5.不完全燃焼
翌日はまた一部の部品は届かなくなりつつも、可能な限りお客さんの対応を行い、一日の業務を終えた。
情報屋と予定していた時刻に合わせ、待ち合わせをしていたエリアへ向かう。
「やぁボディメンテナンス師君」
「こんばんは。犯人はわかりましたか?」
「まぁ、そんなに急ぐもんじゃないよ。ところで君は犯人はどんな人間だと思う?」
「えっ…、そうですね、僕をよく思ってないのは間違いないでしょう。過去、僕に対して恨みを持った人ですかね。またはボディメンテナンスの仕事をよく思っていない人とか」
「それはそうだよね、部品を狙うってことは君自身かボディメンテナンス業に対してマイナスの感情を抱いている人だ。君が過去に傷つけてしまった人だったり、生身至上主義の人たちかもしれないよね」
「回りくどいですね、もう普通に調査結果を教えてくださいよ」
「分かったよ、教えるさ、教えるとも。ただ、まず順を追って話していこうか。ボディの部品を取り寄せてるときに配送中の車のタイヤが射撃された件だが、射撃した人が移っている映像が見つかった。今の時代、外に出てたらどこかしらで映像が残ってしまうから、犯人の姿を見つけるのは難しくなかったよ。目以外は隠してる格好だったからボディの特定はできなかったけど、使用していた銃の情報から犯人が使用していた弾丸の購入履歴を漁ってみた。国内では銃の所持は禁止されているから購入者がそもそも少ない。後は直近でわかる限りの購入者たちの動きと前に聞いた妨害の内容を照らし合わせたところ、一人に絞ることができてね。そいつの情報を掘っていったら、証拠も手に入れることができた。」
「誰だったんですか?」
「君は自分以外のボディメンテナンス師をどのくらい知っているかな?」
「そうですね、一番知名度があるのは世界に展開している超大手ボディメンテナンスショップの立ち上げ人、マディスト・ペパミントですかね。後は店舗をいくつも立ち上げてる人は何人か覚えてますね」
「じゃあ身近なライバル的存在は?」
「比較的近くに店舗があるのは国谷かけし(くにたにかけし)さんですかね。軽く挨拶はしたことありますし」
「彼が犯人だよ」
「えっ…!」
「まぁ驚くのも仕方ない。競合相手とはいえここまで強引に妨害してくるなんて思わないよね」
「はい。別に彼の店とは少しくらいは客層が被っているかもしれませんが、妨害しなきゃいけないほどの影響はないはずですから」
「影響が出たところで、ポイントが稼げなくなるだけだしね。俺もポイントにはこだわってるけど、捕まるような下手打つくらいならポイントはあきらめるからね。だって捕まったら電脳世界にはアクセスできないし、娯楽の大部分を制限されるんだぜ? 俺にとっては死ぬようなもんだね」
今回の業務妨害の件で犯人をある程度予想した時、競合相手である彼を一度思い浮かべはしたが、犯行に及ぶには動機が弱すぎると考えていた。そこまで恨みを買った覚えもなかったのでなおさら謎である。
…おそらくだが、トイトイさんは何らかの犯罪は既に起こしまくっていると思う。そもそも、情報屋という存在がグレーではあるので潔白ではいられないはずだ。
「ところで犯人は特定できたわけだけど、これからどうするのかな? 調査団に情報提供しろって話なら難しいよ。情報屋ってのは手段を選ばず、情報を早く正確に手に入れるからね。調査団みたいなお堅い集団に情報源を教えるわけにはいかないのさ」
「わかってますよ。一旦、僕が国谷さんのところに直接行って話をしようかと思います」
「また、俺にできることがあったら協力するよ、ポイントはちゃんといただくけどね」
「ありがとうございます」
トイトイさんにポイントを渡した後、明日に備え今日は早めに眠ることにした。
翌日、営業は早めに切り上げ国谷さんの店へ向かった。
このまま妨害を受けながら業務を続けるわけにはいかないため、できるだけ早く事態を解決しなければいけないのだ…
「いらっしゃい。悪いけどね、もう今日は営業終了するからまた別の日に予約してくれないか?」
「国谷さんお久しぶりです。ボディメンテナンス師の非田です」
「ああ、非田さんか。どうしたんだ急に? 仕事は?」
「仕事は早めに切り上げました。ちょっと話があるんですがいいですか?」
「ちょっとこの後用事があるから後にしてくれないか」
「それでは明日の朝、話を聞きに来てもいいですか?」
「それは困るな…、じゃあ軽く話聞いてあげるから要件を教えて」
「僕の店の営業妨害してるの国谷さんですよね?」
「…え? 何のことだ?」
「最近、ウチで扱っている部品の取り寄せで妨害が入ってるんですよ。犯人があなただってことは掴めていまして…、それでどうして妨害をするのかなと思って」
「いや、知らないよ、なんで俺だって決めつけてるんだよ! ちゃんとした証拠はあんの?」
「ありますよ」
「まずそれを見せてもらおうか」
「国谷さん、あなたは妨害の実行犯を雇って妨害を行っていましたね。だから実行犯が特定できても、あなたには中々繋がらなかったかもしれない」
「だから俺が誰かを雇って妨害したって証拠を見せろよ」
「これです」
僕が携帯端末のボタンを押すと、国谷さんの前にとあるポイント履歴画面が浮かび上がった。
「画面にはあなたの固有IDが表示されております。そしてここに誰かへのまとまったポイント移動の履歴が残っております。これは誰でしょうね?」
「お前…、なっ、なに他人の履歴見てんだよ! そんなことして許されると思ってんのかよ!」
「もちろん、調査団や国の許可はもらって確認しております。そして、それがどういうことを意味するのか分かりますか? もうあなたの犯行はバレているってことですよ。あなたのところに調査団が来る頃には既にあなたの処遇が確定してます」
「っう……」
「僕と一緒に同行して自首しましょう。今なら被害者である僕が口添えすることで刑は多少軽くなるでしょう。ただ、僕はあなたがなぜこんな乱暴な手口で妨害をしたのかが気になります。あなたに恨みを買った覚えがないんですよ」
「あれだよっ…、目障りだったんだよ…、お前の店がよ」
「僕の店とあなたの店はそこまで干渉することはなかったはずです」
「おっ…、お前にとっては俺の店は気にならなかったのかもしれねぇけどよ、俺にとっては十分目障りだったんだよお前の存在がな。ポイントの問題じゃねぇ、気に食わなかった。それだけで理由になるんだよ。まぁ、でも仕方ねぇよな…、仕方ねぇ…、お前と一緒に自首するぜ、…なんか悪かったな」
調査団の名前を出して強引に自首を促してみたが、想定外にすんなりと自首を受け入れるようだ。
動機に関してはいまひとつ腑に落ちないところではあるが、これは国谷さんがそういう人だという風に考える方がよいのだろうか。
「じゃあ明日自首しに行くわ。悪いけど一緒に付いて来てくれよ」
「はい、もうこんなことしないでくださいね」
「わかったよ」
翌日に自首しに行くことを約束してもらえたので、自宅へ帰ることにした。
そして、明日のお客さんとの調整をつけてから眠りについた。
日付が変わり、国谷さんとの待ち合わせ場所へ向かった。
一時間ほど経過しても国谷さんが現れることはなかった。
彼の連絡先にいくら連絡しても返信は帰ってこなかったので、店にいないか確認をしたが不在のようだった。
そこから一ヵ月が経過した後、調査団から伝えたいことがあると連絡を受けたのであった。




