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第28話 聖女さま、死守する。(2)

「落ち着け、私……まだあわてるような時間じゃない……まだ、あわてるような、時間じゃ……ない!」


 万能聖女さまな私を助け出す算段がついたと大喜びしているテレビ画面の中の五人の姿を――サミュエルとアラン、ティムとジャイルズ、そしてチヒロの姿を見つめながらぶつぶつつぶやく。自分自身に言い聞かせるようにぶつぶつぶつぶつつぶやく。


「この誰の目も気にしないおひとりさまやりたい放題わがまま生活を死守するため、殺し以外ならなんでもやる。……なんでも、だ」


 聖女にあるまじきセリフをつぶやきながら状況を整理する。テレビ画面に映し出されているのはリアルタイムな映像。ジャイルズの実験室の映像。その場にはサミュエルとアラン、ティムとジャイルズ、そしてチヒロの五人しかいない。

 そして――。


『明日の朝一番にみんなにも知らせよう! レティーシャお姉さまを助け出すための魔法道具が完成したって! 私たち五人だけの秘密にしておくなんてできないよ!』


 と、チヒロが今、まさに、リアルタイムで、そう言っているということは試作品一号と呼ばれるトイレに置いとく消臭剤っぽい形の魔法道具について知っているのもその場の五人だけだということだ。


『このことを知ったらみんな、絶対に大喜びするよ。あ~、早く明日にならないかなぁ。朝にならないかなぁー!』


「そんなことさせるかぁーーー! ここで……この五人までで食い止めぇーーーるっ!」


 バシーン! とテーブルを叩いて立ち上がるとバンザイ、からの、ピッカーーーン! 雑に魔法を発動。


「危険物・試作品一号の強奪と破壊、ならびに関係者五名の記憶の消去を命じる! 今すぐに! 今! すぐ! に!」


『かしこまりました。試作品一号の強奪と破壊、ならびに関係者五名の記憶の消去を今すぐに行います』


 という返事が終わるか終わらないかのうちにテレビの中のリアルタイム映像に黒サングラスに黒スーツ姿の男二人――ではなく、ネコ型ロボット二匹が現れた。


「おぉーおー……あれは某メンでインでブラック的な……」


 と、来ればこのあとの展開は大体、読める。


『はーい、ここを見てくださいにゃー』


 ピカッと光って記憶を消去する某ペン型アイテムがペカーッ、と光る。ポカンとしている五人をよそに試作品一号をわしづかみにした某メンでインでブラックな二匹組がテレビ画面の中から消える。

 かと思うと――。


『危険物・試作品一号を持ってきたにゃ』


「うひょ……、うひょひょーーーっ!」


 シンプル・イズ・ベストな部屋にまたたく間に現れてポップコーンまみれのテーブルにトイレに置いとく消臭剤っぽい形の魔法道具を置いた。そして、某メンでインでブラックな映画にも出てきそうな銀色ピカピカで丸みを帯びたフォルムの小型銃を向けると――。


 キュイィィィ……ヒュン、ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!


「うひょーーー! うひょひょひょひょっ!」


『これで任務完了にゃ』


 木っ端みじんのこなごなに吹き飛ばした。


「よくやった、エージェントN! 完璧な仕事だ、エージェントNNN!」


『この程度の任務、俺たちにとっては朝メシ前にゃー』


 テキトーにつけたエージェント名にツッコミを入れることもなく、二匹の某メンでインでブラックなネコ型ロボットはモデル歩きでシンプル・イズ・ベストな部屋を出て行った。


「ありがとう、エージェントN! ありがとう、エージェントNNN!」


 二匹の某メンでインでブラックなネコ型ロボットを両腕を振って見送ったあと、テレビ画面に視線を戻す。


『あれ? どうしてみんなが僕の実験室に?』


『研究室で魔法の研究をしていたはずなのに……』


 ジャイルズは首を傾げ、ティムは眉をひそめる。


『サミュエルの執務室にいた気がするのに……』


『あ、ああ……』


 アランの言葉に同意するようにサミュエルもうなずき、二人そろって首をかしげる。


「消去後の記憶のでっちあげをしなかったな、エージェントN……仕事がちょっと雑だな、エージェントNNN……」


 顔を見合わせているジャイルズとティム、アランとサミュエルにハラハラしていた私だったけど――。


『レティーシャお姉さまを助け出すための方法がなかなか思い浮かばないからみんなで相談しようって集まったんだよ!』


「チヒロちゃーーーん!」


 チヒロの発言にパチパチと手を叩く。エージェントNとエージェントNNNの代わりに記憶をでっちあげてくれるようだ。たまたまだろうけど、天然でだろうけど。なにはともあれ、こちらとしては助かる。とーーーっても助かる。


