表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/215

プロローグ 「命の温度」

僕は龍崎一磨(りゅうざきかずま)

どこにでもいそうな二十四歳の普通の人間。

少なくとも、自分ではそう思っている。


スーツでも作業着でもない私服を着ている。

流行からは少し遅れているが、

だからといって目立つわけでもない。


アスファルトを叩く水音が、一定の間隔で続いている。

止まらない。

この世界が今日も何事もなく動いていると、示しているみたいだった。


街灯の下を、僕は一人で歩いていた。


傘は差していない。

濡れることを、もう気にしなくなっていたから。


僕は同年代の友人や知り合いと比べて、

物事に対しての探求心が、少しだけ強い。


例えば、1+1はなぜ2になるのか。

なぜ、ボールを空に向けて投げると落ちてくるのか。


いや、そりゃ分かっている。

リンゴが一つと、もう一つあれば二だし、

この地球には重力というものがある。


でも、そうじゃないんだ。

こういう当たり前を、

どうしても考え続けてしまう。


答えは知りたいが、

その物事について深く考えること自体が、好きだった。


この好奇心は、

どんな分野に対しても、だいたい同じだ。


ポケットの中で、スマホが震える。


反射的に画面を見る。

ニュースアプリ。

SNS。

動画サイトのおすすめ。

未読の通知。


指を動かすだけで、情報は際限なく流れ込んでくる。


誰かが叩かれ、

誰かが頭を下げ、

誰かが夢を叶えたと笑い、

誰かが数字を叩き出して称賛されている。


再生数、いいね、フォロワー。

全部、数字だ。


価値は数字になり、数字にならないものだけが、

いつの間にか切り捨てられている。


……すごいな。

でも、本当にすごいことなのか?


