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第八章 〜ノルディスの亡霊〜 4

 Bランクへ昇格したミレイは、ギルド内でさらに注目を集める存在となった。討伐依頼を次々とこなす彼女の姿は、既に多くの冒険者たちの話題になっている。


 そんなある日、ギルドの掲示板に特別な討伐依頼が張り出された。


 - 討伐対象:北方の雪原地帯に現れた凶悪な魔獣(Sランク級の可能性あり)

 - 状況:村や交易路を襲撃する事例が増加、討伐が急務

 - 報酬:5000ゴールド

 - 通常のAランク討伐報酬の約10倍、国や商会が緊急対策として資金を出しているが誰も受けず、金額が釣り上がっている

 - 難易度:パーティ推奨


 しかし、この依頼が放置されているのには理由があった。


「Sランク級の可能性があるってことは、少なくともAランクの中でも上位じゃないと話にならない」

「報酬は確かに破格だけど……誰も手を出さないのも納得だな」

 そんな声がギルド内に飛び交っていた。


 ミレイは掲示板を見つめると、迷うことなく依頼書を引き抜いた。その瞬間、周囲の冒険者たちのざわめきが一気に増す。


「マジかよ、槍姫がまた無茶するぞ……」 「いや、さすがにあの依頼はヤバいって。Aランクですら警戒してるのに」


 聞き捨てならない単語が飛び交い、ミレイは思わず足を止めた。


「……槍姫?」


 ぼそりと呟くと、すぐに背後から豪快な笑い声が響く。


「ハッハッハッ、巷じゃ有名だぞ、お前のことだ!」


 ギルドマスターが腕を組みながら近づいてくる。


「Bランクになってからの働きっぷり……もはやAランク以上の討伐数じゃねぇか。お前の槍捌きを見た連中が、『あれはまるで戦場の姫のようだ』ってな」


 ミレイは呆れたように肩をすくめる。


「……なんか、気恥ずかしいんだけど」


「慣れろ。それだけの実力を示したんだからな」


 ギルドマスターは満足げに頷いたあと、依頼書を指さした。


「しかしな、ミレイ。その討伐依頼は単独で行くには向いてねぇぞ。誰かと組め」


 ミレイは依頼書を見つめる。確かに、推奨パーティの人数を見る限り、かなり危険度の高い案件だ。


「考えてみる」


 適当にそう返事をして、情報収集のために冒険者たちと会話をすることにした。


 しかし、この依頼を受けたがる冒険者は一人もいない。そもそもミレイの実力についてきて連携を取れる冒険者も、今はこのギルドにはいなかった。


「いや、槍姫と組める奴なんていねぇよ……お前の戦い方、普通の連携じゃ対応できねぇだろ」


「それに、単純に危険すぎる。パーティ組んだとしても死ぬ可能性が高すぎるんだよ」


 断られる理由はさまざまだが、結局誰も同行を申し出る者はいなかった。


「……単独で行くしかないか」


 ミレイは静かに呟き、ギルドマスターのもとへ戻る。


「本当に一人で行くつもりか?」


 ギルドマスターが念を押す。


「私が一番信頼できるのは、自分の槍だから」


 ミレイは迷いなく答えた。


「まったく……お前、どこまでいくつもりだよ」


 ギルドマスターはため息をつきながらも、依頼書を正式にミレイへと手渡した。


「お前ならやれるかもしれんな。ただし、死ぬなよ」


 ミレイは頷き、依頼を正式に受ける。


 その夜——。


 静かなギルドの片隅で、ミレイは手元の依頼書をじっと見つめていた。


(リーナがいたら、絶対に止められるだろうな)


 そんなことを思いながらも、迷いはない。


 装備を点検し、槍の手入れをしながら、明日の出発に備える。


 そして、ミレイは静かに目を閉じた。明日から始まる戦いに備え、心を研ぎ澄ませるように——。

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