『一人で考え込むよりもみんなで話し合った方が何か思い付くかもしれない、思いもよらないことがきっかけで解決の糸口が見つかるかもしれないからって!』


『なるほど!』


『そう言われてみればそんな気がしてきた!』


『さすがは異世界からやってきた伝説の少女!』


『さすがは浄化の神子!』


「さすがは乙女ゲーのヒロイン! かなーーーり強引な感じだけど丸く収まったぁーーー!」


 パチパチパチパチと拍手喝采、からの、スタンディングオベーションして、はぁーーーっと安堵の息をつく。


「これで問題解決! 私の私による私のための世界平和は守られたぁー! 誰の目も気にしないおひとりさまやりたい放題わがまま生活は守られたぁーーー!」


『なぁんて言いつつ、なかなかレティーシャお姉さまを助け出すためのいい方法は思い付かないんだけどね、へへへ。……ちょっとしつれーい。お花を摘みに……行って……』


 自嘲気味につぶやいた言葉をごまかすように頭をぽりぽり。トイレに行くつもりで立ち上がったはずのチヒロははたと動きを止めると――。


『トイレに置いておく消臭剤、みたいな……そういうので常に、自動的に、勝手に浄化ができたら……』


 なんてつぶやき――。


『私、レティーシャお姉さまを助ける方法を思いついたかもしれない!』


『誰の目も気にしないおひとりさまやりたい放題わがまま生活をおびやかす可能性を検知しました! 王都の状況を確認してください! 浄化の神子の状況を確認してください!』


 ビービーと大音量でアラートが鳴り出し――。


「確認してるよ! 今! まさに! リアルタイムで! 検知の理由だろうレッド発言を聞いてたよぉーーー!」


 私はと言えば髪をかきむしって悲鳴をあげた。


「エージェントN、エージェントNNN! もう一回! もう一回、ピカッと光って記憶を消去する某ペン型アイテムがペカーッとさせて関係者五名の記憶を消去してきて!」


『わかったにゃー』


『行ってくるにゃー』


 と、二匹の某メンでインでブラックなネコ型ロボットを送り出したのだけれども――。


『はーい、ここを見てくださいにゃー』


 ピカッと光って記憶を消去する某ペン型アイテムがペカーッ!


『あれ? どうしてみんなが僕の実験室に?』


『レティーシャを助け出す方法がなかなか思い浮かばないからいっしょに考えてほしいってチヒロに言われて集まったんじゃないか』


『でも、なかなかレティーシャお姉さまを助け出すためのいい方法は思い付かないんだけどね、へへへ。……ちょっとしつれーい。お花を……摘みに……トイレに置いておく、消臭剤……みたいな……ハッ!』


「はい、やり直し! やりなおーーーしっ! これ、お花を摘み終わってから記憶消去しないと一生、同じことになるから! お花を摘んでから記憶を消そう! そうしよう!」


『わかったにゃー』


 というわけで乙女のプライバシーに配慮して、中略。


『お花を摘み終わったにゃー。それでは、ここを見てくださいにゃー』


 ピカッと光って記憶を消去する某ペン型アイテムがペカーッ!


『あれ? どうしてみんなが僕の実験室に?』


『レティーシャを助け出す方法がなかなか思い浮かばないからいっしょに考えてほしいってチヒロに言われて集まったんじゃないか』


『でも、なかなかレティーシャお姉さまを助け出すためのいい方法は思い付かないんだけどね。……んー、なんかいい方法ないかなぁ』


「……よぉーーーっしっっっ!」


 展開が変わったことにガッツポーズした瞬間――。


『……あ、悪い。俺、ちょっとトイレに行ってくるわ』


『……トイレ……トイレに置いておく消臭剤、みたいな……ハッ!』


「うんにゃらほぉぉぉーーーーーいっっっ!」


 アランの言葉にハッとするチヒロに私は髪をかきむしり、テーブルに額を打ちつけ、奇声をあげた。そこからは無限ループ。


『僕、ちょっとトイレに行ってくるね』


『……ハッ!』


『はい、ここを見てくださいにゃー』


 ペカーッ!


『こちらのトイレは清掃中ですー。他の階のトイレをご利用くださーい』


『……ハッ!』


『はい、ここを見てくださいにゃー』


 ペカーッ!


『おーい、ここのトイレ、またつまったぞー』


『……ハッ!』


『はい、ここを見てくださいにゃー』


 ペカーッ!


『……と、入れ歯の老婦人がもうしておりまして』


『……ハッ!』


『はい、ここを見てくださいにゃー』


 ペカーッ!


「うんにゃらへんにゃらほぉぉぉぉぉーーーーーーーいっっっ!」


 この、無限ループ。

 トイレという単語にチヒロはハッとしてしまうし、私は髪をかきむしり、テーブルに額を打ちつけ、奇声をあげてしまうのである。


「ていうか、ついには〝といれ〟って音にまでハッ! としてるじゃん! 〝と、入れ歯の〟の〝と、いれ〟にすらハッ! としてるじゃーーーん!」


 髪をかきむしり、テーブルに額を打ちつけ、奇声をあげてしまうのである。


「……ていうか、トイレがきっかけでハッ! となるんじゃあ、どうやっても無理じゃん! トイレになんて行かないもん☆ な昭和なアイドルじゃなくて令和の乙女ゲーヒロインなんですもんよ! 行くでしょ、普通に! 一日に何回も! そのたびにペカーッ! ってして記憶消去してるわけにはいかないでしょーーーよっ!」


 ガリガリガリガリと髪をかきむしった私は大きく息を吐き出した。

 そして――。


「小手先の対処じゃ、もう、どうにもならない! 誰の目も気にしないおひとりさまやりたい放題わがまま生活をおびやかす可能性を根絶するため! 根本的な解決を目指す! 目指ぁぁぁーーーすっ!」


 ソファの上で仁王立ちしてガシッ! と拳をにぎりしめたのだった。

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