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ボディメンテナンス師  作者: 藤村 託時


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7.GIGAという男

 そうして、相田さんとの通話を終えた。

 きいを攫った犯人たちとボディメンテナンス師を争わせている黒幕はおそらく同じだろう。

 近年でこの国、いや世界中で大きな事件は起こらなくなっている。いや、実際は起こってはいるが、ボディの丈夫さとAIの情報処理能力と電脳世界による意識の共有化が進んだことにより事件が速やかに解決されて行っている。

 そんな中、ボディに狙いをつけた大きな事件が立て続けに起きているので、犯行グループの規模は大きいと思われる。

 ただ、圧倒的に情報が足りない。

 犯人たちのボディの識別番号は隠されており、身長が175㎝のボディは数多く存在する。

 正直、相田さんの外見情報からでは、犯人たちの特定にはたどり着かない。

とりあえず、また彼に聞いてみるとしよう。


「いやはや、すっかり常連客になってきたねボディメンテナンス師君」

「すみません、情報屋で知ってる人がトイトイさんしかいないもので」

「こっちとしてはポイントを稼がせてくれるお客さんは基本的に歓迎さ」

「ポイントならいくらでも渡します。今回は緊急で調べてほしいので」

「どうやら、切迫するほどに追い詰められているようだね。話を聞こうか」

「僕の彼女が攫われたので犯人を特定してもらいたいのです」


 僕は先ほど相田さんから聞いた状況をそのままトイトイさんに伝え、近頃起きているボディメンテナンス師同士の揉め事についても触れ今回の件と関連しているのではないかと考えていることを伝える。


「はー、なるほどねぇ。そっか、もうそんなことになってるんだ…、そいつらの噂は情報屋界隈では前から出回っててね。正直俺はこの件に深入りはしたくないと思ってる」

「トイトイさんは前に僕が調査依頼した時には、この黒幕について知ってたってことですか?」

「噂は聞いていたよ。でも、なんでこの前教えてくれなかったんだって言われても困るよ。俺の仕事は依頼者が求める情報を与えることであって、自分からぺらぺらと情報を与えることではないからね。あと、自分で積極的に深く調べているわけじゃないから持っている情報の程度も低い」


 トイトイさんを責める気はなかったが、黒幕の情報を既に知っているのだったらあらかじめ教えて欲しかったとは思っていた。

 そこを見透かされる形で先に話さなかった理由を話してくるのだから中々やりづらい相手だ。


「まあ、俺が今持っている噂程度の情報とこの件に関して詳しい人を紹介してあげるよ。紹介料としていくらかポイントはもらうけどね」

「助かります。今はとにかく犯人につながる情報が欲しいので」

「まずは知ってる情報を軽く話すけど、あんまり信じすぎないでほしい。あくまで噂の域を出ないレベルだからね。今、この国、いや世界中でとある団体の動きが目立ってきている。そいつらの動きに共通する点はボディを無くそうとしていること」

「ボディを排除する動き…、生身至上主義の中の過激派によるものでしょうか」

「いや、噂によると生身至上主義の人たちも攫われる被害にあっていると聞く。生身至上主義者はそう数が多くないから、身内を非常に大切にしている。過激派と言っても、身内に手を出すとは考えにくいね。とはいえ知っている情報はこのくらいのものだから、後はこの人に聞いてよ」


