10.解散
しばらくすると、槍を持った奴らの大半が地面に倒れ場は落ち着き始めた。
ここに集まっていた敵は武器を持ってはいたが、戦闘能力自体は全体としてそこまで高くなかったため、大きな被害は出さずに鎮圧することができた。
自分の端末に新しくメッセージが入る。
その場にいた仲間と思われる人たちも一斉に新たに届いたメッセージを確認するため、端末に目を落としている。
“攫われた人は収蔵から順次外へ出てくる。全員が出終わったら、ボディブレイカーズの一味を調査団に引き渡す。
調査団との話はついているので、引き渡しまで見張りの継続をお願いしたい”
メッセージを確認し、関係者の救出を目的として集まっていた人たちの表情が少し柔らかくなる。
一刻も早くきいに会いに行きたかったが、自分だけがこの場から移動するのは気が引けたため調査団が到着するまでは逃げ出す者がいないか気を付けながら監視することにした。
「GIGAさんっていったい何者なんですか?」
「ただの掃除屋だ」
「掃除屋?」
「この社会のゴミを片付けてるだけだ」
「殺し屋ってことですかね、銃持ってますし。あとサングラスも」
「──掃除だ」
「…まぁそれはおいといて、GIGAさんが助けてくれなかったら僕と家中さんはやられていました…、ありがとうございます」
「お前から連絡があったからな。ただ想定よりあいつの裏切るタイミングが早かった」
「布川が裏切る可能性があるとあらかじめ連絡を受けてはいましたが、こんなにすぐにこちらを襲ってきたのは驚きました。考えが甘かったです」
「まぁ、あいつレベルになると並みの相手では敵わない。この場で始末しておきたかったが、逃げられてしまったな。今回は雑魚ばかりでこっちが圧倒できたが、今後は敵のレベルも上がって厳しい戦いになるぞ。お前はもう彼女が救えたから今後関わらなくていいんじゃないか?」
「そうですね…」
今回の戦いで自分が戦闘においてなにも役に立たないことを痛感した。
ボディに関しての知識があっても、いざ戦いが始まってしまうと戦闘スキルの差が如実に出てしまう。
日常的に格闘のためにボディを動かし続けている者とそうでない者とでは動作の精度が違うのだ。
そうこう考えている間に、調査団の一帯が上空から降りてきた。
「俺は調査団の奴らは好かん。じゃあな」
「GIGAさん、今日はいろいろとありがとうございました」
「ふん」
GIGAさんは調査団と入れ替わるようにどこかへ飛び立ってしまった。
やり方はどうであれ自分ときいの命を救ってくれた恩は忘れてはいけないだろう。
調査団には先行組の人たちが話を付けたようで、無力化したボディブレイカーズの一味と思われる人たちを拘束し連行していく。
自分を含め、身内が攫われていた人たちは収蔵へ向かった。
収蔵に着くと、解放された人々が次々と表へ出てきていた。
しばらく待つと、きいの姿が見えた。
「きい、無事でよかった」
「章介! なんでこんなところにいるの?」
「きいの職場の相田さんから連絡をもらってね」
「いや、こんな危険なところに来ちゃダメでしょ」
「きいが死ぬかもしれない時にじっとなんてしてられないよ」
「助けに来てくれたのは嬉しいけど、あんまり無茶はしないで!」
「それを言ったらきいも病院に話を聞きに行くなんて中々危険なことをしていたよ。きいがそこまで調べる必要なんてなかったのに」
「でも、子供たちの未来に関わることだから、できることはやっておきたいって思ったの。確かにあんまり章介のことを言えないね…」
きいは明るい調子で話しているので先ほどまで捕まっていたことを感じさせなかったが、時折表情が曇っていた。
長い間、捕らえられていたのだ。精神的に大分疲弊はしているのだろう。
「今日は家でゆっくり休んだ方がいい、家まで送るから背中乗って」
「え…、ちょっと恥ずかしいかも」
「ボディを長時間動かしてない状態での飛行は危険だから今日は恥ずくても我慢してよ。一応タクシーを呼んで帰るっていう手段もあるけど、呼んでもこのお寺に到着するまで1時間以上はかかると思う」
「ん~、じゃあ甘えさせてもらおうかな」
きいを背中に乗せ、彼女を家まで送り届けた。