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ボディメンテナンス師  作者: 藤村 託時


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2.人体博覧会にて

 翌日、人体博覧会の会場に到着するときいの方が早かったようでこちらを見て手を振っていた。

 彼女と合流した後、そのまま会場の建物へと入っていった。


「ようこそ、人体博覧会へ! 人体博覧会についてはご存じでしょうか」

「知ってるよ」

「それでは説明は省かせていただきます。各エリアで説明役のロボットがございますので気になることがございましたらご質問ください」


 入口には中性的な顔をした人型ロボットがお出迎えをしてくれた。初めて来た人に向けて簡単な説明をしてくれるみたいだ。


「きいには僕が説明するからとりあえずどんどん見ていこう」


 そう伝え、近くから順に見に行くことにした。

 生身の人体は人工ボディに切り替える際に本人の了承を取って、脳・心臓・生殖機能に必要な部位を取り出した後、身体を保存液に入れ保存されている。

 生身の人体は年齢順に並べてあるため、まずは幼児から見ていくことになる。


「赤ちゃんの身体はあんまり見ることがないんだよね」

「確かに私もそんなに見たことないなー」

「赤ちゃんを基本的に外に出さないから、妹や弟がいないと中々見る機会がないよね。僕も仕事で扱うボディは基本的に生身の肉体から人工ボディに切り替える十歳以降の場合がほとんどだからね。生身からの移植は医師が行うから生身を見る機会ってこういうところに来ない限りないんだ」

「私が普段遊んでるちっちゃい子たちはまだ生身の子が多いのよね」


 きいは四~八歳までの子供たちのお世話を普段している。

 彼女が相手にしている子供たちは親がおらず、国の施設に住みロボットたちの元で生活をしている。

 子供たちが育つ過程で大人の人間と関わる機会がないのは望ましくないとのことで国は子供と一緒に遊んでくれる人間を募集し、”交流者”としての仕事を与えている。

 乳幼児のゾーンから少し進むと旧時代での小学生前後の身体が展示されていた。


「きいが普段見てる子供たちと近い年齢だな」

「うん。今遊んでる子たちの大半はしばらくするとボディになっちゃうんだよね。いつも見てる子供たちも今は危なっかしいけど、ボディになったら丈夫だから安心できるんだろうなぁ」

「僕みたいなボディメンテンナンス師がいなかった頃は多くの生身の人の怪我を直すために病院がたくさんあったらしいね」

「今は生身の人が少ないから、ほとんど子供用って感じだもんね」

「きいは子供たちと普段はどんな遊びしてるの?」

「山頂まで歩いて登ったり、ボール遊びとかしてるよ」

「へぇ、けっこう活発に動いてるね」

「子供のころに生身でたくさん遊んで欲しくてね。ボディになったら感覚が変わっちゃうから、生身のうちにたくさん遊ぶように言ってるの」


 自分も子供の頃に友たちと生身の身体で遊んでいた記憶を思い出した。


「大人になると外出るのが億劫になっちゃうしね」


 懐かしみながら次のゾーン(旧時代での中高生)へ移動する。


「ここは僕たちの見た目と同じくらいの年齢だね」

「そうね、そういえば子供と大人の中間くらいのボディは使わないの?」

「僕の店では基本的には扱ってないね。単純にリスクを減らすためっていうのが大きいね。人工ボディへ移植する回数はできるだけ減らすために十四、五歳に一回だけ大人用のボディへの移植を行うのが一般的だね。身体に損傷がある人は例外的に二回移植を行ったりするけど、必要がない限り不要な移植は行わないって方針だね。移植時に失敗して死亡するケースもゼロではないわけだし」

「そっか、でもそう考えると体が年齢に合わせて変化していくっていうのは生身ならではの楽しさかもしれないね」

「そうだね。きいは”生身至上主義”の人たちのことは知ってる?」

「一応そういう団体があるってことは知ってるよ、そこまでよく知らないけど」

「そこの人たちは人工ボディへの移植を拒んで生身で生き続けてる。見かけるとすぐにわかるよ。まぁ今じゃ一万人に一人くらいって言われてるけどね」


 過去に生身至上主義の人たちがクレームをつけてきたことがあったので、個人的にはあまりいい印象を抱いていない。

 もちろん性格のいい生身の知り合いもいるため、人によるということはわかってはいるが… 


 さらに進むと年を重ねた三十代四十代の肉体が展示されていた。


「肥満の身体もあるな。顔も整ってないし、今じゃあまり見かけない身体だ」

「うん、なんかちょっと新鮮で面白いね」


 ボディを使用している人のほとんど全員顔が整っておりスタイルも良い。

 人工ボディを選ぶ際は本人と親で相談して決めることが多く、基本的には見た目が良いものを選ぶため、旧時代で言うイケメン・美人のルックスでスタイルのいい身体ばかりが溢れている。

