3.足柄さん
移動をする前に、飛ばしていた蚊型のドローンを回収する。
「それやっぱり没収するね」
「いやさすがにそれは困る。これ自分で作ったんだけど、作るの結構大変だったんだよ」
「じゃあ絶対変なことに使わないでよ」
「わかってるよ」
だいぶ警戒されてしまったようだ。ドローンの回収も終わったので、二人で飛行での移動を開始する。
「これから会う知り合いってどんな人なの?」
「仕事の関係で知り合った人だよ。結構変わった人ではあるかな。悪い人ではないけど癖が強いからびっくりはするかも」
「そうなんだ、じゃあ最初はおとなしくしてた方が良さそうだね」
軽く話をしている間に知り合いの家に到着した。
「なんか家からして中々珍しいね」
「まぁ滅多に見ないよねこんな木造の平屋は。中も畳だしこんな家、今や一パーセントも存在しないだろうね」
普通の家ではAI認証により来訪者が誰だかわかるようなシステムになっているが、こちらの家では旧時代で使用していたインターフォンを付けている。
インターフォンを押し中の人間を呼び出す。
しばらくすると中から平均より背が小さい筋肉質の男が中から出てきた。
「なんだボディ屋じゃねぇか」
「お久しぶりです足柄さん。少しお話がしたくて来ちゃいました」
「おいおい、ずいぶん急だな! まぁ上がってけよ、お茶くらい出してやる」
「それじゃあ、お邪魔します」
「一緒にいるのはお前の彼女か?」
「はい、章介君とお付き合いしている舞浜きいと申します」
「ご丁寧にどうも、俺は足柄 甚大。見ての通り生身の身体でやらせてもらってる。ボディ屋よ、かわいい子連れてんじゃねぇか」
「ふふっ…、それは皮肉ですか?」
「ちょっとした冗談だ馬鹿野郎」
きいはさすがにどう応じたらいいかわからない様子でたじろいでいた。彼はずっとこんな調子なので慣れてもらうしかない。
「じゃあちょっとそこで座っててくれ。お茶入れてくらぁ」
「すみません、気を遣わせてしまって」
畳の座布団の上で座って彼がお茶を持ってくるまで少し待つことに…
きいは家の中をきょろきょろ見回して物珍しそうに観察をしている。
「こういうこと言うのは失礼かもしれないけど結構面白いでしょ」
「確かにとても新鮮かも。足柄さんてもしかして生身至上主義の人?」
「そうだよ。さっきの事件に関して何か少しでも手掛かりになるような情報が得られればと思ってね」
「章介君は気になることがあるとちゃんと調べるタイプよね」
「今回の件に関しては仕事にも少し関係してるし興味があってね」
そうこう話していると足柄さんがお茶を持ってこちらへ戻ってきた。
「お前たちみたいなボディ使ってる奴らは普段お茶とか飲んだりするのか?」
「昨日、お寿司屋さんに行ったときはお茶を飲んだよ。まぁ普段は食事兼水分補給として生命ドリンクっていうのを飲んでますけど」
「なんだか名前的にも美味しそうじゃねぇなぁ。ところでよ、今日は何の話をしに来たんだ?」
「ちょっと足柄さんの所属している生身至上主義の人たちのことで聞きたいことがあって…」
「それまたどうしてだ?」
「さっきまで人体博覧会へ行ってましてね…」
そして先ほど起こった人体博覧会での爆発事件について話した。
「なるほどな、臓器が盗んだやつが生身至上主義のやつじゃないかってことできたわけか」
「可能性はあるかなと…、足柄さんの周りでそういった話を何か知ってるんじゃないかと思いまして」
「俺がつるんでるのは基本生身のやつが多いけどよ…、そんな物騒なことしでかす奴らと絡んじゃいねぇよ。でも生身で生きてると治療を受けるのも大変だからよ、闇医者は足元見て結構吹っ掛けてがっつりポイント稼いでるって話は聞いたことあるぜ。そいつらはいつも臓器を欲しがってるだろうな」
「なるほど、闇医者ですか…、闇医者の知り合いとかっていたりしません?」
「俺は正々堂々生身で生きてるからそういう道の外れた奴らとは関わらねぇようにしてんだよ。わりぃけど他をあたってくれよ」
「すみません」
「別に謝らなくたっていいぜ。そういえばお前らは今日この後どうすんだよ」
「サッカーの試合を見る予定です」
