大谷翔平嫌い派 VS 好き派
さてそこにネットばかり見て野垂れ死んでいる中年Sと、テレビばかり見てぐうたらしている老人Tがいます。彼らはそれぞれ言いたいことがあるそうで、討論の場を設けました。
ドドン、なんか天井から旗みたいのが出てきてます――大谷翔平、好き? 嫌い?
まずは嫌い派のSからです。
「大谷翔平って持ち上げられすぎだと思うんだよね。テレビ見れば大谷大谷、もういいって。興味ない人からすればずっと同じ話ばっかで飽きるんだよね。それよりうんたら学園のいじめの話しろぉ」
なるほ――
「ったりまえだろ、呆けてんのかボケ。そもそもテレビ見てねえくせに――」
あの、今私が話しているので。反論はあとで、わかりました? わかったら服着てくださいね。
で、では大谷翔平を愛してこよないTさんの意見をどうぞ。何故好きなんですか。
「いやね。好きとか嫌いとかじゃなくて、ヤバいって話なんだわ。あんな人、もう野球界から出てこないだろうね。この前の試合見た? ホームランからのホームラ――」
――千年後――
「――だから、儂はわね。あのときはさすがに怒りましたよ。敬遠するなって。これだから欧米人は」
あ、あの、長いです。一回区切りましょう。
えーと、カップ麺が三途の川並みに伸びたところで、ここから自由に討論をどうぞ。
「はい。じゃあ僕から言わせてもらうね。そもそも大谷翔平ってすごいの?」
「記録見えんのか、この老眼がぁ」
「皴見えんのか、ジジイ。いやね、たしかに記録は凄いですよ。でも、どうよ、もうなんか違うレベル過ぎるんだよね。毎日ホームラン打ってんじゃん。もうなんか、才能だよね。そこまで行くと、もうなんかそんなに凄くないって言うか。今日はホームランなかったか、そろそろ台風かな? くらいだよ。なんかテレビが騒ぐほどじゃないんだよね。普通過ぎて」
「ぐぁー」
「寝るな、クソ呆け」
「儂に云わせればね。それくらいの逸材ってこと。あーわかりやすく教えてあげるわい。橋本環奈の百倍凄いの。大谷翔平が一人生まれるまでに橋本環奈が百人生まれてんの」
「でもホームランのボールの数は橋本環奈のほうが少ないだろうが!」
「当たり前だろうが、しばくぞ! いいかい、儂はね、思うんだよ。結局、大谷を批判するのは嫉妬嫉妬。みっともないねえ」
「いい年こいて毎日の腹掻いてテレビ見てるやつに言われたくねえな」
「なんじゃ、この! 少しは年上を敬――」
はいはい。ストップ。ストップ。落ち着いてくださいね。喧嘩はダメです。
「そうじゃった。○していいのはトランプだけだった」
誰でも○しちゃダメですよ。あんまり過激なことを言うと放送中止になっちゃいますから。お金出ませんからね。
じゃあSさんから今度は話していただいて。Sさんもあんまり老人を怒鳴らせないでくださいね。激昂したら死にますからね。
「わかった。大谷が凄いのは認める。でも記録だけだよ。大谷は天才。天才なだけ。生まれもってそうなんだから、ね、だったら凄くないでしょ」
「お前何言ってるんじゃ? 最近流行りの鬱か?」
「黙れハゲ。いやだから、大谷翔平が成功するのは決まってたこと。神様が決めたんだよ。試合出たら絶対にホームラン打てる人間作ろって。あと試合での勝率はそんなに高くない」
「ふむ。大谷が神に選ばれた人間だと言いたい気持ちはわかる。しかし少年時代、高校時代を知っとるか、彼は毎日努力してたぞ。その頑張りを知らずに評価するなど外道じゃ! エンゼルス時代を見ろ、怪我で苦しんでそこから野球史に革命を起こしたんじゃ!」
「エンゼルス時代だって? 負けてんじゃねえか!」
「それは神が必ず負けるようにしたんじゃ! 知らん! 大谷悪くないもん」
今、天使が神様を睨んでいます。堕天しそうですが、ルシファーが落ちる空に大谷のボールは飛ぶのでしょうか。え、あのルシファー、大谷に撃ち落とされたの?
一方その頃、討論の内容が若干変わってきました。大谷の話からもっと普遍的そうな話題が中年と老人の間で起こっています。
「いやさ、大谷だって努力したのは認める。でも他の選手の努力とは価値が違うよね。天才の努力と努力してようやっとメジャーに辿り着いた人の努力ってどっちのほうが価値ある? どっちのほうが凄いよ?」
「努力に優劣なんざないわい。成功するために努力する。それだけじゃろう。これだから若いのは。儂が若い頃はな~」
「よく言うよ。成功しなきゃ、努力したって認めないくせによ。たとえばさ、大谷が怪我したまま日本帰って来てたら努力がどうとか言わないよね? 成功したから評価しただけだろう。数字になるから騒いでるだけだろ」
「それの何が悪い。成功して評価される。当たり前じゃ、そんなの」
「いいや、悪いね。数字が凄い? じゃあなぜ数字が凄い? 才能があるから、それとも努力したから? 才能、才能は生まれ持ったものだ彼の内面から来るものではない、それは彼のものでない。運だ。運をどう評価する。できないね、運は誰にも決められない。神を褒めるのか? 自画自賛と一緒だ」
「ぐぁー」
「寝るな! クソハゲ!」
さてさて今宵はもう遅くなって、老体には厳しい時間帯のようです。この討論も実はもう四時間ほど、だいたいはどうでもいい喧嘩ですが、そろそろ決着をつけていただきたい時間です。
「嫉妬じゃそんなの。人が全く対等に産まれるわけなかろう。努力で全てが変えられるはずが無いのじゃ、数字見ろ。かーっぺ! 現実を受け入れろ、いい年じゃろうに」
「現実? 誰の金で寝てんだこの」
「ぐぁー!」
「ああ、もういい! 話にならん。そうだ、そうだ! 司会さん、あんたはどっち。どっちが勝ったと思った?」
精神的に辛くなったのかSが私に判定を委ねました。あと二十三時間くらい時間が余っていますが、いいのでしょうか。あ、いいらしいです。
ということで私は決めました。
「なんかお前らどっちも性格悪くない? だから両方負け」
その後、会場に残ったのは受け入れられない現実を訴える声と、とんでもなくうるさい老人の騒音公害でした。そのどちらも満員電車の走行音が掻き消してしまいましたが。




