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第二章 〜異世界転移 - 極限サバイバルの幕開け〜 6

 焚き火の炎が、ぱちぱちと音を立てる。赤く染まった炭の隙間から、小さな炎がゆらめき、淡い光を放っていた。焼けた肉の香ばしい匂いが鼻をくすぐる。固いけれど、ひとくち噛みしめるごとに、確かに身体の芯に力が戻るのを感じる。


「……おいしい、とは言えないけど……生きてるって感じ。」


 独り言をつぶやく。思い返せば、こんな食事をするのは初めてだ。普段ならコンビニで買ったおにぎりや、家で食べる温かいご飯が当たり前だった。それが今では、手に入れた肉を焼いて食べることさえ、ありがたく思えてしまう。


 熱がじんわりと身体を温め、腹が満たされていく。少しの安心感に包まれながら、ミレイは炎の揺らめきを見つめた。ふと、あの神の言葉が頭をよぎる。


「……異世界、ね。」


 それにしても、こんな場所に放り出されるなんて思わなかった。魔法の才能や武術の才能があっても、それを磨く余裕すらない。今はただ、生きるために、必死なだけ。


 ふと、風が変わった。


 森の空気が、重たく、静かになる。風の流れが止まり、鳥のさえずりも消え、小動物たちの気配が遠ざかる。焚き火の炎がわずかに揺れた。


「……これは、危険だ。」


 捕食者の気配。森の生き物たちはそれを敏感に察知し、身を潜める。そして、今この場でその感覚を共有しているのはミレイだけではない。


 慎重に視線を巡らせ、周囲の変化を探る。視界の端、草陰の向こう。木々の間を縫うように、しなやかな影が動いた。それは——。


 漆黒の毛並みを持つ大きな獣だった。狼ほどの体躯を持つが、その動きは猫科のものに近い。闇と一体化する毛並みが日差しを吸収し、輪郭を曖昧にする。耳がわずかに動き、静かに、獲物を狙うような低姿勢で進んでいた。


「……まずい。」


 この魔獣が何を狙っているのかは分からない。だが、もしもこちらに気づかれれば——襲われる可能性は高い。


 ミレイは反射的に、背後の木陰へと身を隠した。


「見つかるな……気配を、消す……。」


 生存本能が、脳に直接指示を送り込む。体を極限まで小さくし、呼吸を浅くする。手足の力を抜き、木々の一部になったように意識を溶け込ませる。この森の生き物は、皆そうして生きている。捕食者に気づかれないよう、身を潜め、気配を薄くする。


「……動くな。息を殺せ。」


 視界の端に、魔獣の姿が映る。だが——こちらを見ていない。


 まるで、自分が"存在しないもの"になったかのような感覚。


 魔獣は、しばらく周囲を警戒するように鼻をひくつかせたが、次の瞬間、興味を失ったかのようにゆっくりと背を向けた。そして、そのまま森の奥へと消えていく。


「……助かった……?」


 全身の緊張を解き、ゆっくりと息を吐く。自分が今、得たものを確信する。


 戦わずして生き延びる術を、ミレイは本能的に会得した。この森では、戦うことがすべてではない。捕食者に"気づかれない"こともまた、生存の鍵となる。


 ミレイは槍を握りしめ、新たな生存の力を胸に刻んだ。

獲得スキル:気配遮断 [D] Lv.2

 - 周囲に自分の存在を悟られにくくする(魔物・動物の感知を回避しやすい)

 - 敵に気付かれにくい移動・待機が可能

 - 完全な「隠密」ではなく、あくまで「自然の中で気配を消す」レベル

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