 そう言うと、僕の元へプロフィール情報が送られてきた。

電脳世界ではお互いのプロフィール情報をまとめ、知り合った際に交換するのが一般的である。

 旧時代では紙の名刺が使われていたようだが、現代で紙を使用することはほとんどない。

 電脳世界のセキュリティに不安を抱いているいくつかの団体が重要文書を紙で保存しているくらいである。

 プロフィール情報には個人が自由に情報を書き込んでおり、本人以外がプロフィール情報の受け渡しをすることは基本禁止とされている。

 しかし、プロフィールの取り締まりを全て行うのは難しいため裏では普通に出回っているのである。

 トイトイさんから送られてきたプロフィールには名前に”GIGA”と書かれており、連絡先も記載されていた。

 とりあえず、攫われているきいを一刻も早く助け出すためにはこの人を頼るしかないのだ。

 人気のない場所にエリアを移動した後すぐに書かれていた連絡先に通話をかける。


「誰だ?」

「はじめまして、情報屋のトイトイさんからあなたを紹介していただきました。ボディメンテナンス師をしている非田と申します」

「非田? 本名か?」

「はい、あなたはGIGAさんで合ってますか」

「俺がGIGAで間違いない。本名を名乗るなんてだいぶ頭が平和な奴だな」

「今はとにかくあなたを信じるしかないので、こちらの隠し事は少なくしようと思いまして」

「何の用だ?」

「僕の彼女が子供用ボディを破壊している団体に連れ去られました。あなたなら何か知っていると聞いています」

「奴らのことか。…お前は彼女を救うためなら死ねるか?」

「死ぬつもりはありませんが、救うためなら何でもやりますよ」

「ふん、まあいいだろう。明日、俺たちは奴らの拠点に乗り込むつもりだ。お前の身辺情報を渡せ、そのチェックが通ればお前も仲間に入れてやる。コマは多くて困らないからな。ただ、お前は戦えるのか? 雑魚を連れて行ったところで足手まといだ」

「戦闘能力は人並みではありますが、職業上ボディへの知識はあります。戦闘では役に立つはずです」

「ただ知識があっても動けなくては意味がない。お前のペアとなる動ける奴を見つけてこい。お前の世話をする奴をこっちが手配する余裕はないからな」

「わかりました」


 GIGAさんとの通話は終わり、時間と場所が記載されたメッセージが届いた。

集合時間は明日の正午、それまでにペアとなる戦力を見つけないといけない。

 現在の時刻は午後五時、連絡が取れる格闘家数名に現状と明日の予定を伝え協力依頼のメッセージを送る。

 好意的な返事をくれたのは”家町徹いえまちとおる”」と”布川ぬのかわケン”の二人であった。

 仕事上、プロの格闘家のボディを扱うこともあるため、格闘家とのつながりがあった。

 しかし、今回のような危険な依頼に付き合ってもらえるほどの関係値を築けていないことは分かっていた。

 それでも、二人から好意的な反応をもらえたのはありがたかった。

 こちらの誠意を見せるため電脳世界だが、直接姿を見せて話をさせてもらうことにした。

 二人と待ち合わせたエリアに向かう。


「お久しぶりです。メッセージの件ですが彼女さんが攫われたって本当ですか?」

「はい、彼女だけではなく他にも多くの人たちが攫われてます。今は少しでも早く救出にへ向かいに行く必要があって急なお願いをしてしまいました」

「非田さんにはボディの修理でお世話になってますんで協力させてもらいますよ。明日は練習の予定しかなかったんで、実戦練習代わりに攫ったやつらをボコボコにしてやります」

