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最強の傭兵、ハメられて侯爵令嬢の護衛になる  作者: 嵐山田


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第12話 嫌な気配

 だいぶ夜も更けて来た頃合い。

 まだ、パーティーまでは一日あるため、イシス嬢の提案で眠くなるまで俺の話を聞かせることになった。


「そう言えば、セルセトは普段はどんな武器を使われるのですか? 剣も素晴らしい腕ですが、恐らく主武器ではありませんよね?」


 身体を冷やさないようにとユミアが淹れてくれた紅茶を飲みながら、ソファにそれぞれ腰かけて向かい合う。

 紅茶なんて生まれてこの方、まともに飲んだことはなかったが、中々香り高くて美味かった。


「ああ、そうだな。俺の主武器はこれだ」


 そう言いながら俺は腰のベルトにぶら下げているミニチュアのような斧を手に載せて見せる。


「マジックウェポンですか!?」


 すると、目を輝かせたイシス嬢が身を乗り出して聞いてきた。


「ああ、実際は俺の身体くらいデカい戦斧にすることも出来る」


 マジックウェポンとは……仕組みは良く知らないが持ち運びがしやすいようにサイズの変更や重量を軽くしたりできる魔道具の一種だ。

 傭兵たちはこれを使って手札をギリギリまで隠しながら殺し合いをする。

 武器の相性差次第では一撃死の可能性もある文字通りの切り札だった。

 さらに、魔道具と言うことで殺した相手のマジックウェポンを奪って売り払うことで臨時収入にしている奴らもいた。

 俺のこれも奪ったわけではないが人からのもらい物だ。

 ちなみにお高く留まった騎士様方は手札を隠すのは卑劣だと言ってマジックウェポンを好まない。

 だからイシス嬢も見たことがなかったのだろう。


「……と言うことはセルセトは、魔法が使えるのですか?」


「いや、俺は魔法は使えない。けど一応魔力の存在自体は意識すればわかるからな。サイズの可変くらいなら出来るんだ。まあ、これも魔道具だからな。イシス嬢にだって使えると思うぞ」


 魔法使いと魔力がわかる者は一括りにされがちだが、実際はかなり違う。

 俺も詳しいことは知らないが、魔法は魔力を別の物に変える力、それに対して俺は魔力をそのまま動かせるって言うのが俺の感覚だ。

 ちなみに魔法使いは国中を探してもほとんど見つからない。

 戦争に出て来れば、一人で戦況をひっくり返せると聞くが、俺の居た戦場では少なくとも魔法使いを見たことはなかった。


「流石に魔法が使えれば傭兵をしている訳はありませんよお嬢様。魔法使いとなれば、それだけで貴族と同等かそれ以上の待遇を受けることが出来ますから。まあ、その分自由を制限されることにはなるのでしょうが……」


「……そう、ですわね」


 イシス嬢の顔に少しの影が差す。

 

「お嬢様? そろそろお休みなさいますか?」


 そんな姿を見かねて、ユミアが提案した。


「……もっとたくさんセルセトの話を聞いてみたいですわ」


 だが、イシス嬢は頑なに眠りに着こうとしない。

 

 ああ、そう言うことか。

 珍しく頑固な様子のイシス嬢を見て、俺は一人、納得していた。

 

 さっきユミアも言っていたが、イシス嬢は人を感じなくなることに恐怖を覚えているのかもしれない。

 ユミアの話では一人になることを怖がっていると言っていたが、恐らくそれは半分正解で半分は間違いだ。

 きっと彼女は隣に人がいようが、その相手が常に自分の味方であるという実感が欲しいのだろう。


 実家ではご両親と言う無条件で味方になってくれる存在がおり、ここまでの道中ではユミアや俺、他の侍従などできっと何とか耐えて来た。

 だが、このアラゴン領と言う土地のトラウマの影響で、何とか耐えていた恐怖が許容限界を超えてしまったという所だろうか。


 トラウマからくる精神的な影響と言うのは馬鹿に出来ない。

 戦場で悲惨な光景を前にした結果、誰よりも戦闘狂だと思われていた奴が剣を見るたびに震えるようになったり、悲鳴が頭を離れずに眠れなくなるという話は実際によく聞く話だった。


