第九章 〜逃亡の末に〜 20
追手は数名。武装こそ軽いが、その動きには一切の無駄がなかった。
鋭い視線で包囲を狭め、迷いなく間合いを詰めてくる。これはただの盗賊や素人の兵ではない。経験を積んだ戦士か、それとも、闇に生きる暗殺者か。どちらにせよ、相手にとって不足はなかった。
リヴィアは剣を握り直し、冷えた指先の感覚を確かめるように肩を回した。蓄積した疲労がじわりと身体を蝕んでいたが、ここで動きを鈍らせるわけにはいかない。
「一気に突破する……!」
彼女の言葉が合図となり、二人は一斉に前へと踏み込んだ。鋼と鋼が交差する音が、夜の静寂を切り裂く。
それが——
終わりの見えない連戦の幕開けだった。
短い休息を挟んでは、執拗に迫る追手との戦闘。襲撃をかわし、森を抜け、山へと逃げ延びる日々。決して止まることが許されない逃亡劇の中で、彼女たちはまともな食事すら摂ることができなかった。
乾いた喉に染み込むのは、僅かな水分。かじるのは冷たい干し肉と硬いパン。十分な睡眠など夢のまた夢。体力は削られ、神経は磨り減り、戦闘のたびに増えていく傷跡が痛みを訴えていた。
それでも、ただ一瞬の油断が死に直結する。
ミレイは槍を振るい、リヴィアは剣を握り続けた。呼吸を乱さぬように、足音を殺し、追手の視線の隙間を縫うように進む。だが、冷たい風が吹き付けるたびに、確実に気温が下がっていることを感じた。
やがて、地面には薄く霜が降り、吐く息は白く濁る。足元の土は凍りつき、踏みしめるたびに細かく砕ける音が響いた。昼の陽射しが届かない森の影には、早くも雪が積もり始めている。
そして——
彼女たちがたどり着いたのは、険しい雪山の奥だった。
夜が深まり、雪が静かに降り積もる。空は厚い灰色の雲に閉ざされ、冷気が容赦なく肌を刺す。風が吹くたび、積もった雪が舞い上がり、視界を奪った。
ここまでくれば、さすがに追手も簡単には動けない。
——そう思ったのも、束の間だった。
遠くから、かすかに雪を踏みしめる足音が響く。
「……嘘でしょ」
リヴィアが小さく息を呑む。こんな寒さの中、なおも追ってくるのか。氷のように冷えた手を剣の柄に強く握りしめる。
ミレイも、荒い息をつきながら槍を握り直した。
「……本当に休ませる気がないみたいだね」
寒さと疲労が容赦なく指先の感覚を奪う。身体の芯まで凍てつき、手足の動きが鈍る。それでも——
ここで立ち止まれば、待っているのは死だけだった。
二人は雪の中、再び武器を構えた。
だが、今回は違った。
暗闇の中、白銀の世界に無数の影が浮かび上がる。
——十、二十、いや、それ以上。
数十人の兵士が、彼女たちを四方から取り囲んでいた。彼らの纏う装束には、明確な意志と、確固たる命令の影が見える。
逃げ道は、ない。
リヴィアは肩で息をしながら剣を構えた。手の中の剣は、いつもより重く感じられる。
ミレイも槍を立てたが、膝がわずかに震えていた。これまでの戦闘で負った傷が、今になって鋭く痛み出す。指先から零れた血が、雪の上にぽつぽつと染みを作った。
その中から、一人の男が前へ出る。装備の質、立ち振る舞い、そして周囲の兵士たちの視線——間違いなく、指揮官だ。
「よくもここまで粘ったものだ。だが、もう終わりだ」
静寂の中に響く男の声。その言葉には、確信があった。
兵たちは皆、これが勝利の瞬間だと信じていた。
——チェックメイト。
ミレイとリヴィアは、互いに横目で見た。
まだやれるのか。
いや——
ここからどうする?
