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コディの泉  作者: 天猫紅楼
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カリンとクリス

 カカの木の根元には、大人がすっぽり隠れられるほどの横穴が開いている。 小さな子供なら、二人充分遊べる広さだ。 薄暗い穴の中を覗きながら、カリンは感慨に耽っていた。

「ここで、おばあちゃんはコディと居たのね?」

 カリンもその中で体操座りをして、外を見た。 覗き込んでいるコディを見て、ニッコリほほえんだ。

「改めてお礼を言うわ。 おばあちゃんを助けてくれてありがとう」

 穴から這い出し、木を見上げた。

「カカの木も、ありがとう!」

 返事をするように、豊かな葉を貯えた木の枝が風に揺れた。

 

 

「!」

 カリンと同時に、コディがピクッとなった。

「来た……」

 《ナキ……》

 不安そうに寄り添うコディの前にしゃがむと、カリンは子供に言い聞かせるようにゆっくりと話した。

「いい、コディ。 よく聞いて。 今からあなたはここから離れて。 私か、シーノかロックス、誰かがあなたを呼ぶまで出てきちゃダメよ。 分かった?」

 《カリンはどうするんだ?》

「まだわからない。 けど、あなたはここに居ないほうがいい気がするの。 さ、急いで隠れて!」

 《カリン……》

 コディは、フワッとカリンに抱きついた。

 とても軽くて、少し温かくて、ほんのり土と葉の香りがカリンの鼻をくすぐった。 少し力を入れるとすぐに壊れてしまいそうなか弱い体。 カリンは優しく抱き締め返すと微笑み、そっとその肩を抱いて体を離した。

「大丈夫。きっとうまく行くわ」

 カリンは緑色の髪の毛を優しく撫でた。

「さぁ」

 優しく背中を押すと、コディも素直にその場を離れた。 ふわりと浮かび上がると、カリンの笑顔に微笑み返し、

 《ありがとう》

 と一言残して消えた。 コディが消えた跡を少し名残惜しそうに見上げたあと、カリンは振り払うようにきびすを返した。

「大丈夫。必ずうまく行く!」

 ひとり頷くその目には、強い光が生まれていた。

 

 

 

「なんと、これは立派な大木ですねぇ」

 セツナを従えたクリスは、カカの木を見上げながら眼鏡の端を上げた。 隣のセツナは気にする風もなく、黙ってうつむいている。 赤い髪が顔を覆って表情が見えないこともあって、不気味なイメージを与える。 しばらくカカの木を見上げたあと、カリンに気付いたように視線を移した。

「おや、あなたは?」

 両手を腰に当てて仁王立ちするカリンは、まだ何も言わなかった。 クリスは少しふっと笑うと、首を傾げた。

「耳が聞こえないのでしょうか。 まぁ、気にすることはないでしょう。」

 クリスはそこにセツナを残して、カカの木の周りをゆっくり回り始めた。 コダマを探しているのだろうが、姿を消している今、人の目には見えない。 カリン自身にも、近くにいるのか遠くにいるのかも分からなかった。 ただ、むやみに姿を現さないで欲しいと祈るばかり。 不気味に立っているセツナを交互に盗み見ながら、カリンは様子を伺っていた。

「……居ませんねぇ。知らせによれば、この辺りにいるはずなんですが……」

 呟くように言うクリス。 やがてカリンを見ると優しく微笑んだ。

「あなたは、私たちの捜し物が何か知っているんですね?」

 カリンは、気持ち悪いほどの微笑みを見せるクリスに嫌悪感を覚えた。問いに答えないカリンに、クリスは驚くほど冷静に話した。

「実際に見たことがないので、どんな姿をしているのか、想像出来ないんですよ。 もしかしたら……」

 クリスはカリンをじっと見つめた。

 

「コダマはあなたかもしれない」

 

 カリンは黙っていたが、眼鏡の奥に見える邪悪な光をしっかりと捉えていた。

「コダマとは、一体なんなのでしょうね?」

 クリスは視線を反らせた。

「それは、どんな著書にも載っていない。 見たという記述だって、もしかしたら妄想でしかないのかもしれない……」

 カリンはクリスの心を読みあぐねていた。 これは独り言なのか、聞かせたいことなのか……。 クリスは呟くように続けた。

「ですが、それが例え想像の産物であっても私は確かめたい。 私に足りないものが、その時にきっと分かるはずだから」

 そして、カリンをまた見やると優しく微笑んだ。

「コダマとは、なんなのでしょうね」

 クリスは穏やかな表情でカリンを見つめていた。 まるで心を見透かそうとするように。

「……」

 その静かな気迫に耐え切れなくなり、カリンは一歩後退りした。

「コダマは、そんな大層なモノではないわ。 あなたたちは、何か勘違いしてるんじゃない?」

「勘違い……ですか」

 クリスは困ったように首をかしげた。 そしてひとつため息をつくと、眼鏡を上げた。

「勘違いであってもいいと思っているんです。 これは、私の夢のため」

「夢?」

「私だけでなく、ここに居るセツナさんや、もうすぐここに来るであろう仲間たちの夢を叶えるんです。」

「コダマはそんな神様みたいなこと、しないわ」

「コダマはどこにいるんですか?」

 クリスはカリンの言葉を無視するように言った。 穏やかな表情の向こうで、黒い瞳が光っていた。

「知らないわよ! あなたたちがこの森に居るかぎり、コダマが現れることはないわ!」

「そうですか……では、これでは?」

 クリスがふっと右手を上げた途端、バンッという破裂音と共に、カリンの体が跳ねた。

 

「!っ」

 思わず押さえた左腕からは、鮮血が流れた。


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