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コディの泉  作者: 天猫紅楼
2/28

追いかけた謎の人影

「さてと、行こうかね」

 ズンッと空気が揺らぐ。

 バカでかい剣を肩にかけたロックスが、ニッと微笑む。

『準備オッケー』の合図だ。

 

 

 やがてシーノたちを含む兵士たちはゾロゾロと城の外に出た。

 城から出るとすぐに町に入る。

 民たちは、続々と出かける兵士たちを見て、

「今度は何に使わされたのか」

 と口々にささやいた。

 兵士の一人が、それに軽い口調で答えた。

 

「森へ、コダマを獲りに行くんだ」

 

 その時、誰かが叫んだ。

「い……いかん! コダマを捕らえてはいけない!」

 しわがれた声。

 その主は、すっかり腰が曲がってしまっている老婆だった。

「コダマは世界を守っておる! 捕らえれば、何が起こるか分からんぞ! この世がどうなるか!」

 必死で叫ぶ老婆を、その息子らしき男性がなだめている。

 その様子を横目に、シーノたちは森へと歩を進めた。

 

 

「いい天気だな」

 青空を見上げて、ロックスが嬉しそうに声を上げた。

「妖精捕獲日和ってか」

 森の中へと入ろうとするロックスの背を、シーノの声が追った。

 

「コダマって、本当に居るのかな?」

 

 ロックスはフンッと鼻で笑うと、顔だけ振り返った。

「居たら居たで、面白いだろーな」

 きっと彼は、そこまで真面目にとらえていないのだろう。

 だがシーノの心には、さっきの老婆の姿が引っかかっていた。

 が、あんなのでも、主の命令は絶対だ。

 たとえそれが可能でも、不可能でも。

 

 

 兵士たちは黙々と静かな森へと入って行った。

 もともと生まれたときからそこにある森だ。

 当たり前の存在なので、特別な思いは生まれない。

 

 

 兵士たちは、草むらを分け入ったり木を揺らしたりと、あちこちを探り始めた。

 何しろコダマというものがどういうものなのか、さっぱり分からないのだ。

 大きいのか小さいのか、人なのかケモノなのか、見えるのか見えないものなのか……

 そんな曖昧な状況で、兵士たちはただ闇雲に森の中を捜索している。

 すごく効率が悪い。

 

 

 シーノはロックスと共に湖のほとりに座った。

 二人とも、最初から真剣に探す気などない。

 勿論、捕まえれば何かしらの報酬はもらえるのだろうが、今までの経験から、噂にただ踊らされていただけという場合も何度かあったのだ。

 何か手がかりが見つかった時、宝を横から奪うように手柄を取ってやろう、という軽い気持ちでいた。

 

 シーノが湖をボーッと見ていると、その水面に不自然な波が立ったのが見えた。

 

「?」

 

 彼は膝をついて、その水面を凝視した。

 それに気づいたロックスが不思議そうに言った。

「どうした、シーノ?」

「シッ!」

 言葉を遮るように制止するが、シーノの目は水面を見たままだ。

 ロックスもその視線の先を見た。

 シーノは囁くように言った。

「今、ヘンな波が立った」

「波?」

「水面をスーッと一本、何かが滑るような……」

「?」

 その時既に、シーノが目撃した波は消え、静かな水面に戻っていた。

「何だろ?」

 シーノは波が動いた方へ視線を動かした。

 そっちの方には、兵士達がワラワラと森の中をうごめいている。

 

  ドクン……

 

 シーノの胸が熱くなった。

 兵士の血がそうさせているのだ。

「ちょっと行ってくるわ」

 スクッと立ち上がると、シーノは森の中へと消えて行った。

 あっという間だった。

 残されたロックスはあぐらをかいたまま呆然とし、そして頭をかくと呟いた。

「アイツ、血が騒いだな? ま、好きにさせとくさ」

 

 

 身軽に木の枝を飛び伝いながら、シーノは兵士たちが捜索している頭上辺りまで移動した。

 その時、同じように木の枝に乗って下の様子を見ている人影を見つけた。

 シーノは自分の気配を消すと、その影に忍び寄った。

 そして背後からそっと声をかけた。

 

 

「何やってる?」

 

≪!≫

 

 その人影は驚いて振り向くと、反動で枝から落ちそうになった……が、すぐに体勢を整えると他の枝に飛び乗り、そのまま逃げようとした。

 

「こら、待てっ!」

 

 シーノも条件反射で追いかける。

 その影はなんとも素早く無駄の無い動きで、枝から枝へと移動する。

 だがシーノにとってもそれは容易いこと。

 この森の中ででも、しょっちゅう訓練をしている。

 垂れ下がる葉を器用に避けながら追いかけた。

 だが、なかなか追いつくことが出来ない。

 

「ちっ……速いな……」

 

 半ば苛立ち気味に呟くと、懐から鎖を取り出した。

 その両端に鉄の重りが付いている。

 それを動きながら器用に持ち替えると、影に照準を定めて投げ放った。

 

 

 ブンッ!

 

 

≪うわぁっ!≫

 

 唸りをあげて飛んだ鎖は、うまく相手の足に絡みついて動きを封じた。

 それと共に、相手は見事に地面へと墜落した。

 

「やりぃっ!」

 

 嬉々として自分も降りると、墜落地点へと急いだ。


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