第24話 聖女さま、ソロウェディングする。(2)
「すっご! うひゃ! すっごーーー! うひゃ、うひゃひゃっ!」
聖女にあるまじき笑い声、かつ、エレガントぉーな感じのスペースに似つかわしくない笑い声をあげながらずらりと並んだウェディングドレスのあいだを歩いてまわる。定番の白いドレスだけでも何十着とある。カラードレスも合わせたら何百着とあるかもしれない。
「うひ、うひひひ……うひゃ、うひゃひゃひゃ……」
木製のドレスハンガーにかけられたウェディングドレスを取り出しては眺め、取り出しては眺め。それだけでテンションが爆上がりで笑いしか出てこない。
Aラインにプリンセスライン、スレンダーラインにマーメイドラインにエンパイアライン。ドレスのシルエットだけでも何種類もあるのに、さらには胸元のデザインやら袖のデザインやらスカートのデザインやらいろっいろとあるのだ。
「一着、せいぜい二、三着に決めるなんて無理……無理の無理無理」
だがしかし――。
「ここは誰もいない、誰の目を気にする必要もないドレスショップ……うひ、うひひひ……! 時間制限もなければ何着も試着したら迷惑かなーなんて気を使う必要もなし……うひゃ、うひゃひゃひゃっ!」
なのである。
そんなわけで早速、手に取ったのは王道とうわさのAラインのドレス。
ピッカーーーン!
バンザイをするとまばゆい光があたりを包んでエレガントぉーな感じのドレスショップからエレガントぉーな感じの教会に移動。んでもって、私の格好もふわふわもこもこ着心地抜群の部屋着から真っ白なウェディングドレスに変わっていた。
光沢感のあるサテンを使用した刺繍やレースを使っていないシンプルなデザインのドレス。でも、スカートがプリーツ仕様になっているから上品な華やかさがある。背中が大きく開いた編み上げタイプのドレスで、腰のあたりでひもをきゅっとしめているのだけど――。
「うーん、さすがは乙女ゲーの主要キャラ。自分で言うのもなんだけど美人さんは何を着ても似合うわー。腰ほっそ!」
きゅっ! と細い腰をしみじみと見下ろして感嘆の息をつく。
ちなみに――。
『よく似合ってますにゃー』
『それじゃあ、早速、一枚撮りますにゃー』
今回のネコ型ロボットなカメラマンはタイツ姿ではなくドローン姿だ。教会の中を数台のドローン姿のネコ型ロボットが飛び回っているのを見上げて私は心臓を手で押さえた。
「酔っぱらいな私が足をスッパーーーン、からの、ポーーーイッ、ってしちゃったからでしょうか……警戒されちゃっているのでしょうか……ふとんから足を出したら幽霊につかまれる的な……私の前で足を出したら万能聖女さまの万能魔法で切られる的な……そんな感じに思われちゃったりしてるのでしょうか……」
『にっこり笑ってくださいだにゃー』
罪悪感でうめき声をあげる私をほったらかしにドローン姿のネコ型ロボットたちはくるくるくるくると飛び回る。その映像や写真は本来なら参列者たちで埋まっているはずの長椅子に置かれたノート型パソコンにすぐさま表示される。
ウェディングドレスもきれいだけど低めの位置でまとめた髪を飾る真鍮でできた小枝のヘッドドレスも、下へ流れるように花があしらわれた白と緑だけのキャスケードブーケもうっとりするきれいさ。
「うひ、うひひひっ……!」
不気味な笑い声をあげてにやにやにまにましてしまうきれいさだ。テンションだだ上がりなきれいさだ。
そんなわけで――。
「次はね! 次はね! プリンセスラインのやつ! めっちゃお姫さまっぽいやつ!」
とかなんとか言いながらバンザーーーイ、からの、ピッカーーーン!
パールやらクリアビースやらスパンコールやらを使った刺繍が見事なオフショルダードレスに早着替え。動くたびにドレスもキラッキラするし、頭に乗っかったティアラもキラッキラするしでこれまたテンションだだ上がり。
『よく似合ってますにゃー』
『にっこり笑ってくださいだにゃー』
「うっひょひょーーーい! うっひゃひゃーーーい!」
ドローン姿のネコ型ロボットたちにくるくるくるくる撮ってもらったら、またもやバンザーーーイ、からの、ピッカーーーン!