 ボディの種類は数多くあるが、美形の顔のタイプにも限りはあるので似たような顔の人間が多く存在している。ただ、パーツの組み合わせパターンは様々なため、よく見ると差別化された作りにはなっている。


 また、首の背面にタイプごとの番号が振られているため、タイプと番号で個体を区別することができる。

 稀に顔が崩れていたり体系が異様に痩せていたり太っていたりするタイプを選ぶ人間がいる。

 主にお笑い芸人と呼ばれる職種の人間だ。

 お笑い芸人は他人を笑わせるためにわざと崩れた顔や体系のボディを選ぶのだ。


「仕事でこういうボディも扱ったりするけど、かなりレアだね。きいはこういう見た目の人どう思う?」

「私は別にそんなに見た目は気にしたいかな。章介がこの身体でも多分好きになってたと思う。あと、私じゃなくても今はこういう変わった見た目の方が珍しくてモテるかもしれないよ」

「そういうものなのかな…、おっ、遂に高齢者ゾーンに来たね」

「わっ、皺がいっぱいだ」

「肌の老化で生身だとこうなっちゃうんだ」

「映像では見たことあるけど実際に見るとなんかすごいね」


 何がすごいのかはよくわからないが、映像とは違った印象を受けるのは確かだろう。

 旧時代では皆が老化によってこのような見た目になっていたのだろう。


「人体の展示はこれで終わりみたいだ。次は臓器の展示に入るけど、きいは臓器みたいなグロいもの見ても大丈夫?」

「どうしようかな、あんまり見たくないかも…」


 彼女が見に行くかどうか迷っていると、遠くから爆発音が聞こえた。


「緊急事態!緊急事態!来客者はただちに建物から外へ避難してください!来客者はただちに建物から外へ避難してください!」


 館内に避難を促す音声が響き渡る。


「一旦、外へ出ようか」

「うん、ちょっとよくわかんないけど中は危険そうだね」


 館内から外へ出て建物から離れた後、しばらくすると空から武装した集団が向かってきていた。

 建物付近に着陸した武装集団は次々と建物へ入っていく。

 この武装集団は旧時代で警察と呼ばれていた組織であり、現在では調査団として国や市民からの要請に応じてトラブルの対応を行う団体となっている。

 館内にいた人たちが近くに溜まっていたが、ロボットたちがもっと遠くへ避難するよう誘導し、それに従いそれぞれ飛んで行ったり歩いて建物から離れていった。


 僕たちも歩いてロボットから目を付けられない地点に移動することにした。


「ちょっとここから建物の様子を見よう」

「でも、避難するよう警告もされてたし、もっと離れた方がいいんじゃない?」

「僕と君のボディは他のものより丈夫にできているからよほどのことがない限り傷はつかないし大丈夫だよ。何もわからないままだとモヤモヤするし何が起きているのか確認させて欲しい」

「うーん、あんまりよくない気がするけど…」


 きいはあまり納得していないようだが、僕が動こうとしないのを見てあきらめたようだ。

 自分のボディには特殊仕様を施しており、目をいじることで設定を変え遠くのものを拡大して見ることができる。

 遠方から入り口の様子をしばらく観察し、数分経つと突入した調査団の数名が外へ出てきた。


「ちょっと音声も拾いたいからこれを飛ばそう」

「なにこの蚊?」

「これは蚊の形をした集音機能に特化したドローンだよ。こいつを意識されないくらいの距離まで近づけて会話を聞く」

「それ普通に盗聴だから後で没収するね」

「大丈夫、こいつを使うのは緊急時だけだよ」


 強引に言い訳をしてドローンから音声情報を入手する。


(…っだ調査は続けろ!)

(床に穴が掘られているそうです!)

(中はどうなってる?)

(今数名が中に入って確認しております)

(どうやら臓器がいくつか盗まれたそうです)

(他に何か盗まれたものがないかチェックしろ!)


「どうやら臓器が盗んだ奴らが穴を掘って逃げたみたいだね」

「臓器を盗むってボディは心臓や生殖器以外の臓器は全部人工臓器を使ってるのになんで盗む必要があるんだろ?」

「生身の身体を使っているのかもね」

「さっき話してた生身至上主義の人たちってこと?」

「まだ情報が足りてないからわかんないけどその可能性はあるかもね。調査団が穴の中を調べるのには時間かかりそうだからもうここから離れようか」


 人体博覧会が回れなくなってしまったため、スポーツ観戦まで少し時間が空いてしまった。


「ちょっと時間ができたし、知り合いの所に寄っても行ってもいいかな?」

「別にいいよ」


 きいの了承が取れたので、知り合いの家に向かうことにした。

 彼になんとなく話がしたくなったのだ。

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