そう思った瞬間、

自分がその「すごさ」の外にいることだけは、はっきり分かった。


僕は、今日なにをしたんだろうな。


朝起きて、顔を洗って、

スマホを見て、ニュースを流し見して、

何かを分かったような気になって、

生きるために必要なことだけをやった。


それだけだ。


メッセージに既読をつけて、返信もした。

気になる投稿に共感して、コメント欄まで読んだ。


そのとき、

胸の奥、心臓より少し深いところで、

ぎゅっと、鈍い音がした。


息が、一拍遅れた。


ニュース映像。

失われた命。

取り返しのつかない出来事。


見慣れているはずの光景が、

今日は、やけに重い。


考えないようにしてきた。

でも、胸に残った。


「……人って、なんで分かり合えないんだろうな」


水たまりに映った自分に、そう呟く。


情けない顔だった。

何かを考えているようで、

何も決めていない顔。


答えが返ってこないことも、

考え続けても意味がないことも、分かっている。


それでも。


ほんの少し、立場が違えば。

ほんの少し、勇気があれば。

ほんの少し、早く手を伸ばしていれば。


救えた命が、あったんじゃないか。


……いや。


違う。


僕は知っている。

救えなかった理由を。


怖かった。

責任を負いたくなかった。

正解を間違えたくなかった。


だから「何もできなかった」で、全部を片付けた。


無力。

便利な言葉だ。


世界は今日も回り続ける。

正しい顔をした仕組みが、

何事もなかったみたいに、今日も動いている。


その中で、僕だけが立ち止まったままだ。


そのときだった。


交差点の向こうから、怒鳴り声が聞こえた。


「だから、危ないって言ってるだろ」

「うるさいな、急いでるんだよ!」


信号待ちの人混み。

その端で、一人の少年が立ち尽くしていた。


小学生くらい。

ランドセル。

雨で濡れた靴。


視線は下を向いたまま。

傘も差さず、信号も見ていない。


スマホに夢中な大人たちの流れに、完全に置き去りにされている。


あ。


胸の奥が、ひくりと嫌な音を立てた。


大型トラックが、水しぶきを跳ね上げながら右折してくる。

雨で視界は悪い。

速度は落ちていない。


少年は、気づいていない。


周りの大人たちは。

気づいているのに、動かない。


「誰かがやるだろ」


空気が、そう言っていた。


その瞬間、僕は理解した。


これだ。


これが、

僕がずっと見てきたものの正体なんだ。


選ばれる命。

選ばれない命。


世界は、こうやって命を切り分けてきた。


ふざけるな。


そんな理屈で、命を片付けるな。


考えるより先に、身体が動いていた。


走る。


運動不足の脚が、すぐに悲鳴を上げる。

筋肉が引きつる。

これ、あとで痛くなるな。


靴が滑る。

息が詰まる。


正直、怖かった。

間に合わないかもしれない。

失敗するかもしれない。


それでも。


今動かなかったら、

また無力って言うだけだ。


「はぁッ危ない!!」


少年に手を伸ばす。


クラクションが鳴った。


視界が白く弾ける。


衝撃。


身体が、浮いた。


右肩と肋骨が潰れる感覚。

息をするたび、肺が痛む。


それでも。


視界の端で、少年が転がりながらも轢かれなかったのが見えた。


……ああ。


選ばせなかった。


ざまあみろ。


この世界の「仕方ない」に。

それを受け入れてきた、僕自身にも。


「くあッハ……グフッ!」


地面に叩きつけられながら、

それだけは、はっきりしていた。


僕は、

誰かが決める前に、選んだ。

世界が決める前に、動いた。


視界が暗くなる。

音が遠ざかる。


スマホ、割れたかな。


どうでもいいことが浮かんで、少し笑いそうになる。

人の役に立つって、こういう感じなのかな?


悲鳴と、僕を呼ぶ声が重なって、

世界は歪み、紫色に滲んでいった。


そして、僕は死んだ。


拍子抜けするほど、あっけなく。



でも。


意識は、途切れなかった。


真白な闇の中に、確かに何かがあった。


形はない。

声もない。

ただ、圧として存在している。


それでも分かる。


世界のすべてを定める、根っこのようなもの。


『命ハ、律ニヨッテ選定サレル』


『在ルベキモノハ在リ、在ラザルモノハ消エル』



理屈としては、完璧なのかもしれない。


だからこそ、息が詰まる。


冷たい。

合理的で、容赦がない。


だから、僕は笑った。


そんなもの、認めるか。


それは、

僕の存在を丸ごと否定する仕組みに見えた。


選ばれ、切り捨てられていく在り方に、もう疲れていた。


「……だったら、僕は消える側でいい」


「でも」


「でも、命を消すかどうかを、勝手に決めるのは違うだろ!」


白い闇が、わずかに揺れた。


冷たいはずの空間が、

一瞬だけ、温かくなる。


その温度だけが、

今の僕を、ここに繋ぎ止めていたような気がした。


次の瞬間。


光が崩れ、世界が組み替わる。


白が青に変わり、

色が戻っていく。


そして、僕は再び息をした。

身体にはまだあの慣れ親しんだ重さを感じない。

ふわふわと浮いているような感覚だ。


見上げた先には、

地球では見たことのない星空。

二つの月。


ここは、どこだ?


答えなんてない。


でも、胸の奥の熱だけは消えていなかった。


死んだはずなのに。

もう一度、やり直せってことか。


正直、疲れた。

休ませてほしい。


二十四年間。

無駄な人生だったとは思わない。


でも、

本気で生きたかと聞かれたら、

胸を張れない。



……もし、生まれ変われるなら。


今度は、

選ばせないって思った命を、

見捨てない生き方がしたい。



怖くないかって言われたら怖いよ。

でも、不思議と嫌じゃない。


もう、命を選ばせない。


世界がどう決めようと、関係ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
主人公の気持ちがとてもわかりやすく描写されていて、自然に感情移入することができました。 「命は律によって選ばれている」という、とても難しいテーマを扱っている中で、 主人公が運命を塗り替えようとし、子供…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