第8章 決着
夜の路地。
空気が、張り詰める。
真壁の視線は——
完全に陽菜を捉えていた。
「……やめろ」
一歩、前に出る。
「そいつには関係ねえ」
「関係あるだろ」
低い声。
「お前を変えた原因だ」
言い返せない。
でも——
「……違う」
静かに言う。
「俺が選んだ」
真壁の眉が、わずかに動く。
「守るって、決めたのは俺だ」
沈黙。
その一瞬で——
真壁が動く。
一直線。
陽菜へ。
「っ!!」
間に入る。
衝撃。
ドンッ——!!
体が吹き飛ぶ。
地面に叩きつけられる。
息が、詰まる。
「……っ、は……」
視界が揺れる。
それでも、立ち上がる。
「……まだかよ」
真壁の声。
「どこまで甘いんだ」
「……甘くていい」
息を整えながら、言う。
「それで守れるならな」
一歩、踏み出す。
もう逃げない。
「……来いよ」
今度は、こっちから。
真壁の目が細くなる。
「……やっとか」
ぶつかる。
拳と拳。
鈍い音。
痛み。
でも——止まらない。
一撃。
二撃。
三撃。
互いに、引かない。
昔と同じ戦い。
違うのは——
理由。
「なんでだ!!」
真壁が叫ぶ。
「なんでそんな顔できんだよ!!」
拳を振るう。
受ける。
「……知らねえよ」
息が乱れる。
「でも——」
拳を握る。
「守りたいって思ったんだよ!!」
振り抜く。
当たる。
真壁の体が、揺れる。
初めての、手応え。
静寂。
数秒の沈黙。
真壁は、ゆっくりと立ち直る。
「……そうかよ」
その声は——
少しだけ、軽かった。
「やっと……戻ってきたな」
「……は?」
意味がわからない。
だが——
真壁は、構えを解く。
「……もういい」
「……終わりだ」
警戒する。
罠かもしれない。
だが——
その目に、さっきの殺気はなかった。
「……なんでだ」
思わず聞く。
真壁は、少しだけ笑う。
「お前さ」
「ちゃんと選んだんだな」
夜風が吹く。
「昔のお前は——何も選んでなかった」
その言葉が、刺さる。
「流されて、戦って、壊して」
「でも今は違う」
真壁は背を向ける。
「……気に食わねえけどな」
歩き出す。
「それでいいんだろ」
止めない。
止める理由も、ない。
「……真壁」
呼ぶ。
少しだけ、立ち止まる。
「……ありがとな」
沈黙。
「……うるせえ」
それだけ言って、去っていく。
完全に、姿が消える。
静けさが戻る。
力が抜ける。
その場に、座り込む。
「……はあ……」
「大丈夫ですか!!」
陽菜が駆け寄ってくる。
「……ああ」
笑う。
自然に。
「終わったよ」
陽菜の目に、涙が浮かぶ。
「……よかった」
その声は、震えていた。
しばらく、何も言わない。
ただ——
同じ空気を吸う。
生きている実感。
「……なあ」
「はい」
「約束、守れたな」
陽菜は、強くうなずく。
「……はい」
その瞬間——
自然に、体が動いた。
抱きしめる。
強く。
もう、離さないように。
陽菜も、そっと抱き返す。
夜の中で。
二人だけの、静かな時間。
戦いは終わった。
でも——
物語は、ここから続いていく。




