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コディの泉  作者: 天猫紅楼
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城の中の騒乱

 やがて誰からともなく表情が固くなった。

「これから、どうする?」

 ロックスの言葉に、シーノは何気なくコディを見た。 すると、ビクッと体を震わせて訴えた。

 《もう捕まってみる? なんて言わないよね?》

「え? どういうこと?」

 カリンがきょとんとして尋ねると、シーノとロックスは顔を見合わせて苦い顔をした。

「なんなのよ?」

 こうなったら、カリンに隠し事はできないことを悟った二人は、渋々話し始めた。

 

 

 兵士たちの森荒らしを辞めさせるために、一旦コディを捕らえたふりをして、折りを見て脱走する計画をしたが、鉄に怯えたコディはうまく逃げられず、結局シーノが助けだした形になったが、コディにはかなりの苦痛を与えてしまったことーー

 

 

 話を聞き終わると、カリンはガバッとコディを抱きしめ、シーノたちをにらんだ。 いきなり胸の谷間に埋もれたコディは目をぱちくりしている。

「あなたたち、ほんっと、最低ねっ! こんな小さな子にそんなひどいことして、なんとも思わなかったわけ?」

 思っていた通りのリアクションに、二人は何も返せずにいる。 次にカリンはコディを胸から引き離すと、両肩を抱いたまま顔を近付けた。

「コディ、何かお返ししたんでしょうね?」

 《お……返し?》

 コディは完全にカリンの剣幕に押されている。

「そんなひどいことされて、なにも仕返ししなかったの?」

 《う……ん》

 コディはかろうじてうなづいた。

「うんって……」

 カリンは拍子抜けしたように肩を落とした。

 

 《カカの木が言ったんだ。 助けてくれたんだから、許せって。 カカの木の言葉はコディの言葉。 コディは、シーノやロックスが大好きだ》

 

 カリンはコディの頭をぐりぐりと撫で、ひとつため息をつくと、優しく微笑んだ。

「そっか、自然にとっては、ちっぽけな事なのね」

 《?》

 コディにはあまり意味が伝わらない感じだったが、カリンやシーノたちは、それが答えなのだと思った。

 

 

 やがてロックスが立ち上がった。

「こんなところでくすぶっていても何も始まらん。 俺は城の様子を見に行ってくる」

 思えばロックスはほとんど丸腰だ。 トレードマークの大型剣もない。

「俺も……っ!」

 シーノも後を追うように立ち上がろうとしたが、眩暈を起こして膝をついてしまった。 弾みで傷に衝撃が襲った。

「って……」

「無茶よ。 そんな体で動いちゃダメ!」

 慌てて言うカリンを、シーノがさえぎった。

「俺がじっとしていられると思うか?」

 そんなシーノをロックスが制した。

「お前はコディを連れて城を逃げ出した。 一番狙われる立場なんだぞ。 囲まれたら、今のお前では逃げ切れんだろう? 時を待て。 必ず運気は回ってくる」

 悔しそうに見上げるシーノ。

「シーノにはあたしが付いてる。 ロックスは城を見てきて」

 カリンにうなずくと、ロックスはきびすを返して森の中へと消えた。

 

 

「くそっ! こんな怪我さえしなけりゃ……!」

 唸るシーノ。 カリンは周りをうかがうと、コディに尋ねた。

「ここは、煙が上がっても大丈夫かしら?」

 《? 火を使うのか? ここは森の奥深い。 小さな煙ならコディが風で飛ばしてやる》

 コディは自慢げに胸を張った。 それを見て、カリンはニコッと笑うと言った。

「頼もしいわ。 煙なんて上げたら、あいつらに場所を教えるようなものだもんね」

「何をするつもりだ?」

 黙って聞いていたシーノが口を挟んだ。

「あなたは、とにかく滋養をつけなきゃ。」

「滋養って……! こんな時に飯なんて食えるか! っ……!」

 シーノの口に布が押しあてられている。 すぐにシーノは力が抜け、静かに横たわった。 驚いているコディの前で布を払うカリン。 ハラハラと麻酔草が落ちた。

「うるさい人にはコレが一番ね。 さて、今のうちに!」

 カリンは

「シーノを見張っててね」

 とコディに言い残すと自分も森のなかへ消えていった。 後には、眠っているシーノと、ポカンと立ち尽くすコディが残された。

 

 

 

 一方ロックスが城に着くと、異様な雰囲気に襲われていた。

 城の中が静まり返っているのだ。 門番を普通に抜けてきたが、城の中にも外にも兵士の姿がない。

「……?」

 嫌な予感が胸を刺すなか、周りを伺いながら武器庫へと向かった。 誰にも知られずに武器だけを持って出られるならそれでもよかったが、城の様子がおかしすぎるのが気になり、自分とシーノの剣を手に取ると、広間の方へ足を運んだ。

 

 

