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第八章 〜ノルディスの亡霊〜 15


 「交渉の余地は?」


 リヴィアが低く問いかける。目の前の男は表情こそ穏やかだが、その視線は鋭く、明らかに何かの目的を持っていた。


 「そっち次第さ」


 男は肩をすくめ、周囲の気配を探るように目を動かした。


 「こっちは無駄に騒ぎを起こしたくない。お二人とも、それなりに名のある方々のようだしな」


 「……そんな風に言われるの、あまり好きじゃないんだけど」


 ミレイは淡々と返しながらも、視線を一瞬たりとも相手から外さない。


 リヴィアもわずかに足の位置をずらし、即応できる体勢を整える。


 「それで? 話って何?」


 男は微笑を崩さないまま、ゆっくりと答えた。


 「こちらとしては、ちょっとした確認をしたいだけさ。『ノルディスの亡霊』って噂を聞いたことがあるか?」


 その言葉に、リヴィアの指が一瞬だけ強張る。


 「さあね。あんまり興味がない話題かな」


 ミレイが平然と答えるが、相手はミレイではなくリヴィアの反応をじっくり観察していた。


 「そうかい? 俺たちも、ただ確認できればいいんだ。……だから、できればここで大人しく話を聞いてほしいんだが?」


 その瞬間、リヴィアが短く息を吸う。


 「ミレイ」


 「ん?」


 「――戦う準備を」


 リヴィアの声が静かに響いた瞬間、男の微笑がわずかに深まった。


 「……交渉決裂、ってことだな?」


 次の瞬間、背後の影が一斉に動き出した。


 ミレイの槍が風を切り、リヴィアの剣が午後の日差しを反射する。その直後、ミレイは槍の柄を敵の肩口に叩きつけた。


 敵の動きは早い。影の一人が即座に短剣を抜き、鋭い突きをリヴィアへと放つ。


 しかし、それを予測していたかのようにリヴィアは体を流し、刃の軌道を逸らすと、即座に踏み込んだ。


 「……甘い」


 敵の防御が整う前に、リヴィアの剣が喉元を断ち切る。


 一方、ミレイはすでに次の動きを取っていた。


 「さあ、これはどうかな?」


 槍が大きく弧を描き、敵の間合いを強引に乱す。その刹那、地面を掠めるように槍の先端が走り、砂塵が舞い上がった。


 敵が一瞬視界を奪われ、同時に肩口を打たれたことで意識が揺らぐ。精神が一瞬空白になったその刹那、ミレイの姿が掻き消える。


 「左……!」


 敵の一人が気づいた瞬間には、すでにミレイの槍が喉元へと突き込まれていた。


 動きを制限された敵は自ら槍の穂先へと突き込む形となる。


 「速い……っ!」


 リヴィアはその動きに即座に反応した。ミレイの撹乱が完璧に機能し、敵が浮足立ったところを見逃さない。


 「終わりよ」


 ミレイの動きに合わせ、リヴィアの剣が鋭く突き出される。敵が槍の動きに注意を向け、さらに精神干渉の影響で一瞬遅れたその隙をつき、リヴィアの剣が確実に心臓を貫いた。


 残った敵が後退しようとしたが、ミレイは影に溶け込むように姿を消し、音もなく背後へ回り込む。


 「どこ行くの?」


 囁くような声が敵の耳元に届いた刹那、槍が背後から突き刺さる。


 「……っ!」


 ミレイが槍を払うと、敵は音もなく崩れ落ちた。


 リヴィアもまた、ミレイが作り出した隙を利用し、確実に敵の命を奪っていく。


 「全滅させるよ」


 ミレイの言葉に、リヴィアは無言で頷いた。


 最後の敵が逃げようと背を向けた瞬間、ミレイの槍が飛ぶ。


 槍の穂先が敵の背中を貫き、その場に倒れる。


 静寂が戻った。


 ミレイは小さく息を吐き、槍を肩に担いだ。


 「終わり、かな」


 「問題は、この町にいる間の動きね」


 リヴィアが静かに言う。


 戦闘は終わったが、町の危険度はますます増していた。



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