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コディの泉  作者: 天猫紅楼
19/28

死闘の末

 ザンッ!

 

 後ろから勢いよく蹴られたロックスはそのまま地面に倒れた。 冷たく見下ろすルイスの手には短剣が握られ、剣先からはポタポタと鮮血が滴っている。

「クリスさんも言ってただろう? 世の中、弱肉強食だ。 剣を交わした相手は必ず仕留める。 俺はそうやって生き延びてきたんだ」

「くっ……」

 ロックスは悔しさと痛みに顔をゆがませながらルイスを睨んだ。 それを冷たく反らすと、遠くを見た。

「今頃、さっきのシーノとか言う奴も、クリスさんに殺されてるんだろうな。」

 クスクスと含み笑いをして、またロックスを見下ろした。

「俺はクリスさんだけを心底信じてる。 人生を変えてくれただけじゃなく、生きる希望を与えてくれた」

 そして短剣をロックスの際にぐさりと差すと、優しく言った。

「ま、ゆっくり眠りなよ。 すぐにお仲間さんも行くからさ、淋しくないよ」

 そういうと、ロックスの脇を歩き去ろうとした。 ところが、ルイスの足が止まった。 足元を見たルイスの目に、ロックスの手が映った。

「この……死にぞこないが!」

 その手を振り払おうと足を蹴りあげるが、ロックスの手は離れる気配はなく、むしろ力が込められた。

「つっ! 離せっ!」

 ロックスはグンッと力を込めると、一息で投げ飛ばした。 不意を突かれたルイスの体は木に叩きつけられた。

 声にならないうめき声を出して、ルイスは背中を押さえてもがいた。 ロックスは大剣を杖がわりに、フラフラと立ち上がった。 その目には明らかに怒りが芽吹いていた。

 

「一瞬でも気を許した俺が馬鹿だった。 お前とは何一つ交わるものはなさそうだ。」

 そして剣を振り上げた。 それを見上げながら、ルイスは顔を恐怖でゆがめ、両手を上げて懇願した。

「たっ! 頼む! 許してくれ! クリスさんの弱点を教える! だから命だけはっ! 頼む!」

 そう叫ぶルイスを熱くたぎる瞳で見下ろしながら、ロックスはジリジリとにじり寄った。 ルイスの後ろは木にはばまれ、自由のきかない体はひたすら幹に押しつけられるだけ。 ルイスはなおも言い続けた。

「なぁ、頼むよ! あんただって人だろ? 命の大切さが分かるだろ? 愛する人を残して死ねないだろ?」

 ロックスの腕がピクッと反応した。

「愛する人だと?」

「そうだ! 俺は将来を約束した女を町に残してきてる! いつか陽のあたる場所で生活できるようになったら、迎えに行くんだ! だから、頼むよぉ!」

 もはや泣き叫ぶように訴えるルイスを見下ろしていたロックスは、ハァッと一つため息をつき、剣をドサッと下ろした。 剣先が地面に突き刺さった。 唖然としているルイスに、

「どこまでも可哀相な奴だな、お前は。 お前自身、愛する人にとって何が一番必要なのか、もう一度考え直せ!」

 と言い捨てると、背を向け歩き始めた。

 

 その後ろ姿を見るルイスの顔が次第に緩み、懐からナイフを取り出した。 そして

「それが甘いんだよ!」

 と言いながらナイフを振りかざした。 が、その手がぴたりと止まり、ナイフは地面に落ちた。 力なく腕が落ち、その胸には短剣が貫いていた。

「ま、さか……」

 ロックスの剣が地面と共にさっきの短剣をえぐり飛ばし、ルイスの胸を刺したのだ。

「その言葉、そっくりそのまま返すぜ。 夢の中で一国一城を築くんだな。 お前とは、いいライバルになれる気がしたのにな」

 振り向いたロックスが悲しげにそう言うと、ルイスもにっと笑って呟いた。

「違う世界に……生まれたかった……」

 そして眠るように目を閉じ、動かなくなった。 その顔に苦痛はなく、むしろ安心しきった子供の眠り顔のようだった。 ロックスはそれを切なく見つめ、自分の上着をルイスの頭から優しくかけた。

「生まれ変わったら、また戦おうぜ……」

 そう言って、ロックスもまた地面に膝を突いた。

 

「……シーノ、コディを……頼む」

 そして気を失いながら倒れこんだ。 ロックスの背中を鮮血が覆っていた。 あとには、木々を揺らすそよ風が静かな時の到来を知らせていた。

 

 

 

 カカの木へ向かうシーノは、何か嫌な胸騒ぎを感じていた。 思わず振り向いたが、深い森が視界をさえぎるだけだ。

「ロックス……」

 心配に思いながらも戻りたくなる思いを必死で抑えて、シーノはカカの木へと急いだ。

『ロックス! 必ずカカの木へ来いよ!』


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