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コディの泉  作者: 天猫紅楼
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妖精は籠の中

  広間に入ったシーノは愕然とした。

  高い天井の中央に、鉄で出来た大きな鳥かごが吊るされており、その中にコディが押し込まれていたのだ。

 

「まるでかごの中の鳥だな」

「人間なのか?」

  興味津々でみつめる兵士達の間を縫って、シーノたちは鳥かごに近づいた。 とはいえ、天井近くまで吊るされているので、中の様子がよく見えない。

  冷え冷えとした感触の鉄かごは、時折かすかに揺れている。

「コディ……」

  シーノが見つめる先には、震えて小さくなっているコディがかろうじて見える。

「寒いのか?」

  知らない間に、後ろにはロックスがついていた。 彼もシーノの後を追ってきたのだろう。 シーノと共に見上げている。

「いや、寒いんじゃない。 怯えてるんだ」

  コディは目を閉じて、ひたすら震えている。

  小さな体が余計に小さく見える。

「逃げるどころじゃないみたいだな」

  つぶやくロックス。

  シーノの胸がキリキリと痛んだ。

 

 

  広間の大扉がギギギと開き、家来に付き添われたサージヤ ジュニア王が杖をついて入ってきた。

「下ろせ」

 と言う声に、コディの入れられている鉄かごがズルズルと下りてきた。

  サージヤ ジュニア王の目の高さほどまで下ろされると、コディは少しだけ目を開けた。

「眠れたか? おや、食事も取っていないじゃないか」

  見ると、コディの足元には皿に載せられたパンがある。

  触りもしなかったのだろうか。 少しも減っていないようだ。

「ひでぇ……」

  シーノは悔しそうにつぶやいた。

  ジュニアは鉄カゴに近づき、楽しそうに言った。

「ちゃんと食べんと、歌も歌えまい」

  言いながら杖をかごの隙間に差し込むと、皿をグッと押しやった。

  反動でパンが零れ落ち、コディの足元へと転がった。

  コディは目をそむけ、そしてギュッと閉じた。

  それを冷たい目で蔑んでいたサージヤ ジュニア王。

「まぁ、食いたくなければ食わんでもよい。 さぁ、歌え!」

  サージヤ ジュニア王は杖で床をゴンと突いた。

  静かに見守るたくさんの目の中、時が止まったように空気が凍りつく。

  数刻待てど、コディは口を開く素振りもない。

  相変わらず震えながら体を丸めている。

「歌わんかっ! こらっ!」

  早々にキレたサージヤ ジュニア王は、かごを杖で叩いた。

 

  ガンガンッ!

≪!≫

  コディはなおさら体を丸めて硬くなるばかり。

  その様子を冷ややかに見下し、フンッと鼻で笑った。

「歌うまでここから出さんからな!」

  そう言うと、サージヤ ジュニア王は家来に持ってこさせた椅子にドッカと座り、かごを見やった。

  いつまでも待ってやるぞ、という余裕の目をぎらつかせて。 どうせこの王はやることもなし、一日ヒマをしているのだから。

  コディはその様子にまた怯えている。

 

「このやろ……」

  あまりの仕打ちに、シーノは思わず王に駆け寄ろうとした。 その肩を、ロックスがグイッと引き止めた。

「! なんっにすんだ?」

「行ってどうするんだ? 落ち着け!」

  諭すように耳元で言うロックス。

  確かに今出て行ったところで何も出来ない。

  かごには大きな南京錠がついている。 たやすく出してくれそうもない。

「くそっ……」

  シーノは悔しげに唇をかみしめ、たまらず広間を後にした。

  その後を、ロックスも追いかけた。

 

 

 

「後悔してるんだろ?」

  部屋に戻ると、ロックスは言った。

「……」

  それには答えず、シーノは爪を噛みながら窓辺に座って外を見ていた。

  ロックスは、それ以上何も言わなかった。

  テーブルの上には、手付かずの革袋二つが所在なさげに埃をかぶりつつある。

  シーノの腕が、その革袋を払いのけた。

 

  ジャリジャリンッ!

 

  重く硬い音が部屋に響いた。

  それを、ロックスも静かに見ていた。


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