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コディの泉  作者: 天猫紅楼
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新しい国王の誕生

「おばあちゃんは、あたしに一生懸命話してくれたわ。 死んじゃう前に、カリンには話しておきたいんだって。 コディの事を話す時のおばあちゃんは、とても幸せそうで、楽しそうで、あたしまで幸せな気持ちになったわ」

 コディはにっこりと微笑んだ。

 

 

「それにしても、迷い子と何日も遊んでるなんて、コディも子供だよな」

 

「シーノ? いつから気付いてたの!」

 驚くカリンを白い目で見ながら、シーノは肩肘を付いて寝そべっている。

 

「なぁにが、いつから?だ! 人を気絶させておいて!」

「変な事言わないで! 少しでもおとなしくしていて欲しかったのよ!」

 むきになって言うカリンを無視して、シーノはコディに笑いながら言った。

「そんなことよりさ、コディは一体何歳なんだ?」

 《?》

 きょとんとしているコディをギュッと抱き締めたカリンがにらんだ。 そして

「年なんて関係ないのよ! それより、さ、沢山食べて栄養取るのよ!」

 と、香ばしく焼き上がった魚を差し出した。 それを押し退けたシーノはにらみ返していった。

「俺にそんな時間なんてないんだよっ!」

「あなたにとっては、食事も大事な時間ですっ!」

 カリンは問答無用とばかりにぐいっと魚を口のなかに押し入れた。

 

「! んぐっ!」

『なにすんだっ!』

 声にならない叫びを気にもせず、カリンもまた焼きたての魚に口をつけた。

「シーノは、コディにとって大切な人なの。 無茶なことをしてなんとかなる状況じゃないことくらい、あなたも分かるでしょう?」

 視線を外して静かに話すカリンの言葉が、シーノの心に響いた。

 おとなしく食べ始めたシーノは、ボソッと呟いた。

「ごめん……俺も焦ってた」

 カリンはシーノを横目で見た。

「人数は少ないけど、ひとりじゃない。 時間を有効に使って、考えなくちゃ」

 カリンはシーノが食べおわるのを見ると傍に寄り添い、傷の手当てをしはじめた。 その様子を静かに見つめながら、

「カリン、君と会わなかったら、多分今ごろは何をやってたかわからないな。 感謝……しなきゃ」

 すると、少し顔を赤らめたカリンは、

「ばか」

 と一言呟いて、手当てを続けた。

 

 

 

 空が明るんできた頃、シーノは左腕を挙げてみた。

「……どう?」

 心配そうに見守るカリンに、シーノは少し微笑んで見せた。

「まだ痛みはあるけど、どうにかなりそうだ」

 ぐるんっと腕を回すと、勢いつけて立ち上がった。

 不安そうに見上げるカリン。

 シーノは城がある方角を見た。

「ロックスが心配だ」

「シーノ、まだ……」

 膝を立て、立ち上がろうとするカリンの肩を押さえた。

「ゆっくり休めた。 栄養も摂れた。 大丈夫だ。 あとは俺を信じろ。 もう暴走はしないから」

 にっと笑うシーノ。 だがカリンは、相変わらず不安そうな顔で瞳を潤ませている。

「カリンは、コディを守ってカカの木に居て。 そこで落ち合おう」

 行こうとするシーノの背中に、カリンの声が飛んだ。

「シーノ!」

「?」

 振り返ったシーノに駆け寄ると、その手に小さな袋を渡した。

「これは?」

 中を覗くと、小さな錠剤がいくつか入っていた。

「痛み止めよ。 もし痛みが気になるようなら飲んで! カリン特製だから、きっと効くわ」

 そう言うカリンに、シーノがいたずらっぽく微笑んだ。

「気絶させられなきゃ、いいけど」

「!」

 カリンが手を挙げた時には、既にシーノの姿は消えていた。

「もう……」

 淋しげに下げた手を、コディが優しく握った。 見上げて微笑んでいるコディに、カリンも微笑み返した。

「カカの木に行きましょう! きっと、二人とも元気に帰ってくるわよ!」

 

 

 

 

 城の中には、倒れてうずくまる兵士たちが何人かと、クリス達が居た。

「たいしたものですね、誰一人として命を落としていないとは」

 フフン、と鼻を鳴らすクリスの元に、一人の兵士が戻ってきた。 そしてクリスの前に膝をついた。

「も、申し訳ありません。 森の中で見失ってしまいました」

 それを冷たく見ながらまた鼻で笑い、ゆっくりと眼鏡を上げた。

「すぐに見つかりますよ。 コダマもね」

 クリスの口元がにやりと怪しく吊りあがる。 その横で、赤髪のセツナが静かに無表情で立っていた。

 その時、男が風のように入ってきた。

「クリス様。 奴らの目的地が分かりました」

 その男は、クリスに影のように付いている男達の一人だった。 クリスは一つうなずくと、

「行きましょう」

 とセツナに一言かけて広間を出て行こうとするクリスに、先ほどの兵士が声を掛けた。

「あっ……あの、私達は……」

「フン、そうですね、居ないよりマシでしょうから、動けるのでしたら付いてきても構いませんよ。 ですが、足を引っ張らないように」

 冷たい口調だったが、倒れていた兵士たちもワラワラと立ち上がった。 ここに、新しい国の王が誕生したのだった。


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