! そんなの……まだまだ先の話ではないのですか!?」

「世界中の国は、他国を出し抜く為、躍起になって『自動鎧』の研究を続けてる。科学力は今もとてつもない速さで発達していってるんだよ。そっちも分かってるんでしょ? ……君の焦りようがなによりの証拠だよ」

「ッ…………、」

 それを聞いた進藤はこれ以上何も言えなかった。


  ◆◆ ◆◆


 短めの茶髪をツンツンと逆立たせ、軍の制服を着崩しているのは、先程進藤と一緒に戦っていた少年、狭山敏和さやま・としかず二等兵だ。

 彼は今、自軍の『自動鎧』の整備場にいた。

 狭山は目の前にいる整備兵に向かって叫んでいる。

「どういう事だよ!? 『自動鎧』が直らないって!!」

「どうもこうも無い!! 推進機関を重大なレベルでやられている!! この基地の機材だけでは短時間での修理など到底出来ない!!」年配の整備兵は不機嫌さを隠す事もなく、狭山に負けじと叫ぶ。

「ふざけんなッ!! 向こうはまだ降参して無い!!」狭山は腕を振りかざし「次の戦いまで後十時間しか無いんだぞ!! 敵の『自動鎧』は恐らくまだ出てくる!! こっちには一台しか鎧が無いんだぞ!! 援軍も来ない!! こんな状態で生身の兵士だけで『自動鎧』と戦えってか!?」

「我々も手を尽くしている!! しかし完璧には直せない……。最低限出撃出来るまでは修理するつもりだ!!」

「くそッたれが……このままじゃ、間違い無く負け戦だ。どうにか上を説得して降伏出来ないのか!?」

「既に掛け合った。しかし『最低でも後三日持ちこたえろ。それまでに援軍をよこす』からと、断られてしまった……」

「三日だと!? それまでに軽く十回は死ねるぞ!! 『自動鎧』無しでそんなこと出来るわけが無い!!」

 狭山は整備兵から視線を外し、一度舌打ちすると、

「俺がもう一度上と掛け合ってみる!! こんな勝ち目ゼロの戦いに荷担させられて殺されてたまるか!!」

「ッ! おいッ!」

 言うや、狭山は通信室の方へ駆け出していった。


  ◆◆ ◆◆


 ――日本軍整備基地より南十キロ地点。

 そこには一人の人間――否、一台の『鎧』が立っていた。

 敵軍アーマードの女は視線の先にある日本軍の基地を見据え、両手に握っている巨大な拳銃を基地の方へ向け、



 ――発砲した。



 基地の一角、通信施設を狙って。




第三章 突然の強襲


  ◆◆ ◆◆


 ドオオォォン!! という大地を震わすような壮絶な音が、基地の裏にいた進藤とアーマードの少女の所まで聞こえてきた。

「何だ!? 爆発か!?」

 進藤が突然の爆音に驚いている間にも、さらに基地のあちこちが爆発していく。

「ッ……!? まさか…ッ!!」

 アーマードの少女は立ち上がり、持っていたパンをその辺に投げ捨てると、その強化された肉体を存分に使った軽快なパルクールの様な動きで、建物を飛び移りながら整備場の方へ向かって行ってしまった。

「ちょッ……少尉!!!?」

 少女が見えなくなると同時に、基地の警報が鳴り、続いてアナウンスが鳴り響く。

『敵軍の「自動鎧」が条約を無視し、襲撃!! 各員即座に迎撃体制を整えよ!!』

「なっ!? ウソだろ!?」

 進藤は信じられないという表情で叫ぶ。

 当然だ。現代の戦争では世界基準の厳格なルール、『戦争条約』が数多くあるのだ。

 そして、その中の一つに『開戦時間の設定の義務化』というものがある。

 読んで字のごとく、両国で毎回の戦いの開始時間を決め、それに背いてはならない、という決まりだ。

 次の戦いの開戦時間は翌日の午前五時だったハズだ。しかし、相手はその条約を無視して攻めてきた。

 そのことが他国に知れ渡れば、『秩序の無い野蛮な国』として、恐らく何十国という、多国籍軍によって攻めいられ、滅ぼされるだけだ。

 現実にそうなった国もいくつか存在する。

「正気の沙汰じゃ無いぞ……。奴ら一体何を考えてんだ……?」

 とにもかくにも、敵がここに攻めてきている以上、丸腰ではどうにも出来ない。

「とりあえず銃を取りに……ッッ!?」

 立ち上がった瞬間、パパンッ!! と、進藤の足下に銃弾が突き刺さった。

「見つけたぜぇ!!」

 何者かが英語で叫んできた。

「!? もう敵兵が侵入してきたのか!?」

 進藤の十五メートル程先にはライフルを構えた敵軍の兵士が一人。

(マズイッ……!!)

 先程も言った通り、今の進藤は丸腰である。

(このままじゃ殺される……!! どうにかして一人でこの状況を切り抜けるしか無いッ!!)

「呑気に逃げ出す算段考えてるヒマぁねぇぞ!!」

 ドガガガガッ!!!! と、敵兵がライフルをセミオートからフルオートに変え、撃ってきた。

「くッ!!」

 進藤は急いで建物の影に飛び込み、そして制服の上着を脱いだ。

 シャツ一枚になり、強烈な冷気が身体を撫でるが、気にしている余裕は無い。

(きやがれッ……!!)

「逃げてんじゃねぇぞコラァ!!」

 敵兵がこちらに飛び込んできたと同時に、進藤は手に持っていた上着を敵兵の顔に覆い被せた。

「ムグッ!! てッ……メェ……!!」

 進藤はすかさず、一瞬身動きがとれなくなった敵兵の背後に回り、一瞬の戸惑いも無く、首をへし折った。

「かッッ……!!」

 雪の上に崩れ落ち、絶命した敵兵から装備を奪い取ると、進藤は上着を着直し、『自動鎧』の整備場を目指し、駆け出していった。


  ◆◆ ◆◆


 アーマードの少女は基地の中を走っていた。

 外には敵兵が大量に侵入してきていて、狙い撃ちにされるので、多少遠回りにはなるが、敵兵の少ない建物の中を通って行く事にした。

「あっ!?」

 整備場まであと二百メートルという所で、突然曲がり角から四人の敵兵が現れた。

 最初彼らも驚いた顔をしていたが、すぐにその顔を笑みに変えた。

「ツイてるぜ!! こんな所で丸腰のアーマードに会えるなんてよ!!」

「今ここでこの女殺せば、俺たちゃ勝ったも同然だ!!」

「バカ!! 上玉だぜ!? 殺す前にまず手足縛って存分に楽しまねぇと損だろ!!」

 敵兵達は少女の前でデリカシーの欠片も無いような会話を繰り返す。

 一通り話し終わると、彼らは一斉にライフルを構えた。

「絶対に殺すなよ!! 狙うのは脚だけだぜ!?」敵兵の一人が気味の悪い笑みを浮かべる。

 瞬間、ガガンッ!! ガガガンッ!! と少女に向けて大量の銃弾がばらまかれる。

 しかし、



 どこに攻撃が来るか分かっていれば『人間』というモノを極限まで鍛え、磨き上げたこの少女にこの程度の銃弾を避けることなど造作も無い。



「なッ……!?」敵兵達が驚愕の声を洩らす。

 軽快なステップと共に少女は銃弾の雨を避け続け、敵兵の弾が切れると同時に、ダンッ!! と、敵兵の懐に踏み込み、みぞおちに蹴りを叩き込む。

「グエッ……!!」

「舐めすぎだよ?」

 すかさず、少女はよろけた敵兵からナイフを奪い取ると、喉元をかき斬った。

「ヒッ……!!」

 残りの兵達が怯えた声を出すが、もう遅い。

 少女は踊る様な華麗さで手にしたナイフを使いたちまち三人の敵兵を始末していく。

 少女は血で汚れたナイフを死体の側に投げ捨てた。

「急がないと……」

 少女が走り去ろうとした瞬間、



「動くな」



(ッ!? もう一人ッ!!)

