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第5話 聖女さま、ドラゴンの背に乗る。(1)

「ぐふっ、ぐふふ……っ」


 テレビ画面を流れていくエンドロールを眺めながら堪えきれずにぐふぐふと笑い出す。


「どう見てもコピー・アンド・ペーストな感じのクロコダイル……ぐふっ、ぐふふっ……大量の、同じ動きをするクロコダイル……ぐふっ、ぐふふふふっ……」


 なんて言うか――。


「このちゃちさがたまらない! やめられない! とまらない! いいぞ、動物B級パニックモノ映画! 最高だ! 最高だぁぁぁーーー!!!」


 なのである。ソファの上でごろんごろん転がり、足をジタバタさせる。

 でも――。


「……さすがにちょっと動きたいかなーって気持ちになってきた。ていうか、広い場所に行きたいかなーって気持ち?」


 よっこいしょーいちっ! と前世の祖父がときどきつぶやいていたかけ声をつぶやきながら上半身を起こす。

 テレビとソファとお菓子を置くためのちょっと広めのテーブルが置かれているだけの、この二週間ですっかり見慣れてしまったシンプル・イズ・ベストな部屋。基本的にはこの部屋に引きこもってだらだらごろごろしていたいけれど、たまには違う景色も見たくなる。


「でも、この、誰の目も気にしないおひとりさまやりたい放題わがまま生活は絶対に死守したい……!」


 そのためには洞窟に張った結界を解くわけにはいかない。解くわけにはいかない以上、洞窟の外に出ることもできない。


「ぼんやり光る苔やキノコを眺めてるのも悪くないんだけど、いつかあきちゃいそうだしなぁー」


 ソファに背中からダイブして真っ白い天井を見上げる。


「なんか……いい方法は……」


 んーーーとうなったあと、ため息を一つ。


「とりあえず映像がきれいな映画でも見ようかな。ちょっと古いけど3D映画としてヒットした某アバァータタタタターーーあたりを視聴環境をがっつり整えて……」


 と、3D映画が見られるプロジェクターやプレイヤーをバンザイしてピッカーーーン! と万能魔法で出そうとした万能聖女さまな私ははたと手を止めた。

 そう、私は〝万能〟の称号を得た万能聖女さま。万能聖女さまが使う万能魔法に不可能なんてない! なぁーんてことはないけれど、それにしたってもうちょっとなんかこーできることはあるはずだ。もうちょっと、こー。


「そう、魔法は想像力。そんなことを誰かが言っていた……気がする! 魔法の先生……とかじゃないなぁ。……あれだ! 前世で見たアニメとかラノベとか、そんなんで!」


 とかなんとか言いながら目を閉じて思い浮かべる。

 せまい空間にいながらあたかも広い空間にいるかのように感じることができる技術。この世界に存在する技術である必要はない。ポップコーンも炭酸飲料もテレビも映画もこの世界にはない、前世にあったものだ。

 前世の技術でそれっぽいものと言えば――。


「仮想現実……VR技術……!」


 ぽん! と手を打ってそのままバンザイ。仕組みなんて知ったこっちゃない。〝できる〟イメージがあればいいのだ。

 案の定――。


 ピッカーーーン!


 雑な感じで魔法が発動してまばゆい光があたりを包む。次の瞬間にはシンプル・イズ・ベストな部屋ではなく、この国の王都にある王城にいた。

 見上げれば青空が広がり、足元を見れば青々とした芝生が生えている。空と芝生のあいだにはヨーロッパとかにありそうな石造りの城が建っている。

 そう、この国の、王都にある、王城――。


「おうじょー……王城? 王城!? ぶびゃーーー! 王城ぉぉぉーーー!?」


 第一王子の婚約者という立場上、何度も訪れたことがある王城の一角にいたのである。

 城というのはどこもかしこも使用人やら警備兵やら大臣やら商人やらなんやらかんやら、とにかく人の出入りが多い場所だ。

 人の、出入りが――!


「ひ、ひひひひひひと……! い、いやだ! 人に会いたくない! ぷぎゃ、ぷぎゃぎゃ! 引きこも、もこもこ、引きこもりたい! 引きこもりたい! ひ、ひひひひひとに会いたくないぃぃぃーーー!」


 ひぃんひぃん泣きながら芝生に突っ伏して避難訓練よろしく全力で頭を抱える。

 でも――。


「……ん? ……お? ……あーはぁーーーん?」


 いつまで経っても誰にも話しかけられない。誰の声も聞こえてこない。

 いつもは純白の聖衣をまとっている万能聖女さまな私が前世にはあったけどこの世界には存在しないふわふわもこもこのゆるゆる部屋着で頭を抱えて亀のように地面に這いつくばっていればすぐさま騒ぎになりそうなものだし、誰かが駆け寄ってきそうなもの。だけど、いつまで経ってもあたりはしーんと静まり返ったまま。

