第3話 模範
【模範】
も はん
見習うべき手本。
「―的な青年」
◆
――白く塗りつぶされた視界。
低く長い耳鳴り。
身体がふわりと宙に浮くような感覚のあと、突然急降下するような感覚
...コト...マ
ジェットコースターのような…でも気分の悪さはコーヒーカップか…?
....トサマ...コトサマ....
「ミコト様ッ!!」
ミコト「……っ」
驚きミコトは目を開く。
そこは自分が住んでいた世界国日本圏都会県の学生街。
しかし明らかに…
様子が違っていた。
【世界国日本圏都会県 学生街21XX+10年Ver.】
目の前にある建物の壁という壁には、派手な色の文字が踊っている。
「自由こそ正義!」
「ヒア・ウィー・ゴー」
「縛ラレルハ我々ニ非ズ」
ブゥォーーン
ヒュ〜〜 ッパーーン ッ
空を見上げれば車が自由自在に飛び回り、花火が上がっている。
ぅ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ ジャガジャガジャガピー
後ろを振り返ればメタル系のロックバンドが地上用車道でパターゴルフをしているご老人たちのBGMと化している。
ミコト「…な…なんだこれは…」
ヤミ「…ミコト様。
これが10年後の…タ・ヨーセイが世界大統領になった世界国日本圏都会県であります…。」
ミコト「ヤミ、、、
ほ、本当に…未来から来たのか。」
いたたまれないような表情で、目線を落とすヤミ
突然、爆音。
ブォォォォォン!!
地上用歩道を空挺バイクが突っ切っていく。
バイク男「ヒャッハーー!! 歩道も車道も地上も関係ねえぜヒア・ウィー・ゴー !!」
通行人が一瞬驚いて小さな悲鳴を上げるが、すぐに向き直り歩き始める。
誰も止めない。
止めようともしない。
ミコト「こ、これが…10年後…」
ヤミ「はい……。
“多様性”を尊重した結果、
誰も“他人の行動”や"他人の主張"に口を出せなくなりました」
ミコト「アンビリーバボー…。」ボンッ
ミコトはそう呟き、持ち前の天才頭脳はショートする。
背後で、今のミコトとリンクするかのごとく機械が嫌な音を立てた。
ギギ……ギギギ……
ヤミ「…あ…っ」
ヤミが青ざめ、振り返る。
ヤミ「タイムマシーンが……!」
ボンッ!
爆音と共に煙を上げ、装置の一部が火花を散らす。
ヤミ「あわわ…」
ポチポチッポチッ カタカタカタッターン
ヤミが焦りながらタイムマシーンの制御盤を操作しているが、一向に動く気配が無い。
ヤミ「ミコト様…大変申し訳ありません。
完全にブチ壊れました。」
ミコト「ブチーー…こわれ?」
ヤミ「タイムマシーンが直らない限り…この時代に留まるしかありませんであります」
ありませんでありますありますアリマスーーー
沈黙。
ミコト「……ふ、風紀党とやらの仲間には協力を仰げないのか?」
ヤミ「風紀党はミコト様が亡くなられたときに主力メンバーのほとんどが暴動を起こしてしまいまして…
ただいま世界国の指名手配テロリストとして逃げ回っているでありますっ!」
ミコト「な、なんだってぇェエエエ!?」
ミコト「ぼ、暴動だと!仮にも未来の僕の仲間たちが…一番風紀を乱してるじゃないか!」
顔を青ざめてヤミの肩を激しく揺らすミコト
ヤミ「だ、だだだってぇ〜!
ミコト様の事故は仕組まれていたとか、陰謀だとか、敵対政党許すまじと思ってブチギレちゃう皆さんの気持ちも私には分かるでありますぅーー」グラングラングラン
〜
ドドンッ!
ミコトを敬愛し、規律を守り、自らを律していた元風紀党員の多くは、
世界国でも最大有数の指名手配犯になっていた!!!
〜
ヤミ「で、でもでもですね!
実はタイムマシーンにはコアとなる石があるのですが、それを風紀党の開発部門に注文してます!