 敵兵が少女の後頭部に拳銃を突きつけていた。

「そいつ等は全員俺のダチだ。よくもやってくれたなテメェ……。死ぬ覚悟は出来てんだろうな……?」

 敵兵は心底悔しそうに、歯を食いしばり、震える声で喋っていた。

 それを聞いた少女はため息をつくと、これ以上無く冷たい声で、

「ここは戦場。敵兵を殺して何が悪いの? あなた達は死ぬ覚悟もしないでこんな所に来たの?」

「ッ…!! このクソアマァ!! 死んで地獄であいつ等にわびやがれ!!!!」

 男は叫び、拳銃の引き金を引き絞る。


 ――そして、その瞬間少女の顔は勝ち誇ったように僅かに笑っていた。


 直後、パァンッ!! と、乾いた銃声が響き、



 男が頭の左右から血を吹き出し、その場に倒れた。



「「大丈夫ですか!?」」

 少女の左右二方向から声がした。

 右にはさっき別れた、長い黒髪の少年。

 左には先の戦いで黒髪の少年の近くにいた短い茶髪の少年。

 そして、茶髪の少年の方は全身血まみれだった。

 服のあちこちが破れ、身体も傷だらけ、左腕にいたっては一目見ただけで折れていると分かる程ひどかった。

 黒髪の少年はライフルを下げると、その少年に近づいていった。


  ◆◆ ◆◆


 進藤は急いで狭山の側に駆け寄る。

「お前どうしたんだよ!? 銃創とかじゃないよなコレ……!!」

 狭山は壁に寄りかかると、進藤の言葉を無視して切羽詰った様子で、

「やられた……!! 奴らウチの基地の通信施設を吹き飛ばしやがった!! これで上との連絡手段も絶たれた!! ……あいつ等はこれで条約無視をどこにもバレることなく俺達を殺せる!!」

「なッ……!?」

 絶対に他国に知られない。

 その確信があったからこそ敵は攻めてきた。

 敵軍は日本兵ごと全ての証拠を抹殺、情報操作を行い、平気な顔で『正々堂々戦い、勝利を収めた』と言うつもりだろう。

 進藤は拳を握りしめ、壁に叩き付けた。

「ふざけんじゃねぇぞ!! こんなクソ野郎共にこのまま誰にも気付かれずに大人しく殺されろって事かよ!?」

「大丈夫」

 口を挟んだのはアーマードの少女だった。

「私が出る。報告によると敵の『自動鎧』は一機だけ。それなら何とかなるかもしれない」

「……悪いがそりゃ無理ッスよ……」

 狭山がぎこちない敬語で少女に言う。

「整備兵の話によると、推進機関を深刻なレベルでやられてるみたいッス……。ここでの修理はほぼ不可能……。たとえ今出撃しても高速戦闘が出来ない以上、勝ち目はゼロ……」

 その言葉を聞いて少女は、驚愕に目を見開き、少しの間黙っていたが、すぐに顔を上げた。

「それでも……『自動鎧』に対抗出来るのは『自動鎧』だけ……。私が戦わないと皆が死んじゃうッ……!!」

「あっ……!!」

 進藤が引き止める間もなく、少女は整備場へ一直線に走って行く。

 すぐに進藤も狭山と一緒に後を追う。


  ◆◆ ◆◆


 整備場の中では整備兵達が血相を変えて、『自動鎧』の修理に勤しんでいた。

 整備兵の一人が、少女に気付き、慌てて頭を下げた。

「も、申し訳ありません!! 我々の力及ばず、『自動鎧』の修理が……!!」

「大丈夫、知ってる。それにあなた達のせいじゃない。すぐに用意を。武器をライフルから『カタナ』と『ハンドガン』に変更、後、人工筋繊維のリミッターを外して。たとえ、それで鎧が大破しても構わない。今はこの状況を切り抜ける事が先決だから」

「りょ、了解しました!!」

 整備兵はすぐに他の者達に指示を出していく。

 ――所要時間、約五分。

 整備兵達は急ピッチで作業を終わらせ、『自動鎧』を装備した少女に合図を出す。

 少女は進藤の方に振り向くと、

「すぐに終わらせて助けにいく、だからそれまで絶対に死なないで!!」

 進藤は敬礼と同時に、少女に返事を返す。

「了解です!! 少尉!!」

 ゴゴンッ!! という重厚な音と共に、少女を乗せた『自動鎧』が出撃する。

 



第四章 絶望


  ◆◆ ◆◆


 狭山が傷の手当てを終えると、二人は自軍に手を貸すため、装備を整え、外に飛び出した。

 基地の中は侵入してきた敵兵達で溢れかえり、激戦を繰り広げていたが、どちらかというと、生身の兵隊同士での戦いは、若干日本軍の方が優勢だった。

 自分達のよく知った基地の中で地の利を生かし、上手く攻撃をやり過ごしながら、反撃していく。

 進藤も無傷ですでに二十人程倒している。

「はッ!! こんな奴ら、『自動鎧』を相手にするよか百倍マシだ!!」

 進藤は高台に上がるとライフルをセミオートに切り替え、正確に狙撃していく。

 と、そこで目にあるものが移り込んできた。

「来た……」

 基地の外より約五十メートル程先に、二つの影が見えた。

 一つは、敵軍の『自動鎧』、そしてもう一つは自軍の『自動鎧』だ。

 お互いに二、三秒程度様子を見ると、次の瞬間敵が動いた。


  ◆◆ ◆◆


 ドガガンッッ!!!! と、とてつもない爆音を響かせ、敵が左右に持った銃を一発ずつ発射する。

 少女は一瞬で銃をしまうと、両手で巨大なカタナを持ち、そして



 音速を超えるスピードでカタナを振り、飛んできた銃弾を両断した。



『ッッッッ!!!?』

 敵が驚く暇も与えない。

 少女は、地面を蹴り、猛スピードで空中の敵に接近すると同時に、みねに鎧の推進機関とほぼ同型のブースターが仕込まれたカタナを敵に向けて渾身の力で振る。

『くッ!!』

 敵が紙一重で避け、距離を取った所で、即座に銃を取り出し、追撃する。

 銃弾が全弾ヒットし敵がよろけるが、推進機関が無い以上、空中に留まる事が出来ないので、これ以上追撃は出来ない。

 一旦、少女は地面に着地すると、次の攻撃に備え、カタナを構える。


  ◆◆ ◆◆


「すげぇ……!! あれだけのハンデ負って、全然負けてないぞ!!」

 進藤は歓喜した声で言った。

 まだ、可能性は潰えていない。

 生き残れるかもしれない。

 そう思い、視線を『自動鎧』から、自分が戦うべき敵兵に戻した。


  ◆◆ ◆◆


 敵鎧の高速戦闘が始まった。

 銃を撃ったと思えば、もうその場にはいない。

 少女のカウンターを回避するため、ひたすらランダムに動き回りながら攻撃を繰り返す。

 少女は全神経を使って銃弾を避け続け、一瞬でも隙ができれば銃で反撃する。

 そこで、敵の銃弾が弾切れを起こした。

 その瞬間を少女は見逃さず、一気に距離を詰め、音速以上の速さの斬撃を繰り出す。

 敵はとっさに反応し、左手に持った銃で防御、同時にリロードした右手の銃を使い、反撃を仕掛けた。少女はそれを身体を振って避けると同時、そのまま倒れ込むように敵を斬りつけた。

 バッギィィン!!!! と、金属同士が擦れる音が響き、敵鎧の前面装甲が砕ける。

『チィッ……!!』

 敵が忌々しそうに舌打ちする。

 少女は着地し、カタナを構え直すと、空中にいる敵鎧を見据える。

『どうして、条約を無視して攻めてきたの? 下手をすれば、自分達の国を滅ぼす事になるかもしれないのに……』

 少女は敵軍のアーマードに問いかける。

 すると、敵鎧は左手の指を四本立てると、

『分かる? この数が。今回の戦いでこっちが用意した『自動鎧』の数よ。先日と今日を合わせ日本軍はウチの鎧を三台も破壊した。それもアンタたった一人で、遥かにスペックの高い鎧を。つまりこっちの軍はあと鎧が一台しか無いの』

 敵は左手を下げると、銃を構え直す。

『認めたくは無いけど、日本軍の強さは鎧のスペックより操縦者の技術にある。現にアンタはその推進機関が壊れているであろう鎧で、私と渡り合っている。――正攻法では勝てない。それが、上の出した判断よ。だから、リスクを承知で条約を無視してでも奇襲を仕掛けた。これで満足かしら?』