 恐る恐る顔をあげ、あたりを見まわして――。


「……うひゃ……うひゃひゃ」


 にんまりうひゃひゃと笑い出した。

 広い広い場所にいる。だけど、誰もいない。使用人も警備兵も大臣も商人も誰も。人っ子ひとりいない。

 そう、誰も――。


「誰も! いっなぁぁぁーーーい!」


 なのである。

 カメになっていた私はウサギのように飛び跳ねて腰を振り振り、頭を振り振り、腕をタコかイカかクラゲのごとく、ふにょんふにょんさせながら小躍りした。仮想現実的な、VR技術的な、なんかそんな感じの雑魔法は大成功である。


「さすがは万能聖女さまの万能魔法!」


 自画自賛して改めてあたりを見まわす。

 今いるのはこの国の王城。その広い敷地内にある騎士団関連の施設が集まる一角だ。第一王子で婚約者だったサミュエルは騎士団に所属する騎士でもあった。そんなこともあって騎士団に関連する施設は王城の中でもよく連れてこられた場所だ。


 騎士にもいろいろとあるけれどサミュエルがここで紹介してくれたのは竜騎士団に所属する騎士とパートナーのドラゴンたち。青々とした芝生の、広々とした訓練場にずらりと並んだのは炎を吐くドラゴンに風や水を操るドラゴンなどなど。

 そんな中でサミュエルが〝私のパートナーなんだ〟と言って紹介してくれたのが真っ黒なうろこのブラックドラゴンで、私の視線を奪ったのが真っ白な毛並みのホワイトドラゴン。


 前世の記憶があることも異世界転生者でることも、両親にもサミュエルにも誰にも話していない。だから、妙なことを口走るわけにはいかない。

 でも、だけど、あの日、私は心の中で絶叫していた。ずーーーっと絶叫していた。

 そう――。


「ファルコンさぁーーーん! ファルコンさんじゃないですか! あの! 某ネバーな名作エンディングなストーリーの! 真っ白ふわふわもふもふ某ファルコンさんじゃないですかぁぁぁーーー!」


 と――。

 芝生に伏せている真っ白ふわふわもこもこな巨体を見つけるなり私はあの日と同じ絶叫を、本日は心の中ではなく全力全開腹の底から青空に向かって絶叫して駆け出した。


『ぷっ!?』


 真っ白ふわふわもこもこ巨体に抱きつくっていうかタックルかます勢いで飛びかかると某ファルコンさん激似のホワイトドラゴンは目を丸くした。

 でも――。


『ぷーーーい♪』


「ぷ、ぷーーーい!」


 なんとも言えない愛らしい声で鳴くと猫のようにごろごろとのどを鳴らして目を細めた。某名作映画の某ファルコンさんは言葉をしゃべっていた気がするけどホワイトドラゴンはしゃべらないし、ぷぷーいが鳴き声らしい。やばい。かわいい。しばらくムダにぷぷいぷいぷい言ってしまうかもしれない。なんちゃってえせホワイトドラゴン語でしゃべってしまうかもしれない。


『ぷぷーい♪』


「ぷーいっ!」


 しゃべってしまうかもしれない――!

 それはさておき、サミュエルはあの日、こう言っていた。


 ――ホワイトドラゴンは竜の中ではダントツで穏やかな気性、人懐っこい性格をしているんだ。

 ――パートナーである騎士以外の騎乗を許す数少ないドラゴンなんだよ。


 なんて話を聞いたらこう思うじゃないですか。


「この流れはホワイトドラゴンの背に乗せてもらえるんじゃない? って! 心の中の中島みゆきが歌い始めるじゃないですか! ぎぃーんのりゅーうのぉーせにぃーのおってーーー♪ ってぇぇぇーーー!」


 ところがどっこい、すっとこどっこい、サミュエルは続けてこう言ったのだ。


 ――でも、レティーシャには私のパートナーであるブラックドラゴンのドレークに最初に騎乗してほしいな、……なんて。

 ――前例はあるんだ。ブラックドラゴンがパートナーである騎士のこ、恋人を乗せたという前例は。

 ――私がドレークに認められるくらい実力をつければ私の……た、大切な人のことも乗せてくれるようになる。

 ――だから、レティーシャ。その時には私といっしょにドレークの背に乗ってほしいんだ。


 中二病心くすぐられるフォルムのブラックドラゴンの背にも乗ってみたい。某世界的な日本アニメーション制作会社の某ゲドな戦記とか、某夢の国の某スリーピングな美女に出てくるみたいなフォルムのブラックドラゴンの背にももちろん乗ってみたい。

 でも、だけど、それはさておき――。


「某ファルコンさんにそっくりな真っ白ふわふわもこもこホワイトドラゴンさんにも乗りたぁーーーいっ! 真っ白ふわふわもこもこの、せにぃーのおってーーー!!!」


 なのである。

 あと――。


「無理に乗らなくていいし! ブラックドラゴンのドレークさんにもうしわけないから無理に乗らなくていいし! ウェルカムオーラ全開の某ファルコンさん似のホワイトドラゴンさんに乗せてもらえれば十分過ぎるくらい十分だからぁーーー!」


 なのである。

 あの日、心の中で絶叫したセリフをそのまま全力全開腹の底から青空に向かって絶叫して――。


「と、いうわけでお邪魔させていただきやっす!」


『ぷーーーい♪』


 私は真っ白ふわふわもこもこの背によじ登ったのだった。

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