第八章 〜ノルディスの亡霊〜 17
「……今すぐには動けないわね」
リヴィアが静かに呟く。ミレイも周囲の気配を探りながら、小さく頷いた。
「それに、ただ出ていくわけにはいかない」
リヴィアはしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「少し準備が必要ね」
ミレイは興味深そうにリヴィアを見た。
「何をするの?」
「まずは荷物を確認しましょう。それから、町を少し見て回らないと」
リヴィアは静かに告げる。その声音に、深い意図が隠されているようだった。
ミレイは一瞬考え、それから薄く笑った。
「ふーん……わかったわ」
男はそのやり取りに興味を示したが、リヴィアはそれ以上の説明はしなかった。
それからしばらく、ミレイとリヴィアは町を歩き回った。
宿屋に立ち寄り、主人と何気なく会話を交わす。市場の露店から小さな包みを受け取る。ギルドの掲示板の前を通りかかり、ミレイが思いついたように何かを不意に落とす。薄い煙が一瞬辺りに広がった。通りがかりの人々がちらりと二人を見る。ミレイは何かを囁き、リヴィアはわずかに顔色を変えた。
酒場では、リヴィアが地図を広げ、ミレイが何かを書き込んでいた。他の客が二人を盗み見る。ミレイは地図を指差し、少し大きめの声で「そうね、そこがいいかも」と言った。リヴィアは静かに地図を畳む。
日が暮れ、夜が更けていく。
翌朝、町のあちこちで奇妙な噂が広がり始めていた。
「……聞いたか? 昨日、ギルドの方で妙な連中が出入りしてたらしい」
「それより、東門のほうで何かあったみたいだぞ」
「いや、南の宿のほうに怪しい奴がいたって話も……」
情報が錯綜し、人々は何が本当なのかを見極められずにいた。
その混乱の渦の中で、ミレイとリヴィアは静かに動いていた。
荷物を整え、いつもと変わらぬ素振りで朝食を取る。宿の主人に軽く会釈をして、部屋に戻る。
そして、昼過ぎ。
二人の姿は宿から消えていた。
――夜明け前。
二人は、影に紛れるように町の裏道を進んでいた。人気のない細い路地を選び、最小限の足音で移動する。
「うまくいっているかしら」
リヴィアが低く呟く。
「大丈夫よ。見てごらん」
ミレイが小さく顎をしゃくると、遠くの東門に人影が集まっているのが見えた。
「南門も同じね」
ふと、後方からかすかな足音が響く。
「……来たね」
ミレイは槍を僅かに構えた。だが、リヴィアは静かに首を振った。
二人は一気に加速した。
町の門へは向かわない。
影に溶け込むように、建物の屋根を利用して静かに外壁を越えていく。
町の夜警も、何者かも、二人の姿に気づくことはなかった。
――そして、町を抜ける。
遠ざかる町の灯を背に、ミレイとリヴィアは一度だけ振り返った。
「ここに戻ることはないかもね」
ミレイが呟く。
「……たぶんね」
リヴィアは少しだけ寂しそうに町を見つめたが、すぐに前を向いた。
二人は、次の目的地を目指して、夜の闇へと消えていった。
◇◇◇
焚き火の炎が小さく揺れる。
町を抜け、静かな森の中に入った二人は、一晩の休息を取ることにした。
「見事だったわね」
リヴィアが炎を見つめながら、しみじみと言う。
ミレイは薪を軽く突きながら、肩をすくめた。
「リヴィアの計画通りにいったみたいね」
「いいえ、半分はあなたの功績よ」
リヴィアは微笑んだ。
「あれは情報操作だったの。敵の視線を分散させて、私たちの本当の足取りを隠すための」
「そう考えていたのね」
ミレイは少し驚いたように目を見開いた。
「わかっていなかったの?」
「うーん、大まかには。」
リヴィアは小さく息をついた。
「基本的な枠組みは用意していたの。『私たちが夜に町を出る』という情報を宿屋の主人に流すことで、敵に偽の捜索をさせる」