 言うと同時に敵鎧は少女の方に急降下、両腕を振り上げる。

『(接近戦!? 一体何を考えてッ!?)』

 常識的に考えて、銃などの遠距離武器で接近戦を行うなど馬鹿げている。

 遠距離武器はその名の通り遠距離でこそ真価を発揮するのだ。

 まして少女には、

『(こっちには高威力のカタナがある!! そっちから来てくれるなら好都合!! タイミングを合わせてッ……!!)』

 そして――、



 ザンッ!!!! と、少女の鎧が『二本の剣』で十字を描くように斬りつけられた。



『なっ……ん……!?』

『驚いた?』敵があざ笑うように問い掛ける。

 少女はよろけながら、目だけを動かして相手の両手を覗き込んだ。

 ただの巨大な拳銃だったさっきまでとは違う。

 変形したそれは、



『銃剣……!?』



 少女は驚きの混じった声を発する。

 何故なら、『自動鎧』用の武器として銃剣という物は今まで実用化されていなかったからだ。

 理由は簡単、銃としての威力を保とうとすれば発射した時の熱で、刀身が変形してしまい、剣の切れ味を維持出来ないからだ。

 どちらかを高めれば、どちらかが劣化する。

 故に、剣と銃の二つを合わせるのは、困難を極めた。

 日本でも過去に、開発は行われていたが、途中で断念された。

『多分まだ、ウチの国だけじゃない? 銃剣の開発に成功したの。もちろん、威力、切れ味は維持したままで』

『くッ……!!』

『本当は、出来る限り隠しておけって言われてたんだけど、流石にここまで追い詰められたら仕方が無いしね』

 少女は一旦距離を取ろうと後ろに下がる。

 しかし、

『逃がさない』

 ガァンッ!! と、今度は銃弾が、少女の鎧の肩に突き刺さる。

『あっ……!!』

 続けて、銃剣二本によるトリッキーな攻撃が連続して少女を襲う。

『攻撃パターンのデータが無ければそんなモンなのかしらあぁ!?』

『ッ!! くッ……うっ……!!』

 既に、少女に反撃するだけの余裕など微塵も残っていなかった。

 受けるのが精一杯。

 そして、攻撃がかする度に少しずつ少女の鎧が壊されていく。

『(もっ……だ……めっ……!!)』

 ――一分も持つことは無かった。


 


第五章 試行錯誤


  ◆◆ ◆◆


 真っ黒な煙を上げながら『自動鎧』が崩れ落ちていく。

 進藤はその光景を呆然と眺めるしか無かった。

「そんな……!」

 その時、高台の下から叫び声が上がった。

 士官の三島(みじま)少佐だ。

「何をしている!! 自軍の鎧は破壊された!! 早く撤退の準備をしろッ!!」

「ッ!? 少佐!! 少尉はどうするのですか!? あの特殊スーツなら、あれぐらいでは死なない!! 少尉を助けなくてよろしいのですかッ!!」

「貴様は馬鹿か!? 我々が行った所で何になる!? それよりも今私達がすべき事は、一刻も早く『不可侵領』に退避し、この状況を上に伝える事だ!!」

 三島少佐は生き残った兵士達を引き連れ、撤退を始める。

 進藤も高台から降りるが、彼らについて行く気にはなれなかった。基地の裏でのアーマードの少女との会話が脳裏をよぎる。あの時の少女の深い闇を抱えた瞳が鮮明に浮かぶ。

 少女は自らの鎧を時代遅れと言っていた。それはつまり、自分は相手より実力が劣るのだと、認めていた事と同じ。しかし、それを分かっていながら少女は立ち向かった。

 進藤達、部隊の人間を思って。

 自分の心に襲いかかる恐怖を振り切って、今まで勝ち目の薄い戦いを続けてきた。そして今、部隊の人間達の為に戦ってきたあの少女が、敗北し、絶体絶命のピンチに陥っている。

 なら。

 進藤は三島少佐と周りの兵士に向けて叫ぶ。

「少尉は俺達を助ける為にあんな状態で一人で戦ってくれたんだ!! なら今度は俺達が少尉を助ける番じゃないのか!?」

「誰に口を聞いている!? 進藤二等兵!!」

 ガンッ!! と三島少佐が進藤の顔面を殴りつける。

「いいか、この部隊の指揮権は私にある!! 命令に従わぬ者は射殺する事も許可されている!! よく考えろ。自分が何をすべきかを!! 綺麗言だけで事態は好転しないッ!!」

「少佐の言うとおりだ、進藤……。行くぞ」

 兵士達の中から出てきた狭山が、進藤の肩を叩き促す。

「…………、」

「進藤ッ!!」

「……もういい」

 進藤は三島少佐に向かってライフルを構えた。

「貴様……何のマネだ?」

 進藤はライフルを構えたまま少しずつ後ろに退がる。

「もし、自分が生きて帰ってきたならいくらでも処罰すればいい。けど、今ここでジャマをするならたとえ……アンタでも撃つ……」

 三島少佐は進藤に銃を向ける他の兵士達を片手で制し、進藤の正面に立つ。

「覚悟は出来ているようだな。少尉を助けに行きたいなら好きにすればいい。だが、行くというなら最低でも我々が逃げる時間くらいは稼げ。何も成果を残さずに死ぬことは許さん。以上だ」

「……感謝します」

 進藤は敬礼すると、一目散に駆けていく。


  ◆◆ ◆◆


(ここは……?)

 目を覚ますと、そこは森の中だった。

 近くには、自分の『自動鎧』の残骸が転がっている。

(そうだ……。私……敵に負けて……)

 周りにはまだ敵の姿は無い。

 逃げるには絶好のチャンス――だが、

「脚に、木の枝が刺さってる……。出血も……。これじゃ歩くどころか立ち上がる事も出来ないなぁ……」

 八方塞がり、すぐに敵兵が自分を回収しにくるだろう。

 そして、捕まれば最後、敵国に引き渡される前に殺されるよりも酷い事が待っているのは確実。

 たとえ、誰にも見つからなくとも、この出血と寒さで死ぬことは間違いないだろう。

(あの人に助けに行くって言ったのに……約束破っちゃったな……)

 せめて、皆が無事に『不可侵領』に退避出来ていればと願う少女。

 そんな事を考えている内に森の奥からサクサクと雪を踏む音が聞こえてきた。

 その音はだんだんこちらに近付いてくる。

(見つかった……)

 少女は側に転がっていた鎧の破片を掴むと、自分の胸に押し当て、目をかたく瞑り、力を込める。

(捕まって、情報を引き出される位なら……ここでッ……!!)



「少尉ッ!! 無事ですかッ!?」



(えッ!?)

 聞こえてきたのは、まるで自分を心配している様な声。

 そして、その声には聞き覚えがあった。

 少女が痛む身体をゆっくりと動かし、振り向くと、そこには――あの少年がいた。


  ◆◆ ◆◆


 進藤は雪の上に仰向けになって転がっている少女を見下ろす。

 左足の太腿の辺りに木の枝が深く突き刺さっていた。

「……無事では……無いみたいですね……」

 進藤は少女の横に腰を下ろすと、背負っていたリュックサックから救急キットを取り出す。

 あまり慣れていない手つきで応急処置を行っていく。

「どうして……何で私なんかを助けに来たの?」

 少女は進藤を見つめ、問いかける。

 進藤の身体は所々に生々しい傷痕があった。

 ここに来るまでに何度か敵兵と遭遇し、交戦したからだ。

「こんなにボロボロになってまで……鎧が壊されて、役立たずになった私をどうして……?」

 少女は身体を振るわせながらもう一度問いかける。

 すると、進藤は一旦手を止め、頭を掻くと、

「……さっき三島少佐にも言ったんですけど……少尉は無理を押して自分達を助けるために戦ってくれました。だったら、今度は自分が少尉を助けるべきだと思いまして……。少佐には綺麗言だって一蹴されましたけど……」

