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第2話 叔父夫婦への疑惑と、嫁ぎ先



 どうやら叔父たちは、自分の身勝手な振る舞いで、両親が大事にしていた物を壊すのが余程好きらしい。


 公爵家の人脈、評判、財、そしてついに爵位まで。

 その悉くをこの九年で食いつぶした。



 自分が女である事が悔やまれる。


 私も今年で十六だ。

 もし私が男だったなら、去年には直系血族の子息として、あの叔父夫婦から家督を取り戻せた筈だった。


 女はどうしたって、力が弱い。

 当主としての仕事や領地経営についても勉強したけれど、性別が私を邪魔してくる。



 それでも「両親ならきっと、私が家に居続ける事より、私自身の幸せを願ってくれる」と。

 「私がこの家を出て幸せになるのなら、気持ちよく背中を押してくれるだろう」と。

 記憶の中の優しかった両親をずっと信じて、今日までずっと我慢してきた。



 第五王子の下に嫁ぐ日を、待ちに待っていた。

 そうして権力と発言力を手に入れて。

 ある程度の『調査の自由』と『調査に要する権力や労力』を得た暁には、あのどう考えても疑わしいのに証拠が掴めなかったという、両親の事故死の真相を調べるつもりだった。


 そして、然るべき相手に制裁を加えるつもりで――。


「これじゃあ、力を手に入れられないどころか、あのクソみたいな叔父夫婦たちから、逃られさえしない……!」


 奥歯をギリッと噛み締める。



 ……いや、相手は何に対してもクソな叔父夫婦だ。

 中でも特に金には目がない奴らだから、王族との婚姻の芽がなくなった今、すぐにでも私の結婚を金にするために動き出すだろう。

 そうすれば、あいつらから逃げる事はできる。


 しかし、相手が何処でもいい訳ではない。


「囲い主がクソみたいな叔父夫婦から、クソみたいな旦那様に変わったところで、いい事があるとは思えないわ」


 公爵家から子爵家に落ちた家の令嬢に金になる結婚をさせようとすれば、碌なところは残らない。

 それでもあいつらは、私を売るだろう。


 だって「これまでそのために、私にバランスのいい食事を始めとする王族に嫁ぐためのすべてを投資してきた」と、私本人に面と向かって声を大にできるような人たちだ。


 私自身の事なんて、微塵も考えてはいない。 



 叔父夫婦は、爵位を落とされ、私の結婚が立ち消えになった事により王族の遠戚として甘い蜜を吸う事もできくなったと自らの不運を嘆いているが、本当に嘆きたいのは私の方だ。


 計画がすべて、丸つぶれ。

 嫌々でも同じ屋根の下で過ごす苦痛への我慢も、意味をなくした。


「……いや、まだよ。私は絶対に諦めない。叔父夫婦の監視から離れられれば、両親の不審な事故死については調べやすくなるもの」


 無理やりに前を向こうとするけど、巡る思考にはよくない事ばかりが浮かんでくる。



 ――でも、事故があった自領は王家に没収され、近々移動を余儀なくされるし。


 ――その上、結婚すれば当時の使用人や容疑者である叔父夫妻との間に物理的な距離ができる。

 監視の目を逃れたところで、人的手掛かりからも遠退く。


 ――更に結婚相手によっては、最低限は与えられている今よりずっと悪い環境に置かれる事になる。



 思わず深いため息が漏れた。


「どちらに転んでも、いい想像がまったくできないわね……」


 言いながら、殴った枕に顔面からダイブして脱力する。



 自分で好条件の相手を見繕ってくれば話は早いのだけど、そんな伝手は生憎と持っていない。


 叔父夫妻の評判の悪さもあるけど、私の口の悪さのせいも相まって、社交界ではボロクソに言われている。

 いつもは周りからの評価なんてまるで気にしないけど、それとこれとは話が別だ。


 性格上、自分を偽る事などできようもない事は分かった上で、それでも若干これまでの自分の、正しくない事に対するこらえ性のなさ、世渡りの下手さに後悔が生まれ――。


「ゼリア!」


 私室の扉が、不躾にバンッと開かれた。

 そこには妙に機嫌のいい叔母が立っている。


 いつもの事ながら、叔母の行いの品のなさに辟易としながら、ベッドからむくりと体を起こした。


「何ですか、叔母様」


 嫌な予感が、ひしひしとする。


「喜びなさい! 貴女に破格のいい縁談が来ているわ!」

「えっ」


 驚いた。

 彼女たちの事だ、私の生活費を一日も早く削って自分たちのために使うためにも、すぐに縁談を取ってくるだろうとは思ったけど、つい先程陛下から爵位を落とされたばかりである。

 まさか家に帰って一時間も立たないうちにこんな話が来るとは、夢にも思っていなかった。


「……お相手は?」


 恐る恐る、叔母に尋ねる。

 そして。


「先日陛下より褒章を得て懐が潤いまくりの『悲劇の狂騎士』よ!」


 その返答に、思わず石のように固まった。




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