第4章:闇の制御と、転校生の不気味な微笑
ハニーが去ったあと、聖油の匂いと、獅堂神父の厳粛な祈りの残滓が、僕の恐怖を深く抑え込み始めた。全身を包む結界は、安心感を与えてくれる。
(ハニー、怖かったな……でも、これで、しばらくは悪魔の群れから解放される……)
そう思って安堵した瞬間、僕の意識の中で、ベリアルの冷笑が響いた。
「フン。神父どもの薄い守りが、七大罪の欲望の波を完全に遮断できると思うか?傲慢なる智の残滓が撒いた種は、もう芽を出し始めているぞ」
ベリアルが嘲笑したのと同時に、外側から強烈な波長が、守護の結界にぶつかるのを感じた。
その波長は、昨日遭遇した知性のない下級悪魔のそれとは質が違っていた。それは、熱い炎のように激しく、渇望に満ちた、粘着質な悪意の塊だ。
(これは……憤怒と、貪欲……!)
ヴェスタの言っていた、ベリアルよりも後に台頭した七大罪の悪魔の気配だ。彼らは、ベリアルの再臨と、氷室怜央の撒く混沌に乗じて、この世界で勢力拡大を目論んでいる。
ドォン!
僕の部屋の窓ガラスの外側で、何かが叩きつけられるような鈍い音が響いた。まるで、血の通わない肉の塊が、結界を張られたガラスにへばりついているかのようだ。
「グオオオオオオッ!……智の残滓め……!封印を破る……!力をよこせ……!」
低く、唸るような声が、窓の外から響く。それは、獣の咆哮のようでありながら、人間の邪悪な欲望を凝縮した不快な音だ。
ベリアルが、僕の体内で微かに警戒の波長を発した。
「油断するな、宿主。これは、下っ端の中の最上位の者たちだ。智を完全に欠く激情の塊でありながら、その欲望の力は結界を揺らす。神父どもの守護が、いつまで保つか……」
僕の全身を包んでいた温かい結界が、悪魔の激しい波長によってきしんでいるのが分かった。僕の体内のベリアルも、結界の外側から侵食してくる欲望の波に、不快そうにしている。
(怖い……!守られているはずなのに、こんなにはっきりと悪意が伝わってくるなんて……!)
僕は、布団を頭まで深く被り、震えながら目を閉じた。
悪魔たちは、知性はないが、本能で最も強力な光の結界(教会)に最も弱い器(僕)がいることを察知し、一斉に攻撃を仕掛けてきたのだ。
ドンドン!バンッ!
窓の外の音は激しさを増し、まるで教会の壁全体が揺れているように感じた。
僕の魂と肉体は、神父の光の守護と、ベリアルの闇の法則、そして外から襲いかかる七大罪の悪意という、三重の緊張の中で、今にも弾け飛びそうだった。




