表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コディの泉  作者: 天猫紅楼
25/28

気づけば傍に……

 これも神の創った偶然か。

 

 クリスと少女は再びめぐり合った。

 先刻と同じようにずぶぬれで、木陰に身を潜めた少女の頭にタオルを被せたクリス。

「ボクと一緒に、行きませんか?」

 少女は驚いたような表情をし、悲しそうに眉をひそめた。 そんな少女に、クリスは優しく言った。

「ボクと一緒に、やり直しましょう。 きっと、大丈夫です」

 小さいけれど芯の通った声だった。 少女は、黙って頭の上のタオルで顔を拭いた。

「名前は、何と言うんですか? ボクは、クリス・ゴードンと言います」

「……セツナ……」

 セツナは、タオルで顔を隠すようにした。

「私、こんなですけど……」

 クリスはフッと微笑むと言った。

「私も、ですよ」

 

 

 それからクリスたちは、小さな空き家を見つけると、新しい生活を始めた。 慣れない家事に、2人ともが戸惑ったが、ココから『自分の人生』が始まると思えば、少しも辛くは無かった。

 

 

 ある日買出しに出た町で、クリスは貴族のパレードに遭遇した。 煌びやかな装飾品に溢れた馬車。 それに前後して、何十人というお付きの家来や兵士たち。

 町の人々の全ての目はその行列に向けられ、感嘆の声を上げた。

 その行列の前に、ひとりの少年がふざけて飛び出した。

 すると先頭の兵士が、

「行列の邪魔をするモノは、即刻切れと命令されている!」

 と言うが早いか剣を抜き、その少年に振り下ろした。

 声も無く倒れた少年に駆け寄る女性。 母親だろうか。 何度も何度も頭を下げながら、少年をひきずるように道路脇へと連れていく様子を、クリスは呆然と見ていた。

 周りの人々も切った兵士に対して異論することもなく、何事も無かったかのように淡々と行列が通り過ぎて行く。

 豪華な馬車の中には、たっぷりとヒゲを蓄えている主人と見られる人物が見えた。 妻らしき婦人と仲良さそうに微笑み合っている。 先ほどの少年の事など、全く知らない。

 

 長い行列が過ぎた頃、クリスの表情はすっかり変わっていた。

「強大な権力、強さのみが世界の中心……」

 クリスの胸の内には、一国ではなく、世界規模で思いが膨らんでいた。

 一国の何百という人を動かすことが出来るのなら、世界の何億という人をも動かすことが出来るはず。

 クリスは確信し、それからは世界をひとつにするための土台作りをはじめた。

 セツナに説明をしたわけではなかった。

 が、彼女もまた、クリスの思いを感じ取ったように付いていった。

 クリスが体術を学んでいる間、セツナは自分の勘の鋭さを磨き、銃の鍛錬をした。

 2人が力を付けると、旅を始めた。

 そして各地の用心棒を味方にしたり、裏の世界でも足を伸ばし、優秀な人材を誘ったり。 とにかく欲しいもの、必要なものは全て手に入れてきた。

 クリスはその間、『淋しい』と思ったことは無かった。

 家族と離れたことも、少しも後悔に思ったことはなかった。

 自分の信じる道が正しいと信じ、ひたすら自分の力で突き進んできた。それ以上望むものはなかった。

 そして気づけば……

 そばにはいつもセツナが居た。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