「ありがとう。お礼として今度ボディのメンテナンスをさせてもらうよ。あと、家町さん以外にももう一人協力してくれる人がいて、その人も少し遅れてここに来るよ」

「そうですか、戦力は多い方がいいですからね」


 家町さんの近況を軽く聞きながらしばらく待っていると、好意的な返信をくれたもう一人の人物である布川さんが現れた。


「非田さん、お久しぶり!」

「布川さん、来てくださりありがとうございます」

「もう一人って布川さんだったんですか? 今のプロ格闘技界で国内ランク1位の布川さんが来るなら心強いっすね」

「ああ、家町君もいたのか。家町君も国内で11位まで順位を上げてきてるじゃないか。君のことは私もかなり意識してるよ」

「自己紹介はいらなそうですね。お二人にはメッセージでお伝えした通り、明日一緒に敵の拠点に向かいます。すみませんが、ご協力お願いします」

「もちろん。そんな悪党無視することなんてできないさ。私と家町君がいればなんとかなるだろう」

「俺たちに任せてください!」


 頼もしい協力者二人を得ることができた。

協力者との顔合わせを終え、明日に備え対策を練り就寝することにした。


 翌日、指定されていた集合場所に向かった。

 既に待ち合わせ場所には家町さんと布川さんが集まっていた。

 GIGAさんから指定されていた場所がコンビニを指していたので店の前で待っていると、店の中から黒服の男がこちらへ向かってきた。


「GIGAさんの紹介で来た人で合ってますか?」

「はい」

「それでは付いて来てください」


 そう言うと黒服の男はコンビニのバックヤードまで移動した。


「招待メッセージの確認をさせてください」


 GIGAさんから送られていた今日の集合場所等が記載されたメッセージを黒服の前に映し出す。


「確認しました。それではこちらお入りください」


 黒服はバックヤードの床に指を押し付けた。

 床は4名ほどが入れるほどの広さだけ開いた。

 穴の奥は暗くてはっきりと先がどうなっているか見えない。


「いや、入るって言ったって階段もないし、こんな狭い空間で飛ぶこともできないし、落ちろっていうんですか」

家町さんが困惑した様子で黒服に尋ねる。

「こちらを両手で壁面に当ててください。当てる強さによって落下速度を調整できます」


 黒服からエアホッケーのマレット(プレイヤーが持つ器具)のような形をした道具を受け取り、言われるがままに穴の中へ入っていく。

 先頭として自分が入る。

 壁に謎の道具を押し当てながら落ちると緩やかに落ちていった。

 しばらくすると、後から二人も落ちてきた。


「飛行とはまた違った感覚でちょっとドキドキするな」

「三人いるともう動けなくなるな、ここ」

「とりあえず落ちたけど、どこにつながっている感じっすか?」


 ほの暗さの中、周りを見渡すと扉を見つけることができた。

 扉を開けてみると、広間には大勢の人間が集まっていた。

 先行して中に入ると、続いて他の二人も中に入ってきた。

 周りの様子をうかがっていると、サングラスをかけた男がこちらに話しかけてきた。


「お前が非田だな、俺がGIGAだ。他二人はお前から事前に情報をもらったパートナーとなる戦力だな。非田だけちょっと話があるからこっちへ来い」


 電脳世界ではGIGAさんの顔は見ることができなかったので、初顔合わせである。

 GIGAさんから呼び出され、広間の隅へ移動する。


「話って何ですか?」

「今からメッセージを送る。その内容を確認しろ」


 ゴーグルとグローブを付けメッセージの内容を確認する。

 そこには同行してもらった格闘家二人について書かれていた。

 一人は問題なく信用できる人物であると書かれており、もう一人はボディブレイカーズ側と通じている可能性がある、そういった内容であった。

 また、”敵をあえて泳がして情報を探るため二人とも同行させる”とも書いてあった。


「まぁ正直これだけ大勢いたら誰が何を考えているかわからない。基本的に信用はするな。最後は自分だけ信じろ」

「…ここにいる人たち全員で拠点に乗り込むんですか?」

「いや、この中から拠点ごとに分かれて同時に突入する。E1国以外の人たちにも攫われた人がいるから世界中の人が集まってる」


 E1、それが僕たちの国の名称だ。

 現代では世界中の国の国名はアルファベットと数字で統一して名付けられている。

旧時代では僕たちの国は日本と名付けられていたが、他の国も人口や影響力を考慮してA1~Z1で改名されている。

 強い協力関係を築いている国はA1、A2、A3など先頭に同じアルファベットが付けられている。

 多くの国でボディが使用されているため、一目見ただけでは見た目でどの国の人か判別できないが、国ごとに好むボディの造詣に偏りがあるため職業柄E1でない人がなんとなくわかるのである。

 国籍はボディの識別番号と電脳世界でのエリアIDと紐づいているため、電脳世界では所属ワールドを確認すればわかるようになっている。

 現実世界では自国の言葉以外もボディの言語変換機能を使用することにより自国の言葉に変換され聞き取れるようになっている。

 しかし、変換がうまくいかない場合は不自然な言葉が使われるので、それによって言語の壁を感じることがある。

 この一帯を見渡すと、ボディや聞こえてくる会話などからE1以外の国から来ている人も少なくないと分かる。


「やはり世界中で敵の動きが派手になっているっていうことですか?」

「まぁな。ただ、奴らの母体はE1にいる。だから今のうちに元を叩いておかねぇと手遅れになっちまう」

「じゃあここから目的の拠点ごとに分かれて移動を始める流れになりますかね」

「いや、拠点に向かう前に全体へ周知事項の伝達があるから、一旦一緒に来た奴らのところに戻って待っててくれ」


 二人の元に戻り、しばらく周知が行われるのを待った。

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