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第12話 聖女さま、旅行に行く。(1)

「一気見しようが何をしようが三作が限界……ということなのか……」


 週明けの学校も、仕事も、聖女な奉仕活動も、そんなの一切気にする必要ないんだぜ、徹夜上等! 某世界一有名な魔法学校映画を最初から最後まで、一作目から最終作まで一気見しちゃうぞー! の気持ちで見始めたのだが――。


「一気見しようが何をしようが四作目を見始める頃にはそんな設定ありましたっけ? 状態だし! 今、顔見せたのはどちらさまでしたっけ? 状態だし! 五作目を見始めるのが怖い! このまま五作目に進んでいいのかわからない!」


 なのである。


「もう一回、一作目から三作目を見直して! 四作目も見直して! あ、いけるかも……ってなってから五作目に進むべきなのか! 一回、最終作まで見ちゃった方が理解できるのか! わからない! わからなぁーーーい!」


 てな具合なわけである。


「面白いんだけれども! 面白いんだけれどもっ! ただひたすらに自分の記憶力が残念過ぎる! 私の記憶力的には三部作が限界な気がする! 某フューチャーにバックしちゃう映画とか、某リングのロードな映画とか、某ミイラが出てくるハムでナプでトラな映画とか! 三部作が限界な気がする!」


 頭を抱えてひとしきりジッタンバッタンしたあと、ソファにあぐらをかくと映画のおとも、ポップコーンをつまんでため息を一つ。


「でも、まー、それはさておき、人の心を映してなんちゃらってファンタジー物の定番なんだなー」


 そんな感想がもれたのは私の記憶容量がギリギリ耐えうる某世界一有名な魔法学校映画の三作目にその人が一番怖いと思うものに姿を変える魔法動物だか妖怪だかが出てきたから。

 それと――。


「魔法都市・ホサ=ヌンキッピー……だったっけ? ティムとの出会いイベントが発生するのって。あそこにも人の心を映してなんちゃら系があったよなー」


 と、いうわけなのである。


 ティム・リー・ブラックウェルは幼くして天才的な才能を発揮してるけど性格に難ありの魔法使い。浄化の神子一行の一人であり、乙女ゲー〝アオクラ〟の攻略キャラの一人であり、年下枠というやつだ。

 そのティムとヒロイン・チヒロとの出会いイベントが発生するホサ=ヌンキッピーは魔法都市と冠しているとおり、魔法に関するあれやこれやが集まっている都市だ。魔法使いを育成する魔法学校が集まっているだけじゃない。魔法技術の研究や開発を行う研究所や、魔法道具を作り出す工房も多く集まっているのだ。

 前世の日本で言うなら吹きガラス体験やってますーみたいなノリで、大きな工房では観光客向けに魔法道具体験を開催していたりもする。

 浄化の神子なチヒロと第一王子なサミュエル、騎士団団長の息子なアランと聖女な私がホサ=ヌンキッピーを訪れたときにも魔法道具体験をやっている工房に入ったのだけど――。


「メッキがはがれるのが怖すぎて結局、あれやこれやといいわけしてやらなかったんだよなー」


 と、いうわけなのである。


 たしか、あのとき体験する予定だったのは手をかざすとその人の心を映してそれっぽい絵を描き出すキャンバス。チヒロが手をかざすと青空を背景に純白の羽を広げた天使だか女神だかが描き出された。サミュエルは人々を守る雄々しいドラゴン、アランは人影を前にひざをつき、忠誠を誓うように剣を捧げる騎士の絵が描き出された。

 そして――。


 ――次はレティーシャの番……。


 ――ええ、そうね……あら、チヒロ。

 ――今、通りを歩いていた少年、ティム・リー・ブラックウェルじゃないかしら?


 ――え、本当!? 大変! 追いかけないと!


 という具合にサミュエルの言葉をさえぎり、チヒロの気をそらし、どうにかこうにか全力回避したのだ。

 だって――。


「人と関わりたくない、引きこもりたい、おひとりさまやりたい放題わがまま生活したい私の心がありのまま描き出されたらどうすんの! 終わるから! がんばって作り上げて、維持し続けた聖女イメージがどんがらがしゃん崩れるから! ありのーままのぉーすがたみせぇーーー……られるかいってなもんよぉーーー!」


 というわけなのである。

 ノンアルコールなただの炭酸飲料が入ったグラスの底をガンガン、テーブルに叩き付けて酔っ払いのおっさんよろしく、くだをまいたあと――。


「……いや、でも、まあ、気になるっちゃあ、気になるよなー。どんな絵になるか」


 天井を仰ぎ見てつぶやいた。

 だって、どの絵も額縁に入れて飾れるくらいきれいな絵だった。チヒロのは水彩画っぽい雰囲気で、サミュエルとアランは油絵っぽい雰囲気。となりのおじさんは心がお酒を求めてやまないのか、いろんな種類の酒ビンがキャンバスに描かれていたけど、それすらオシャレ。

 メッキがはがれるのが怖すぎて結局、やらなかったけれどまわりの目を気にしなくていいのならどんな絵になるのかやってみたかったのだ。


「そう、まわりの目を気にしなくていいのならやりたかったんだよ、私……」


 しお味のポップコーンをガシリとつかんで口に放り込む。むっしゃむっしゃと食べながらにやりと笑った。

 そして――。


「今! 私は! 誰の目も気にしないおひとりさまやりたい放題わがまま生活を手に入れているわけでして! ぶりゃ、ぶりゃひゃひゃ……まわりの目を気にしなくていい状況なわけでしてー! ぶりゃーひゃっひゃっひゃーーー!」


 聖女にあるまじき笑い声をあげて両腕を振り上げる。


 ピッカーーーン!


 雑な魔法発動ポーズに合わせてまばゆい光があたりを包み、一瞬後にはシンプル・イズ・ベストな引きこもり部屋から魔法都市・ホサ=ヌンキッピーのメインストリートに変わっていた。

 足元は薄黄色のレンガが敷き詰められている。広い通りの左右には三階建て、四階建ての建物がずらりと並んでいる。魔法学校はもっと奥の方にあって、このあたりに建ってるのはすべて研究所や工房だ。

 白や薄茶色のレンガを積み上げて作った建物の一番上にはエメラルド色の屋根が乗っている。壁にはツタが生えていて、なんて言うか観光に来たぞー! という雰囲気で。なのに、人っ子ひとりいなくて。前に来たときには職人さんやら観光客やらでごった返していたのに、今は人っ子ひとりいなくて――。


「ぶひっ、ぶひひひ……っ」


 テンションがあがってきた私は腰を振り振り、頭を振り振り、腕をタコかイカかクラゲのごとく、ふにょんふにょんさせながら小躍り、ツーステップからのターンで目的の工房のドアをババーン! と開け――。


「たぁのもぉーーー!!!」


 大声で叫んだのだった。

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