 扉は大きく開かれていた。 ロックスはそっと忍び足で近づくと中を覗いた。 中には、全員と思われるほどの兵士たちが集まっていた。

『一体、何をしてるんだ?』

 視線を巡らせていると、聞きなれない声が聞こえた。

「私たちに従いなさい。 そうでなければ、この国ごと破壊します」

『誰だ?』

 サージヤ ジュニア王の声ではない。 まだ若く張りのある声だ。

「あなたがたは、何のために生きているのですか? みな、自分の幸せのためにこの城を守り、繁栄を助けているのでしょう?」

「それは、そうだが……」

 誰かが声を発した。 それを受けて別の兵士が言った。

「だが、我らの王を死に追いやった奴を許すわけにはいかない!」

 その声に、武器を構える音があちこちであがった。

 

 

『死に追いやった?』

 ロックスのいる場所からは広間の奥までは見えない。

 すると主犯格と見られる若い声がゆったりとした口調で響いた。

「この人は弱すぎたのです。 世の中は弱肉強食。 強く賢いものが人のうえに立つ。 これが自然の摂理というもの。 あなたがたは、弱く無知な人を崇め祭り、国が栄えると思っているのですか?」

「ぐ……っ」

 兵士たちが言葉を失った。

「このクリス・ゴードンこそが次の王になります。 従えなければ、出ていって構いませんよ」

 なんとも勝ち誇ったような声だ。 ロックスはたまらず広間に駆け込んだ。

「何を勝手なことをしてやがる!」

 ロックスの声に驚いた兵士たちが振り向き、同時に奥までの隙間があいた。

「! 王!」

 目を見開いたロックスの前に、ゴロンと横たわったサージヤ ジュニア王の姿が見えた。

 

「どういうことだぁ!」


するとクリスは口元を吊り上げながら言った。

「弱いものが強いものに逆らったらどうなるかを、皆様に教えただけです。 それとも、あなたもこの肉の塊に一生を捧げるつもりだったのですか?」

ロックスは体がどうしようもなく熱くなるのを感じていた。


『怒り』


それに任せて暴れるのもいいだろう。 だがそうすれば、ここにいる何人もの仲間たちを失うかもしれない。 一瞬で様々な感情がロックスの中を駆け巡り、ひとまずここは抑えることにした。

だが、治まったわけではない。


「おまえは一体、誰なんだ?」

低い声で絞りだすのがやっとのロックスに対して、クリスは指先で眼鏡を上げながら勝ち誇ったような口振りで答えた。


「私はこの国の王です」

「勝手なことを言うな!」

口調が少し強くなった。 グッと握る両拳が震えている。 するとクリスはいぶかしげな顔をして尋ねてきた。

「それであなたは、誰なのですか?」

「お前には関係ないだろう! いますぐこの城、いや、この国から出ていくんだ。 そうしたら、見逃してやる!」

そういうロックスに向かって、クリスは首を傾げた。

「それはあなたが指図することではありません。 おとなしく私に従えば良いのですよ」

ロックスはすでに、我慢の限界に来ている。

そんなロックスに、クリスは淡々と続けた。

「あなたも富を得たいでしょう? コダマを手に入れることができれば、一生遊んで暮らせます。 私たちは汗だくになって働かなくても良いのですよ」

空を仰ぎながら妄想に更けるように話すクリスに向かって、ロックスはゆっくりと歩を進めた。 クリスは怯える様子もなく、腰に手を置いて立っている。

悠然と。

ロックスは彼の前まで近づくと、静かに言った。

「もう一度言う。 いますぐこの国から出ていくんだ」

クリスを見下ろすロックスの瞳は怒りに震えている。 クリスはそれをものともせずに見上げている。 その時誰かが声を出した。


「やっぱりコダマを独り占めする気なのか!」

それに呼応するように次々に声が上がった。

「そうか、やっぱりシーノとグルなんだ!」

「よくもノコノコと来たな!」

兵士たちの矛先がロックスに向けられた。 クリスは面白そうにその様子をうかがっている。


「なんだか、騒がしくなりましたね」

クスクスと笑うクリスの前で、ロックスは困惑気味に周りを見回している。 罵倒はすっかりロックスに対してのものだ。

「な、何を言ってるんだ! 皆、こいつにだまされているだけだ!」


「コダマの居場所を知っているんじゃないか?」

「もしかして、もうコダマを捕まえているんじゃないか?」

「俺たちをだましているのはお前だろう!」

ついに兵士の手がロックスの武器に触れた。

「城から出すわけにはいかない!」

武器を取り上げようとする兵士の手を振り払い、ロックスは後退りをした。 だが後ろはクリスたちが固めている。

「……!」

ロックスは意志を固めた。手にしていた剣を振りかざすと、兵士たちを薙ぎ倒した。


「うわぁっ!」

「やっぱり裏切り者だぁっ!」

『すまん!』

ロックスは心のなかで叫びながら、あくまで峰打ちで仲間たちを殴り倒していった。 とりあえず外に出なくては……あまりにもロックスにとって不利な状況だ。 覆いかぶさってくる者を振り払い、一瞬で裏切り者になったロックスは広間を飛び出した。

「待て~!」

追い掛けてくる兵士たちの向こうに、悠然と立っているクリスの姿があった。




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