第15話 二つの選択肢
彼らの隠し事を暴こうとすれば、私の命が危ないかもしれない。
それこそ二人は先日の件で、既に王族の反感を買っている。
その上国を謀ってあの地位に就いていたのだと知れれば……。
お父様とお母様は、陛下からの覚えもめでたかったと聞く。
領主の手腕も、両親の方が上。
生きていれば、きっと叔父風とは違い、国に利を齎す存在となっていた事だろう。
そんな人たちを殺した罪を、一体王族はどのように裁くのか。
幾ら馬鹿な叔父夫婦でも、そのくらいの想像はつくだろう。
だからきっと私が調べていると分かった時点で、口を封じに動く。
それでも。
「あいつらは、両親が大切にしてきたすべてを端から汚してきた。王家との婚姻が亡くなって後ろ盾が失せた今も尚、諦められるものではないのよ」
奥歯をギリッと噛み締めると、ほんの少し口の中で鉄の味がしたような気がした。
しかしミリアンに「ゼリア様」と呼ばれて、ハッとする。
どうやら人前で、少し我を忘れ過ぎたようだ。
「ごめんなさいね。語れるのが、綺麗な目標ではなくて。今ので改めて私が怖いと思ったのなら、お互いに近寄らない方が平和ね。……この話、あの話を盗み聞いた日からずっと心に秘めていた事だけど、口に出してしたのは今日が初めてなの。感情が先走ったのは、きっとそのせいだわ」
言っておいてなんだけど、「やはりこんな話、本来なら子どもに聞かせるような内容ではなかった」という罪悪感が足元から這い上がってくる。
その罪悪感が、私に曖昧な笑顔を浮かべさせる。
「今の話は、誰にも言わないでほしいわ」
「その秘密を俺が喋ったら、お前を退治するのなんてすぐだ」
「そうね。貴方が漏らして叔父夫婦に届けば、私はすぐにでも殺されるでしょう」
「えっ」
私としては誠実に対応して、十分あり得る未来の話をしたつもりだった。
でも今のは「貴方のせいで人一人が死ぬ可能性がある」と言っているようなものだ。
聞く人によっては十分に、脅迫じみて聞こえるだろう。
――こういうところが、私の評判を落とすのかしらね。
内心でそう自嘲する。
自嘲したのは、このやり方がとても叔父夫婦のやり方に似ているせいと、これを半ば無自覚でやってしまう自分がいるからだ。
結局のところ、私はこの世で一番憎い叔父夫婦の影響を受けて育っている。
その事が恨めしいし、気持ち悪い。
しかしそれが「じゃあもうこの話は止めよう」に繋がらないあたり、我ながら我が強いなと思う。
「貴方たちは私の弱みを握った。私の秘密を人質に、どんな手にだって出る事ができるわ。その上で私の希望を言うならば、貴方が聞いた私の話が事実か否か、ゆっくり確かめていってほしい。貴方たちが周りに踊らされる『誰かの使い勝手のいい道具』にならないように、私で練習すればいい」
残念な事に、社交界にはこういう人間も多くいる。
保護者の庇護下にない上に誰かを守らんとするという事は、自分がそういう人たちの矢面に立って渡り合っていかねばならないという事だ。
彼らの母親は既にこの世にはなく、実の父親は行方不明。
権力持ちの義理の父親は、彼らに対して無関心か、もしかしたらもっと鋭く冷たい感情を抱いているかもしれない。
そんな中で、それでも弟を守る事を願うなら、リドリトはもっと強くならなければならない。
私とリドリトは同じく親を失い、生きる目的を持っている。
しかし守る物が自身以外になかった、自分のために理不尽に耐え我慢すればいいだけだった私と、彼は決定的に違うのだ。
私より余程難しい事を目的にしている彼には、それに耐え得る経験を早いうちに、安全に積ませておいた方がいい。
それは彼を大事に思っているノイマンなら同意するところだろう。
「私はね、リドリト。貴方たちの『母親』にはならないわ。だって母親になれば、貴方たちを守る義務が生まれるもの。私は私のやりたい事をやるために、そういうものは持つ事ができない」
彼らは、私の足かせにはならない。
その代わり、私も彼らの足かせにはならない。
「私が提案するのは、『気易い同居人』。貴方たちは私を『一番近くにいる、貴族のやり口を知る教材』と見做す。私はここで、復讐の邪魔をされない生活を送る。いたら挨拶するし、意地悪はしない。普通に話す、時には食卓も共にする。貴方たちが私を信じれると思ったなら、友人に格上げすればいい……と、私は思うけど」
言いながら、テーブルに両肘をつき、顔の前で両手の指を組んだ。
「弱みを握り圧倒的に優位な状況で少し私の様子を見るか、それとも私を追い出して
、私がいなくなった後にまた来るかもしれない別の継母が完璧に信用に値する聖女のような女である事を祈るか。さぁ、どちら?」