「ここが……死に場所か」
リヴィアが低く呟く。
ミレイは短く息をつくと、唇の端をわずかに持ち上げた。
「それでも、簡単にはくれてやらないよ」
槍を握る手に、残された力を振り絞る。
指揮官が手を上げる。
「——討て!」
その瞬間——
地鳴りが響いた。
遠くで雷鳴のような轟音がとどろく。
だが、この天候で雷などありえない。
そして——
大地が、揺れた。
誰もが足元を見た。
雪が、不自然にうねる。
「……なに?」
誰かが呟いた瞬間——
轟音。
山が崩れるような音が響き、闇の中から白い壁が立ち上がる。
「——雪崩だ!!!」
誰かが叫ぶよりも早く、圧倒的な雪の奔流が全てを呑み込んだ。
兵士も、指揮官も、リヴィアも、ミレイも——
逃げる間もなく、白い波に呑まれていった。
音が消えた。
ただ、雪がすべてを覆い尽くしていく。
そして————————
あったはずの戦場も、踏みしめた足跡も、剣戟の響きも、すべてが静寂の下に埋もれた。
冷たい白があらゆる境界を消し去り、もはやここがどこだったのかすらわからない。
風さえ止まり、空からは絶え間なく細かな雪が降り続ける。
生の気配も、戦いの名残も、何もかもが飲み込まれた。
そこにあるのは、ただ——
果てしなく続く、白い世界だけだった。
槍術適性 [S] Lv.8(Lv.7 → Lv.8)
- さらに洗練され、動きが極限まで研ぎ澄まされる。
- 戦闘中に敵の動きを制御し、意図的に誘導できるレベルに到達。
戦闘本能 [S] Lv.8(Lv.7 → Lv.8)
- 戦闘経験の蓄積により、死線での直感が研ぎ澄まされる。
- 直感的に最適な動きを選択できるようになり、無意識に「敵が嫌がる動き」をとる。
- ■■■の影響が色濃くなっているが、ミレイは気づいていない。
受け流し [B] Lv.6(C Lv.5 → B Lv.6)
- 敵の攻撃を「受ける」のではなく、「流しながら有利な位置に動く」戦闘技術を習得。
- これにより、反撃のチャンスを作りやすくなった。
火魔法 [A] Lv.7(B Lv.7 → A Lv.7)
- 「火と雷を組み合わせた擬似幻覚」を作り出すことが可能。
- 「炎の明滅」と「熱の変化」を利用して敵の視覚情報を狂わせる。
雷魔法 [A] Lv.7(B Lv.5 → A Lv.7)
- 雷のプラズマを利用した「振動層」の作成が可能になる。
- 「音波を操り、敵に幻聴を聞かせる」新技術を取得。
- 「超音波混じりの雷パルス」で 特定の相手にのみ「ささやき声」を送る技術を獲得。
生存本能向上 [S] Lv.8(Lv.7 → Lv.8)
- 相手の行動予測がさらに鋭くなり、「戦場の流れを読む力」が強化。
- 戦場にいると、自分が何をすべきか、直感的に分かるようになっている。
精神耐性 [S] Lv.8(Lv.7 → Lv.8)
- 精神干渉への完全耐性。
- 灰槍の影響を完全に無効化し、外部からの精神攻撃を受けても揺らがない状態に到達。
出血耐性 [B] Lv.3(C Lv.2 → B Lv.3)
- 負傷しても戦闘能力が著しく低下しない。
- ただし、痛みの感覚が鈍くなりつつあることに、本人は気づいていない。
隠密行動 [A] Lv.8(Lv.7 → Lv.8)
- 雷魔法を応用し、周囲の「振動ノイズ」を利用して自身の気配を消す技術を獲得。
- これまで以上に、敵の視界から消える動きが自然になっている。
追跡回避 [B] Lv.3(C Lv.2 → B Lv.3)
- 敵の心理を読み、意図的に追跡ルートを誤らせる戦術が可能になった。
■■■ → 幻影誘導 [A] Lv.3(B Lv.1 → A Lv.3)
- 近接戦闘において敵の行動を無意識に操作する能力が強化。
- これは経験から生まれたものであり、本人の意識とは関係なく■■■の幻影が脳裏に形成される。
- 戦闘時、相手に「間違った選択をさせる」ことが可能。
- 精神干渉を組み合わせた動きに進化。
戦場錯乱 [A] Lv.2(B Lv.1 → A Lv.2)
- 戦場全体をコントロールし、敵の動きを予測して操る能力。
- 敵の意識を操作することで、「動かしたい場所」に導けるようになる。
精神干渉適性 [A] Lv.3(A Lv.1 → A Lv.3)
- 灰槍の使用を通じて、相手の認識や判断力に干渉する技術を確立。
幻覚魔法 [B] Lv.1(新規)
- 既存の火魔法・雷魔法を組み合わせた結果、新たなスキルが派生。
- 敵に偽の視覚情報を植え付け、錯乱させる能力。
- 現在は「火と雷のエフェクト」を利用した初歩的な幻覚のみ可能。