 それを聞いた少女は、力無く進藤にもたれかかり、上目づかいで彼を見て、



「ばか……でも……ありがと……」



「ッ……!?」

 不覚にも進藤は少女のそんな仕草にドギマギしてしまう。

「とっ、とりあえず、早く傷の手当て終わらせましょう!!」

 進藤は少女から目をそらし、治療を再開する。

「どうしたの? 顔赤いけど?」

「なっ、何でもないです!!」


  ◆◆ ◆◆


 狭山は部隊の者達と撤退している最中にあることに気がついた。

「どういうことだ……? 何で敵の鎧がこっちに来ない? 俺達の位置なんて内蔵されてるセンサー使えば一発で分かるハズだろ?」

 狭山の独り言に三島少佐が答えた。

「恐らくだが……先の戦闘で前面装甲が破壊された時に、同時にセンサーも壊れたんだろう。しかし、敵兵に見つかればすぐさま無線で連絡されるぞ。気を抜くなよ」

「……了解……」

「どうした? 狭山二等兵」

「いや……少尉を救出しに行った進藤の事が気になりまして……」

「敵鎧には見つかっていない。敵兵に殺されていない限り無事だろう。……まぁ、仮に少尉を見つけられたところで、ここまで合流するのは無理だろうがな。あれだけの爆発だ。アーマード用の特殊スーツを着ていたとしてもただでは済まない。歩けるだけの力が残っているかも怪しいだろう。そんな少尉をここまで連れてくるなどまず不可能だ」

「そんなッ……!?」

「だから私は言ったのだ。我々が逃げる時間だけでも稼げと。どのみち死ぬ命だ。だったら少しでも有効に扱うべきだろう? 少尉も、進藤二等兵も。我々が安全に逃げる為にな」

「ッッ……!! テメェッ!!!!」

 瞬間、狭山は三島少佐の胸ぐらをつかみあげた。

 階級など関係ない。狭山はありったけの怒りを込めて言う。

「命を何だと思ってやがる!! センサーの事も最初から知ってたのか!? なら、あの後すぐにでも救出班を編成して少尉を助けに行くことだって出来たハズだ!! 進藤一人に軍規違反させることも無くなぁ!!」

 三島少佐は胸ぐらを掴まれたまま、狭山を冷徹な目で睨み付けた。

「進藤二等兵といい、貴様といい、私の部隊は馬鹿ばかりだな。大人数で動くから危険なのだ。チームで動けばそれは正式な作戦行動、そんな危険な物を敵が見逃す訳がない。見つかれば、すぐさま連絡され、『自動鎧』に殺される。しかし、たった一人で動いている人間を見つけた所で鎧に連絡する者などいない。なぜか、そんな危険性の無い事に『自動鎧』の手を煩わせる必要など無いからだ。よって、敵兵に見つかっても、『自動鎧』に見つかることは無い進藤二等兵、捕虜としての価値のある少尉、この二人は絶好の『囮』になる」

 三島少佐は忌々しそうに狭山の腕をどかし、服を正す。

「たとえ、この手で部隊の人間を殺すことになったとしても、私は『不可侵領』までたどり着き、ここで起きた事を必ず上に伝える。それが指揮官である私の義務だ。先程も言っただろう。綺麗言だけでは事態は好転しないと。目的を達する為なら私はどこまでも非情に徹する」その声には一切の情は込められていなかった。

「……、――!?」

 三島少佐の言葉を最後まで聞いた狭山は俯き、そして気付いた。



 ――少佐の手が硬く握りしめられ、震えている事に。



 そう――ここにいる誰もが少尉を助けたいと思っているのだ。

 少尉に恩を返し、全員で生き残りたい。その感情は人間としていわば当たり前の事なのだ。

 しかし、他の兵士達の様に、勝ち目の無い『自動鎧』に立ち向かう勇気の無い者達、三島少佐の様に指揮官として一時の感情に流されることの出来ない者。

 狭山はあの襲撃の直前、進藤と少尉の間で何があったかは知らない。

 だから、なぜ進藤が少尉に肩入れし、ああも無謀に、勇敢に少尉を助け出そうとあの場に飛び込んで行けたかは分からない。

 だが、

「!? どこへ行く気だ!? 狭山二等兵!!」

 狭山は進藤が向かった方向へ走りながら答えた。

「俺も生きて帰って来れたら処罰してもらって構いませんよ!!」

「ッ……!! 貴様!! さっき私の話を聞いていなかったのか!?」

「そんなことでダチ見捨てる理由にはならないッスよ!! それに、単独行動なら見つかるリスクは低いんスよね!? なら、十分に勝機はある!!」

 言い終わった頃にはもう、三島少佐の声は聞こえない程の距離が開いていた。

 狭山は前を見据え、一直線に進藤の下へ向かう。


  ◆◆ ◆◆


「よしっ!!」進藤は処置を済ませると、ライフルを担ぐ。「早くここから脱出しましょう!!」

 言って、少女をおぶる。

 と、そこで



 パァンッ!! と進藤の足下の地面が弾け飛んだ。



「!? しまった!!」

 進藤が銃弾の飛んできた方向に振り向くと、数人の敵兵がこちらに向けてライフルを構えていた。

「残念だったなぁ? せっかく助けに来たのにな。テメェはここで退場だ!!」

 敵兵達が容赦なく引き金を引く。

「あああぁぁァァッッ!!!!」

 進藤は少女を抱えたまま、ありったけの力を込めて横に飛んだ。

 ガガガガガガガガッッッ!!!! と、一瞬前まで進藤のいた場所が銃弾になぎ払われる。

 進藤は即座にベルトに挟んでいた拳銃を抜き、発砲した。

「ぐあッ!!」「ぎゃッ!!」

 敵兵二人が進藤の放った銃弾に倒れる。

 進藤は辺りを見回す。敵兵の数は後四人。

(くそッ!! いくら何でも少尉抱えたままじゃあ……!!)

「これ貸して」

「ちょッ!?」

 少女は半ば無理矢理進藤から拳銃を奪い取り、近くの木に寄りかかる。

「足は引っ張らないよ」

 進藤は少女に向かって頷くと、上着から数本のマガジンを取り出し、少女に投げ渡す。

「危なくなったらすぐに呼んで下さい!!」

「分かった!!」

 進藤は肩に担いでいたライフルを出して構える。

「くらえッ!!」


  ◆◆ ◆◆


「ハァッ、ハアッ……!! クソッ、どこだ進藤!!」

 走る度に折れた左腕が痛む。

 しかし、今は気にしている余裕は無い。

 狭山は、森の中を全力で走り回り、進藤を探している。

 ここに来る途中、狭山は破壊された基地の中で出来る限りの武器を持って来ていた。

(まぁ……こんなモンいくら持ち出してきた所で『自動鎧』に適うワケねぇけどな……)

 そんな事を考えていると突然、奥から、ダダダダダダッッ!!!! と大量の銃声が響いてきた。

「進藤かッ!?」

 狭山は腰に下げていた軍刀を抜き、ゆっくりと銃声のした方向に近付いていく。

「いた……!!」

 敵兵が四人、血を流し、倒れている。

 進藤と少女、敵兵二人が二十メートル程の間隔を開け、撃ち合っている。

 今、その敵兵二人の真後ろに狭山はいる。

 木の陰に隠れているので敵兵はおろか、進藤達も狭山に気付いている様子は無い。

 狭山は右手に持った軍刀を強く握りしめる。

(いけるか……!?)

