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コディの泉  作者: 天猫紅楼
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救出! コディ、生きろ!!

  幸運なことに、その夜の広間の警護はロックスの役目だった。

  もう1人の同僚は今、ロックスの足元に眠っている。

  その手には飲みかけのコップが指に引っかかっている。

「よく効くな、この睡眠薬」

  そう呟くロックスに近づく影があった。

  シーノだ。

「早めにな」

  余裕気に言うロックスの言葉にうなづくと、スルリと広間へと入った。

 

 

  灯りが点いているわけでもなかったが、窓から差し込む月明かりのおかげで充分な視界は開けている。

  シーノは見上げた。

  天井近くまで吊り上げられている鉄の鳥かごに向かって、トンッとジャンプすると、フワンッと鉄かごにつかまった。

  かごが大きく揺れ、ジャリジャリンッと南京錠が硬い音を立てる。

  驚いているコディに声をかけた。

「コディ! 大丈夫か?」

≪あ……シーノ……≫

  その姿を間近で見て、シーノは息を飲んだ。

  見るからに昨日よりも衰弱している姿は、月光の中でも容易にわかる。

  コディを気遣いながら、シーノは慣れた指先で細い棒を使って南京錠を開けた。

 

  ガチャン、ゴン!

 

  もはや気づかれても構わない程の音をさせて南京錠を下に落とすと、ガチャンッと扉を開いた。

 

「さ、コディ!」

 

  シーノが差し出した手に、弱々しいコディの手が近づいた。 次の瞬間ー

 

 

  シーノとコディのカラダは宙を飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  広間の窓から月光に導かれるように外へ飛び出したシーノは、コディを背負って森へと走った。

  走りながら、シーノはコディに聞いた。

「なんで逃げないんだよ? チャンスはあったろ?」

≪苦手なんだ……≫

  弱い声でコディは答えた。

「え? 何が苦手だって?」

≪鉄とかいう、人間が作ったもの……は、簡単にモリを傷つける……≫

「んな大事なこと、早く言えって!」

  悪いのは自分だと分かってはいたが、憎まれ口を叩くのがいつもの二人の会話。 自然とそんな言葉が出てしまった。

  だが、コディからはいつもの突っ返しがない。

 

 

  ザンッと森の中に入ると、コディはシーノの背で言った。

≪カカのとこへ……≫

「カカ? ってどこにいるんだ?」

  コディは前方を指差した。 もう声を出すのもつらいのだ。

「案内しろよ、連れてってやるから!」

  シーノは全速力で木の間を駆け抜けた。

  残してきたロックスはなんとかやっているだろう。 心配ない。 信用できる相棒だ。 今はコディの事だけを考えることにしよう。

  走るうち、背中のコディの気配が薄れていく感触に襲われ、シーノは必死に励まし続けた。

 

 

「!」

  突然、シーノの足が止まった。

  目の前に巨木が現れたからだ。

  以前見たババの木とはまた違った太くたくましい幹が、月光に照らされて妖艶に輝きを放っている。

  驚いて声にもならないシーノの背で、コディは顔を上げた。

 

≪カカ……≫

「え、じゃあ、これが、カカ……の木……?」

 

  不思議なことに、ババの木から感じられた威圧感がまったくない。

  優しい空気が辺りを漂っている。

  シーノは、コディの指差した方を見た。

  カカの木の根っこに、小さなくぼみが見えた。

  吸い寄せられるように、コディをそこへ座らせた。

  衰弱してクタンとなっているカラダが、すっぽりとそこに包まれた。

  何故かシーノには、その根っこが柔らかくコディの体を受け入れたように見えた。

  コディは弱々しく顔を上げ、シーノに言った。

≪……ありがとう……≫

  シーノはコディの前に膝まづくと、その顔を覗きこんだ。

「コディ……すまない……」

  かすかに微笑みを返したように見えた。 その肢体はもう力なくカカの木の根に全てを預けているようだ。 柔らかな前髪が風にそよいでいる。

 

「……」

  シーノはそっと立ち上がり、カカの木を見上げた。

「カカの木……すまなかった。 こうなったのは俺の性だ。 反省してる。 もう、コディ……いや、コダマをつらい目に合わせないと約束する。」

  そして眠るようにうなだれているコディを見た。

「守ると、約束する」

  再び見上げたカカの木は何も言わず、ただ月光に照らされ、シーノを静かに見下ろしている。

  シーノは少し唇を噛むと、その場を離れた。

 

 

  残していくコディは心配だったが、きっと森に帰った方が幸せだと思った。

  振り返ることなく、シーノは城へ向かった。

  もうコディに会えないとしても仕方ない。

  そして、森から何か罰が下るのなら、受け入れなくてはならないだろう。

 

 

  どこを走っていたのか……シーノは城へと無事に着いていた。

  すでに明け方。 西の空が白んでいる。

  城内は驚くほど静かだ。

  部屋にはロックスも戻ってきていた。

「ロックス、大丈夫だったか?」

  部屋に入るなり心配するシーノに、ロックスは起きたての顔で答えた。

「んあぁ、おかえりシーノ。 ジュニアが騒ぎ立ててるんで、『広間の中にも警護を付けないから逃げられたんです』って言ってやったら、何か納得してよ。 黙った」

「黙ったって……」

  シーノは拍子抜けした。 そんな終わり方ありかよ?

「『あんな歌えないカナリヤなど、もういらん』だとよ」

「それはそれでムカつくな!」

 

 

  ロックスはベッドに座りなおすと、今度はシーノが聞かれる番だった。

  シーノはカカの木にコディを預けてきたことも全て伝えた。 そして、これから森から何かの罰が下ることがあっても、受け入れるつもりだと。

  一通り聞くと、ロックスもホッとしたように微笑んだ。

「ま、何が来ても、受け入れるしかないだろうな」

  ロックスもまた、罪悪感を感じているようだ。

 

 

 

  それから再び、平和な日々が戻った。

  兵士達はいつ駆り出されてもいいように訓練に明け暮れ、相変わらず民も商いに活気付いている。

  サージヤ ジュニア王もぐうたらなのは相変わらずで、政治にも無関心。

  すべて元通りの生活だ。

  ……いや、一部そうでない者もあったか。

  シーノとロックスの心境はいまだ落ち着いたものではなかった。

  特にシーノの心の中には、カカの木に抱かれたコディの最後の姿が目に焼き付いて離れない。

  訓練にも集中できず、空き時間には部屋にこもってずっと窓の外を見つめていた。 そこから見える森は、いつもと同じように鬱蒼と、そして静かにそこに在った。

 

 

  数日経って、いつものように窓辺に座っていたシーノはふと体を浮かした。

  それに気付いたロックスが

「どうした?」

 と尋ねると、彼は森を見つめたまま言った。

 

 

「呼んでる…」

 

  そして、誘われるように窓辺から飛び降りたのだ。

 

 

「シーノ!」

  驚いて窓辺に駆け寄り下を見ると、身軽に屋根を伝い、森へと駆けていく。

「あいつ! 森で何が起こるか分からないってのに!」

  急いで自分も部屋を飛び出した。

 

 

  シーノは自分の信じる場所へと急いでいた。 ただそこに行けば何かが分かる。 例え何があったとしても、コディに会えるならそれで良い! シーノはひたすら目指していた。

 

 カカの木を!


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