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コディの泉  作者: 天猫紅楼
3/28

『コダマ』との遭遇

「なんだ、こいつ?」

 

  そいつを捕まえていたのはロックスだった。

  猫のように首根っこを捕まれたソイツは、足に鎖を絡ませたままジタバタしている。

 

≪は、離せ~っ!≫

「「?」」

  二人は同じ事を感じたようだ。

 

「直接頭に響きやがる」

  代弁するようにロックスが言い、空いている方の手で耳を塞ぐ。

  シーノはソイツに顔を近づけると聞いた。

 

「お前がコダマか?」

 

  フンッと顔を背けると、口を開いた。

≪そんなのオマエらにカンケイないだろ? モリから出ていけ!≫

  そして、今にも噛み付きそうな形相で睨んだ。

 

  大きな目に尖った耳。 身長も低く、体つきはやせた子供のようだが、緑色掛かった皮膚や髪の毛。 あきらかに人間じゃない。

  探しているコダマに違いなさそうだ。

 

 

  シーノは腰に手をあてた。

「俺たちはコダマを探している。 もしお前がそうなら、ここに姿を現すな。 分かったな?」

  言い聞かせるように言うと、足に絡み付いている鎖を解いてやった。

「いいのか?」

  ロックスは不思議そうに聞いたが、特に答えようとしないシーノを察して、それ以上何も言わずに手を離した。

  コダマは離された瞬間にはもう近くの木の枝に逃げていた。

  そして、数秒二人を見下ろしたあと、消えるように居なくなった。

 

「速いな」

「俺でも追いつけなかった。 多分さっきの波も、姿が見えないくらい速かったんで波だけ立ってたんだ」

  シーノはもう誰も居ない木の枝を見上げていた。

「しかしよかったのか? 連れて行けば、たんまり褒美がもらえるじゃないか」

「そうだけど、見たところ子供みたいだったしな。 見逃してやった」

  シーノは見上げたまま少し微笑んだ。

「ま、いっか」

  ロックスも納得したようだった。

 

 

 

  翌日も、コダマの捜索は続けられた。 その翌日も、その翌々日も……

  ジュニア王が飽きるまで、兵士たちは従うしかない。

  しかし森の中をくまなく探したところで、まるで得体の知れない妖精を捕らえるなど、雲を掴んで来いと言われたようなもの。

  いち早くそのコダマと接触し、その身を逃したシーノとロックスは、もう再び現れることはないと分かっていたので、毎日を遊んで暮らしているのだった。

  ただ森の中へ行ったフリをしては、木々を相手に剣術の訓練をしたり、泉や木の枝に身を預けて時間を潰したり。

 

 

  そんな数日が過ぎる頃……

 

 

  いつものようにシーノは森の中をひとしきり走り回った後、湖のほとりに寝転がっていた。

  相棒ロックスは森の中で剣術の訓練をしている。

  太く長い剣を振り回して、落ちてくる木の葉を相手に、大胆かつ繊細な攻撃もできるように訓練をしている。

  振り回すなら誰でも出来る。

  ロックスはいつも、もっと自分の秘めた力を引き出せるように訓練に余念がない。

  シーノは、お互いが足して1以上になれる相手はロックス以外いないと自負している。

  だからこそ、このコンビは切っても切れない存在なのだ。

 

 

  汗がにじんだカラダを冷やすように、ひとり風に当たるシーノ。

  見上げれば、透き通った青空が気持ち良い。

 

  その時、頭上の木の葉が一枚、フワリと舞い降りてきた。

 

「!」

 

  こんな時、考えるより先に体が動く。 シーノは素早くその場を離れた。

  今シーノが居た場所に、コダマが立っていた。

 

「踏んづける気かよ?」

  驚くよりも焦るシーノに、コダマは詰め寄った。

 

  ≪モリから出て行け!≫

 

  相変わらず頭に直接響く声だ。

 

「そんな事言われても、ジュニアが飽きるまでは続けられるよ。 俺たちが決めることじゃない」

  困ったように、シーノはあぐらをかいた。

「それより、こんなとこに来たら他の奴らに見つかるぞ」

≪オマエらがなかなか出て行かないからだ!≫

  コダマは小さな体で必死に叫んでいる。

「う~~ん……」

  頭をかくシーノ。 彼もコダマの言いたい事は痛いほど分かるのだが……

 

「あ、こいつ、また来たのか?」

  草むらをかき分けて、ロックスが現れた。 というより、シーノの元に戻ってきた。

  その巨体に驚きながらも、コダマは頭上の枝に飛び乗った。

≪はっ……早く出ていけ! 出て行かないと、どうなっても知らないからなっ!≫

 

 そう言い残して、コダマは再び姿を消してしまった。

 

「何しに来たんだ?」

  キョトンとして尋ねるロックスに、シーノはあぐらをかいた姿勢のまま彼を見上げた。

「出てけって言いに来た」

「あら、ご丁寧に」

  そして森の中からは、相変わらず草むらを分け入る兵士たちの物音が聞こえてくる。

  風が通り過ぎたように居なくなったコダマの後には、また変わらぬ光景が何事も無かったかのように流れている。

 

 

 

  それから、次の日も、その翌日も、コダマはシーノたちの前に姿を現し、森から出て行くように警告しに来た。

「もう少ししたら、ジュニアも飽きるから我慢しておけ」

 というシーノたちの声も聞かず、懲りずに毎日姿を現すので、次第に彼らも愛着を持つようになった。

  なにしろ、コダマは何をするわけでもなく、シーノたちの周りでギャーギャーわめきながら帰っていくのだ。

  やがてシーノたちは、逆にコダマに会うために森へと通うようになっていた。

 

 

  やがて2人は、コダマの事を勝手に『コディ』と名付けた。


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