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最強の傭兵、ハメられて侯爵令嬢の護衛になる  作者: 嵐山田


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第21話 気付き

 パーティー会場でルデロによる演説が始まる少し前――。

 

「さて、何事もなければいいがな……」


 俺は会場となっている部屋へと続く一本道をゆっくりと行ったり来たりしながら中の気配を窺っていた。会場となっている部屋はルデロの元へ挨拶に行った時以上に広い、ホールなどと呼ばれる部屋らしい。もはや部屋なのだろうかと、思ってしまうのは俺の貴族従者歴が短いが故なのだろうか?

 

 なんて話はさておき、会場内からはイシス嬢やユミアの気配はしっかりと感じ取れているし、何か明確に敵対的な気配を感じる訳ではない。

 だが、何か。

 何かが妙に引っかかっている気がしてならない。


「あの、ルデロとか言う野郎……気持ちが悪い以外に何か、何かがおかしかった気がする。……なんだこの感じ」


 知っているようで、知らないような……慣れ親しんだ感覚とはまるで違う、だが、警戒すべきと思わされる感覚が脳内をグルグルとめぐっている。


「ああ、クソッ! なんで俺は賢くねぇんだ!」


 小声で悪態をついて見た所で、現状は変わらない……が、何やらパーティー会場には変化があったようだ。

 パチッという音が響き、室内が暗闇に包まれる。

 光を入らないようにするためか、俺の居る廊下の明かりも消えた。


「……何事だ?」


 急ぎ会場へ駆けよれば、同じように異変に気が付いた他の招待客の使用人たちも続々と集まってくる。


「おい! これは一体――」


 会場の入り口に立っているアラゴン家の使用人に、そのうちの一人が詰め寄ろうとした時だった。

 会場の上部に設置された窓から、一筋の強い光がこぼれる。


「申し訳ございません皆様。ですが、ご心配には及びません。こちらはルデロ様による余興の一環でして――」


 そんな一瞬の静まりを利用してアラゴン家の使用人が状況説明を聞かせて来た。


 なるほど、どうやらこの暗闇は意図的に作られた物らしい。

 こんな説明をギリギリになってするくらいなら開始前に俺たちには言い含めておくくらいのことはした方がいいんじゃないか? とも思うが、またそれは貴族的な考えとの差異なのだろう。

 

 まあ、なんにせよ、この光が意図したものであるならば会場内で照らされているのはおそらくルデロだろう。


 俺はたくさんの従者たちで騒々しい入り口付近から離れ、会場内を窺う。

 さすがの俺とて一度の接触では相手の気配を覚えきるのは難しいが、この状況下なら……。


 壁にもたれるようにしながら、意識を集中させてみれば………………捉えた!

 間違いない、これがルデロ・アラゴンの気配、よし、これでイシス嬢に近づこうとしてもすぐに気付くことが……ん?


 改めてルデロ・アラゴンの気配を察知して、万が一に備えようとした俺の感覚に、妙な気配が触れた。


「この感覚……どこかで」


 それはおそらく先ほどまで感じていた妙な引っ掛かりの答え。

 ……まさか?


 確証はどこにもない。

 確かめる手段もどこにもない。

 だが、あり得るのかもしれない。


 マクスフーの言葉が蘇ってくる。


『どうやら()()()()()はやべぇことを企ててるかもしれないんだよ!』


 アラゴン家……あいつはルデロではなく、アラゴン家と言っていた。

 俺はイシス嬢にあったことのヘイトから、アラゴン家イコールルデロになっていたが、世間的に見れば、レティシア家の象徴がディアン様であるように、アラゴン家を指す人物も当主の可能性だってある。


「……どうすりゃいい?」


 俺の感覚が捉えた違和感。

 それは、ルデロ・アラゴンの気配に混ざった、『精神を意のままに操る魔道具』の気配だった。


 ◇◇◇


 パーティー会場では、ルデロ・アラゴンによる演説が続いていた。


 しかし、その内容と言えばアラゴン家の栄華と自身の自慢ばかり。

 最初こそ参加者へ向けた挨拶だったものの、蓋を開けてみれば()()と一切変わりようの無い姿があるのみ。

 そんな演説に思わず嘆息しそうになるイシスはふと、去年よりもさらに昔のことを思いだしていた。


 その昔から、確かにルデロ・アラゴンは厄介な男だった。

 幼い頃よりイシスへ執拗に婚約を迫り続け、断っても断っても何かにつけて婚約を申し込んでくるような面倒極まりない男だ。


 だが、しつこくても実力行使に出てくるような性格ではなかった。

 トラウマから彼関係の事柄を思い返すことを避けていたが、確かに面倒な面ばかりが先行して見える人間だったが、同じ学園へ通っていても婚約を迫る彼の手段は基本的に手紙だった。

 偶にすれ違えば直接言われることもあったが、周りの友人や私の顔色を見て、退くことを弁えてもいる性格だったはずだ。


 だから、イシスも去年の誕生日には特に警戒することなく、アラゴン領へやって来ていたし、生誕祭にも参加していた。

 また婚約を迫られても、いつも通りにそれとなく拒否すればいいと考えて。

 

 だが、結末は予想外のものになった。

 それまでのルデロらしくない強引さ、感じたことのない恐怖感、実力では劣らないはずの相手から感じる、別人のような威圧感、それらすべてがイシスのトラウマとなった。


 イシスの父であるディアンやイシスの母はルデロ・アラゴンと関わった試しはほとんどない。

 だから、イシスや使用人から受けた状況説明で事態を知り、ルデロ・アラゴンのことを毛嫌いするようになったはずだが、以前のルデロを知っているイシスからしてみると、あの日は何かがおかしかった気がする。


