表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コディの泉  作者: 天猫紅楼
10/28

森の中の不審人物

 翌日は雨が降った。

 ここのところまとまった雨がなかったので、森にもきっと恵みとなっただろう。 だがこう大降りでは外に出ることも制限される。 ザーザーと降る雨粒を眺めながら、つまらなさそうに窓辺に座るシーノ。

 兵士とは、使われない限りは暇なのだ。 訓練や武器の整備は毎日しなくていいし(というか個人に任されている)、城の警護は順番性だ。

 部屋の中で静かな時間を過ごすシーノとロックス。 遠くまで雨霧で霞む森の中で、不穏な動きがあるのをまだ知らずにいた。

 

 

 

 数日経って、やっと青空が顔を出した。 爽やかな風が湿った空気を流し、あちこちで洗濯物がはためいている。 シーノはやっとコディに会えるとあって浮き足立っている。 軽い服装に着替えると、同じように準備を済ませたロックスと共に部屋を出ようとした。 その時、部屋の中に一陣の風が巻いた。

「?」

 振り向くとそこに、コディの姿があった。

「コディ! 来ちゃいけないって言ったはずだぞ?」

 驚くシーノに、コディはフワンっと抱きついた。 体が震えている。

「どうしたんだ? 何かあったのか?」

 コディの様子がいつもと違うのに気付いた途端に不安が胸をよぎった。 じゃなければ、わざわざ危険を犯してまでシーノのもとに来るわけがない。 コディは少し震えた声でシーノに言った。

 

 

 《森の中に、変な奴らが入ったんだ》

「へんなやつら?」

「旅人や商人が雨宿りでもしてたんじゃないのか?」

 ロックスの言葉にシーノもそう思ったが、そんなことならコディもわかるだろう。 コディはブンブンと首を横に振って訴えた。

 《違うんだ。 だって奴らの周り、空気がよどんでる! 絶対悪い奴らだ!》

 どうやらコディは、人の雰囲気で何かを感じるようだ。

 《奴ら、城がどうのって言ってた!》

 その言葉に、シーノとロックスは緊張が走った。

「そいつら、どんなやつらかもう少し詳しく教えてくれ」

 シーノが言うと、ロックスが慌てて言った。

「ちょ、ちょっと待てよ。 俺たちだけでなんとかしようとする気じゃないだろうな?」

 すでにシーノは窓辺に足をかけていた。 ロックスの方を振り向くと、

「ちょっと偵察に行ってくる!」

 と片手を挙げ、そしてフワッと飛び降りて行った。

「おい、シーノ!」

 ロックスの呼び掛けにも答えず、シーノはタタッと走り去った。 その首にはコディが腕を絡ませている。

「ったく、あいつは! 時々突っ走るからなぁ!」

 ロックスは頭をガシガシかきむしりながら、困り果てたようにシーノの後ろ姿を見送った。

 

 

 

 シーノは走りながら首にしがみついているコディに尋ねた。

「コディ、そいつらはどこに居るんだ?」

 《ババの木の近くに集まってる》

 指差す方へ急ぎ、やがてババの木の近くになると、気配を消して枝に飛び乗ると周りをうかがった。 少し広がった場所に、何者かが寝泊りしているらしいテントを見つけた。 人の姿はまだ確認できない。

「あそこか……」

 シーノはコディを下ろすとささやいた。

「お前は隠れてろ」

 コディは心配そうにシーノを見上げた。 裾をつかむ手を優しく握ると、そっと離して笑顔で言った。

「大丈夫だ。ちょっと見てくるだけだから」

 そしてコディの頭を二、三度グリグリッとなでると、きびすを返した。

 

 木陰に隠れて様子をうかがい見ると、こじんまりとしてはいるが陣営のようだ。 あきらかに旅人や商人の作る簡易的なものではなく、長期利用出来そうなしっかりとしたテントが二つ。 外には焚き火の跡や食事の跡がある。 ただ静かにたたずんでいる。 物音ひとつしない。

『誰もいないのか?』

 シーノは周りを気にしながら近づいてみることにした。

 

 テントの壁に耳を付けたが、中には誰もいないようだ。 用心しながらテントの中を覗いた。 中には毛布と小さな机、そして数冊の書籍。

『森の深部』

『未確認生物学』

 ……なんだか難しそうな題名が並んでいる。

 積まれている本の間に挟まれているメモの字を見て、シーノの全身に鳥肌が立った。

『コダマ?』

 

 

 シーノは慌てて外に出た。

 その時、バンッという破裂音と共に彼の足元の土が跳ねた。

 

「!」

 周りを見ると、五、六人の男女がシーノを囲んでいる。

「しまった!」

 その中の赤髪の女が冷たく銃口を向けている。

 

「セツナさん、まずご挨拶してさしあげなくては。 彼、ビックリしているじゃありませんか」

 女の後ろから、眼鏡を指先で上げながら細身の男が現れた。 動けずにいるシーノに向かって、余裕を見せながら悠然と立っている。

 

「はじめまして、泥棒さん。 人様の住居に忍び込むなんて、あまり行儀の良い事ではありませんねぇ。」

 ジリッとまわりの男たちが身構えている。 合図一つで襲い掛かれる態勢だ。

「……」

 シーノは機会をうかがった。 必ず隙があるはずだ。 眼鏡男がゆったりと話した。

「私はクリス・ゴードンと申します。 学者をしています。 この辺りは緑が豊かで、研究するにはとても最適なんです。 ところが、町で食料などを調達している間に泥棒に入られた……これは由々しき事態です」

 はぁ、とため息をつくクリス。

 

 学者がわざわざこんな森の中にテントなんて張るか? 周りを囲む男たちも、戦いに慣れた感じがする。 中には舌なめずりをして、早く戦いたそうな顔をしている。 セツナと呼ばれた赤髪の女も、ストレートな長髪で半分以上顔が隠れているが、表情なく冷たい感じがする。 怪しいところばかりだ。 クリスはニヤッと口を歪めた。

「中で何をしていたんですか?」

「……!」

 黙っているシーノにクリスは一息つき、呆れたように言った。

「何をしていたにしろ、あなたはあまりよくない事を知ってしまった顔をしていますね。 もしや、私たちが探しているモノを知っているのでは?」

 シーノは黙秘している。

「交渉次第では、この荒々しい人たちを押さえて、あなたを解放してあげますよ」

「お前たちの目的はなんだ?」

「ふぅん。 じゃあ教えて差し上げましょう。『コダマ』を探しています」

 シーノは『やっぱり』と心の中でうなずくと、クリスに言った。

「この森にそんなものはいない。 これ以上探したところで、虫に刺されるか獣に襲われるくらいだ。」

「ははぁん……ですが、この国の王が捕らえたとあちこちの国では噂になっているのですがねぇ……」

『んだよあいつ! 言い触らしやがって!』

 シーノは心の中で主に悪態をついた。

「噂話だ! ここには何もいない!」

「やっぱり何かを知っているようですね。 本当は王に会って問いただそうと思ったのですが、その心配もなさそうですね」

 囲む輪がジリッと狭くなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