そのコアさえあればすぐに直るので、ほんの少しだけお時間貰えれば…!」
多すぎる情報量、理想とはかけ離れた未来の世界、突然巻き込まれたことに対する戸惑いや不満
天才であり秀才、圧倒的な存在であるミコトは6秒ほど固まった後、すべてを理解し解釈し、自分を納得させた。
ミコト「いや、そうだな。
取り乱してしまいすまなかった。ヤミ。」キリッ
ヤミ(この切り替え…!さすがミコト様。私もこのようにならねば…)
ヤミ「い、いえ!むしろ私の不手際で…ご迷惑ばかりおかけしてしまって…
本当にすみません…」シュン
ミコト「いいんだ。ヤミは僕を救おうと頑張ってくれている。
それに待つしかないのであれば、待つだけだ。」
ミコト「だが…」
ミコトはそう言って、改めて街を見渡す。
誰もが自由で、
誰もが勝手で、
他人の主張を、行動を縛ることの出来ない世界。
これだけ騒いでいたミコトやヤミのことも、誰も気にすることもなく、見てすらいない。
ミコト「多様性が追求され、主張を受け入れ続けた結果。
もはや他者に対する興味を失っているではないか…。」
ミコト「……風紀が…乱れているな。」
ビリビリbilibiliィィ!
ミコトはおもむろに立ち上がり、自分の着ていた服(シルク生地)を強靭な握力で引き裂く
ヤミ「…み、ミコト様…!!?」
そうして即席の雑巾として壁の落書きを拭き始めるミコト
ヤミ「い、いけませんミコト様!
貴重なお洋服が…!
(ミコト様の半裸ハアハア)」鼻血タラー
ミコト「良いんだ。落書きをするのが自由なら…掃除するのも自由だろう。」
ヤミ「…!そ、それなら私も」
ミコト「やめておけ。
女性が公共の場で服を脱ぐなど、あってはならない。
僕のこの雑巾を一つ渡すから、手伝ってくれないか?」
ヤミ「ミコト様…。」
そんなミコト様だからこそ、
私はお慕いしているのですーーー
男が公共の場で服を脱ぐことも、なかなかあってはならないような気もするがーーー
そんなことは誰もツッコまない。なぜなら多様性の時代だからッッッ!!!!
◆
せっかくなので未来の街を観てまわりたいーーーーーー
ミコトの要望に、喜んで!と返すヤミ。
「iPh◯ne481Xpro発売!」
「人工知能が新たに開発した知能。電工知能として更なる発展が期待される」
「新たな多様性、風呂キャン界隈の主張」
街自体の大きな変化は無いが、広告やニュースを見ると間違いなく10年後ということが分かる。
ヤミとミコト、軽い雑談をしながら歩いていると、ふと無意識的にミコトが通っていた高校に辿り着いた。
中学生までは地方県で過ごし、高校入学を機に都会県に出てきたミコト。
〜
ドドンッ
日本圏最高クラスの偏差値89を誇る
『私立 超覚醒高校』!!!
全校生徒480名!!!
日本圏全土から文武両道、いやそれぞれを極めた「文武両極」の者たちが集まり研鑽を研ぐ伝統はそこまで深くない名門校である!!
カッ
〜
そんな輝かしい母校を覗いてみると、グラウンドに人だかりができており何やら平穏では無さそうな雰囲気。
「だから言ってるでしょ! 生徒会長だからって、私たちを縛る権利なんてないって!」
「そうそう! 私たちは“マイノリティ”なの!」
「そうだそうだ!少数派の意見も受け入れるべきだ!」
輪の中心にいたのは、一人の少女だった。
制服姿。
長い黒髪を一つに束ねている。
ごく普通の見た目。
少女「私は……命令しているわけじゃない。
最低限のルールを守ってほしいだけ……」
「規則だルールだ勝手にやってろよ!俺達にも従わない自由があるはずだ!」
「ルールを守りたくても守れないマイノリティを可哀想だと思わないの?」
少女の肩が、小さく震える。
ヤミ「…なんだ奴らは…!よってたかって1人の少女を囲み…!」
ミコト「……。」
ミコトは、人だかりの中へ一歩踏み出した。
ミコト「失礼。少し話を聞かせてもらえますか?」
一斉に視線が集まる。
「誰?」
「え、なになに?不審者ウケる」
「おお、七三分け。マイノリティィ〜」
一人の屈強そうなモヒカンヘナタトゥーの学生が肩を揺らし寄ってくる。
モヒカン「なんだぁお前らはよ…!?
不審者はすっこんでろや…!」
ヤミ「なんだ貴様!」
ヤミ「ミコト様になんて口を…。
しかも高校生なのに、そのタトゥー…、その髪型!!