 敵兵の一人が発砲するタイミングを見計らい、その音に紛れ、狭山は一気に距離を詰め、近くにいた方の敵兵に斬りかかった。

「ぎゃあッ!?」

 敵兵が肩から血を吹き出し、足許の雪を赤く染めながら崩れ落ちる。

「なッ!? 何だコイツッ!?」

「狭山ッ!?」

 残った敵兵と進藤が突然現れた狭山に向かって目を見開いて驚愕する。

 狭山は鮮血の付いた軍刀を間髪入れずもう一人の敵兵に向かって振り下ろす。

「なめんなァッ!!」

 ガキンッ!! と狭山の軍刀がライフルで受け止められる。

「進藤ォォッ!!」

「分かってる!!」

 進藤が狭山の言葉に応じ、ライフルを構えた。

「待ッ……ぎゃああッ!!」

 進藤の放った銃弾に頭部を貫かれた敵兵が倒れる。

 狭山は軍刀を血振りしてから鞘に納めると、進藤達の方へ走り寄っていった。


  ◆◆ ◆◆


「狭山!! どうしてここに!? 少佐達は!?」進藤は狭山に尋ねる。

「多分無事だ。やっぱお前達見殺しにはしたくねぇからよ、俺だけ抜けてきたんだよ」狭山はあっけらかんとした調子で答えた。

「……このお人好しが……たとえ生きて帰れたとしても、待ってるのは有罪確実の軍法裁判だけなんだぞ……!!」

「ただ生き残っただけならな。けど少尉を連れて帰ることが出来れば俺達ゃ罪人どころか英雄モンだぜ!!」

 狭山は持って来た予備の弾を幾つか進藤に渡す。

「こんなとこに長居する意味はねぇ。さっさとトンズラしようぜ。」

「あぁ、そう……だ……――!?」

 進藤の言葉が途中で止まった。

 進藤の視線の先、雪の上に倒れている敵兵があるものを握っていた。

 あれは――無線だ。

「ッ!! アイツまだ死んでない!!」

 進藤が叫ぶが、もう遅かった。

 敵兵は進藤に向けて勝ち誇ったような笑みを浮かべ、そのまま絶命した。

 進藤と狭山の顔に大量に冷や汗が浮かぶ。



「逃げろッ!! 『自動鎧』を呼ばれたッッ!!!!」



 進藤は少女を背負い、全速力で走り出す。

 そして、次の瞬間、



 ドバッッ!!!! と。

 進藤の目の前の景色が一瞬で消し飛んだ。



「ッッッッ!!!?」

 進藤は絶句する。

 凄まじい熱で木が燃え、雪がジュウウウッ!! と音を立てて蒸発していく。

 その中、進藤のわずか五メートル先に、敵軍の『自動鎧』が立っていた。

 ――終わった。

 そう思った瞬間、進藤の視界の端の方で何かが映った。

 途端、進藤はそれが何なのか理解した。

 電気信管の付いたそれは――狭山が投げた『C4』、プラスチック爆弾だった。

 ボッゴオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!! と、とんでもない爆音を響かせ、C4が爆発した。

「がああああああああああああッッッッ!!!!」

 進藤、狭山、少女の三人が凄まじい爆風で何十メートルもノーバウンドで吹き飛ばされる。

「ごはあッッ!!」

 かなり深く雪が積もっていたが、そんなもの何の意味も無かった。雪をえぐり、進藤の背中が硬い地面に激突する。

 信じられない程の激痛が身体中を走り、息が一瞬止まる。

 だが、痛みにのたうち回る暇は無い。

 進藤は無理矢理身体を起こし、少女を背負い、駆け出した。

 すぐに狭山もその後を追ってくる。

「おッ、お前正気か!? ゼロ距離であんなモン爆発させやがって!! ホントに死ぬかと思ったぞ!!」

「本当に殺されるよりは何百倍もマシだろーが!! この爆煙に紛れて逃げるんだ!!」

 二人は走る。

 次に見付かれば間違い無く終わりだ。


  ◆◆ ◆◆


 煙が晴れた時、三人の姿は無かった。

 センサーが壊された今、もう一度補足するのは難しいだろう。

 足跡も爆発と吹雪のせいで消えてしまっている。

『まぁ、ケガ人連れてそう遠くまではいけないでしょう……。虱潰しに当たっていけばいいか……』

 彼女はゆっくりと動き始める。焦る必要は無い。

 所詮は生身の人間。

 見付ければ、今持っている銃剣一つで殺せる。

 逃げた部隊は別働隊が追っているので気にする必要は無い。

『じっくり楽しんで殺してあげるわ……』

 彼女の顔にはおよそ人間とは思えない程の凶悪な笑みが張り付いていた。


  ◆◆ ◆◆


「ハアッ、ハアッ……!! 何とか撒けたか……!?」

 進藤達は半壊した自軍の基地まで戻ってきていた。

 狭山は額の汗を拭いながら、進藤を急かす。

「すぐに少佐達を追うぞ!! こんなとこに居ればまたすぐ見付かっちまう!!」

「無理だよ……。まだこの近くに『自動鎧』はいる。このまま見付からずに少佐達と合流なんて出来るわけが無いよ……」少女が口を挟む。

「それでもッ……!! それでも逃げる以外に方法は無いんですよ!!」

 狭山は武器を背負い直しながら、

「進藤!! 早く少尉を!!」

 進藤を急かすが、彼は答えない。そして、進藤は重い口を開いた。

「……少尉の言うとおりだ。逃げた所で見付かってあっけなく殺されるのがオチだ……」

「じゃあ、どうすんだよ!?」

 進藤は一瞬何かを思案する様に壁に寄りかかり、下を向くと、迷わず言った。



「          」


  ◆◆ ◆◆


 それを聞いた狭山は進藤の胸ぐらを掴むと、噛みつくように言う。

「ふざけんな!! テメェさっき吹っ飛ばされた時にアタマでも打ったんじゃねぇのか!?」

「俺はふざけてるつもりは一切無い」

 進藤は狭山の手を引き剥がす。

「確かに普通なら俺達みたいな一般兵が万が一にも出来る事じゃない」

 進藤はそこで一呼吸置き、続ける。

「今はその『普通』の状況じゃあ無いんだよ。この基地にまだ『アレ』が残っていれば……出来る!!」

「普通じゃ無い……? アレ……? 一体どういう事だ?」

 狭山と少女が進藤の言った事の意味を分かりかねていると、

「今から手短に説明する。その前に狭山、C4はまだ残ってるな?」

「あ、あぁ……。まだ七、八キロぐらいは……」

「それだけあれば十分だ」

 進藤は狭山と少女を手招きすると、

「それじゃあ、説明するぞ……敵『自動鎧』から生き残る為の作戦を……これは俺達三人がいて初めて出来ることだ……!!」


  ◆◆ ◆◆


 狭山は雪の深く積もっている場所を選び、全身を潜り込ませ、匍匐前進で慎重に進んでいた。

 雪の冷たさが全身を余すこと無く刺すが、どこに『自動鎧』がいるか分からない以上、顔を出す訳にはいかない。

 狭山は進藤の言葉を頭の中で再生する。

『お前は直接「自動鎧」と戦う必要は無い。鎧とは俺一人で戦う。だから辺りに散らばっている敵兵が邪魔なんだ。お前はC4を色んな場所で爆発させて出来る限り敵兵の注意を引いてくれ』

(確かに……全てが進藤の思うように行けばあるいは……)

 狭山は一カ所目の爆弾を仕掛ける。

(けど、それを実行しようとすればお前は本当に一度『自動鎧』と真正面からやり合わなきゃならねぇ……。そんなことが……)


  ◆◆ ◆◆


 進藤と少女は基地の中――正確には少女の『自動鎧』の整備場に来ていた。

 進藤は半壊した整備場の中を走り回り、物色している。

「……何を探してるの?」少女が進藤に尋ねる。

「整備の時に『自動鎧』を支えたりする時に使うワイヤーです。それとまだ使えるクレーンアーム、最後に少尉がここに置いてきた『アレ』です」進藤は少女の問いに少し慌てた様な声で早口で返す。