「……本当にルデロ様なのでしょうか?」


 声にはならない、心の内での呟き。

 だが、それを意識した瞬間から、イシスの疑問は次第に膨らんでいく。

 

 そんな時だった。


「……と、ここで改めて皆に証人となって貰いたい事項があるのだ。明かりを」


 意気揚々と演説をしていたルデロが使用人へ指示を出すと、スポットライトが落とされ、それに代わるように会場中へ明かりが戻った。


 ルデロは壇上から降り、視界に一人の少女だけを収め、彼女を目掛けてゆっくりと近づいてくる。

 おのずと会場の興味はルデロに集まり、ルデロは彼女の元へと辿り着くと――


「イシス・レティシア、どうか僕と婚約を結んではくれないだろうか?」


 跪くでも、贈り物を渡すでもなく、まるで応えるのが当然とでも言うかのようにイシスへ婚約を迫った。


「「「「おおぉっ!!!」」」」


 周囲からは興味と関心の混ざった声があげられ、好奇の視線に晒される。

 普通の令嬢ならば、この状況は応えざるを得ない雰囲気。

 公爵家次期当主からの婚約はいくら侯爵の身分があるイシスでも否を突きつけることは難しい。

 特にこの衆人環視の中では。


 だが、その瞬間にイシスは確信していた。

 ルデロ・アラゴンは確かにしつこく、厄介で面倒極まりない男だが、このように逃げ場を無くす形で婚約を迫るような男ではなかった。

 つまり、今のルデロ・アラゴンは何か普通ではない状態に置かれている、と。

 根拠のない確信だが、イシスは自身の人を見る目に自信を持っている。


 視界の端ではユミアの拳が今にもルデロを殴り飛ばさんと震えている。

 しかし、そうと分かれば怖いものはない。

 

 イシスはそんなユミアを手で制しながら、心の中でセルセトに貰った魔法を唱える。


誓い(サイン)

 

 声に出さなければ、魔法は発動しない。

 それはセルセトからも言い含められているし、自身も心奪の魔法の使い手であるがゆえに理解している。

 だが、魔法的な力は発揮せずとも、その魔法はイシスを奮い立たせるには十分だった。


 


「分かりました。ですが、一つだけ条件がありますわ」


 もう、怯えない。

 私は王国最大にして最強の武門レティシア家が長女イシス・レティシア。

 自分の力でこのトラウマを乗り越えて見せますわ!


「条件?」


「はい。差し出がましいことは重々承知の上ですが、現状レティシア家の継承権を持っているのは私です。そんな私がルデロ様に嫁ぐには少々厳しい条件があるのです」


「なるほど? 言ってみてくれ」


 いつもとは違う私の反応にルデロ様は好感触を抱いたのか、気を悪くした様子もなく続きを促してくる。


「条件は単純明快ですわ。私が婚約者に求めるのは自分より強いものであること。ルデロ様、剣の心得はお有りでしたよね?」


「ああ、無論だ」


「なれば、私と一つ、勝負をしてはいただけないでしょうか? 私が敗北したあかつきにはルデロ様の元へ嫁がせていただくことをお約束いたしますわ」


 隣ではミレーネさんが信じられないという顔をしている。

 でも、これでいい。

 計画とは少し違ってしまったけれど、着地点は同じです。


「ほう? なるほど。だが、その恰好では些か動きづらいのではないか? しかし、僕としては今すぐに返事が欲しいのだが……」


 ルデロ様は舐め回すような視線で私を見つめながら、そんなことを言ってくる。

 おそらく、自分が勝った後にドレス姿の令嬢に勝ったからなんだ、といちゃもんをつけられるのを事前に防ごうという策略でしょう。

 ですが……


「恰好は問題ありませんわ。武門レティシア家の娘として、勝負ごとの結末に文句を付けることはないとお約束いたします!」


 セルセトに指南を受けた私の剣が負けるはずはありませんわ!


「「「「おおぉっ!!!!」」」」


 今日が年齢の近い者同士で集まるパーティーで良かったですわ。

 この盛り上がりはおそらく年齢が近いからこそのもの。

 大人の中では通用しない条件だったかもしれません。


 再びルデロ様へ注目が集まる。

 断れない雰囲気とは私にとってのものでもあり、はたまたそれはルデロ様にとっても同じことなのです。


「よし、分かった。その勝負、このルデロ・アラゴンが受けてたとう! 僕は君に勝利し、婚約者の座を手に入れる!」


 ルデロ様がそう宣言すれば、調子のいい者たちは囃し立て、いつの間にかテーブルなどが片付けられていく。

 どうやら、移動することなくこの会場内で剣を交えることになる様ですわね。


「イシス、大丈夫なのですか? それにアラゴン家には黒い噂も……」


 心配そうな表情で私に耳打ちをしてくれるミレーネ。

 その心遣いが今は凄く嬉しい、けれど――。


「はい、大丈夫ですわ。私にはこの戦いで乗り越えなくてはならないものがありますの」


 これからの私のために、いくら止められてもこれだけはやり遂げます。

 

「……? そう、ですか。怪我だけはしないでくださいね」


「はい」


 私の決意が伝わったのか、それとも別の理由かは分かりません。

 でも、ミレーネは見送ってくれるようでした。


「お嬢様、こちらを」


 ユミアが魔法収納をこちらに向けて差し出してくる。

 私はその上に手をかざし、中から愛剣を取り出すと、ルデロ様の待つ会場の中央へ向けて一歩、足を踏み出した。


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