丸刈りにして白粉を塗れ!」
モヒカン「ブチッ
な、なんだと…!?」
ヤミ「日本圏男児ともあろう者が情けない姿だな…。
古代器具の丸ノコにでも憧れているのか?
坊主にしてノ◯ノコにしてやったほうが可愛げがあると思うぞ。」
モヒカン「ブチッブチッ」
ヤミ「あと、そのタトゥーは意味分かってるのか?
" I foul so love"…
foulではなくfeelならまだ分かるが…。
Foulだと意味が…不潔、汚いに…
いや失礼、間違えてなかったな。」
モヒカン「ブチッブチッブチチチ切れだぜぇえええええ!」
激昂するモヒカンがヤミに殴りかかろうとする。
160センチそこらの細身のヤミに対して
200センチはありそうな大巨漢のモヒカン
まさに大人と子ども
だが、モヒカンの手をミコトが握り、制止する。
ミコト「ヤミ…。第一声から他者の好みを否定、さらに命令から入るのは良いと思わないぞ。
あと煽りすぎだ。」
ヤミ「…!
し、失礼しました…。」
ミコト「謝るのはこのFoulくんに対してだ。」
ヤミ「むむっ…」
ミコトはモヒカンに頭を下げ話す。
ミコト「むしろ、君のその髪型とタトゥー、とても個性的だと思う。
恐らく使っているのは池免社のジェルとワックスかな?ミントの香りが素晴らしい。」
モヒカン「おぉ?分かるやつじゃねえか!
そうだよな!?
カッコいいよな!!
こーゆー自由な髪型も受け入れられなきゃな!
"多様性"ってやつだよ!」
ミコト「自由、多様性…
素晴らしいですね!」
ミコトは笑いながら、モヒカンの手首を掴んだままの手に力を少し込める。
モヒカン「ッッッ!」
ミコト「すまないが、ここはどうか抑えてもらえないだろうか。
それにこの世界国では、暴力の自由だけは認められていないと聞いている」
モヒカン「…チッ。
わかったよ」
ミコトの後ろでモヒカンに対し舌を出して中指を立てるヤミ
モヒカン「…次そこの眼帯野郎に会ったら、もっと"多様性"ってやつを教えてやる…!」
モヒカンは捨て台詞を吐いて立ち去る。
ミコトは改めて学生の群れに歩み寄る。皆が道を開ける。
そして真ん中には一人の少女
少女が、はっと顔を上げる。
少女「……あの……」
ミコト「君は?」
少女「……田中由美です。
この学校の…生徒会長です」
その言葉に、周囲から失笑が漏れる。
「生徒会長(笑)」
「権力ないくせに」
由美は、唇を噛みしめた。
由美「わ、私だって……好きでやってるわけじゃない。
でも、誰かがやらないと……」
その声は、か細く今にも折れそうだ。
ミコト「……なるほど」
ミコトは、静かに頷く。
ミコト「やりたくないのであれば、代わってやろう。」
由美「……え?」
ミコト「生徒会長とは、学校の代表であり模範だ。
やりたくない者に押し付けるべきではない。」
由美の目が、揺れる。
ミコト「君が困っているということも分かった。
あとは――」
ミコトは、周囲を見渡した。
ミコト「この状況を、正すだけだ」
ヤミ「ミ、ミコト様……!」
ミコトは、由美に向き直る。
ミコト「さて、どうする?」
由美「……。待ってください。
私が…生徒会長です。
私に、やらせてください。」
ミコト「そうか。なら、協力はさせてくれ。」
静かな声だった。
ミコト「風紀が乱れているなら―― 正していきたいというのは僕の、"個性"だ。」
その言葉を聞いた瞬間、
由美の目に、わずかに光が戻った。
「あの七三の人...かっこいいな...」
「あぁ。...でもさ」
「うん。.....なんでずっと上裸なんだろう。」
◆
日本圏最高クラスの偏差値89を誇っていた
『私立 超覚醒高校』!!!
かつて480名いた学生数も
今や全校生徒120名!!!
多様性の暴走により、迫りくる波のように校則は瓦解
そう!
ミコトが卒業してから、
超覚醒高校は学級崩壊ならぬ学校崩壊していた!!
〜
『へへっ、なにやらOBの先輩が遊びにきてるらしいぜ…』
『遊んであげようじゃないの』
『…ふん。』
超覚醒高校で悪い意味で覚醒した3人の学生が薄く笑う
どうなるミコト!どうなる由美ちゃん!
次回、こうご期待!!!