「…………、」

 ――『アレ』。

 さっきも言っていたそれが何なのかを今の進藤の言葉で少女は理解した。

「……あなたのやりたい事は分かった。けどそれを使うことすら普通の人間じゃ無理なんだよ……」

「そんなことは百も承知です。だから『使えるように』『使える状況に』するんです」

 進藤は瓦礫の中から極太のワイヤーを引っ張り上げ、その近くに落ちていた『巨大な物体』を手の甲で叩いた。

 そして、目の前にいる少女に向かってまくしたてる。

「手伝って下さい、少尉!! もう時間がありません!! これは『自動鎧』を一番良く知っている者にしか頼めない事です!!」


  ◆◆ ◆◆


「これで最後だ!!」

 狭山は進藤から頼まれていた場所、六ヶ所全てに手持ちのC4を仕掛けた。

 狭山は手許の携帯端末に目をやる。

 作戦開始まで後三分、その間にC4の爆発圏から逃れなければ。

 狭山は元来た道を引き返す。

 爆弾から数百メートル離れた場所で立ち止まり、時間を確認する。

「後十五秒………………十……九……八……六……五……四……三……二……一ッ…………!!」



 直後、狭山は無線機のボタンを押し、一斉に電気信管に信号を送った。



「後は任せたぞ、進藤二等兵」




第六章 力無き者が見た夢


  ◆◆ ◆◆


 ドドドドドドオオオォォンッッッ!!!!!! と、腹に響くとてつもない轟音があちこちから聞こえてきた。

 敵軍アーマードの女は部下達に確認に行くよう連絡する。

『何かしらの罠の可能性もある。命が惜しければ油断するなよ』

『了解しました』

 部下からの返事を聞くと、彼女は日本軍のアーマードの捜索に戻る。

『(……十中八九さっきの兵士達によるものでしょうけど……、自分達が囮になってアーマードの女を逃がそうって魂胆かしら?)』

 そんな考えを巡らしていると、ふと何かが視界の端に映った。

 それに気付いた時には、すでに自分の鎧にミサイルが被弾し派手な音を響かせ、大爆発していた。

 が、もちろんそんなありふれた兵器では『自動鎧』はビクともしない。

 辺りの煙が晴れてきた所で彼女は弾の飛んできた方向に目を向ける。

 数百メートル離れた場所にロケットランチャーを担ぎ、全身を様々な兵装で覆い武装し、彼女を敵意剥き出しの視線で睨み付ける一人の兵士がたたずんでいた。

 その兵士は大きく息を吸うと、彼女に向け叫んだ。



「テメェの相手は俺だッ!!!! この鉄クズがあああぁぁッッッ!!!!!!」


  ◆◆ ◆◆


 断続的に爆音が鳴り続けている。

 三島少佐は一旦足を止め、遠くを見渡す。

 かなりの距離が開いているので輪郭すらまともに見えないが、それが何であるかは分かる。

「『自動鎧』……? しかし、何と戦っている……!?」

 と、三島少佐の無線に突然通信が入った。

『三島少佐!! こちら狭山二等兵!! 聞こえていますか!?』

「!! 狭山二等兵か!? この音は何だ!? 敵軍の鎧は一体誰と戦っているのだ!?」

『今、進藤二等兵が単独で「自動鎧」と交戦中です!!』

「なッ……!? 何を考えている!? まさかヤツは本気で一人で時間を稼ぐつもりなのか!?」

 噛みつくような三島少佐の問いに狭山は一瞬黙ると、小さな声で言った。

『……そんな生易しいモンじゃ無いッスよ。アイツがやろうとしてるのはもっととんでも無い事ッスよ……』

「とんでもない事……だと……?」

『そうです。アイツは……進藤は一人で……』


  ◆◆ ◆◆


 ――すでに人生最大のピンチというのを軽く二十回は経験したような気がする。

 進藤は苦笑いを浮かべながらライフルを撃つ。最早ここまで来ると、恐怖という感情すらどこかに行ってしまうらしい。

 そんなくだらない事を冷静に考える暇も無い。

 今、自分がいる場所は今まで経験した事も無いような正に地獄だ。

 なぜなら『自動鎧』が自分だけをターゲットに迫って来ているのだから。

 ドガガガガガガガガッッッッ!!!!!! と、大地を切り裂きながら目の前に巨大な刃が迫る。

「ああああぁぁぁぁッッッ!!!!!!」

 進藤は渾身の力で真横に飛び斬撃を回避、即座にスタングレネードを投げ付け爆発させる。

 直後、強烈な光と音が発せられ、相手の視覚及び、聴覚を潰す。

 普通なら――万全の『自動鎧』相手ならこんな姑息な手段は通じない。

 だが今は、今だけは普通では無い。

 少女が敵鎧の前面装甲を破壊した事により、敵鎧はセンサー類、その他の一部の機能を奪われている。

 だからこそ、この殺戮兵器を相手に進藤は生き延びている。

(威力はハンパじゃないが……損傷のせいで細かい狙いが付けにくくなっている!! スタングレネードも多少は効果ありだ!!)

 もちろん、進藤が戦えているのは『自動鎧』の損傷のおかげだけでは無い。

 ゴオオオッッ!!!! と、風を切りながら水平に刃がなぎ払われる。

(バカがッ……!!)進藤の口元が僅かにつり上がる。

 瞬間、ボゴオオオッッ!!!!!! と、『自動鎧』の真下の地面が埋められていたセンサー付きの対戦車地雷によって爆発した。

『……ッ!? 何ッ!!』

 強烈な爆風で僅かに軌道が逸れ、刃は進藤の腕を掠るだけに留まった。

 進藤の戦えている理由、そのもう一つは罠だ。

 自分の通る道のあらゆる場所にさっきの様にあらかじめ罠を仕掛けておいたのだ。

「ハアッ!! ハアッ!!」

 進藤は全力で走る。

 いくら小細工を施した所で相手は『自動鎧』、勝ち目など無い。

『調子に乗んじゃねぇぞ!! 一般兵の分際でえぇッ!!』

 ドバドバドバッッ!!!! と、爆音を響かせながら銃撃によって樹が薙ぎ倒され、大地が弾け飛ぶ。

「ッッッ!! ッッッッッッ!!」

 進藤に直撃寸前の所で巨大な銃弾がばらまかれる。

 ここまできて未だに進藤に攻撃が当たっていないのは奇跡以外の何物でも無いだろう。

(スタングレネードはッ……後……二つか!!)

 今は間髪入れずにスタングレネードで相手の感覚を潰し、狙いを付けにくくしているが、グレネードが無くなれば即座にその恩恵は失われてしまう。

 進藤は敵の斬撃を間一髪で回避し、スタングレネードを一つ投げつける。

 進藤は光で目をやられないようゴーグルを付けているのでそちらは大した事は無いが、

(くそったれが……!! 耳がもう限界だ!! 基地にはまだ着かないのか……!?)甲高い耳鳴りに顔をしかめながら、進藤はライフルを撃ちながらもさっと、一瞬後ろを見る。視線の先には半壊した自軍の基地が見えた。

(……基地だ!! よしッ!! もうすぐだ……!!)

『よそ見してんじゃねぇッ!!!!』

「ッ!!!?」

 敵鎧に視線を戻すと、ブアッ!! という風の音と共に敵鎧の銃剣が振り上げられる。

「ッッあああああああアアアアアぁぁぁぁッッッ!!!!」

 進藤は電気信管付きのC4を取り出すと同時に投げ、起爆させた。

 ボッゴオオオッッ!!!! と、爆音を撒き散らしC4が爆発する。

 進藤のちっぽけな身体はその凄まじい爆風に耐えられずに攻撃を避けると同時に真後ろに吹き飛び基地の残骸に激突した。

「ぐァああアアああああアアアアあああぁぁッッッ!!!!」

 本日二度目の激痛にのた打ち回りながらも進藤は基地の中に這いずる様にして入っていく。

「はぁッ……はぁッ!! もう少しッ!! もう少しだ!!」

 数秒程走った所で、突然進藤の真横の壁がバガアアアッッッ!!!! と一瞬で粉砕された。

「クソが……何でもアリだな……!!」

 土煙と共に敵の『自動鎧』が姿を現す。

『さっきの威勢はどうしたの日本兵? 逃げてばっかりじゃない?』

「俺の目的は少尉を無事に逃がす事なんでね。いいんだよ、逃げてばっかりでなッ!!」

 言い終わると同時、進藤はスタングレネードの最後の一つを取り出し、爆発させた。

『ッッッ!! テメェ、まだ隠し持ってやがったかあぁ!!』

 相手の怒声も完全に無視して進藤は駆け出す。

「はあッ!! ハアッ!! ハアッ!!!! ああッ!!!!!!」

 脚がとてつもなく重い。

 肺に空気を取り込めない。

 目が良く見えず、景色がぼやける。身体の震えが止まらない。

 それだけこの短時間に進藤は疲弊し、無意識下の恐怖と戦ってきた。

 最早限界はとっくに超えているハズだろう。

 それでも走る。

 生きるために。



 進藤勝真は持てる全ての力を使って全速力で走る。



 通路を右に曲がり、壊れかけのドアを蹴破って外に出るとすぐ近くの建物の階段を駆け上がる。

 そこで、



 ドパッッ!!!! と、進藤のすぐ後ろの階段がまとめて吹き飛ばされた。



「ッッッ!!!?」

 強烈な衝撃によって踏ん張りが効かなくなった所を、攻撃によって生じた凄まじい風で進藤の身体が中に投げ出された。

(ヤッ……ベェッ!!)

