気づけば傍に……
これも神の創った偶然か。
クリスと少女は再びめぐり合った。
先刻と同じようにずぶぬれで、木陰に身を潜めた少女の頭にタオルを被せたクリス。
「ボクと一緒に、行きませんか?」
少女は驚いたような表情をし、悲しそうに眉をひそめた。 そんな少女に、クリスは優しく言った。
「ボクと一緒に、やり直しましょう。 きっと、大丈夫です」
小さいけれど芯の通った声だった。 少女は、黙って頭の上のタオルで顔を拭いた。
「名前は、何と言うんですか? ボクは、クリス・ゴードンと言います」
「……セツナ……」
セツナは、タオルで顔を隠すようにした。
「私、こんなですけど……」
クリスはフッと微笑むと言った。
「私も、ですよ」
それからクリスたちは、小さな空き家を見つけると、新しい生活を始めた。 慣れない家事に、2人ともが戸惑ったが、ココから『自分の人生』が始まると思えば、少しも辛くは無かった。
ある日買出しに出た町で、クリスは貴族のパレードに遭遇した。 煌びやかな装飾品に溢れた馬車。 それに前後して、何十人というお付きの家来や兵士たち。
町の人々の全ての目はその行列に向けられ、感嘆の声を上げた。
その行列の前に、ひとりの少年がふざけて飛び出した。
すると先頭の兵士が、
「行列の邪魔をするモノは、即刻切れと命令されている!」
と言うが早いか剣を抜き、その少年に振り下ろした。
声も無く倒れた少年に駆け寄る女性。 母親だろうか。 何度も何度も頭を下げながら、少年をひきずるように道路脇へと連れていく様子を、クリスは呆然と見ていた。
周りの人々も切った兵士に対して異論することもなく、何事も無かったかのように淡々と行列が通り過ぎて行く。
豪華な馬車の中には、たっぷりとヒゲを蓄えている主人と見られる人物が見えた。 妻らしき婦人と仲良さそうに微笑み合っている。 先ほどの少年の事など、全く知らない。
長い行列が過ぎた頃、クリスの表情はすっかり変わっていた。
「強大な権力、強さのみが世界の中心……」
クリスの胸の内には、一国ではなく、世界規模で思いが膨らんでいた。
一国の何百という人を動かすことが出来るのなら、世界の何億という人をも動かすことが出来るはず。
クリスは確信し、それからは世界をひとつにするための土台作りをはじめた。
セツナに説明をしたわけではなかった。
が、彼女もまた、クリスの思いを感じ取ったように付いていった。
クリスが体術を学んでいる間、セツナは自分の勘の鋭さを磨き、銃の鍛錬をした。
2人が力を付けると、旅を始めた。
そして各地の用心棒を味方にしたり、裏の世界でも足を伸ばし、優秀な人材を誘ったり。 とにかく欲しいもの、必要なものは全て手に入れてきた。
クリスはその間、『淋しい』と思ったことは無かった。
家族と離れたことも、少しも後悔に思ったことはなかった。
自分の信じる道が正しいと信じ、ひたすら自分の力で突き進んできた。それ以上望むものはなかった。
そして気づけば……
そばにはいつもセツナが居た。