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第3章:最強のチャラ男と、父性の眼差し

僕は、混乱した頭で、ルカの温かい瞳と、獅堂の冷たい瞳を、交互に見つめながら、自分の暗い運命を、この二人の神父に委ねるしかなかった。


過去の闇と、悪魔の嘲笑

「グラツィエ(ありがとう)、憂くん。深く深呼吸をして、昨日、何があったのか、僕たちに話してほしいんだ」


ルカは、僕が座った椅子に、向かい合う形で静かに座り直した。彼の仕草一つ一つが、僕の緊張を解こうとしているのが分かった。しかし、獅堂は依然として机に座り、無言の圧力を僕にかけ続けている。


僕は、諦念にも似た気持ちで、昨夜から今朝にかけて起こった、非現実的な出来事を話し始めた。


悪魔が現れた瞬間。ベリアルが僕の体に入り込んだこと。僕が悪魔の眷属に襲われ、陸から聞いた「廃教会」の噂を頼りに逃げてきたこと。そして、獅堂に十字架を向けられた時の激しい苦痛まで。


ルカは、僕の話を一言一句真剣に聞き入れた。時折、フム、と唸るだけで、僕の言葉を遮ることはなかった。一方、獅堂は、目線一つ動かさず、手元の資料に何かを書き込んでいた。


僕が全て話し終えると、ルカは深くため息をついた。その表情は穏やかだが、深い憂いを帯びていた。


「ケ・デソラーツィオーネ(なんて嘆かわしい)。君は、本当にひどい目に遭ったね、憂くん。そして、悪魔が君を選んだ理由も、よくわかった」


ルカは、僕の目を見て静かに言った。


「悪魔の序列一位が、偶然、君のような普通の少年の体に入るわけがない。悪魔は、宿主の『闇』を嗅ぎつけ、そこに共鳴して現れる。君の孤独や、誰にも理解されない絶望が、ベリアルという強大な存在を呼び寄せてしまったんだ」


その指摘は、僕の心の最も脆い部分を、優しく抉るようだった。


「その通りだ、神父。貴様のような偽善者には、この上質な闇の深さは理解できんだろう」


ベリアルが、ルカの言葉に不機嫌そうに反応した。


ルカは、ベリアルの皮肉を完全に無視し、僕に語りかけた。


「君の闇は、過去の孤独からきている。それは、悪魔にとっては最高の栄養源なんだ。しかし、君を完全に支配しなかったのは、君の『光』が、まだ完全に消えていないからだ」


ルカは、僕に問いかけた。


「君がこの教会に来る前に、『誰にも話せない秘密』を打ち明けるような、信頼できる相手はいなかったのかい?」


僕の沈黙が、その答えだった。その時、獅堂が手元のペンを置き、僕を真っ直ぐに見据えた。


「貴方の闇の核は、『孤立』です。そして、その闇を最も増幅させているのは、貴方が『光』である幼馴染に対して『秘密』を抱え、『欺いている』という自己嫌悪ですね」


獅堂の言葉は、ルカの優しさとは対極にある、鋭利な刃物のように僕の心を切り裂いた。


「貴方は、悪魔の宿主となった今も、日常という安寧を失うことを恐れているのでしょう。その保身と臆病さこそが、悪魔にとって最大の栄養を与えているようです。悪魔を駆逐したいなら、まず貴方自身がその闇と対峙しなければならないでしょう」


獅堂の視線は、僕の魂の最も弱い部分を晒し、立ち上がれと迫っているようだった。


「シドー、トローッポ・デュロ(厳しすぎるよ)。君はいつも、アニマ(魂)を先に傷つけようとする」


ルカは、困ったように頭を振った。


その隙を縫うように、ベリアルの意識が僕の脳裏に響いた。


「フン。この神父は、私の本質をよく見抜いている。光を恐れ、闇に引きこもる。それこそが、私の最高の器が持つ、最良の資質だ」


僕の孤独と恐怖が、悪魔の威厳を保つための燃料となっているという事実が、僕を絶望させた。


訓練と、悪魔祓いの術式

「憂くん」


ルカは、改めて僕の名前を呼んだ。その声は、優しさの中に確固たる決意を秘めていた。


「僕たちの調査は、今日から始まる。そして、君には訓練を受けてもらう」


ルカは立ち上がり、事務室の壁際に立てかけられていた、古びた分厚い書物を手に取った。表紙には、羊皮紙のようなものに、複雑な紋様が描かれている。


「悪魔の駆逐には、大きく分けて二つの方法がある。一つは、シドーが得意とする、結界や聖具を用いた『力による封印と除去』だ。そしてもう一つが、僕の専門分野である、君自身の内面と悪魔の波長を狂わせる『術式と知識による解放』だ」


ルカは、その分厚い書物を開き、中身を僕に見せた。それは、ラテン語のような、僕には全く理解できない複雑な文字と、幾何学的な図形で埋め尽くされていた。


「君は、君自身が意識せずに悪魔の核を許容してしまっている。だから、まずはその『核』を、君の精神力で明確に認識し、拒絶する方法を学ばなければならない。それが、僕たちが行う悪魔祓いの第一歩だ。これは君自身の魂とベリアルの波長の分離作業だよ」


ルカは、専門的な話を、あえて親しみやすい口調で説明してくれた。


「そして、私の指導は、実戦に近いものになるでしょう」


獅堂は、ルカの言葉を受け継ぎ、冷徹な声で言った。


「貴方が悪魔の襲撃に耐え、この教会までたどり着けたのは、偶然とベリアルの知識のおかげに過ぎません。これから、貴方には、悪魔の気配を敏感に察知し、身を守るための基礎的な術式を教え込みます。その訓練は、決して楽なものではない。貴方の恐怖と弱さを、何度も目の前につきつけることになるでしょう。ルカが言うように、悪魔は君の『弱い部分』と君の『秘密』を通じて、君を支配しようとします。もし、君の学校の友人が狙われた時、君はどうします?君は、ベリアルの力を借りて、彼らを守ることを選んでしまうかもしれないですね」


ルカの指摘は、僕の最も恐れていた可能性を再び提示した。


「さあ、憂」


獅堂は、立ち上がり、僕の目の前まで歩み寄った。そのカソックの裾が、静かに揺れる。


「ここでの生活が始まります。君が自分の闇と戦い、悪魔を永遠に駆逐することを願うなら、私たちの指導についてきてください」


僕の逃げ場は完全に消滅した。この廃教会が、僕の戦いの最前線となったのだ。僕は、二人の神父と一匹の堕天使、そして僕自身の闇と共に、新たな闘いの日々を始めることを、静かに決意した。

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