 進藤は下に落ちる瞬間、間一髪崩れかけの階段の手すりに掴まる。

 そして、その隙だらけの進藤に向け、一切の容赦無く銃剣が振られた。

 その瞬間、進藤は覚悟を決めた。

「うああアアぁぁッッ!!!!」

 進藤は歯を食いしばり、手すりから手を離し、およそ三階分の高さから飛び降りた。

 一瞬の判断だった為に体勢を整える事も出来ず、背中から硬い地面に落ち、強打する。

「がッ……はァぁッ!!」

 肺から空気が絞り出され、一瞬呼吸が出来なくなる。

 だが、それでもマシな方だっただろう。

 あの一撃が直撃していれば、進藤の身体など粉々に粉砕されていた。

 進藤は身体を起こすと、何も考えずに真横に走る。

 次の瞬間、進藤の左数センチの所を銃剣の強烈な突きが通過した。

 直後、建物の壁がボゴッッ!!!! と、音を立てて崩れ、直径三メートル程の大穴ができる。

 進藤は土煙に紛れ、建物の中に飛び込む。

 そう、



 自軍の『自動鎧』の整備場の中へ。



『ちょこまか逃げてんじゃねぇッ!!』

 敵鎧が進藤に迫る。

 しかし、彼の顔には恐怖では無く、笑みがあった。

「逃げてなんかねぇよ」

『あ?』

「おびき寄せたんだよ!!この場所になぁ!!」

 直後、ギャリリリィィッッ!!!! と、硬い金属同士がこすれ合う音がした。

『なッ!! これはッ!?』

 彼女が驚いた理由、それは、



「鎧整備用の極太ワイヤーだ」



 進藤は笑う。

『自動鎧』の全身に整備場のあらゆる場所に仕掛けておいたワイヤーが次々に絡みついていき鎧の動きを止める。

 だが、もちろんこんな物では大した足止めにはならない。

 進藤は同じくここに仕掛けておいたC4を煙幕代わりに起爆させ、整備場の奥に走る。

「おおおおおおッッ!!!!」

『舐めんなッ!!』

『自動鎧』が一瞬でワイヤーを引きちぎる。



 だが、進藤にはその一瞬の時間を稼げるだけで十分だった。



「間に合えッ!!」

 ズバッ!! と、『自動鎧』が爆煙を引き裂いて迫ってくる。

 進藤は数メートル先に垂れ下がっていた細いロープを見据え、地面を蹴り飛び付き、引っ張った。


  ◆◆ ◆◆


 その瞬間、敵軍アーマードの女は見た。

 煙が晴れ、彼女の眼前に瓦礫やワイヤーで地面に固定された巨大な物体が現れたのを。

 それは――それの正体は、



『自動鎧』の兵装である巨大なライフル――『大口径コイルガン』だ。



『ッッッッッッ!!!?』

 銃口が光った。

 その瞬間――。



「くたばれ、鉄クズが」



 ――あの日本兵の声が聞こえた気がした。

 直後、



 ドッッッッゴオオオオオオオォォォォッッッ!!!!!!!! と。

 大地を震わせる、とてつもなく重く巨大な轟音が広大な雪原に鳴り響いた。




終章 小さな『力』


  ◆◆ ◆◆


 耳鳴りがひどい。

 目や肌に焼け付く様な痛みが走る。



 だが、生きている。



 ガラガラと音を立てながら瓦礫をどかす。

 その中から進藤勝真は這い出てきた。

 その右手には千切れてボロボロになったロープが握られている。

 ゆっくりと聴覚と視覚が回復していく。

 辺りは、不気味なほど静かだった。

『自動鎧』の駆動する音は全く聞こえない。

 そう、



 勝ったのだ。『自動鎧』に。その国の技術の粋を集めて造られる殺戮兵器に生身の人間が勝利を収めたのだ。



 進藤は瓦礫の側面に寄りかかる。

 そしてあの一瞬の状況を脳内で再生する。

 進藤は最初から『自動鎧』を破壊するための準備を施した整備場の中に相手を誘導するためだけに戦い、逃げ回っていたのだ。

 彼はあらかじめ整備場の中に少女が出撃前、カタナとハンドガンの代わりにここに置いてきたライフルを設置しておいた。

 無論、進藤には『自動鎧』用に製造された銃の固い引き金を引くことは出来ない。

 だから彼は銃の引き金とまだ使えるクレーンアームの先端部をワイヤーで繋ぎ、クレーンアームを作動するためのスティックにロープをくくりつけ、ロープを引っ張るだけでクレーンアームが自動的に動き、ワイヤーで繋がれたライフルの引き金が引かれるように細工をしたのだ。



『自動鎧』用の『大口径コイルガン』を固定砲台として使う。



 それが進藤の考えだった。

 あれは分の悪い賭けだった。

 銃の弾道上に相手が突っ込んできてくれなければコイルガンを被弾させる事は出来ない。

 さらにゼロ距離で被弾させなければ一撃では仕留められない。

 途中で銃の存在に気付かれてしまえばそれまでだった。

 しかし、進藤はその賭けに勝った。

 運だけでは無い。

 徹底した作戦を即興で組み立て、たった一人で『自動鎧』に立ち向かう勇気。

 それが成功を後押ししたのだろう。

 恐らく、史上初の快挙を成し遂げたであろう少年はぼんやりとある場所を見据える。



 まだ、終わっていない。



 最後の仕上げが残っている。

 進藤はゆっくりと立ち上がり、足を引きずるようにしてある場所に向かっていく。

 そこには、全身が重度の火傷や骨折でズタボロになりながらも、かろうじて息をしている敵軍アーマードの姿があった。

 彼女は仰向けで地面に倒れ、苦痛に耐えるように涙を流している。

 戦闘中は姿を見る余裕も無かったが、今は違った。

 年は十代後半ほどだろう。

 進藤と同い年かそれよりも少し上。

 自分と同じ『子供』。



 だが、そこで躊躇う程進藤は聖人君子では無い。



 進藤は無表情で上着から取り出したモノを無造作に彼女の身体の上に投げ捨てた。



 ――電気信管付きのC4を。



 情けをかけるつもりなど毛頭無い。

 この女は戦争条約を無視し、日本軍の兵士達を無意味に何百人も殺した。

 そこに、進藤や狭山の友人が何人含まれていたかは分からない。

 進藤は数メートル程距離を取る。

 涙を流し、何かを必死に訴えかけているアーマードの女を一瞥すると、躊躇なく無線機のボタンを押し、起爆させた。


  ◆◆ ◆◆


 それから、しばらく経たない内に森の奥から複数の足音が聞こえてきた。

 敵軍の兵士達だ。

 当たり前だ。これだけの爆音を撒き散らしておいて来るなと言う方が無理がある。

「貴様ッ……よくも我等の『自動鎧』を……!! 覚悟は出来ているだろうな!?」

 敵兵の一人が進藤を睨み付ける。

 さっきの戦いの爆発で銃器は吹き飛び、壊れてしまった。仕掛けておいた罠も全て使い切った。

 応戦は出来ない。

 どの道、この人数相手に一人ではどうにもならない。

 少女や狭山、三島少佐達部隊の皆は無事に逃げ切れただろうか。

 進藤はこの作戦を考えついた時点で、自らの生還を諦めていた。

 それを狭山や少女には告げなかった。

 自分の為に駆けつけてくれた者。

 自分が守りたいと思った者。

 この二人を自分の為に死なせたくは無いと思った。

 進藤は降伏の意志を伝えるため、両手を挙げる。そんな事をしても射殺されるのがオチだとは分かっていたが。



「させない」



「「「!!!?」」」

 進藤を含む、この場に居る者全員が驚いた。

 突然進藤の後方から木の棒を杖代わりに歩み寄ってきて、彼の前に立ち、敵兵達に立ちふさがるようにして現れたのは、



「しょ……少尉……!! どうして……!?」



 少女は進藤の方に振り返り、僅かに笑みを浮かべる。

「私はこのまま生き残ってしまうより……あなたと一緒に死にたい……だから……」

「……クソッ……」

「えっ……?」

 進藤は吐き捨て、歯を食いしばる。

 たとえ、少女がどんな理由でここに飛び込んで来たのだとしても、これでは進藤の望んでいた『勝利』にはならない。



『「自動鎧」を破壊し、なおかつ少女の命を救う』



 それが進藤にとっての『勝利』。

 彼が望んだ結末。

「申し訳ありません」

 進藤は敵兵に背中を向けるようにして、少女を抱きしめる。

 せめて、銃弾から盾になるために。

「少尉の命、守り抜く事が出来ませんでした」

 進藤は少女をより一層強く抱きしめ、謝罪する。

 少女は進藤の胸に身体を預けるように寄りかかり、何かが満たされたような、そんな表情になる。

「私ね……今まで一度もこんな風に心配された事なんて無かった……誰かに守ってもらえた事なんて無かった。……私はもう……満足だから……だから最期はあなたが寂しくないように……私が一緒に死んであげたい……」