「それで、私が煙玉をわざと落としたのと、酒場での東への道についての話は……」
「あれは予想外だったわ。でも、とても効果的だった」
リヴィアは感心したように頷いた。
「なんとなく、そうした方がいい気がしたんだよね」
ミレイは笑いながら焚き火を見つめ、少しだけ真剣な表情になった。
「これからもそうしていこう。リヴィアの綿密な計画に、私の即興を混ぜていく」
ミレイが提案すると、リヴィアは微笑んだ。
「それはいい組み合わせになりそうね」
焚き火の火がゆらめき、二人の影を森の中に映し出していた。
槍術適性 [S] Lv.7(A Lv.6 → S Lv.7)
- 槍の扱いがさらに洗練され、戦闘の流れを掴む能力が向上。
- 以前よりも敵の動きを読む力と間合いをコントロールする精度が増す。
- ある種の戦闘センスが開花しているが、本人は意識していない。
戦闘本能 [S] Lv.7(A Lv.6 → S Lv.7)
- 戦闘経験の蓄積により、死線での直感が研ぎ澄まされる。
- 敵の攻撃を察知するだけでなく、最適な動きを無意識に選択するようになっている。
- しかし、時折「自分の戦闘スタイルが変わってきている」違和感を感じることがある。
受け流し [B] Lv.6(C Lv.5 → B Lv.6)
- 敵の攻撃を「受ける」のではなく、「流しながら有利な位置に動く」戦闘技術を習得。
- これにより、反撃のチャンスを作りやすくなった。
火魔法 [B] Lv.7(C Lv.6 → B Lv.7)
- 炎の形成速度と精度が向上し、戦闘中に即座に戦術に組み込めるようになる。
- 燃焼の制御が向上し、敵の動きを封じる技術が洗練される。
雷魔法 [B] Lv.5(C Lv.4 → B Lv.5)
- 電撃の即応性が向上し、槍と組み合わせた攻撃の隙を作らせる効果が強くなる。
- 狙った箇所だけを焼く精密操作の習得が進む。
生存本能向上 [S] Lv.7(A Lv.6 → S Lv.7)
- 単なる危機察知ではなく、戦闘全体の流れを読む力が成長。
- 戦場にいると、自分が何をすべきか、直感的に分かるようになっている。
精神耐性 [S] Lv.7(A Lv.6 → S Lv.7)
- 精神干渉への完全耐性を獲得。
- 灰槍の影響を完全に無効化し、外部からの精神攻撃を受けても揺らがない状態に到達。
出血耐性 [B] Lv.3(C Lv.2 → B Lv.3)
- 負傷しても戦闘能力が著しく低下しない。
- ただし、痛みの感覚が鈍くなりつつあることに、本人は気づいていない。
隠密行動 [A] Lv.7(B Lv.6 → A Lv.7)
- 都市・森・洞窟など、あらゆる環境で「気配を完全に消す」技術を獲得。
- これまで以上に、敵の視界から消える動きが自然になっている。
追跡回避 [B] Lv.3(C Lv.2 → B Lv.3)
- 敵の心理を読み、意図的に追跡ルートを誤らせる戦術が可能になった。
■■■ [B] Lv.1(新規)
- 近接戦闘時、敵の動きを「■■■」させる戦術を身につけた。
- これは経験から生まれたものであり、本人の意識とは関係なく■■■が形成される。
- 彼女自身、この技術を使うときに「何かを思い出しそうになる」ことがある。
戦場錯乱 [B] Lv.1(新規)
- 戦場全体を意図した流れに導く能力を獲得。
- いつの間にか敵が動かされ、思い通りの戦況になっていることが増えた。
精神干渉適性 [A] Lv.1(新規)
- 灰槍の使用を通じて、精神干渉の仕組みを理解しつつある。
- ただし、まだ応用できる段階ではなく、戦闘中に意識せず発動していることがある。