「サッカーか。つってもボディ使ってやるやつだろ? あんなのチートみてぇなもんじゃねぇかよ、スポーツはやっぱり生身の方がおもしれぇと思うがな」
「足柄さんはスポーツ観戦とかするんですか?」
「ああ、見るぜ。生身の身体同士の熱い試合をな。あとブルーレイで過去のサッカーの試合とかも見たりするぜ」
「ブルーレイ…」
きいは聞きなじみのない言葉を聞いてぼそっと繰り返している。
「もう世間ではボディの奴らに合わせたものばかりでまいっちまうぜ。電脳世界ってのもよくわかんねぇしよ。まぁ、もうブルーレイに聞きなじみがないのも仕方ねぇか、生身の電脳世界ってのには入れる奴は見る機会ないだろうからな。でも結構面白いもんだぜ、興味があるならブルーレイディスク貸してやるよ」
「ちょっと気になるので見てみたいですけど、ブルーレイを再生する機器をどこから手に入れられるか調べるところからですかね」
「それなら俺の知り合いで旧時代の機器を扱ってる奴がいるから紹介してやるよ」
「ありがとうございます。一回見てみたいと思います」
ブルーレイディスクでサッカーの試合を見ることを約束した後、お互いに近況を軽く話し合った。
「じゃあまた何かこっちでもその事件の件に関して分かったことあったらチャットで連絡するからよ」
「助かります。今日は突然お邪魔してしまいすみません」
「たまにはお前みたいなのと話すのも悪かねぇ。ボディ使ってる奴で俺らと関わる奴もそんないねぇからよ」
僕たちは甚大さんの家を出て、予定通りサッカーの試合会場へと向かうことにした。
「甚大さんって確かに個性的だったけど、いい人だね」
「そうなんだよ、生身至上主義だけどボディを使用している人たちのことを憎んでいるとかではないから話せば結構気さくな人なんだよ」
「私も旧時代のサッカー少し気になるから見れるようになったら一緒に見ようね」
そうこう話している内に試合会場に到着した。
サッカーの試合観戦をする大半の人は電脳世界の中で見るため、わざわざ自分で会場に身体を運んでまで見に行く人は少ない。
そのため会場の広さもサッカーコートを囲んで二十列ほどの席しか用意されていない。
現代のサッカーは選手全員が競技用のボディを使用しているため、性能面での差はあまりつくことはない。
ボディの操作精度と戦略面によって勝敗が決まると言っていい。
そのため、いかに相手の戦術を読み切り、対策を練るかが肝になってくる。
競技用ボディはスピード、パワーのバランスにより何種類か存在している。パワーが高いものはスピードを遅くするよう調整することで、ボディ間での性能差をつけるように開発されている。
また、飛行しながら行う空中でのラグビーのようなスポーツも存在しており、そちらも高い人気を得ている。
「そろそろ試合が始まるみたいだ」
サッカーの試合が開始した。
どうやら、スピーディーなパスワーク主体のチームと個人技多めでシンプルにパワーの高いシュートをガンガン放っていくチームの対決となった。
きいはパスワーク主体のチームが好きなようだったが、試合展開はパワー重視のチームが押していた。
終始パワー重視のチームが押したまま4対6という結果で、きいが応援していたチームは敗北してしまった。
「惜しかった、相手の読みが冴えててパスが止められることが多かったのがきつそうだったね」
「そうだね、あれだけパスを止められちゃうと中々厳しいよ。負けちゃったけど、生で見るとバーチャル空間で見てる時より一緒になって戦ってる感じがして楽しかったな」
「それなら良かった。またサッカーの試合見に行こうよ」
「うん」
サッカー観戦を終え、きいとは会場を出て、それぞれ帰宅した。
早めに解散した理由としては、僕はサッカーの試合に関しては特に肩入れしている特定のチームがあるわけではなかったので勝敗を気にしていなかった。
きいは自分が応援していたチームが負けてしまった後だったので、どう話したらよいかわからなかったというのも理由の一つである。
それと、仕事で取り寄せている部品の受け取りを明日の早朝に行う予定なので早めに帰らなければいけなかった。