 少女の最期の言葉を聞き、その表情を見た進藤も不思議と安らかな気持ちになった。



『少女の命』は救えなかった。けど、自分は『少女』を救う事は出来たのだ。

 ――確かに、そう思う事が出来た。



「感謝します」

 進藤は率直に礼を言う。

「さて!! 別れの挨拶は済んだみてぇだな!! 感謝しろよ!! テメェらのくだらねぇ茶番にわざわざ付き合ってやったんだからなぁ!!」

 敵兵達が一斉に銃を構える。

 進藤と少女は目を瞑る。

 直後、



 ドバッッ!!!! と。

 半分近くの敵兵達が砲撃によってまとめて薙ぎ払われた。



「!!!!!?」

 死を覚悟した進藤と少女は突然、謎の砲撃によって助けられた。

 進藤は砲弾が飛んできた方向に目を向けた。

 そこには、砲弾を発射したであろう大量の戦車、そして進藤と同じ日本軍の制服を来た数百人の兵士達。

 その先頭に立つ三島少佐は大きく息を吸い込み、叫んだ。



「互いの『自動鎧』はすでに失われたッ!! ここからは我々の番だ!! あの根性の腐り切った連中に我等の大和魂を見せ付けてやれえぇッッ!!!!!!」



「「「おおおオオおおおおおおおおおオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおオオオぉぉォォォォォォォォォォォぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッッッ!!!!!!!!」」」

 ビリビリと響く音を鳴らせ、三島少佐の言葉に同意した日本軍の兵士達は一斉に敵兵達に突撃していく。

 進藤はその場に崩れ落ち、呆然とその光景を眺めていた。

 少女も同様である。

 これは夢か? そう疑いたくなる状況だった。

 一度は少女を見捨て、撤退した彼らが戻ってきた。

 死を、全てを覚悟した進藤達の前に戻ってきた。



「いやぁ……苦労したぜ。少佐達説得すんの」



 いつの間にか狭山が進藤の横に現れ、頭を掻いていた。

「狭山……これは?」

「見ての通りだよ。皆戻ってきたんだよ、お前を助ける為に。一人で勝手に格好良く死のうとしやがって、俺がお前の考えに気付かないとでも思ったか? 俺とお前が一体何年の付き合いだと思ってやがる?」

「狭山……」

「それにしても!!」

 狭山は進藤の頭を右手で掴む。痛がる進藤を無視して言う。

「まさか、本当に『自動鎧』を破壊しちまうなんてよ!! あん時マジでアタマおかしくなっちまったのかと思ったぜ!! お前が『自動鎧』を破壊するなんて言い出すモンだったからな!!」

「二人のおかげだよ……。狭山が敵を引き付けて少尉がコイルガンの使い方を教えてくれなきゃ俺は勝てなかった」

 進藤は自嘲気味に言う。

 だが、それは事実だ。

 現に進藤一人の力ではあの兵器相手に勝つことは出来なかった。

 そして今、三島少佐達が来なければ進藤と少女は敵兵に蜂の巣にされていた。

 進藤は顔を上げる。

 戦う覚悟を決めた日本兵達は『自動鎧』が破壊されパニックに陥った敵軍を容赦なく追い詰めていく。

「……ハハッ!」

 進藤は小さく笑う。

『自動鎧』のような大きな力では無い。

 進藤、狭山、アーマードの少女、三島少佐、日本軍の兵士達、彼らの持つ小さな力、その一つ一つが組み合わさり、この結果を生み出した。

 誰かが不幸になる必要の無いこの最高の未来を。

「さーて、俺もそろそろ加勢するか!!」

 狭山が拳銃を構える。

「後は二人っきり、水入らずでなー!! ハハハハハッ!!」

 適当な冗談を言いながら狭山は敵兵達に突撃していく。

 進藤は狭山に向かって一通り罵声を浴びせた後、少女の方に向き直った。

 そして、あることに気付いた。

 自分は、そして恐らく向こうも、共に死地をくぐり抜けたお互いの名前を知らない事に。

 一段落して、余裕が出来た事で少女の方もそれに気付いたのだろう。

 お互い、顔を見合わせると笑い合う。

「改めて!! 俺は進藤勝真、階級は二等兵です 」

「私は美園凪紗(みその・なぎさ)、日本軍アーマード、階級は少尉だよ」

 握手を交わし、遅れまくった自己紹介を終わらせる。少女――凪紗は進藤を指さすと、

「それと、これは上官命令だよ!! これから私と話す時は敬語禁止!!」

「へ?」

「あっ、後呼び方も少尉とか堅苦しいの無しで名前で呼んでね!! 私も勝真って呼ぶからさ!!」

 何か彼女のテンションがみるみる上がって別人みたいになっていく。

 普段、進藤が知っている彼女からは考えられない程の明るさ。

 生き残った事で一時的に気分が高まっているのか、あるいはこれが本来の彼女の性格なのか。

 答えがどちらだろうが一つだけ言える事がある。



 凪紗のその無邪気な笑顔は進藤のハートを完全に射抜くには十分過ぎる破壊力があったという事だけだ。



 進藤は即座に凪紗から顔をそらすと、弱々しい声で一言。

「考えときます……」

 直後、機嫌を悪くした凪紗のパンチが進藤の腹にめり込んだ。


  ◆◆ ◆◆


 それから二日もかからない内に、通信が途絶えたのを不審に思った上層部が応援部隊(進藤達にとっては豪雪地帯から助け出してくれる救助部隊)が駆け付け、進藤達の部隊、及び敵兵達(捕虜)は無事に回収された。

 多数のヘリの内の一台に乗っているのは進藤、狭山、凪紗、そして三島少佐だ。

 狭山は折れた腕に巻き付いているギプスをいじくりながら言う。

「そういやさあ、別の部隊の奴らから聞いたんだけど少尉の『自動鎧』壊れちまったからさ、新しいの出来るまでの一カ月間休暇貰えるみたいだぜ!!」

「まあ、どの道貴様は腕が治るまでは戦線には出られないがな。それに最低限の訓練はある。もちろん狭山、貴様もそれには参加だ」

 えーそりゃないッスよー!! 貴様何だその口の聞き方は!? などと狭山と三島少佐が言い合っているのをぼんやり見ていると隣から凪紗に声をかけられた。

「何か考えごと? 勝真」

「いや……ちょっと……な」

 進藤はほんの少し言い淀み、凪紗の方を向くと改めて言った。

「凪紗は基地の裏で俺と話していた時、言ったよな。『自分の鎧は時代遅れ、だからもう戦えないかもしれない』ってさ」

「うん……」



「だったら、これから俺が一緒に戦ってやる」



 ――それは、進藤の決意だった。

「守ってやる、なんて立派な事は言えないけどさ、今回の事で気がついたんだ。人間は無力じゃない。どんなに小さくても皆『力』を持ってる。単なる時間稼ぎじゃない。それが合わされば『自動鎧』だって破壊できる」

 進藤は凪紗に向かって笑いかける。

「もう、一人では戦わせない。いつでも俺を、部隊の皆を頼ってくれ」

 進藤が言うと、近くで言い争っていた狭山と三島少佐も凪紗の方を向いて力強く頷いた。


「うんっ、皆ありがとう!!」


 凪紗がとびっきりの笑顔で応じた。進藤も彼女に笑いかける。

 進藤は外を見据える。

 もうすぐ、進藤達の部隊の本部がある『不可侵領』東京に着く頃だ。

 さて、凪紗との約束を果たす前に、



 まずはどうやって軍法裁判を切り抜けるかだ。




                          (終わり)

 最後まで読んでいただきありがとうございます!!


 このサイトの作品は個人的にファンタジー系の作品が多いように感じたので、こんな感じの作品があってもいいかなー? と思って書きました。


 小説を書くのは初めてなので所々意味の分からん言い回しとかもあったと思いますが、どうぞ多めにみてください(笑)


 ちなみにこれ連載って事にしてますけど一人も読んでる人いなければ違う作品書くつもりです(つまり、読んだらだれか感想ください)。まあ、今あとがき読んでるって事は少なくとも誰かがこの作品を読んでくれたって事なんですけどね。


 それでは今回はこの辺りで切り上げさせてもらいます。


 なるべく早く次回の話も書き上げますので、よろしくお願いします。



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