 特にイシス嬢のように普段は天真爛漫に振る舞っている人ほど、抱えるものが大きくなりやすい。

 そう言う人は強がりが得意なのだ。


「んじゃ、横になって話すか。どうせベッドも並んでるんだ。いいだろ?」


 確認するようにユミアに視線を向けると何故か彼女は頭を抑えるような仕草をしている。

 だが、イシス嬢は目を燦々と輝かせていた。


「横になってお喋り! やってみたいですわ!」


「なんだ? 初めてなのか?」


「はい! 私は幼い頃から一人の部屋で眠っていましたので……ユミアや他の侍従の方に傍に居てもらうことはあっても皆で横になってと言う経験はありませんわ!」


 少しはしたないかもしれませんが、と言いながらも顔をほころばせる様子にユミアもノーと言えるはずもなく……。


「行きましょう! セルセト! ユミア!」


 イシス嬢は俺たちの手を引いて寝室へと足取り軽く向かうのだった。


 ◇◇◇


「……それで、次に行った領地だが」


「セルセト……さん」


「ん?」


「お嬢様がお休みなさいました」


「……そうか」


 寝室に入り、部屋の奥からイシス嬢、ユミア、俺の順番(イシス嬢がベッドを一つ、ユミアと俺で6:4くらい)で並び、俺が傭兵として訪れたことのある領地について話しているとユミアがそう伝えて来た。


 少しだけ身体を起こしてイシス嬢の方を見れば、一人でダブルサイズ以上のベッドを使っていると言うのに、その大半を持て余すようにこちらへ身体を寄せていた。


「……な、なぁ、セルセト……さん」


 そんなイシス嬢の様子に思わず苦笑いを浮かべていれば、もぞもぞと体勢を変えてこちらを向いたユミアが遠慮がちに話しかけてくる。


「敬称はいらねぇよ。知らない仲でもないんだ」


「……分かった。……それで、なのだが……」


 もにょもにょと口先で呟かれる言葉はイシス嬢への配慮もあってかかなり聞き取り辛い。


「なんだ?」


 そのため聞き取りやすいようにユミアの方へスッと身体を寄せる。

 すると、ユミアが絵に描いたようにビクンと身体を震わせた。


「――っ! いや、その……馬車ではあんなことを言ってしまったが……」


 近づいたのに、それに反比例するように小さくなっていくユミアの声。

 だが、これ以上は流石に護衛同士の距離感ではなくなってしまう。

 無論、そんなつもりではないのだが……。


「セル……セトには……本当に、かんし……」


 ユミアが小声で何かを言いかけた時だった。


「――!」


 俺の中の警戒線に何かが触れた気がして飛び起きる。


「セルセト……?」


「ユミア、よく聞け。多分敵だ」


 イシス嬢の睡眠だけは妨害しないように細心の注意を払いながら、簡潔にユミアに告げる。


「なにっ――!」


 その瞬間、スイッチを切り替えたユミアもその気配を察したようで、先ほどまでの照れたような恥ずかしそうな顔からは一変。

 専属メイドのユミアとしての表情になる。


「ユミア、お前はここでイシス嬢に万一がないように警戒しろ。外には俺が行ってくる」


「……ああ、それが最善だろう。任せるぞ」


「ああ、それが俺の仕事だからな。お前はしっかりイシス嬢のこと頼むぜ?」


「当然だ」


 流石は元騎士。

 急な状況変化にも動じない姿勢は戦場でも評価できる点だ。


「だが、なるべく早く、血を流さずに戻れ……いや、戻ってくれ。セルセトに何かあれば、お嬢様が悲しまれる………………それに私も」

「誰に物を言ってるんだ? 俺は悪名高い戦場の殺戮者だぜ? 余計な心配はいらねぇよ……ん? なんか言ったか?」


「……さっさと行け!」


 何故か急に怒りだしたユミアに寝室を任せ、俺は敢えて寝巻のまま、極力音を立てないように部屋を出た。


 侍従はもちろん、この宿で働く従業員の気配は一通り覚えてある。

 だから今、外からこちらを窺っているこの気配が間違いなく味方でないことは明白だった。


「さて、ある意味初仕事だな。……誰かのために働くってのも意外と悪くない感覚だ」


 俺は宿の外の厠へ行くフリをしながら、内心で闘志を昂らせる。

 この仕事に就いてからと言うもの、相手にするのは騎士団の連中くらい。

 イシス嬢とはほぼ毎日のように剣を打ち合っていたが、それはあくまで訓練相手としてだ。


 本物の戦闘からこんなに離れていたのは人生でも初めてと言っていい。


「少しは骨のある相手だと良いんだがな」


 厠の前に来たところで気配を殺し、俺は大きく跳び上がる。

 

 夜空には高く上った月が今日の標的を照らしていた。

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