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コディの泉  作者: 天猫紅楼
18/28

ロックスとルイスの闘い

 改めて対峙した二人は、少し離れて向かい合った。 息を吐き捨てるようにロックスが言った。

「なかなかやるじゃないか」

 すると男も剣を軽く振り、息をついた。

「あんたもね、ロックスさん」

「お前の名は?」

「ルイス・サナル。 あんた、城に仕えてる兵士のひとりなんだろ?」

「ああ。 お前らが殺した王に仕えていた」

「飛び出したいと、思わないのか?」

 ロックスは急な質問に戸惑った。

「大勢のなかの一人、それで満足なのか? 名声、富、欲しくないのか?」

「何を言いたい? 勧誘なら断る!」

 ロックスは、ルイスの言いたい事がまったく分からない。

 ルイスは急に戦意を落としたように、木にもたれ掛かった。

「?」

 戸惑いを隠せないロックスの前で、ルイスは遠くを見た。

 

 

「俺はずっと裏の世界で生きてきた。 親なんて知らねえ。 物心ついたときには、強奪、脅迫、盗み……それがまっとうな道だと思って生きてた。 仲間が増えると取り分が減るから、大きなことをする以外はできるだけ一人でいた。 そんなときさ、クリスさんに出会ったのは。 クリスさんは、俺に静かに語り掛けた。 そりゃ、最初は『なんだこいつは?』って思ったさ。 けど、クリスさんは何度も何度も話し掛けてきた。 最初はたわいもない事ばかりで、無視してた。 興味本位で来る奴の相手してやる筋合いなんてないし。 けど、そのうちになんか、『こいつは何か違う』って思い始めた。 人生論とか難しいことを言ってたかと思うと、他の国の話をしだして……俺が正しいと思っていた生き方が、本当は逆で、今に排除される運命なんだって。 それに勝つには、大きな力がどんなに必要か、広く深い知識がどんなに必要か、クリスさんは一生懸命話してくれた。 クリスさんは、そんな俺たちの力になってくれると言った。 『知識は私に任せて、あなた方は行くべき道を開き、守ってくれれば良い』と。 だから俺は壁になることにした。 さっきお前らにやられたあいつらも、同じような境遇の奴らさ。」

 ルイスは話に区切りを付けると、懐かしい思い出話だ、と軽く笑った。 そして剣を握る手に力をこめると、キッとロックスを睨んだ。

「だから俺は、クリスさんの行く道を守る! 草一本だって邪魔させない!」

 そして一気にロックスへ攻め立てた。 彼はそれをかろうじて受け流しながら、剣がぶつかりあう音の中で言った。

「クリスって、一体何者なんだ?」

「俺にもわからねぇ。 けど、守りお仕えするには最高に尊敬すべき人だ」

 ルイスにもまた、信じる人がいた。 そしてロックスにも……

「俺も同じだっ!」

 ルイスの剣を、体共々凪ぎ払った。 ルイスは身軽に着地すると、再び剣を構えた。 ロックスは続けた。

「あんな人でも一国の主。 俺は、先代が愛し守りぬいたこの国が大切だ。 だから俺たちが尊敬してやまなかった先代のようにいつか、なってくれると信じてた。」

 するとルイスは鼻で笑った。

「でも裏切った」

「違う! 俺は……!」

 ロックスもまた苦しんでいた。

「いや、そうだ。 主と友、どちらを取るか悩んだ。 結局俺は、友を選んだ。 正しいと思ったから……自分の信じる道を選んだ」

 ルイスは嬉しそうにニヤッと微笑んだ。

 

「信じる道を……俺たちと同じじゃないか。 仲間になろうぜ!」

 ルイスの剣先がロックスの頬をかすめ、一筋の赤い鮮血が流れた。 それを拭いもせず、ロックスもまた攻撃を続けた。

「仲間だと? 笑わせるな! クリスのやろうとしていることは、間違っていると思わんのか? 上を狙うなら、もっと違う道がある!」

 もはや二人はあちこちに傷を負い、体力もだいぶ消耗している。 どちらかが気持ちを落とした時に決着がつく、そんな予感を感じさせていた。 息を整える間もなく、お互いは全力でぶつかりあっていた。 すると、その剣の振動が言葉となって、お互いの心に流れ込んだ。

 似ている……信じるものを守るために命懸けで戦う姿が。 ロックスは何か通ずるものを感じ初めていた。 不意にルイスの手が緩んだ。

 

「?」

 ロックスは怪訝に思いながら少し離れて息を整えた。 ルイスは剣を下ろし、頬を伝う自分の血を指先で拭い、しばらく眺めていた。

「どうした?」

 目を離さず、ロックスは構えていた。 ルイスは嬉しそうにニヤッとほほ笑みを見せた。

「同じだな」

「?」

「俺とお前、同じ血が流れてる。 こんなに全力で戦える相手と巡り合えて、俺は今、すごく嬉しい」

 ロックスはルイスから殺気が消えたのを感じ、剣を下ろした。 珍しくズンと重い感触が腕を引っ張っている。

「俺もだ。 しばらく戦いもなかったが、なまっていた体が気持ちよく目覚めたぜ」

 そう言ってロックスも同じようにニヤッと微笑んだ。

 ルイスは剣を一振りして鞘へと納めると、両手を下ろした。

「俺はもう満足した。 戦う気はない。仲間の所へ急げ。 クリスさんたちがもう着く頃だ」

「ルイス? お前はどうするんだ?」

「言っただろう、お前と戦う気はもうない。 俺のことは気にするな。 行け!」

 ロックスは少し考えた。

「ルイス、行くところがないなら俺たちの所へ来い。 あいつらも話せば分かる奴ばかりだ。 安心しろ」

 ルイスは両手を腰に当てて肩をすくめた。

「考えておく」

 少し唇の端を上げ、ロックスを手で払う仕草をした。 それを見て、ロックスもにっと微笑み返すと、ルイスに背を向けた。

 

 

 

 ドンッ!

「?」

 

 ロックスは背中に熱い感触を覚えた。

「な……なんだ……?」

「甘いよ」

 耳元でルイスがささやいた。 背中にぴったりとくっついている。 ロックスは動けずに視線だけを後ろに向けるように言った。

「ルイ……ス? お前……」

 クスッと笑った吐息がロックスの耳をくすぐった。

「教わらなかったか? 『人を簡単に信じるな』と」

「だました……のか?」

 ロックスは呼吸が苦しくなっていた。 息が体に入らないのだ。 身体中を冷や汗が包んだ。

 


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