次に選んだのはマーメイドラインのドレス。人魚姫の尾びれみたいにスカートのすそが後ろに伸びていて、髪に編み込んだヘアアクセサリーも深海の泡をイメージした色合いで、ブーケも白い花を基調に水色の花を混ぜていて――。
「大っっっ変、好みの色合いでごじゃいますぅーーー! うひゃ、うひゃひゃっ!」
『ポーズ、お願いしますにゃー』
『目線、お願いしますにゃー』
「うひゃーひゃっひゃっひゃーーー!」
格好に似つかわしくない笑い声をあげながら、またもやバンザーーーイ、からの、ピッカーーーン!
今度は胸のすぐ下からスカートが始まるエンパイアラインのドレスだ。ドレス全体に小さな花の刺繍がされている。髪に編み込んだ花のアクセサリーもウェディングブーケも白い花を基調として淡いピンク色や水色、黄緑色が差し色として入っていてかわいい。某髪長姫なアニメ映画をイメージしたのだけど――。
『段差に座ってみてくださいにゃー』
『見返り美人さんなポーズもお願いしますにゃー』
「結構なお手前で……ぐふ、ぐふふふっ」
パソコン画面に映し出された映像やら写真やらを見て大満足でぐふぐふと笑う。好きなドレスを好きなだけ、好き勝手に着られることにもテンションがあがるけど、万能聖女さまの万能魔法のおかげで一瞬で着替えが完了するところもテンションがあがる。
「これ、まともにお色直しやってたらどれくらいかかるんだろう。結婚した友達はヘアメイクやら着付けやらで二時間くらいかかったって言ってた……よう、な……」
二時間くらいヘアメイクさんやら式場のスタッフさんやらに囲まれ、顔やら髪やらをさわりにさわられ、ウェディングドレスを着るためにあれやらこれやら、いまいち想像できないけどなんやかんやされるのを想像して私は白目をむいた。
「無理、無理無理……時間がかかるのもいろんな人にかこまれるのも無理、無理無理……」
まあ、そもそも結婚式自体がいろんな人にかこまれるものだし、結婚生活自体もいろんな人にかこまれるものなのだけれども。やっぱり想像するだけで耐えられそうにないのだけれども。
「その点、万能聖女さまの万能魔法によるソロウェディングなら雑に魔法を発動するだけで……ほら、このとおーーーり!」
ピッカーーーン! と腕がまばゆい光に包まれて次の瞬間にはひじ上までの長さのウェディンググローブが現れる。
「うははは、さすがは万能聖女さまの万能魔法! まるで変身ヒロインアニメ、あるいは特撮もの……の、よう……」
胸を張って聖女にあるまじき笑い声で笑っていた私ははたと気が付いた。
「え、じゃあ……もしかして……憧れのアレもやれちゃう……? 憧れのウェディングドレスを着ちゃうだけでは飽き足らず……憧れのアレもやっちゃったりしちゃったりする……?」
口元を手で押さえて恋する乙女か日曜朝の女児のように目を輝かせた私はウェディングドレス姿のまま右にステップを踏み、左にステップを踏み、うきうきわくわく浮き足立つ気持ちをちょいと落ち着かせてから――。
「やっちゃうぞ……やっちゃうぞ…………やっちゃうぞぉぉぉーーーっっっ!」
一気に爆発させてバンザーイ、からの、ピッカーーーン!
「全女児カッコ主語でかカッコ閉じるの憧れ、変身ヒロインアニメ、あるいは特撮ものの変身シーン的なアレをやっちゃうぞ! シュッパーーーーン!」
とかテキトーな効果音を口走るとそれまで身に着けていたエンパイアラインのドレスは白い光の粒になって弾け飛ぶ。裸になっちゃったけど誰の目もないから問題なし! なんてことにはならない。変身ヒロインアニメ、あるいは特撮もののたぶん、きっと、恐らく定番、謎のキラキラ虹色加工が首から下に施されたから問題なし!
からの――。
「シャッラーーーン!」
テキトー効果音に合わせて腰をみょんとふれば小花をちりばめたレースがかわいいスカートがぶわっさぁ……! とボリューミーな感じで広がり、反対側にみょんと腰をふればこれまた小花なレースの存在感抜群のリボンがぶわっさぁ……! と背中で花開く。
さらに――。
「シャッララーーーン!」
とかテキトーな効果音を口走りながら気分はバレリーナな優雅な感じで腕をあげれば腰から胸元へとドレスの生地が広がる。
胸元を小花の刺繍が飾り――。
「シュピィーーーン! からのシュッピィーーーン!」
右に左にと腕を広げれば指先からひじ上までの小花なレースのウェディンググローブが現れる。
んでもって――。
「またもや、シュピィーーーン! からのシュッピィーーーン!」
ぴょんとジャンプして右に左にと足をのばせば、ふわっと跳ね上がったスカートの中でストッキングが足を包み込む。ワンポイントの刺繍が入った白のストッキングだ。そんでもって白いハイヒールを装着して、優雅に着地。
「シュパーーーン!」
ドレスの後ろすそよりもまだ長いウェディングベールを装着。
「シュバッ! からのぉーーー!」
空中にポン! と現れたウェディングブーケをキャッチして――。
「決めポーーーズッ!」
『目線くださいにゃー』
『かっこいいですにゃー。かっこかわいいきれいですにゃー』
当社比十倍くらいに増えたドローン姿のネコ型ロボットがビュンビュンと飛び回る中でスチャッ! と決めポーズ的なのを取った私はむんふむんふと鼻の穴をふくらませ、抑えきれないにまにまに――。
「うっひゃ、やっちゃった! やっちゃったぁぁぁーーー!」
ついに叫び声をあげて両頬を押さえてしゃがみこんだ。
やってしまった。前世では享年三十二才、今世では現在二十才ないい年した大人が! いい年した大人が!
「全女児カッコ主語でかカッコ閉じるの憧れ、変身ヒロインアニメ、あるいは特撮ものの変身シーン的なアレをやっちゃったぁぁぁーーー!」
のである。
『それっぽい感じの編集作業、完了しましたにゃー』
『変身ヒロインアニメ、あるいは特撮ものの変身シーン的なアレっぽくキラキラ増し増しにしときましたにゃー』
『ウェディングドレスにぴったりな感じのお花も吹雪かせときましたにゃー』
「ちょ、ぶえっ、うぐぅっふ……っ! み、見る見る! 見る見る見る見る!」
ドローン姿のネコ型ロボットたちの言葉にぐふぐふと鼻息荒めの笑い声をあげながらノートパソコンの前にしゃがみこむ。
映像を再生。
『シュッパーーーーン! シャッラーーーン! シャッララーーーン! シュピィーーーン! からのシュッピィーーーン! またもや、シュピィーーーン! からのシュッピィーーーン! シュパーーーン! シュバッ! からのぉーーー! 決めポーーーズッ!』
「弾け飛ぶのは私服で! ふわふわもこもこ着心地抜群の部屋着じゃなくて変身ヒロインアニメ、あるいは特撮もののヒロインが来てそうなおっしゃれーでかわいいけど、だがしかし! 動きやすそうなやつで!」
『こんな感じですかにゃー』
「そんな感じですだにゃー! あと、この口でテキトーにつけたやかましい効果音を黙れ、カスの気持ちで消音にしてもらって」
『はいですにゃ。黙れ、カスですにゃー』
「んでもって、そこにそれっぽくてちゃんとした効果音をつけてもらって……」
『こんな感じですかにゃー』
そう言いながらドローン姿のネコ型ロボットが再生した映像をまじまじと見つめる。
「ぐふ、ぐふふふ……っ」
なんて言うか――。
「ぐふふっ、ぐふ……うひ、うひひひ……っ!」
なんて言うか――。
「ぶひゃ、か、カラードレス! カラードレスでも撮影しなきゃ!」
なのである。
「変身ヒロインものとか戦隊ヒーローものっぽく五色……いや、裏切りの六色目も……ぶひゃ、ぶひゃひゃ……撮っちゃうぞ! 裏切りの六色目も撮っちゃうぞぉーーー! ぶひゃ、ぶひゃーひゃっひゃーーー!」
聖女にあるまじき笑い声をあげながら私はバンザイして雑に魔法を発動させたのだった。




